の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午後9時40分
「孝行……。これ、もしかして……」
誠人さんが手に取ったのは、Sサイズの銀色の靴だった。その靴は、まるでおとぎ話のお姫様のようにキラキラと輝いていた。
「そうだよ。ゆうちゃん喜ぶかな……と思って。シンデレラの劇すごくよかったから今も覚えてるんだ……」
孝行さんはまた涙を流していた。
「あ、サイズ1番小さいのにしたけど、大丈夫かな?」
孝行さんの隣にいた美由利さんは、シンデレラそのもののゆうちゃんの足を気にかけていた。
「美由利ちゃんもありがとう、Sサイズならたぶん大丈夫だと思うよ」
誠人さんは微笑んだ。
だが、孝行さんの奥さんの美由利さんは、不安そうな目をしていた。
「……っ、待って……。Sでもゆうちゃんにはまだ大きいかも……どうしよう……」
それもそのはず、ミラクルサニーの靴は1番小さいSサイズでも23.0cmだからだ。ゆうちゃんの22.5cmの足では、最悪の場合あっという間に靴が脱げてしまうのだ。
「大丈夫だよ。念のためつま先クッションとジェルインソールも買っといたから。それに、美由利がそばにいなかったらMサイズを買っちゃうからね。美由利だけに」
孝行さんは、旦那さんとして美由利さんに優しく声をかけ、おかしな冗談を言って場を和ませた。
「ねえ、私はLサイズだよ!そんなに小さくないから!」
美由利さんは思わず大声でツッコんだ。
午後9時45分
「……ん?あれ?私……寝てたの?」
美由利さんのツッコミが、倒れていた遥さんを目覚めさせた。
「遥……!アンタ倒れてたんだよ!」
亜李さんは遥さんを強く抱き締めた。
「あ、遥ちゃんに亜李ちゃん久しぶり……。あのね……。孝行と一緒にゆうちゃんの靴……渡しに……来たんだ……」
急に涙が止まらなくなった美由利さんを見て、遥さんと亜李さんも目を潤ませた。
「あ……邪魔してごめんね。……っ。そろそろ帰るね……」
なんとなく気まずくなった孝行さんは、美由利さんの手をそっと握った。
「あ……あ……!靴……誠人くんが……持ってる……から……。またね……」
根ノ江北高校出身の孝行さんと美由利さんは、泣きながら会場を後にした。
「……あ、弘樹くん。これ……」
誠人さんは、つま先クッションとジェルインソールが入った靴を弘樹さんに渡した。
「……シンデレラの靴!ありがとう!ここは俺に任せろ!マイク誰が持ってる?」
弘樹さんは大急ぎで壇上へと駆け上がった。
「ごめん、私……」
真由美さんは震える手でマイクを弘樹さんに渡した。
「ありがとう。ああ、困ったな〜。この靴にピッタリ合う娘が見つからない……。王子様のお嫁さんはどこにいるのかな〜?ん?」
弘樹さんの目に映ったのは、涼太さんの腕に抱かれたシンデレラの人形だった。
「あなたは……!」
弘樹さんは、シンデレラの人形に向かって銀色の靴を差し出した。
「弘樹くん、ごめん。……ちょっと貸して」
なんとか涙を堪えた涼太さんは、なぜか銀色の靴の片方だけを手に取った。
「……僕が演じるのは違和感しかないけど、やるか」
涼太さんは、シンデレラの人形を銀色の靴の中にそっと寝かせ、演台に乗せた。
「あ、ごめん借りるね。……まあ!私ったら、ガラスの靴を片方落としていたのね。見つけてくれてありがとう」
ゆうちゃんの無邪気な桃色の高い声を再現するのは、弘樹さんからマイクを借りた涼太さんには難しかった。だが、幸運にも少し裏返った声を笑う人はいなかったのだ。
「どういたしまして。さあ、結婚式の準備をしましょう!」
弘樹さんはそう言って、亜李さんに向かって手招きしたが……
プルルルルルル
「こんな時に誰?!空気読んでよ!……って、雄馬にゃん?!……もしもし?」
「あ、亜李にゃん大丈夫?」
「ごめん、今同窓会してて……」
「こっちこそごめん。泣きたくなってないか心配で……」
「……大丈夫だから」
「分かった。泣きたくなったらAの曲聞きな。永遠にそばにいるよとかさ。俺さっきそれ聞いて少し楽になれたから」
「ありがとね」
亜李さんは、電話を切って大急ぎで壇上へと向かった。