の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午後7時
下田さんたちはまだ洋館の中を調べていたが、藍斗の姿は見当たらなかった。
「日ノ松藍斗め……。どこに隠れているんだ?」
1人目の下田さんは、水色のチェックワンピースを右腕に抱えながら呟いた。これは、ゆうちゃんが夏になると必ず1回は着ていたものだ。
「寝室にもキッチンにも見当たらなかった……。あ……通報してくださった女性は……?」
2人目の下田さんも一生懸命藍斗を探していた。同時に、青山さんのお母さんをとても心配していた。
「あの人ならきっと大丈夫……だよ……。うん……。藍斗に……襲われた……という話は……聞いていないから……」
1人目の下田さんは、徐々に声を震わせた。
「それならいいけど……。って、あれ?おかしいな……。確かに玄関に靴が1足置いてあったはずなのに……」
2人目の下田さんは、藍斗の28.0cmの黒い靴を思い出した。
「靴?あ、言われてみれば……」
1人目の下田さんは、1時間前に青山さんのお母さんに渡された藍斗の身分証明書を見つめていた。
「それにしても藍斗は本当に最低だよ。あんな悪魔?魔王?見たことないよ。ゆうさん可哀想……」
2人目の下田さんは、1時間前に青山さんのお母さんに渡されたゆうちゃんのピンクのスマホケースを右手の親指で優しく撫でた。
だが、スマホケースと一緒に渡されたシルクの紐は左手の爪を立てて乱暴に握っていた。
「そうだね、僕も同じ気持ちだよ。……待って。靴は……玄関に……あったん……だよ……ね……?」
1人目の下田さんの声はさらに震えていた。
「うん、さっき言ったよ。……って、ちょっと待って!あいつまさか……!!」
2人目の下田さんは藍斗の罠に気づいてしまった!
一方その頃……
「そろそろ魔王が帰ってくるかしら?帰ってきたら復讐の準備をしましょう」
青山さんのお母さんは、玄関に置かれた金色の壺の中に1時間近く前から身を潜めていた。
「守は何をしているのかしら……?ゆうちゃんと2人でかき氷か何か食べているかしら……?」
青山さんのお母さんは、目を潤ませながら薄暗い天井を眺めた。
藍斗への復讐心と青山さんの幸せを願う親心、そして、青山さんが片想いしていたゆうちゃんの幸せを願う慈愛の心。青山さんのお母さんの心は、これらが複雑に絡み合っていたのだ。
「……どう……して……。ねえ……」
1番知りたくなかった真実を思い出し、青山さんのお母さんは絶望の涙を流してしまった。
ホルマリン漬けにされたゆうちゃんの右目が、さらに心の傷を抉っていくのだ。
午後7時20分
「桃味のお馬鹿なお姫様は、僕の最高の食べ物になって永遠の眠りにつきました。そして、死後も僕のオモチャとして弄ばれましたとさ。めでたしめでたし♪」
藍斗はニヤリと笑いながら茶色いドアの前に白い本を投げつけた。その本は、後半部分が無残にも破られていた。
「ふふ。完璧だ……」
藍斗はそのままどこかへ行ってしまった……
一方その頃、うさぎマーケットのバックヤードでは……
「ゆう……」
「……。あ……」
ゆうちゃんのお母さんと黒田さんは死んだように倒れ込んでいた。当然、泣き叫ぶ気力すらもう残っていなかったのだ。
30分前にそれぞれの車で帰ろうとしていた赤竹さん、茶山さん、金森さん、白谷さん、青木さん、緑ヶ丘さん、赤森さん、藍谷さん、そして茜ちゃんを抱いた黄ノ山さんが、2人に何の言葉もかけられなかったのは言うまでもない。
「ゆう……」
ゆうちゃんのお母さんは、最愛の娘の名前を消えそうな声で呼ぶことしかできなかった。
床についた大量の水溜まりの跡は、まだしばらく消えなかった。