の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午後9時25分
ゆうちゃんにそっくりなシンデレラの人形と涼太さんは、音楽に合わせて楽しそうに踊っていた。
♪〜コーヒーカップに乗りました
観覧車にも乗りました
あたしの感情 本当に
たのしい!だけでもいいですか?
みうさんと残る22人は、手拍子をしながら笑っていた。まるで、もういないゆうちゃんも会場にいるかのように……
午後9時30分
音楽が終わったその瞬間、みうさんは演台に置かれていたマイクを手に取った。
「まあ大変!このままでは魔法が解けてしまうわ!さようなら、王子様!」
笑えていたはずのみうさんの目は、いつの間にかまた涙で濡れてしまったのだ。
みうさんは、白のパンプスではなく、マイクを会場の床に落としてその場を去ってしまったのだ……
「え!待って、シンデレラ……」
涼太さんは慌ててみうさんを追いかけようとしたが、遥さんたちに止められてしまった。
「礒部さん……。今はそっとした方がいいと思う」
「涼太くんの気持ちは分かる。でも、続きは僕たちが何とかするから」
「涼太。みうがどんな思いでゆうちゃんの代役を務めたか……アンタなら分かるでしょ?」
遥さん、誠人さん、亜李さんは涼太さんの目をじっと見つめていた。
「あ、アンタたち!みうのことはウチらに任せて!」
亜李さんは、真剣な眼差しで残る19人を見つめていた。
「黒谷さん、ごめん。僕もう耐えられない……」
遥さんの近くにいた涼介さんは、青白い顔でそう言った。
「えっ、伊東さん大丈夫……?」
遥さんの優しい声も、絶望した涼介さんには心を抉る声にしかならなかったのだ。
「……大丈夫じゃない。ごめん……」
涼介さんは、ふらふらした足取りで会場の外に出てしまった。
遥さんは何も言えず、フロントの近くにあるオブジェのように動けなくなってしまったのだ。
「ごめんな、黒谷。涼介も桃松の死に深く傷ついているんだ。しかもあいつは繊細だからさ、俺ら以上に……」
「黒谷さん、涼介には悪いけどあえて言うね。桃松さんのお母さんは、涼介の上司だったんだ……。3日前、昼休憩中にSNS絶対嘘ですよねって見せちゃったんだよ、あいつ……」
そんな遥さんを見かねた健二さんと智和さんが、涼介さんの心の闇を全て話した。
「……っ!!!そんな……!え……!」
残酷な真実を突きつけられた遥さんは、とうとうその場に倒れ込んでしまった。
「遥!どうしたの?大丈夫?!」
「遥!ねえ!何があったの?!」
誠人さんと亜李さんは、遥さんの元に慌てて駆け寄り、強く抱き締めた。
「あ、亜李……これ落ちてたよ……」
真由美さんは、震える手で亜李さんにマイクを渡そうとした。
「ごめん、今は遥が心配だから!」
亜李さんはマイクを受け取れなかった。
「……分かった」
真由美さんは小声でそう呟いた。その後、マイクを手に取り壇上に上がってこう言った。
「ちょっとあなたたち……ガラスの靴がピッタリあった人が……王子様のお嫁さんになれるんですって」
真由美さんの声は少しだけ震えていた。
「素敵ね、どっちがお嫁さんになるのかしら……?」
夏菜子さんとまちこさんの目は、いつの間にか『光』を失っていたのだ。
ガラスの靴を届ける人役でもある弘樹さんは、3人の真っ黒なオーラに毒されたのか何も言えなくなってしまった。
そのうえ、ゆうちゃんにピッタリのガラスの靴、あるいはその代わりになり得るものがこの会場にはなかったのだ。
「遥……本当に君の王子様、いや、王様は僕でいいの……?」
「……なんで?……なんでウチは魔法が使えないの?」
誠人さんと亜李さんは、とうとう遥さんの胸元で泣き出してしまった。
涼太さんは、シンデレラの人形を壊さないようにそっと抱き締めた。
その時だった。
「誠人!遅くなってごめん!大丈夫?」
ミラクルサニーのレジ袋を持って現れたのは、孝行さんだった。
「え、孝行?なんでここに……?あと、それ何……?」
当然、誠人さんは戸惑っていた。
「これ?本当はゆうちゃんに渡したかったやつ……」
孝行さんは、泣きながらレジ袋を誠人さんに渡した。
「ありがとう、孝行……」
もらい泣きした誠人さんは、思わず中身をそっと抱き締めた。
?「あ、誠人くん久しぶり……。孝行から全部聞いたよ。……っ!可愛いお姫様のゆうちゃんが……恐ろしい魔王に食べられたって……!」