※この作品はR-18です。

の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】   作:桃色ぴんく

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第83話

7月11日午後8時50分

 

「誠人まだ戻ってこないけど、そろそろ始めようか……」

 

亜李さんは、誠人さんが演台に置いた謎の白い本を手に取った。それは、3年1組の文化祭の劇の台本だ。

 

「き、緊張してきた……」

 

遥さんは思わず両手で顔を隠した。

 

「大丈夫。遥のセリフは少なめにしたから」

 

亜李さんは遥さんの肩をポンと叩いた。

 

壇上に上がった2人は、これ以上涙を流さないよう天井を必死に見ていた。

 

亜李さんはマイクを手に取った。

 

「みんな、食べながらでいいから聞いて……。もう分かってると思うけど、ゆうちゃんは……日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件のせいで亡くなりました……」

 

亜李さんの声は、だんだん小さくなり、同時に震えるようになった。

 

「マイク貸して」

 

ここで、遥さんが亜李さんに救いの手を差し伸べた。

 

亜李さんからマイクを受け取った遥さんは、マイクの持ち手で手のひらに人という字を書いて飲み込んだ。

 

「よし……」

 

遥さんは、一旦切ったマイクのスイッチをオンにした。

 

「今日は……予定を変更して、ゆうちゃんのお別れ会もします。今から、ゆうちゃんが大好きだったシンデレラのお話を読みます。あの時、文化祭の劇でやったお話です。聞いてください……」

 

一方その頃……

 

「孝行……。僕、遥にふさわしい男になれる気がしないよ……!」

 

トイレから出た涼太さんは後ろを振り返った。

 

「え?もしかして、誠人くん?」

 

涼太さんは声が聞こえる方向へと向かった。

 

トイレットペーパーに包まれたみなみさんの手作りスプーンは、涼太さんのスーツの胸ポケットに隠されていた。

 

コンコン

 

そして、誠人さんがいるトイレの個室のドアをノックした。

 

「……あ、ごめん。そろそろ切るね」

 

誠人さんは、孝行さんからの電話を切ってトイレの個室の鍵を開けた。

 

「ごめん……っ。お待たせ……」

 

何を勘違いしたのか、誠人さんは涼太さんに謝った。目にはまだ涙が浮かんでいたのだ。

 

「え?トイレならさっき行ったよ。あ、桃松さんだけがいなくて悲しいのは分かるよ。でも……せっかくの同窓会だからさ」

 

涼太さんは、どうにかして誠人さんを会場に連れ戻そうとした。

 

だが、誠人さんは無言で立ち止まったままだった。

 

「……みんな待ってるよ。早く会場に戻らないと、大好きな黒谷さんが泣いちゃうんじゃないかな」

 

涼太さんは、誠人さんの右手を握ろうとした。

 

「……っ!」

 

誠人さんは涼太さんの右手を強く握った。

 

そして、2人は遥さんたちが待つ会場まで手を繋いでゆっくりと歩き始めた。

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