※この作品はR-18です。

の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】   作:桃色ぴんく

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第89話

7月11日午後9時40分

 

「孝行……。これ、もしかして……」

 

誠人さんが手に取ったのは、Sサイズの銀色の靴だった。その靴は、まるでおとぎ話のお姫様のようにキラキラと輝いていた。

 

「そうだよ。ゆうちゃん喜ぶかな……と思って。シンデレラの劇すごくよかったから今も覚えてるんだ……」

 

孝行さんはまた涙を流していた。

 

「あ、サイズ1番小さいのにしたけど、大丈夫かな?」

 

孝行さんの隣にいた美由利さんは、シンデレラそのもののゆうちゃんの足を気にかけていた。

 

「美由利ちゃんもありがとう、Sサイズならたぶん大丈夫だと思うよ」

 

誠人さんは微笑んだ。

 

だが、孝行さんの奥さんの美由利さんは、不安そうな目をしていた。

 

「……っ、待って……。Sでもゆうちゃんにはまだ大きいかも……どうしよう……」

 

それもそのはず、ミラクルサニーの靴は1番小さいSサイズでも23.0cmだからだ。ゆうちゃんの22.5cmの足では、最悪の場合あっという間に靴が脱げてしまうのだ。

 

「大丈夫だよ。念のためつま先クッションとジェルインソールも買っといたから。それに、美由利がそばにいなかったらMサイズを買っちゃうからね。美由利だけに」

 

孝行さんは、旦那さんとして美由利さんに優しく声をかけ、おかしな冗談を言って場を和ませた。

 

「ねえ、私はLサイズだよ!そんなに小さくないから!」

 

美由利さんは思わず大声でツッコんだ。

 

午後9時45分

 

「……ん?あれ?私……寝てたの?」

 

美由利さんのツッコミが、倒れていた遥さんを目覚めさせた。

 

「遥……!アンタ倒れてたんだよ!」

 

亜李さんは遥さんを強く抱き締めた。

 

「あ、遥ちゃんに亜李ちゃん久しぶり……。あのね……。孝行と一緒にゆうちゃんの靴……渡しに……来たんだ……」

 

急に涙が止まらなくなった美由利さんを見て、遥さんと亜李さんも目を潤ませた。

 

「あ……邪魔してごめんね。……っ。そろそろ帰るね……」

 

なんとなく気まずくなった孝行さんは、美由利さんの手をそっと握った。

 

「あ……あ……!靴……誠人くんが……持ってる……から……。またね……」

 

根ノ江北高校出身の孝行さんと美由利さんは、泣きながら会場を後にした。

 

「……あ、弘樹くん。これ……」

 

誠人さんは、つま先クッションとジェルインソールが入った靴を弘樹さんに渡した。

 

「……シンデレラの靴!ありがとう!ここは俺に任せろ!マイク誰が持ってる?」

 

弘樹さんは大急ぎで壇上へと駆け上がった。

 

「ごめん、私……」

 

真由美さんは震える手でマイクを弘樹さんに渡した。

 

「ありがとう。ああ、困ったな〜。この靴にピッタリ合う娘が見つからない……。王子様のお嫁さんはどこにいるのかな〜?ん?」

 

弘樹さんの目に映ったのは、涼太さんの腕に抱かれたシンデレラの人形だった。

 

「あなたは……!」

 

弘樹さんは、シンデレラの人形に向かって銀色の靴を差し出した。

 

「弘樹くん、ごめん。……ちょっと貸して」

 

なんとか涙を堪えた涼太さんは、なぜか銀色の靴の片方だけを手に取った。

 

「……僕が演じるのは違和感しかないけど、やるか」

 

涼太さんは、シンデレラの人形を銀色の靴の中にそっと寝かせ、演台に乗せた。

 

「あ、ごめん借りるね。……まあ!私ったら、ガラスの靴を片方落としていたのね。見つけてくれてありがとう」

 

ゆうちゃんの無邪気な桃色の高い声を再現するのは、弘樹さんからマイクを借りた涼太さんには難しかった。だが、幸運にも少し裏返った声を笑う人はいなかったのだ。

 

「どういたしまして。さあ、結婚式の準備をしましょう!」

 

弘樹さんはそう言って、亜李さんに向かって手招きしたが……

 

プルルルルルル

 

「こんな時に誰?!空気読んでよ!……って、雄馬にゃん?!……もしもし?」

 

「あ、亜李にゃん大丈夫?」

 

「ごめん、今同窓会してて……」

 

「こっちこそごめん。泣きたくなってないか心配で……」

 

「……大丈夫だから」

 

「分かった。泣きたくなったらAの曲聞きな。永遠にそばにいるよとかさ。俺さっきそれ聞いて少し楽になれたから」

 

「ありがとね」

 

亜李さんは、電話を切って大急ぎで壇上へと向かった。

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