の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午後8時40分
ピンクのうさぎのぬいぐるみを抱いたゆうちゃんのお母さんは、おひさまモールの4階のソファに座っていた。
「そろそろ帰らないと。ゆうがお部屋で待っているわ……」
ゆうちゃんはもうどこにもいないと分かっていても、そう思わないと耐えられなかった。
ゆうちゃんのお母さんは、ゆっくりと立ち上がると、そこから1番近いエレベーターへと向かった。
1階です。
一方その頃……
2人目の下田さんからの連絡を受けた拝郷さんと風雅さんが洋館に着いた。
「ごめんなさいね、遅くなって!」
「すまない!道に迷ってしまった!」
拝郷さんと風雅さんは大慌てで2人目の下田さんに謝った。
「いえ、僕が悪いです……。もう少し早く連絡しないといけませんでした……。あと、スマホケースとシルクの紐を素手で握ってしまいました……。本当にすみません……」
2人目の下田さんは涙目で拝郷さんと風雅さんに自分のミスを謝った。
「いいから今は自分の仕事に集中しなさい」
淡々とした拝郷さんの声は、冷たいようで温かさもあった。
「いや、僕が道に迷ったせいだから!それより、お兄さんは?」
やや慌てた様子の風雅さんは、1人目の下田さんを気にかけた。
「兄は1人で洋館を抜け出して藍斗を探しています。藍斗はわざと靴を置いてここに潜んでいるフリをしていたんです……!」
2人目の下田さんは、今度こそ証拠を台無しにしないように28.0cmの黒い靴を指差した。
「あ……!これは間違いない!すぐ科捜研に回そう!」
風雅さんは、昼前にゆうちゃんの家のドア近くで採取した足跡を思い出して大声で叫んだ。
「あら……?そちらの方は?」
拝郷さんは、青山さんのお母さんがまだ洋館で泣いていたことに気づいた。
「彼女はこの洋館の第一発見者であり、ゆうさんの職場にいた新人のお母さんです……。ただ、息子さんを自殺で亡くしたばかりで心を痛めておりますのでもしかしたら……」
2人目の下田さんはまた泣き出してしまった。
「苦しいのは分かるわ。けど、今はゆうさんのためにも……。そうね。あなたもお兄さんと一緒に藍斗を探しなさい。その方の対応は私がするから」
「僕は科捜研に回せるものをパッキングするから、君は藍斗を一刻も早く捕まえることに集中しよう。分かった?」
拝郷さんと風雅さんは、冷静かつ的確な指示を出した。
「はいっ……!」
2人目の下田さんは、『特急案件』と言いたげな足取りで洋館を飛び出した。
一方その頃……
1人目の下田さんは、日の丸百貨店の近くで藍斗の居場所を突き止めようと聞き取り調査をしていた。そこには藤田さんと浅川さんもいたが、有力な手がかりは得られなかった。
それもそのはず、藍斗は買い物に行ったりする時は、いつも黒いサングラスと白いマスクをするか、あえてブサイクな男になりすます特殊メイクをしていたからだ。
「困ったな……」
「どうしましょう……」
「これ以上被害が大きくなったら大変なのに……!」
1人目の下田さん、藤田さん、そして浅川さんは、夏の夜空よりも暗い顔をしていた。