の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午後11時20分
うさぎマーケットがある松ノ実2丁目にいた藤田さん、浅川さん、そして下田さんたちは、藍斗の姿が見当たらずただただ嘆いていた。
おひさまモールがある松ノ山1丁目、おひさまファッションビルがある松ノ山5丁目、そして、藍斗が住む洋館やアイスクリームワールドがある松ノ森3丁目でも聞き取り調査をしたが、全て徒労に終わってしまったのだ。
「あいつ……どこ行ったんだ?」
「誰もあいつを見ていないなんて……」
下田さんたちの表情は、夏の夜空と同じくらい真っ暗だった。
「うーん……。拝郷さんと風雅さんがいなかったらゆうさんがあいつの漆黒のSUVで誘拐されたのも分からなかったからな……。あ、藤田くん大丈夫?」
「僕は大丈夫です。ですが、SUVとなるとより慎重な捜査が必要ですね……。早くあいつを捕まえたいです……」
浅川さんと藤田さんも暗い顔をしていた。
日の丸の国のSUVはあまりにも高級で、防犯上の理由からナンバープレートがないのが当たり前だからだ。もしナンバープレートを付けたままだと、個人を特定され、強盗などに狙われる可能性があるのだ。
「あいつ……!絶対に許さない!」
4人とも藍斗への憎しみを堪えきれず、拳を小刻みに震わせていた。
一方その頃……
拝郷さんと風雅さんは、約1時間前の出来事を車内で語り続けていた。
「やっぱりあいつはゆうさんを車で連れ去ったわね。まさか、あの方があいつの運転免許証と車検証を先に見つけるなんて……。私ったらまだまだね」
助手席にいた拝郷さんは、やや落ち込んだ様子で風雅さんを見つめた。
「そんなことないですよ。あの方が優秀すぎただけですから。あいつは本当に最低ですよ。なんの罪もないゆうさんをさらって食べるなんて……」
運転席にいた風雅さんは、両手でハンドルを強く握り締めていた。
「それにしても、どうして20億円もする漆黒のSUVで誘拐したのかしら?」
「え?ああ……お金持ちアピールですかね?ゴシック調の洋館に住んでいるくらいですし」
「きっとそうね。全く、あいつ本当に馬鹿ね。捕まったらどうなるか分かっているのかしら」
「どうでしょうかね。被害者が1人だとしても、これだけ残酷なやり方で殺してたら無期懲役だけじゃ済まないですよ!絶対!」
2人とも、藍斗には最高刑が科されると確信していた。
日の丸の国の最高刑は、死刑ではなく無期懲役と全財産の没収。さらに、没収された財産は被害者あるいは遺族の元に行き渡るシステムなのだ。
「これまでにも最高刑が科された人間はいたけど、あいつはゆうさんを殺した上に食べたのよ!それに、ゆうさんのお母さんにも嫌な証拠を送り付けてきたし……」
「確定ですね!それ以前に漆黒のSUVで誘拐した罪もありますし。しかも、ゆうさんのスマホ奪って犯行声明出してますから。全く。あいつは日の丸の国史上最悪の犯罪者ですよ!」
2人が藍斗の犯したいくつもの罪にイライラしていたその時、拝郷さんは冷や汗をかいた。
「……ちょっと待って。あいつの駐車場……確認……したかしら?」
一方その頃……
ゆうちゃんのお母さんがようやく家に着いた。
ピンクのうさぎのぬいぐるみと青い猫のぬいぐるみは、左腕の中で大事に抱えられていた。
ゆうちゃんのお母さんは、右手に持った鍵でドアを開けた。
「ゆう、ただいま」
ゆうちゃんのお母さんがいつも通り玄関の電気をつけたその時!
「……え?ゆう……???」
そこには、ゆうちゃんが高校3年生の時に使っていたシンデレラの劇の台本が転がっていた。
「……懐かしいわね。もしかして、勇気がゆうの近況報告をしてくれたのかしら」
ゆうちゃんのお母さんは、本来のリアリストとしての一面を完全に失っていた。それと同時に、ゆうちゃんが生まれる前に亡くなった夫のことも思い出してしまったのだ。
午後11時30分
「……え?」
その台本のシンデレラがガラスの靴を落とすシーン以降のページは、すべて破り取られていた。
「ゆう……!28歳にもなって小さい子供みたいなイタズラしないでよ……!」
ゆうちゃんのお母さんは、台本に向かって叱りつけ、ゆうちゃんの部屋へと向かった。
ゆうちゃんの部屋のドアを開けたその時、今までにない臭いがした。
「い、いやああああああああああ!!!!」