の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午後8時20分
黒田さんは、休憩室で頭を抱えていた。
「ああ、これからどうすれば……。そういえば、全然見てなかったな……」
夜空よりもずっと暗い顔をした黒田さんは、うさぎマーケットの公式アカウントを開いた。
臨時休業を知らせる投稿のコメント欄にあった
大好きなお店なので残念です。
営業再開まで待ってます!
いつもニコニコ接客してくれたお姉さんに会えないのが寂しいです。
などといった優しい常連さんたちのコメントは
諸事情って絶対アレだろwww桃松ゆうちゃん食われたってヤツwwwwww
店員1人食べられたくらいで店閉めなくても良くないっすか?
どうせ裏でケチャップとか高額転売してるんじゃないですか?悪質ですよw
などといった最低なコメントにかき消されていた。
「見なきゃよかった……」
涙目の黒田さんは、スマホの電源を切った。
午後8時25分
「こんばんは。いつも真理奈がお世話になっております」
裏口から入った真理子さんが、緑の八ツ橋キーホルダーを持ってきた。それは、藍谷さんが2ヶ月前に京ノ宮府でお土産に買ったものだ。
「あ、久しぶり。え、それもしかして……?」
黒田さんは、黒いバッグに入ったお守りを涙目で見つめていた。そのお守りこそ、藍谷さんがお土産に買った黒の八ツ橋キーホルダーだ。
「はい、涼太がこれうちの店に落としてましたので……」
真理子さんの手は少しだけ震えていた。
「ありがとう。明日連絡しておくね……」
黒田さんは、緑ヶ丘さんのキーホルダーをそっと受け取った。
一方その頃、にこにこランドでは……
「……。失礼ですが、もしかして桃松ゆうちゃんのお母様でしょうか……?」
若い男性店員さんは、泣き叫ぶ女性客の正体に気づいてしまった。
「そうです……!娘のゆうを亡くして……!もう耐えられないんです!!」
ゆうちゃんのお母さんはまだ泣き続けていた。ゆうちゃんが大好きだったこの場所まで地獄に変わってしまったのなら無理もない。
「それはお辛いですね……。実は、僕の親友もとても悲しそうにしていたんです。あれ……?どうしてでしょう?僕もなんだか泣きたくなりました……」
店員さんは思わずもらい泣きしてしまった。
「そうなんですね……。う、うう……。」
ゆうちゃんのお母さんは、ピンクのうさぎのぬいぐるみを優しく撫でながら店員さんを見つめた。
「あ……。そのぬいぐるみ可愛いですよね。ゆうちゃんこういうの大好きなので、きっと天国で喜んでくれると思いますよ……」
店員さんは、ピンクのうさぎのぬいぐるみの右手をそっと握った。
店員さんの優しい言葉に安心し、ゆうちゃんのお母さんはレジへと向かった。
午後8時35分
仕事を終えた店員さんは、おひさまモールの4階のバックヤードでオレンジのエプロンを脱いだ。その胸元には、紅山と書かれた名札が安全ピンで付けられていた。
目に涙を浮かべた店員さんは、エプロンをロッカーにしまった後、スマホを手に取り親友に電話をかけた。
プルルルルルル
「孝行?急にどうしたの?」
「誠人……。もう嫌だよ、辛いよ……」
「……もしかして桃松さんのこと?」
「うん……。さっきゆうちゃんのお母さんがぬいぐるみ買いに来てたんだけど、すごく泣いてた……」
「うわあ……。それは気まずいね……」
「うん……。僕すごく苦しいよ……!」
「僕もだよ……。うっ……!」
「……。ごめんね、同窓会の邪魔して……」
「いいよ。むしろ電話してくれてありがとう。あ、僕も泣きたいな……」
「うっ……。ううう……」
「……っ、……あ……っ」
誠人さんと孝行さんは、電話を切らずにただ泣き続けることしかできなかった。