の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午後8時35分
楽しいはずのディナーバイキングは、目の前に並んだ料理をとりあえず食べるだけの作業に変わってしまった。
ゆうちゃんだけがいない会場は、完全に葬儀場そのものだ。3人の幹事たちが昨日選んだ音楽を流しても無駄でしかなかったのだ。
さらに、牛肉の赤ワイン煮、ローストビーフ、サーモンのカルパッチョ、アワビのステーキなどの豪華なメニューも、この空気の前では無力だった。
「あれ?誠人トイレ長いな……」
遥さんはエビフライをトングでお皿に乗せながら呟いた。
「だね。あ、食べよっか……」
亜李さんはタコとブロッコリーのアヒージョをトングでお皿に乗せながら呟いた。
「念のため誠人の分も取っておこうかな……。できるだけ豪華なもの多めにしておこう……」
遥さんは、牛肉の赤ワイン煮とローストビーフ、アクアパッツァをトングでお皿に乗せた。
「誠人……。ウチのせいで病んでたらどうしよう……!」
お皿を持つ亜李さんの左手が小刻みに震えていた。アヒージョのタコとブロッコリーが少し床に落ちてしまったが、気づく余裕は残っていなかった。
午後8時40分
2人から少し離れたところには、みなみさんと涼太さんがいた。2人とも会場の隅っこでひっそりと会話をしていた。
「私、ゆうちゃんを傷つけてたんだ……」
涙目のみなみさんは、自作のスプーンを見つめて震えていた。捨てようにもゴミ箱が見当たらないし、捨てたところで気分が晴れるわけじゃない。
「楠木さん……だっけ。あ、覚えてる?涼太だよ、礒部涼太。ってあれ?そのスプーン……」
見かねた涼太さんが優しく声をかけた。だが、みなみさんのやや不格好なスプーンに何かを感じて唇が震えてしまった。
「あ、バレた……?一昨日SNSに投稿しちゃったんだ……。情けないね、私……」
みなみさんは、一昨日の午後9時頃に家でスプーン再現チャレンジを楽しんでいたことを涼太さんに告白した。
「まさか、みぃにゃの正体が楠木さんだったとは……。情けないのは僕の方だよ。桃松さんが丸焼きにされるマンガとか寝る前に読んじゃったから……」
死んだ目の涼太さんは、みなみさんの正体に動揺しつつ必死に励まそうとした。そして、夏の夜の蒸し暑さで眠れず、ゆうちゃんと藍斗の二次創作マンガを今日の午前3時まで読んだことをみなみさんに告白した。
「そうだったんだ……。ねえ……。昨日の朝、根ノ江駅の前で警察に声かけられた?」
みなみさんが質問した。
「うん、若い男の人だったよ。犯人のこと聞かれたけど、見ていませんって答えたよ……」
涼太さんの目線はだんだん床の方に落ちていった。
「礒部くん、落ち込まないで。……私なんて、むしろ犯人に会いたいってバカなこと言っちゃったから……!あ……あああ……!」
みなみさんは、とうとうその場に崩れ落ち、スプーンを床に落としてしまった。
「大丈夫?」
涼太さんが拾って渡そうとするも、みなみさんは受け取らなかった。
「ごめん……。もういらないなら捨ててくるね……」
涼太さんは、会場の外にゴミ箱がないか探しに行った。だが、どこを探しても自動販売機の横のペットボトルや缶を捨てるゴミ箱しか見当たらなかった。
「仕方ない。家に持って帰って捨てるか……」
涼太さんは、ふらつきながらトイレへ向かった。
泣きながら親友と電話している誠人さんがそこにいることを知らずに……