の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午後5時
赤竹さん、茶山さん、金森さん、白谷さん、青木さん、緑ヶ丘さん、赤森さん、藍谷さん、そして茜ちゃんを抱いた黄ノ山さんはいつの間にか全員うさぎマーケットの休憩室にいた。
茜ちゃんがスヤスヤ眠っている中、9人の大人たちは何も言わずにみんなの目をただじっと見つめていた。
ガチャ
黒田さんが真剣な顔つきでドアを開けた。
「業務連絡。DNAの鑑定結果がもうすぐ出るらしい。予定では5時30分。ちょうど桃松さんの定時。どんな結果になろうとも……心の準備をして欲しい」
いつもとは全く違う、夏祭りのかき氷よりもずっと冷たい声だった。
9人の大人たちは、氷のように固まったまま頷くことしかできなかった。
赤竹さんは、人差し指を震わせながらゆっくりとテレビをつけた。
松島県根ノ江市で起こった、日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件。
28歳の女性、桃松ゆうさんが何者かに殺害されて食べられてしまったあまりにも残酷で恐ろしい事件。
警察は、桃松ゆうさんが7月7日の昼頃に事件に巻き込まれたとみて、早急に捜査を進めております。
赤竹さんは別のチャンネルに変えようとしたが、茶山さんに阻止された。
死んだ目の赤竹さんは、黙って俯いた。
その他8人の大人たちも、同じような目で黙って俯くだけだったのだ。
一方その頃……
青山さんのお母さんは、昼過ぎは青山さんとゆうちゃんを想って泣くことしかできなかった。だが、午後3時を過ぎてからは、男の正体をなんとしてでも明かそうと必死だったのだ。
「全く!魔王の名前だけでも知りたいのに……。それにしても信じられないわ!どうしてゆうちゃんのアルバムや下着や洋服が山ほどあるのかしら?まさか、家から全部盗んだんじゃ……!本当に許せない!守が悲しむのも無理ないわ!ああ!警察に通報しようにもスマホの電波が届かないから最悪だわ!」
青山さんのお母さんは、血走った目で手がかりを探した。
午後5時20分
青山さんのお母さんは、日の丸百貨店にしかないと思われる黒い財布を手に取った。
「あ……!これって……!」
その財布は、Golden Sunnyの財布だった。1番安い小さなものでも30万円を超える超高級ブランド財布だ。
「これで終わりよ!魔王!!」
青山さんのお母さんは、財布をひっくり返して中身を全て目の前にぶちまけた。
「あったわ!魔王を殺せなかったのは残念だけど、これを警察に持っていくだけでも守の仇討ちにはなるわ!これは最高刑確定ね!覚えてなさいよ!!」
青山さんのお母さんは、日ノ松藍斗の身分証明書を右手で鷲掴みにした。
「ひ、の、ま、つ、あ、い、と……?もう33歳なのね!本当に嫌な魔王ね!……あら?」
近くにあったのは、今時珍しい黒電話だ。
「これなら……!」
青山さんのお母さんは、『特急案件』の電話をした。
プルルルルルルルル
「はい、根ノ江市警察です。」
「ゆうちゃんを殺した魔王の名前が分かりました!」
「え?魔王ですか……?」
「そうです!桃松ゆうちゃんを殺したあいつです!」
「え?!本当ですか?!名前は?住所は?!」
「日ノ松藍斗、松島県根ノ江市松ノ森3丁目33-3です!年齢は33歳です!」
「ありがとうございます!今すぐ向かいますね!あ、後はこちらで対応しますので、今はご自身の安全を最優先にお願いします!」
「は、はい……っ!!!」
青山さんのお母さんは、1人目の下田さんが受け取った電話を切った。
ただ1つ、言えなかったことがあったのだが……
午後5時30分
速報です!
スプーンの血をDNA鑑定したところ、ピンクのセーラーワンピを身につけた28歳女性、桃松ゆうさんのDNAと完全に一致したことが分かりました!
繰り返します!桃松ゆうさんのDNAと完全に一致したことが分かりました!
しかしながら、SNSでの心無いコメントはまだ増える一方です。
桃松ゆうさんのご冥福をお祈りします……。
ニュースが無機質な声で残酷な真実を告げた。
「あ……。あっ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
遺された大人たちは、全ての希望を壊されてしまった。
とっくに分かっていたはずだった。
それでもどこかで奇跡を信じていた。
ゆうちゃんはどこかにいると思っていた。
でも、ゆうちゃんにはもう永遠に会えない……