の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午前1時30分
みうさん、涼介さん、亜李さんは、サニーショップの入口にある生花コーナーにいた。
どの花も鮮やかで、本物の宝石のように美しく輝いていた。
1本ずつ販売されている花だけでなく、花束やアニマルフラワーなどのフラワーアレンジメントも多数取り揃えられていたのだ。
「あ、これ綺麗だな……」
亜李さんは、ひまわりの花束を手に取り、そっと抱き締めた。
「副店長……あの時は本当にすみませんでした……。それにしても、蒼森さんの歌声……本当に綺麗だったな……」
涼介さんは、手に取ったカサブランカの花束で顔を完全に隠していた。
2時間前に北野マヤのトクベツを歌ったみうさんを思い浮かべずにはいられなかったようだ。
「はぁ……もう1回聞きたかったな……」
涼介さんは誰にも聞こえない声でこっそり呟いた。
カサブランカの花弁は、いつの間にかあるはずのない雫がいくつもついていた。
「あ、このピンクのうさぎ……。なんかゆうちゃんみたいだな……」
みうさんは、透明の箱に入ったアニマルフラワーを手に取り、壊れないように大事に抱えた。
ゆうちゃんに似合いそうな花を選び終えた3人は、何も言わずにセルフレジへと向かった。
午前1時40分
「蒼森さん、金山さん。急な誘いに付き合ってくれてありがとう」
涼介さんの目はまだ少しだけ潤んでいた。
ゆうちゃんとゆうちゃんのお母さんへの罪悪感だけが理由ではない。
「どういたしまして。あ、雄馬にゃんが待ってるからバイバイ!」
亜李さんは、買ったひまわりの花束の持ち手を強く握り締めて走り去った。
「こっちこそありがとう。あ、大輝が待ってるからまたね。これ、ゆうちゃんの住所」
買ったピンクのうさぎのアニマルフラワーを抱えたみうさんは、涼介さんに
松島県根ノ江市松ノ実6丁目12-18
と書かれたメモ紙を渡してゆっくり立ち去った。
「シンデレラと魔法使い……すごくよかったよ……。またね……」
涼介さんは、買ったカサブランカの花束をそっと抱き締めながらその場を去った。
一方その頃……
1つのメルヘンで働く百乃さんと裕香さんは魔法の太陽にいた。
2人とも童話関連のコスプレ衣装を涙目で見つめていた。
「ねえ……。これ、完全にゆうちゃんそのものじゃん……!うう……」
百乃さんは、裕香さんに赤ずきんの衣装を見せた。
鮮やかな赤がとても可愛いはずなのだが、どうしてもえげつない色に見えてしまうのだ。
「本当それ……。あと、これも……」
裕香さんは、百乃さんに白雪姫の毒りんごフィギュアを見せた。
鮮やかな赤いりんごにどす黒い毒がまとわりついたデザインが心の傷を抉ってくるのだ。
「そもそもどうして私たち……。ここに来ちゃったのかな……?」
「そんなのあたしだって知りたいよ……。もう夜中の2時前なのに……!休みとはいえ!」
2人とも真っ黒な狼の衣装の前で抱き合いながら身体を震わせていた。
王子様や猟師の衣装も当然あったのだが、それらに涙を止める力はなかったのだ。
プルルルルル
裕香さんのスマホが鳴った。
アイスクリームワールドで働く美由利さんが夜中にいきなり電話してきたのだ。
「あ、百乃ごめん。ちょっと離れるね……あ、もしもし……?」
「こんな時間にごめんね、裕香ちゃん。ゆうちゃんが7日にアイス食べてたの思い出しちゃって……」
「あ、そういえば美由利ちゃんのお店のストロベリーアイスの写真投稿してたね……」
「うん……。ゆうちゃんね……これ食べたら根ノ江駅でランチってニコニコしてた……。彦星様に会いたいって言ってた……。でも、ゆうちゃんは魔王に……」
「そんな……!ゆうちゃん、ランチ食べた後にあのクズにさらわれたの……?」
「ゆうちゃんはランチすら食べられてないよ!ストロベリーアイスの写真が最後だったんだもん!」
「どうして分かるの……?」
「あ、美由利ちゃん、こんばんは。百乃だよ……」
「百乃ちゃん……っ!あ、あああ……!ゆうちゃん……!」
「美由利ちゃん?!あたしに説明して……?ゆうちゃん……ランチ食べてないって本当なの……?」
「本当だよ……!私、みうちゃんほど長くはないけど、ゆうちゃんとは長い付き合いだもん!」
「そっか。私と裕香は短大入ってからゆうちゃんとみうちゃんに出会ったけど、みうちゃんは小学生、美由利ちゃんは中学生の頃からゆうちゃんと仲良しだったもんね……」
「そうだよ……だからこそ分かるの……!ゆうちゃんは大好きなものを食べたら必ず写真を撮らないと気が済まない女の子だもん……昔から……!」
午前2時
下田さんたちがゆうちゃんの家の前に辿り着いた。
ゆうちゃんの家はなぜか明かりが消えていなかったのだ。
「ゆうさんのお母さん……まだ眠れないのかな」
「そりゃそうだよ、DNAが一致したショックは大きいよ」
下田さんたちは暗い表情を浮かべていた。
誰よりもゆうちゃんのお母さんを心配していたからだ。
「安否確認のため……ノックしますか……って、なんであんなところに車が……!」
藤田さんは声を震わせながら浅川さんに質問しようとしたが、不審な車が目に入り、言葉を止めた。
「おいおい。こんな真夜中にノックしたら迷惑だよ……って、あれ純白のSUVじゃないか!よく見つけたな!……って、感心してる場合じゃない!あいつまさか……!」
浅川さんは3人に目配せした。
「純白のSUV?!あいつ、ゆうさんの家に入ったのか?!でもどうやって!」
1人目の下田さんは、真夜中にふさわしくない大声で叫んでしまった。
「とにかく浅川さんの指示に従おう!ゆうさんのお母さん無事だといいけど……」
2人目の下田さんの声は、ほんの少し震えていた。
「覚悟はできています!行きましょう!」
藤田さんは左手を握り締め、胸元に当てた。
こうして4人は、ゆうちゃんの家へ緊急で立ち入ることに決めた。