の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午後9時45分
「ゆうちゃん……?どうして魔法は解けてしまうの?」
みうさんは、15分前からロビーのソファに座って泣き続けていた。
「どうしてゆうちゃんは醜い怪物に食べられたの?ねえ……。どうして……?」
みうさんは、自分の白いロングスカートに向かって、絶対に答えが返ってこない質問をした。
「あ……こんばんは……」
見かねた涼介さんが優しく声をかけた。
「あ、蒼森さん……僕だよ。伊東涼介。ねえ、隣……いい?」
涼介さんも涙を流さずにはいられなかったのだ。
「いいよ……。でも、どうしてここに……?」
みうさんは、戸惑いながらも蚊の鳴くような声で応じた。
「……ありがとう。えっと……さっきトイレ行ってた。あ、実は僕……!」
みうさんの隣に座った涼介さんは、会場を抜けた理由を誤魔化しながら人生最大の過ちを打ち明けようとした。
「……忘れてたんだ。桃松さんが僕の元クラスメイトだったことも……君の親友だったことも……!うっ……ごめん……!」
涼介さんは、崩れ落ちるようにうなだれながら謝った。
「……え?えっ……?」
みうさんは想定外の謝罪に困惑していた。
「やっぱり許せないよね。そうだよね……。僕……上司にも最低なことしたから!!よりによって桃松さんのお母さんに!!!」
2つの絶望に心を壊された涼介さんは、とうとうシルバーの腕時計を外してそのまま床に投げつけてしまった。
「えっ、どういうこと?伊東くん、落ち着いて!悪いのは全部あの醜い怪物だから!」
みうさんは涼介さんの両手首を無意識に強く掴んだ。
「僕も悪いよ!3日前の昼休憩中に、SNSの投稿、絶対嘘ですよねってバカみたいにヘラヘラしながら言っちゃったから!桃松さんが食べられたのは本当だったのに……!ああああああああ!!!」
何もかもに耐えられなくなった涼介さんは、みうさんの手を振り払おうとした。
「……っ!私、最低だ!スマホ壊れてたとはいえ、どうして伊東くんより早く気づけなかったの?!ゆうちゃんは世界一大好きな親友なのに……!ねえ……!!ごめんね……ゆうちゃん!!!」
何もかもに耐えられなくなったみうさんは、思い切り涼介さんを抱き寄せてしまった。
「う……うう……。ゆうちゃん……会いたいよ……」
涙目のみうさんは、涼介さんの胸に顔を埋めて永遠に叶わない願いを口にしていた。
夜空よりも暗い表情を浮かべた涼介さんは、ただ黙ってみうさんの背中をゆっくり撫でることしかできなかったのだ。
午後9時55分
「はぁ、はぁ……。蒼森さん!……あれ?なんで涼介くんもいるの?」
「はぁ、はぁ……。ごめん!やっぱり心配で!……って涼介?!なんでみうに抱きついてるの?!みう大丈夫?!怖かったらバッて振り払っていいからね!」
息を切らした涼太さんと亜李さんが2人の元に駆け寄った。涼太さんはシンデレラの人形を寝かせた銀色の靴を、亜李さんはもう片方の銀色の靴を、それぞれ右手に持っていたのだ。
「金山さん、そういう意味じゃないから。あ……これ落ちてたよ」
涼太さんは、亜李さんを落ち着かせようとしながら、少し傷がついたシルバーの腕時計を涼介さんに渡した。
「あ、ありがとう……」
涼介さんはシルバーの腕時計をつけ直した。
「え!それって……」
2人が持っていた銀色の靴が、みうさんの溢れる涙を止めた。
「金山さん……心配かけてごめん……。あ、蒼森さんもごめん……」
みうさんから離れた涼介さんの目は、まだ少しだけ潤んでいた。
「蒼森さん。君がいないと桃松さんが悲しむよ。あと、涼介くん。健二くんと智和くんが心配して待ってるよ」
「みう、涼介。みんな待ってるよ。ゆうちゃんと王子様がいつまでも幸せに暮らせるようにしたいよ、ウチは」
涼太さんと亜李さんは、みうさんと涼介さんに会場へ戻るよう促した。
「分かった。戻るね」
「……うん、戻るよ」
みうさんは亜李さんと、涼介さんは涼太さんとそれぞれ手を繋いで会場に向かって歩き始めた。