の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午後6時
「いやっ……!!!ゆう……!!!ああああああああああ!!!!」
ゆうちゃんのお母さんは、30分前からずっと泣き続けていた。
正確に言うと、あの最悪な速報が入る10分前からだが。
「桃松さん……」
黒田さんは、元々今日の特売品だっためんつゆの段ボールを『光』を失った目で見つめ続けていた。
下田さんたちはいつの間にかいなくなってしまった。
「あ……!ああああああああああ!!!ゆう……。ゆう!!!」
ゆうちゃんのお母さんは、バッグの底に入れていたうさぎマーケットのチラシを取り出し、それを強く抱き締めた。
午後6時15分
赤竹さん、茶山さん、金森さん、白谷さん、青木さん、緑ヶ丘さん、赤森さん、藍谷さん、そして茜ちゃんを抱いた黄ノ山さんは、黙って俯きながら席を立った。
9人の大人たちの足は、ゆうちゃんと青山さんのロッカーの前へ自然に向かっていた。
2人のロッカーには、おやつワールドのレジ袋に入れられたあのお菓子が供えられていた。
ピンクと青のマグネットフックが目に入った時、藍谷さんの目は誰よりも涙で溢れてしまった。
それは、おひさまファッションビルの3階にある100%HAPPYという100円ショップで昼過ぎに買ったものだからだ。
それらが2人の名字を意識して選んだものだったことは、もはや説明するまでもない。
9人の大人たちは、涙目のままゆうちゃんと青山さんのロッカーだけを見つめ、静かにそっと手を合わせた。
一方その頃、日の丸百貨店の1階では……
なんとか立ち上がれた遥さんと誠人さんは、Hinomaru Accessoryという超高級アクセサリーショップで婚約指輪を見ていた。
そこは、超高級を謳っているだけあってシンプルなシルバーリングでさえ20万円を余裕で超える。
「遥、大丈夫?」
「うん。誠人こそ大丈夫……?」
2人は指輪よりも、お互いの顔を涙目で見つめていた。
「あ、僕のことは気にしないで。昨日のお詫びだから……」
誠人さんは、左手に持った白い財布をそっと握りながら涙を堪えた。
「ありがとう、誠人……」
遥さんは、左手に持った黒いレースハンカチで涙を拭いた。
「……買えるかな?あれ?亜李ちゃん……」
誠人さんは、蚊の鳴くような声でそう呟きながらスマホを見た。
いつの間にか亜李さんから、
足りなかったら無理せずウチに言ってね!Sun Sun Pay送るから!
とメッセージが届いていたのだ。
Sun Sun Payとは、若者を中心に利用されている電子マネーだ。コンビニでチャージしたり、残高をプレゼントしたりすることもできる。
誠人さんは、
ごめん、今気づいた。ありがとう、気持ちだけ受け取るね。
とスマホの画面を財布で隠しながら返信した。
午後6時30分
「綺麗だな……」
遥さんは真珠の指輪をじっと見つめていた。
真珠そのものはそこまで大きくはないが、形も色も十分綺麗なものだったのだ。
「遥。同窓会……それで行く?」
誠人さんは、財布の中身を念入りに確認しながら遥さんに尋ねた。
「……!!えっ、い……いいの……?!あ……!ああああああ!!!」
遥さんは、日の丸百貨店に入る前とは正反対の意味で号泣した。
「大丈夫だよ。遥は僕の可愛いお嫁さんになる人なんだから」
誠人さんは遥さんを優しくエスコートしながら、レジへと向かった。