の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午後8時50分
「誠人まだ戻ってこないけど、そろそろ始めようか……」
亜李さんは、誠人さんが演台に置いた謎の白い本を手に取った。それは、3年1組の文化祭の劇の台本だ。
「き、緊張してきた……」
遥さんは思わず両手で顔を隠した。
「大丈夫。遥のセリフは少なめにしたから」
亜李さんは遥さんの肩をポンと叩いた。
壇上に上がった2人は、これ以上涙を流さないよう天井を必死に見ていた。
亜李さんはマイクを手に取った。
「みんな、食べながらでいいから聞いて……。もう分かってると思うけど、ゆうちゃんは……日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件のせいで亡くなりました……」
亜李さんの声は、だんだん小さくなり、同時に震えるようになった。
「マイク貸して」
ここで、遥さんが亜李さんに救いの手を差し伸べた。
亜李さんからマイクを受け取った遥さんは、マイクの持ち手で手のひらに人という字を書いて飲み込んだ。
「よし……」
遥さんは、一旦切ったマイクのスイッチをオンにした。
「今日は……予定を変更して、ゆうちゃんのお別れ会もします。今から、ゆうちゃんが大好きだったシンデレラのお話を読みます。あの時、文化祭の劇でやったお話です。聞いてください……」
一方その頃……
「孝行……。僕、遥にふさわしい男になれる気がしないよ……!」
トイレから出た涼太さんは後ろを振り返った。
「え?もしかして、誠人くん?」
涼太さんは声が聞こえる方向へと向かった。
トイレットペーパーに包まれたみなみさんの手作りスプーンは、涼太さんのスーツの胸ポケットに隠されていた。
コンコン
そして、誠人さんがいるトイレの個室のドアをノックした。
「……あ、ごめん。そろそろ切るね」
誠人さんは、孝行さんからの電話を切ってトイレの個室の鍵を開けた。
「ごめん……っ。お待たせ……」
何を勘違いしたのか、誠人さんは涼太さんに謝った。目にはまだ涙が浮かんでいたのだ。
「え?トイレならさっき行ったよ。あ、桃松さんだけがいなくて悲しいのは分かるよ。でも……せっかくの同窓会だからさ」
涼太さんは、どうにかして誠人さんを会場に連れ戻そうとした。
だが、誠人さんは無言で立ち止まったままだった。
「……みんな待ってるよ。早く会場に戻らないと、大好きな黒谷さんが泣いちゃうんじゃないかな」
涼太さんは、誠人さんの右手を握ろうとした。
「……っ!」
誠人さんは涼太さんの右手を強く握った。
そして、2人は遥さんたちが待つ会場まで手を繋いでゆっくりと歩き始めた。