※この作品はR-18です。

ダンガンロンパクロスオーバーハーレム   作:みゆ_ハーメルン

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エピローグは明日10月6日更新予定です。


チャプター5 学級裁判編

 裕也たちは玄関広間の近くにあるエレベーターホールに集まる。

 巨大な鉄扉が開き、昇降機が全容を現す。貨物運搬用よりさらに大きく、広さは前後左右10メートルほどある。

 全員が乗機し、昇降機が降下を始める。縦坑は長い。昇降機の壁は金網張りで、縦坑に設けられた照明が過ぎるたび、機内が照射される。

 長い降下のあいだ、場を沈黙が満たす。

(生き残るなら海夢ちゃんと2人で、って決めてたのに… 酷いよ。クロのやつ、絶対に許さないからな!)

 裕也はひとりで怒りを滾たぎらせる。憤懣が自分勝手である自覚はない。

 

 鈍い衝撃とともに昇降機が停止する。

 降機したところは、円形闘技場のような空間だ。裁判所で使うような木柵が16人分、円形に並べられている。

 すでに半数以上の木柵の後ろに、遺影のような顔写真が立てられ、赤くバツ印が描かれている。東雲茜、薙切アリス、毒島冴子、明星ヒマリ、向井拓海、神代フラウ、豊川祥子、後藤ひとり、そして、喜多川海夢。

 全員が木柵の後ろに立つと、高い位置の画面が点灯する。

《では、これより学級裁判を始める! 開廷!》

 画面で盾子が楽しげに言う。

 

  *

 

【真兎】「まさか喜多川ちゃんがコロされちゃうなんてね。こんなときにこそ、いてほしい子だったのに… なんか、『七人の侍』の林田平八みたい」

【裕也】(そういえば、この生き残りのメンツって、頭の良い娘ばっかりだな… 『ダンガンロンパ』だったら、頭の良いキャラと悪いキャラが半々で残るのに。このメンツで議論に勝てる気がしないよ)

【響子】「今回の事件で議論の余地はないわ。私が結論をまとめたいのだけど、いいかしら」

【かぐや】「議論の余地がないかどうかは分かりませんが… まずはお話をお聞かせください。異論のあるかたはいませんね?」

【響子】「なら、始めるわ」

【裕也】(もう!?)

 

・ノンストップ議論 - 霧切響子 -

 

【響子】「今回の事件、私と蛇喰さん、四宮さんと霞ヶ丘さん、錦木さんと射守矢さんには、喜多川さんがコロされたとき、それぞれアリバイがあった。2人ずつ、同じ部屋で過ごしていたのよ。ただ、その状況は少しずつ違った。私と蛇喰さんは扉をベッドで塞いでいた。四宮さんと霞ヶ丘さんは扉に封緘をしていた。けど、錦木さんと射守矢さんは、錦木さんが保証しているだけなのよ。つまり、射守矢さんにはアリバイがあっても、錦木さんにはない。だから、1人だけアリバイのない錦木さんがクロよ。これで議論は終わりよ。さあ、投票しましょう」

【千束】「……」

【裕也】「……」

(どうしよう、本当に議論の余地がない!)

【かぐや】「待ってください。さすがに結論を出すのは早すぎます。まずは錦木さんの自己弁護を聞きましょう」

【響子】「錦木さんがクロだという理由は消去法だけではないのよ。犯行当時、銃声が聞こえたはずよ。みんなも知っているとおり、個室の扉は厚くないわ。裕也くんの悲鳴が聞こえたくらいだもの。それなのに、錦木さんは銃声を聞いていないと証言してる。【超高校級の暗殺者】であるにもかかわらずね」

【詩羽】「これは決定的な証拠ね」

【かぐや】「錦木さん、何か反論してください」

【千束】「んー… とくにないかな?」

【かぐや】「なんですって…?」

【千束】「だって、いま私がやってないって言っても、誰も信じてくれないでしょ? それなら、何を言ってもしょうがないじゃん」

【かぐや】「そんな無責任な…!」

【真兎】「はいはーい! それなら代わりに私からいい?」

【かぐや】「どうぞ…」

【真兎】「私と錦木ちゃんはおたがいに見張ることになったわけだけど、やっぱり夜は寝落ちしちゃうじゃん? だから、髪の毛を扉の隙間に挟んでおいたんだ。錦木ちゃんが部屋を出ていったら分かるようにね。朝、確認したら髪の毛は挟まったままだった。だから錦木ちゃんはクロじゃないよ」

【響子】「くッ…!」

 

【詩羽】「確かめておくけれど、それは射守矢さんの狂言ではないわね? このままでは錦木さんがクロに決まってしまう。だから、他にクロがいたときのため、様子を見ようという」

【真兎】「私も議論を撹乱するようなことはしないよ。もし、髪の毛のことがなかったら、私も錦木ちゃんがクロで決まりだと思ってたんだから」

【かぐや】「ですが、それなら喜多川さんをコロすことができたひとは、誰もいないということになります」

【千束】「そのことだけど、私からちょっといいかなー?」

【かぐや】「なんですか? さきほど、言うことは何もないと証言を拒否したはずです」

【千束】「それはさっきは何を言っても信じてもらえなかったからだよー。今は違うでしょ?」

【響子】「どうせ、私たちの混乱を誘うようなことを言うだけよ。聞く価値はないわ」

【かぐや】「お聞きしましょう」

 

・ノンストップ議論 - 錦木千束 -

 

【千束】「じつはみんなに告白しなくちゃいけないんだ。たしかに昨日、私はコロシをするつもりでいたんだ」

【かぐや】「なんですって…!?」

【夢子】「まあ。それは重大な告白ですね」

【真兎】「でも、なんでこのタイミングで? みんながおたがいに見張ってるこの状況なら、コロシをしたら、自分がクロだって宣言するようなものだよね」

【千束】「だから、私には共犯者がいたんだ」

【響子】「……」

【千束】「そう、響子だよ」

【詩羽】「けど、それはおかしいわ。このコロシアイ学園生活では他人のコロシに協力するメリットはない。だから、共犯関係は成立しないのよ。そうよね、江ノ島さん?」

【盾子】「そのとおり! 学級裁判で勝利条件を達成するクロは1人だけ。共犯だろうが、他の生徒と一緒にオシオキを受けてもらう。平等と公正がコロシアイ学園生活のモットーだからな!」

【千束】「私もそう言ったよ? そうしたら、響子は交換殺人を提案してきたの」

【響子】「……」

【かぐや】「お話が見えませんが…」

【千束】「響子はこう言ってきたの。コロシアイ学園生活でも共犯が成立することがある。それは2人の死体が同時に発見されること。審理が同時に行われれば、2人ともクロとして認められることになる。言ってみれば同着優勝かな?」

【かぐや】「それは共犯ではなく、別々のコロシを同時に行うだけでしょう。捜査を妨害できるとも思えません。江ノ島さんはクロが2人いることを宣言するでしょうし」

【盾子】「そのとおり! 当然ッしょ」

【千束】「だから交換殺人なんだよ。だって、これは模擬裁判で本当に殺人を行うわけじゃない。提出した犯行計画書でクロだって認定される。霧切さんはこんな方法を提案してくれたよ。おたがいにペットボトルの飲みものに毒を仕込む。犯行計画書でおたがいの同室の相手を指名。それで、自分の同室の相手に毒を飲ませても、あくまで共犯であってクロにはならない。密室殺人だから、自分の相方のコロシではクロだと疑われるけど、もうひとつのコロシでは疑われない。むしろ、学級裁判で自分の相方のコロシについてクロに指名されたほうがいい。そうすれば、どっちのコロシでもクロの勝ちになるんだもん!」

【かぐや】「たしかに共犯の主犯と従犯を曖昧にすることはできるでしょうが… すべてを江ノ島盾子の判定に委ねることになります。彼女は信頼できません」

【千束】「もし交換殺人が認められなければ、コロシそのものがなかったことになるんだもん。やるだけで損はない、って響子は言ってたよ」

【詩羽】「密室殺人が同時に起きて、どちらも最有力容疑者が自分の犯行を認めていたら、交換殺人の奸計はすぐに見破られそうだけれど」

【千束】「やるだけやったら、あとは出たとこ勝負、ってとこかな」

【かぐや】「錦木さんの証言は一貫性があるように思えますが… 霧切さん、なにか反論はありますか」

【響子】「すべてデタラメよ。こんなこと言わせないでちょうだい」

【詩羽】「そもそも、コロされたのは喜多川さんでしょう? その交換殺人とやらの計画がどう関わっているのかしら」

【千束】「さあ? 私は起きたことを話してるだけだから」

【夢子】「交換殺人でおたがいに同室の相手をコロす。お話ですと、霧切さんは私をコロしているはずですよね? それに、錦木さんは射守矢さんをコロしているはずです。それはどうされたのでしょう」

【千束】「ああ。怖くなってやめちゃった。ってことで、みんなを裏切ったわけじゃないから。許してね」

【夢子】「残念ですが、錦木さんのお話には承服しかねるところがあります。誰がコロされたか以前に、交換殺人の計画ということについて。裕也さん、お気づきですね?」

【裕也】「ぼッ、僕?」

(おかしいのは…)

【裕也】「おかしいのは、交換殺人のリスクの大きさだよ。現実の交換殺人でもそうだけど、実行犯が一方的にリスクを負うよね。交換殺人による二重殺人を計画したとして、もし相手が実行していなかったら、相手だけ学級裁判に勝利して、自分はただの共犯としてオシオキされてしまう。だから、どっちも計画を実行するはずがない。交換殺人は机上の空論なんだよ」

【かぐや】「なるほど。裕也さんの指摘はもっともです。ですが、錦木さんの交換殺人という話は、つくり話にしてはあまりに突飛すぎます。そもそも、現実にコロされた被害者と、話における計画の被害者も違います。なんのためにそんなつくり話を?」

【詩羽】「合理的な行動をとる犯人なんて、推理小説の中だけよ。そして、現実の犯人がするつくり話は推理小説ほど合理的じゃないわ」

【真兎】「それはどうかな?」

【詩羽】「何が言いたいのかしら」

【真兎】「私、本当は何があったのか分かったかも」

 

・ノンストップ議論 - 射守矢真兎 -

 

【真兎】「本当に行われたのは交換殺人の計画じゃない。三重交換殺人の計画だったんだよ」

【かぐや】「三重交換殺人というのは、ア、イ、ウの3人の犯人がいて、甲、乙、丙の3人の殺人の対象を入れ替える、という理解で合っていますか」

【真兎】「そうそう」

【詩羽】「それで何が変わるというの? むしろ、交換殺人なんて非現実的な話が、より非現実的になっただけじゃない」

【真兎】「大違いだよ。だって、元々の私たちの人数が8人でしょ? 3人が結託して3人を殺せば、残りは5人。過半数を押さえられるじゃん」

【夢子】「いわゆる必勝法ですね。ですが、果たして人間がそれほど合理的に行動するでしょうか。普通の交換殺人でさえ、信頼関係がなければ成立しないということは、裕也さんが示してくれたとおりです。その問題が解決しなければ、必勝法と言っても机上の空論。まるでマーチンゲール法、つねに倍賭けしていけばかならず勝てると言うようなものです」

【真兎】「私もそう思う。だから、霧切ちゃんが考えたのはもっと巧妙なことだった」

【響子】「その話で、錦木さんが結託したのが私だとは限らないでしょう。その話なら仮名でもいいはずよ。何か証拠がないかぎり、私の名前は出さないでちょうだい」

【真兎】「だって、この想像は錦木ちゃんの話が本当だってことが前提だから。犯人をA、B、C、被害者をX、Y、Zだとして、三重交換殺人の組合せは何通り?」

【かぐや】「6、いえ、2通りですね。犯人と被害者の組は入れ替わっていないといけませんから」

【真兎】「そうなるよね。でも、実際には1通りだったんだ」

【夢子】「それですと、普通の交換殺人と変わりませんが」

【真兎】「そうだよ。響子ちゃんは三重交換殺人をするように見せかけて、実際には、共犯になる2人の標的を入れ替えただけの交換殺人を手配したんだ。裏切り者が出たときのための用心って言えば、おたがいにどの標的を選んだかは隠しておけるでしょ? きっと、標的を選ぶのにはクジを使った。でも、そのクジには細工がしてあったんだよ。響子ちゃんがもともとの標的をコロせるようにね」

【かぐや】「待ってください。それではなんの意味もないではありませんか」

【真兎】「大ありだよ。裏切りはコロシのときだけじゃない。学級裁判のときもだよ。学級裁判でクロの1人が他の2人を出しぬこうとするかもしれない。もし三重交換殺人が実行されてたら、クロたちは過半数の票を押さえてた。そして、クロたちが全員裏切れば、クロの2人は騙されていて、響子だけがクロとして勝利することができた」

【詩羽】「響子以外のクロが首尾良く学級裁判で指名されるとは限らないわよ。確実なのは、5票中2票でしょ?」

【真兎】「あと必要なのはキャスティング・ボートの1票だけ。それに、あくまで目標はクロとして勝利することだしね。もし交換殺人の片方だけが実行されてたら、やっぱり6票中3票を押さえてた。もっともありうる場合として、交換殺人が実行されなければ、キャスティング・ボートを除く、7票中3票を押さえられる」

【かぐや】「それが今の状況だということですか」

【詩羽】「待ってちょうだい。それなら、どうして霧切さんは錦木さんを告発して、共犯関係を無に帰すようなことをしたのかしら」

【真兎】「響子ちゃんは頭の回転が速い。この状況なら、7票中3票どころか、錦木さん以外の全票を錦木さんに投票させられることに気づいて、計画を変更したんだよ」

【詩羽】「そういうことね…」

【真兎】「だから錦木ちゃんが交換殺人のことを暴露しちゃったけど。三重交換殺人だって明かさなかったのは、霧切ちゃんに、さらにもう1人を告発しても信用を失うだけだから。三重交換殺人の密約を交わした相手としてありえるのは、四宮ちゃんか霞ヶ丘ちゃんのどっちかだけ。あとは見張りあいのペアで、交換殺人の取引きをする意味がないから。これまでの議論を聞いてれば、霧切ちゃんの応援をしてた霞ヶ丘ちゃんが共犯の3人目だって分かる。もういいんじゃない? 霞ヶ丘ちゃんも騙されてたって分かったでしょ」

【詩羽】「そうね。実際にコロシをしたわけではないのだし、今度のことは許してほしいわ」

【夢子】「私はかまいませんよ。騙しあいがコロシアイ学園生活の存在意義なんですから♡」

【詩羽】「私が裏切っていただなんて… みんな、予想外だったでしょうね」

【かぐや】「いえ。全然」

【千束】「見るからに裏切りそうな雰囲気してるからねー」

【真兎】「むしろ、裏切ったあとに《こんなはずでは!》って絶叫してそうな雰囲気だよね」

【詩羽】「くッ…!」

【響子】「茶番はもういいかしら」

【かぐや】「そうですね。霞ヶ丘さん、いいかげんにしてください」

【響子】「そうじゃないわ。交換殺人がどうこういう話そのものが無意味だということよ。現状でクロである可能性がもっとも高いのが、錦木さんであることには変わりはないわ。交換殺人がどうのこうのと、すべてコロシと直接的には関係ないわ。錦木さんがクロでないという証拠は、文字どおり髪の毛1本のか細いものよ。扉を開けても、静電気で髪が扉に張りついたままだったら? 【超高校級の暗殺者】である錦木さんが、扉を開ける前に、間に挟まれた髪に気づいていたら?」

【詩羽】「そんなことを言いだしたらきりがないわ」

【響子】「ええ。だから現実的な議論をしましょう。そして、証拠と論理が示しているクロは、あくまで錦木さんよ」

【かぐや】「錦木さんに、霞ヶ丘さんまでが交換殺人の計画があったと証言しています。事実として認めていいかと」

【響子】「錦木さんの証言以外は、すべて憶測よ。霞ヶ丘さんの証言だって、ただ議論の展開に同調しただけだと考えられるわ」

【真兎】「霞ヶ丘ちゃんってそんな器用かな? むしろ、本人は騙してるつもりで、はたから見るとバレバレって感じじゃない?」

【響子】「いずれにせよ、錦木さんの証言が私を告発するものであるかぎり、信用できないわ。私に喜多川さんをコロすことはできない。私は蛇喰さんの部屋で、扉をベッドで押さえつけた密室にいた。ベッドは2人がかりでないと動かせないし、その上で蛇喰さんが寝ていたのよ。しかも、喜多川さんは私を警戒していた。だから、喜多川さんのコロシで、私だけはクロでありえないのよ」

【真兎】「錦木ちゃんと霞ヶ丘ちゃん。2人とも三重交換殺人の共謀があったって認めてるんだよ。証言に矛盾もないし。もう霧切ちゃんも認めるべきじゃないかな。ね、裕也くん?」

(証言に矛盾は…)

【裕也】「証言に矛盾はあるよ」

【真兎】「え? どこが?」

(矛盾しているのは…)

【裕也】「矛盾しているのは交換殺人の被害者だよ。交換殺人なら、響子ちゃんはもっともコロしやすい夢子ちゃんを狙うはずだよ。もともと自分が疑われにくい海夢ちゃんをコロすなら、交換殺人をする意味がないよ」

【真兎】「ああああァーッ!」

【かぐや】「お言葉ですが、錦木さんと霞ヶ丘さんの証言は証拠として採用していいように思います。ですが、裕也さんの仰ることももっともです。もう、何がなんだか…」

(海夢ちゃんの死体のところにあった、2枚目の犯行声明札。響子ちゃんがいた密室。発見された睡眠薬。そして、交換殺人。そうか、全部分かったぞ!)

【裕也】「何が起こったのか、今から説明するよ」

 

・ノンストップ議論 - 霧切響子 -

 

【裕也】「犯行の起きた夜、実際に計画されてたのは三重交換殺人じゃない。四重交換殺人だったんだ」

【響子】「何を言うのかしら。裕也くん」

【かぐや】「四重交換殺人ですか? ですが、そうなると、4人目の共犯は誰ですか?」

【裕也】「それはもちろん… 海夢ちゃんしかいないよ。他はもう、交換殺人の標的しかいないんだから」

【夢子】「ですが、殺されたのはその喜多川さんなのですよ?」

【響子】「そもそも、殺害方法は射殺よ。実行犯は明らか。コロシアイ学園生活における交換殺人などというものは成立しないわ」

【裕也】「う、うん… みんな、海夢ちゃんが持ってた毒殺の犯行声明札のことを覚えてる? 僕はあれが不思議だったんだ。でも、交換殺人の計画があったと考えると納得できる。銃弾、この場合は模造品のペイント弾だけど、それに毒薬が仕込まれていたとすればどうかな? クロは銃を撃った実行犯じゃなくて、毒薬を仕込んだ共犯ってことになる」

【かぐや】「なるほど。刑法における不能犯と同じ扱いということですね」

【裕也】「【超高校級の暗殺者】の千束ちゃんなら、ペイント弾に毒薬の模造品の粉末を仕込むことも簡単だよね?」

【詩羽】「錦木さんが…?」

【裕也】「うん… 千束ちゃんは三重交換殺人の密約を交わした響子ちゃん、詩羽ちゃんのことを信じてなかった。だから交換殺人のアイディアだけ借りて、さらに海夢ちゃんと第4の交換殺人をすることにしたんだよ。千束ちゃんは犯行計画書で被害者にかぐやちゃんを指名するように手配されてた。それを海夢ちゃんに代替わりして、自分は海夢ちゃんの標的を指名したんだ」

【かぐや】「代替わりとは? そんなことができるのですか?」

【詩羽】「私たちの交換殺人は、それぞれ毒物を用意して、それを実行犯に渡すというものだった。錦木さんが用意した毒物が、たんに喜多川さんの用意したものを中継しただけだったなら、クロは喜多川さんということになるわね」

【夢子】「喜多川さんはコロシの計画に賛同するようなかたには見えませんでした。そのような取引きに乗るでしょうか?」

【裕也】「やむなく、ってこともあると思う。三重交換殺人の計画が成功したら、クロたちが多数派になって、海夢ちゃんは学級裁判で負けることになるからね。そうじゃないかな、千束ちゃん」

【千束】「私も【超高校級の暗殺者】だからねー。暗殺、誘拐、拷問、脅迫。説得は放課後のスイーツより簡単だよ」

【かぐや】「なら、喜多川さんは誰をコロすように指示されたのですか?」

【裕也】「もともとの三重交換殺人の標的をあらためて狙うことはできない。千束ちゃんがかぐやちゃんを指名するように手配されてたなら、その実行犯の詩羽ちゃんをコロさせることもできない。残りは響子ちゃんしかいないよ。それで… 響子ちゃんは、そのことを分かっていたと思う」

【真兎】「錦木ちゃんが四宮ちゃんのクロになる、っていうのは私の想像だよ? 三重交換殺人、もとい四重交換殺人があったとして、その組合せは分かんないじゃないの?」

【裕也】「いや… 響子ちゃんが三重交換殺人に見せかけた、ただの交換殺人を手配したっていうのは、真兎ちゃんの想像どおりだと思う。でも、響子ちゃんはもっと確実な方法を選んだんだ。本当の必勝法をね。交換殺人が実行されたら、学級裁判でその計画を暴露する。もちろん、響子ちゃんは交換殺人の犯人でも共犯でもない。うまくいけば、犠牲者の2人にクロの2人が脱落して、その回の学級裁判で響子ちゃんは勝利条件を達成することができる。僕を除いて、残り3人になればコロシアイ学園生活は続けられないからね」

【詩羽】「もちろん、私は交換殺人を実行するつもりはなかったけれど… それにしても狡猾ね」

【千束】「私だって実行するつもりはなかったよ。真兎は生きてるでしょ?」

【かぐや】「つまり、霧切さんが三重交換殺人を持ちかけたのは機会主義によるもので、さらに、たまたま四重交換殺人になった機会に乗じたということですね」

【夢子】「消極的ですね。まるで、麻雀マージャンで国士無双の手を流し満貫に使うかのようです」

【裕也】「ううん。たまたまなんかじゃないよ。たぶん、響子ちゃんから海夢ちゃんが交換殺人について知るようにして、千束ちゃんか詩羽ちゃん、どっちかが交換殺人の共犯に抱きこむように仕向けたんじゃないかな」

【千束】「たしかに、声をかけてきたのは海夢からだった。私たちが何かたくらんでるのを知ってるみたいでさ。だから、海夢とも交換殺人することを思いついたんだ」

【裕也】「響子ちゃんの真の狙いは海夢ちゃんに自分を狙わせることにあったんだよ。海夢ちゃんは響子ちゃんを警戒してるから、もし海夢ちゃんが被害者になっても、響子ちゃんが疑われることはない。でも、実際は海夢ちゃんが響子ちゃんをコロそうとしたんだ」

【詩羽】「そこまで他人の動きを読むことができるだなんて…」

【裕也】「【超高校級の探偵】の響子ちゃんにならできるんじゃないかな?」

【響子】「待ちなさい! まだ密室とアリバイが残っているわ! 蛇喰さんと同じ部屋にいた私に、どうすれば喜多川さんが殺せたというの!」

【夢子】「霧切さんの仰るとおりです。その問題が解決されなければ、せっかくの国士無双も役牌を4枚抱えられているようなものです」

【かぐや】「あらためて、霧切さんを拘束していた密室について確認すべきかと。蛇喰さん、説明していただけますか」

【夢子】「はい。御存知のとおり、個室の扉は内開きです。ですから、バリケードとして、壁に沿うようにしてベッドを置きました。しかも、ベッドは2人がかりでないと動かせませんから、1人では外に出ることもできません。室内にいる私たちの監視にもなって、一石二鳥というわけです」

【真兎】「力任せにやれば、ベッドは動かせたんじゃないの?」

【夢子】「いえ。実際には、その上に私たちが寝ていたのですから。重さのことを別にしても、ベッドが動かされたらさすがに気づきます」

【響子】「分かったでしょう。私のアリバイに疑う余地はないわ」

(本当にそうかな…?)

【裕也】「い、いや、睡眠薬のことがあるよ。僕たちの部屋から睡眠薬の瓶が見つかったんだ。実際、僕は薬を盛られて銃声に気づかなかったし… 夢子ちゃんも睡眠薬を飲まされていたんじゃないかな」

【夢子】「そう言われると、たしかに昨夜は眠気が強かったような気がします」

【響子】「いいでしょう。蛇喰さんが睡眠薬を服用させられていたとしましょう。だとしても、状況は変わらないわ。蛇喰さんの証言以前に、ベッドは物理的に動かせなかったのよ」

【夢子】「言わせていただければ、仮に睡眠薬を飲まされていたとしても、ベッドから下ろされていたりすれば、さすがに起きていたかと」

【詩羽】「議論がふりだしに戻ったわね。結局、霧切さんには鉄壁のアリバイがあるのよ」

(ふりだしに戻った…? 本当にそうかな)

【裕也】「い、いや、それは違うよ。だって、さっきまでは響子ちゃんが海夢ちゃんを襲う前提で議論してたけど、実際は海夢ちゃんが響子ちゃんを襲ったんだから」

【かぐや】「それで何が変わるというのですか?」

【響子】「……」

【裕也】「だって、これなら海夢ちゃんが夢子ちゃんの部屋を訪ねたことになるんだよ。響子ちゃんは夢子ちゃんの部屋を出る必要がないんだ」

【千束】「え? でも、ドアが開かないなら結局、同じでしょ?」

【裕也】「扉を完全に開ける必要はないんだ。訪問者に対応する隙間だけ開けばいい。テコの原理だよ。壁にくっついてる側のベッドの脚を支点にして、ベッド全体を斜めに動かせば、少しだけなら扉は開けられるよ」

【夢子】「そのとき、私は気づかずにベッドで寝ていたということですね?」

【裕也】「う、うん… これなら、ベッドの片側を浮かせるだけでいいし、夢子ちゃんは睡眠薬で眠らされていたからね。もちろん、ベッドを動かすときは慎重にやっただろうし」

【響子】「喜多川さんは裕也くんの部屋で発見されたことを忘れているわよ。わずかに扉が開けられたからといって、なんだと言うの」

【裕也】「そ、それで海夢ちゃんと響子ちゃんは対面できるんだ。海夢ちゃんは響子ちゃんをコロそうと銃を出した。でも、響子ちゃんに銃を奪われて、逆にコロされてしまったんだ。このやりとりは、腕を通せる幅だけ扉が開いていればできるよね? 【超高校級の探偵】の響子ちゃんなら、相手の武器を奪う護身術は身に着けてるはずだ。これが海夢ちゃんが射殺と毒殺の犯行声明札を持っていたけど、死因が射殺になった理由だよ。コロシアイ学園生活のルールでは、事前に犯行計画書を提出していなくても、正当防衛ならコロシが認められる。江ノ島盾子は海夢ちゃんの死因を、千束ちゃんでなく海夢ちゃんからの正当防衛だと判定したんだ」

【かぐや】「ですが、それなら喜多川さんは廊下で発見されているはずでは?」

【裕也】「それは最初にみんなで推理したとおりだよ。響子ちゃんから反撃されて、海夢ちゃんは僕の部屋に逃げこんだ。コロシをしようとした証拠である、凶器と犯行声明札を持ってね。でも、そこで死亡の判定を下されてしまったんだ」

【詩羽】「たしかに、喜多川さんがクロだったと考えるなら、裕也くんの部屋の密室は説明がつくわね」

【裕也】「銃声は近いところで響いたけど、扉に遮られて、夢子ちゃんを起こすことはなかった。どうかな? 夢子ちゃん」

【響子】「夢現ゆめうつつでしたから、はっきりしたお答えはできませんが… たしかに、それなら霧切さんにもコロシは可能だったと言えます。どうやら、国士無双のアガリ牌は槓カンされたようですね♡」

【千束】「いまさらだけど、廊下の銃声は私も聞いてたよ。海夢に銃を渡したのが私だったから黙ってたけど、もう言っていいよね?」

【かぐや】「霧切さん。反論があるなら言っていただけますか」

【響子】「喜多川さんが私をコロそうとして、私が武器を奪って返討ちにした? そんな説明は御都合主義すぎるわ…!」

【裕也】「君は海夢ちゃんがコロしにくることを知っていた。でも、海夢ちゃんは君が予想していることを知らなかった。無防備に銃を出したんじゃないかな。凶器は刃物か銃か、そのくらいの予想はつくよね。武器を奪うのは難しくなかったはずだよ」

【響子】「ああッ… ううッ…」

【裕也】「これだけ複雑な犯行計画を立てて、それを実行できるのは… 【超高校級の探偵】霧切響子… 君しかいない!」

【響子】「ああああァーッ!」

 

【かぐや】「霧切さん。誰よりもコロシアイ学園生活を嫌っていたあなたが、なぜクロになったりしたのですか」

【響子】「裕也くんと永遠に2人だけになりたかった… それだけよ」

【盾子】「お待ちかねの投票タイムだ!」

 

  *

 

 法廷の壁が開き、盾子が現れる。判事席のように壇上にある椅子に座る。

 

  *

 

【響子】「江ノ島盾子… どうしてここへ」

【盾子】「決まってんじゃん。お前がクロに指名されて、オシオキを受けるところをナマで見にきたんだよ」

【真兎】「オシオキはいつもと同じなの? 子供の、その、裕也くん以外の男とサランラップ越しにキスするっていう」

【盾子】「そうだよ。コロシアイ学園生活は平等だからね。霧切だけ贔屓したりしない」

【かぐや】「なんて惨むごい…」

【盾子】「アタシもお前が美少女だってことは認める。アタシほどじゃないけどね。それも、お前がオシオキを受けてキズモノになるまでのことだ! どんな高級料理でもウェイターがツバを吐けば食えたもんじゃなくなるみたいに、お前も生ゴミになるんだよ。お前とのクサイ仲も、これでやっと終わりってわけ。お前が脱臭装置付きのゴミ箱に捨てられてな」

【かぐや】「霧切さんはもう罰を受けいれています… それ以上、辱める必要がありますか?」

【響子】「いいのよ。私は自分のために、あなたたち全員を犠牲にしようとした。キズモノになって生きる価値のない存在になるのは、当然の報いだわ」

【夢子】「たしかに死は弱者の出口ですから、敗北を認めるためには、死より過酷な罰を受けるしかないのかもしれませんね」

【盾子】「お喋りはここまでだ。お前ら、お手を拝借。電子生徒手帳でクロだと思う生徒のアイコンを押しな。霧切は辞世の句を詠んで添削でもされてろ」

(待てよ…)

【裕也】「ま、待って、みんな! まだ投票しないで!」

【詩羽】「どうかしたの。裕也くん。もう議論は決着がついたと思うけれど」

【裕也】「い、いや、たしかにそうなんだけど… まだ違和感があるんだ」

【響子】「議論が尽くされていないということかしら。けど、なんにしてもクロは私よ。裕也くんが推理したとおり。あとの話は生き残りのメンバーとしてちょうだい」

【夢子】「【超高校級のギャンブラー】として観察眼には自信がありますが、霧切さんは嘘を言っているようには見えません。裕也さんの推理は正しかったということです」

【裕也】「う、うん… そうかもしれないんだけど…」

【盾子】「いいからはやく投票を済ませなよ。結果発表の前にCMを挟むテレビ番組じゃないんだから」

【かぐや】「何か気づいたことがあるなら仰ってください」

【裕也】「い、いや… べつに何がってわけじゃないんだけど…」

【盾子】「もうCMでつなぐのも限界だぞ! テレビ番組だったらネタ切れで公共広告を流してるころだ。《老人を殺して子供を産みましょう。明るい家族計画。日本政府》ってな!」

(投票… そうだ、これまでの学級裁判を思いだせ…! いつも棄権の白票が1票投じられていた…! そうか、そういうことだったんだ…! この事件のクロも、このコロシアイ学園生活の真相も、全部分かったぞ!)

【裕也】「みんな、霧切さんに投票しちゃダメだ! クロは霧切さんじゃなかった! このままじゃクロの思うツボだ!」

【響子】「どういうことかしら。たしかに喜多川さんをコロしたのは私よ。そのことに間違いはないわ」

【裕也】「う、うん… でも、考えてみてよ。コロシアイ学園生活のルールでは正当防衛が成立するのは、被害者に殺意があった、つまり犯行計画書が提出されていた場合でしょ? どうしても僕には、海夢ちゃんが響子ちゃんをコロそうとしていたとは思えないんだ」

【響子】「感情論ね… 私は探偵よ。心証でなく証拠と論理による主張でなければ認められないわ。たとえ、それが私の無実を訴えるものでもね」

【裕也】「う、うん…」

(響子ちゃん、こういうところがあるよな…)

 

・ノンストップ議論 - 霧切響子 -

 

【響子】「喜多川さんは裕也くんの部屋でコロされていた。当時、裕也くんの部屋を施錠できるのは2人だけ。室内にいた裕也くんと喜多川さんだけよ。鍵の代わりの電子生徒手帳も裕也くんが持っていた。よって、裕也くんでなければ、鍵をかけたのは喜多川さん自身ということになるわ。これこそ、喜多川さんが私からの反撃を受けて、部屋に逃げこんだ証拠よ」

【裕也】「いや、海夢ちゃんが響子ちゃんからの銃撃を受けて死んだ。つまり、響子ちゃんからの銃撃が致命傷だったとすると、おかしなことがあるんだ」

【響子】「おかしなこと…?」

【裕也】「血糊のペイントだよ。響子ちゃんと海夢ちゃんが対面した状況だと、響子ちゃんは至近距離から銃を撃ったんでしょ? でも、海夢ちゃんのパジャマは体の前が一面ペイントで汚れていたんだ。近くから撃たれていたなら、そんなに広がらないはずだよ」

【千束】「たしかに実銃でも接射なら傷口は小さいし、ペイント弾でもペイントは広がらないかも。でも、至近距離でも接射とは限らないよね」

【響子】「いいえ。たしかに私は喜多川さんの胸に直接、銃を撃ったわ」

 

【詩羽】「よく分からないのだけど… つまり、どういうことかしら」

【裕也】「響子ちゃんが海夢ちゃんを撃ったあとに、また別の誰かが海夢ちゃんを撃ったってことだよ。そして、響子ちゃんが撃ったときはコロシの条件を満たしていなかった。だから、2度目に海夢ちゃんを撃ったやつが真のクロなんだ」

【千束】「でも、聞こえた銃声は1発だけだった、ってみんな言ってるよ? もちろん、私が聞いたのも1発だけだったしね。もし消音器サプレッサーみたいなものを使ったとしても、あの遮音性の低い小さな拳銃だったら聞き逃すはずがないって」

【裕也】「いや。クロが海夢ちゃんを撃ったのは僕の部屋だったんだ。だから、みんなには銃声が聞こえなかったんだよ。もしかしたら、寝てる僕を起こさないように消音器みたいなものを使ったかもしれないけど…」

【千束】「クッション越しに撃ったり? たしかに、それなら聞き逃してもおかしくないけど」

【かぐや】「そもそも、銃を撃った場所が廊下だったという仮定は、裕也さんの部屋が密室だったからです。クロが霧切さんでなかったとしても、そのことは変わりません」

【裕也】「い、いや… 1人だけ、そのひとがクロだったら、僕の部屋が密室じゃなくなるんだよ。僕の部屋の主だよ」

【かぐや】「いえ。裕也さんの部屋の主は裕也さんでしょう」

【盾子】「おい! いつまで議論してんだ! さっさと投票しろよ! お前らは選挙に行かない若者か! ヒトラーだってムッソリーニだって、みんな清き一票を求めてただろうが!」

【裕也】「僕の部屋って名札が掛けられてるけど、みんなの部屋は標札が取りつけられてるよね。なんでこんな違いがあるんだろう。電子生徒手帳は個体差がないし、誰が持ってても変わらない。もしかしたら部屋も電子生徒手帳も、誰か他の生徒のものだったんじゃないかな。そう思ってみると、電子生徒手帳に登録されてる生徒は16人。でも、そこに僕の名前はないんだ」

【盾子】「やめろォーッ!」

【裕也】「今まで学級裁判ではいつも棄権が1票あった。学級裁判で投票できるのは、出席してる生徒だけだからね。でも、その犯人… 今回の事件のクロは、今度は出席してきた。自分も投票して、確実に響子ちゃんをクロに指名できるようにね。再発行した電子生徒手帳を持って。もちろん、その電子生徒手帳を使って僕の部屋を施錠したんだ」

【盾子】「ああァーッ! ありえないありえない。どうしてこうなるわけ。ありえないありえないありえない…」

【裕也】「この犯行ができるのは1人だけだ」

 

・人物指名

 

【かぐや】「……」

【詩羽】「……」

【千束】「……」

【真兎】「……」

【夢子】「……」

【響子】「なんてこと…」

【裕也】「この事件、ううん、このコロシアイ学園生活のクロの行動を最初から説明するね」

 

・クライマックス推理

 

「この事件は、僕たちがこの希望ヶ峰学園で目醒めたときから始まってたんだ。クロは起きたとき、自分がコロシアイ学園生活のプレイヤーに選ばれたことに気づいたんだ。そして、僕たちが集まるより一足早くコントロールルームに行って、コロシアイ学園生活のルールを把握。みずからゲームマスターを演じたんだ! 本当の黒幕がどうしてクロのことを放置したのかは分からないけど… そのまま参加者のひとりが黒幕を代行することを許した」

「本来の参加者のぶん、空席ができることになるけど、クロはそれもうまくごまかした。本来は部外者である僕を参加者であるように誤解させて、空席があることをごまかしたんだ。僕自身も誤解させてね。けど、学級裁判の票の集計では票数が明かされる。だから、いつも棄権が1票あったんだ。僕も投票していたけど、無効票の扱いだったんだ」

「そうしてクロがゲームマスターを演じた理由は、他のプレイヤーの盲点になって、コロシアイ学園生活に勝利することだったんだ! クロはゲームマスターを演じつつ、ずっと機を伺っていた。そしてついに、絶好の好機が訪れた! 響子ちゃんが海夢ちゃんをコロそうとして銃で撃ったんだ。それはゲームのルール上、コロシには当たらなかったけど、クロにはまたとない機会だった。ここで海夢ちゃんをコロして死体発見アナウンスを流せば、響子ちゃんは自分がクロだと思うからね。自分が犯人だと思っている偽の犯人、これ以上の身代わりはいないよ」

「響子ちゃんは複雑な犯行計画を立てていたけど、それもクロの障害にはならなかった。だって、クロは黒幕として学園すべてを監視していたんだからね。こうしてクロは海夢ちゃんをコロしたあと、首尾よく響子ちゃんの犯行計画を再現した。海夢ちゃんが持っていなかった犯行声明札を持たせたり、銃に2発目の銃弾を補充したりしてね。だから、響子ちゃんは自分がクロだと疑わなかった」

「けど、クロはミスを犯した! それまで学級裁判には参加しなかったのに、響子ちゃんが確実にクロに指名されるように、それまで放棄していた投票権を使おうとしたんだ。そのためにクロは法廷に現れたけど、そのことがクロが黒幕でなく参加者だと僕たちに気づかせてしまった。クロが投票しなくても、全会一致で響子ちゃんがクロに指名されていたのにね」

「こんな無謀な計画を立てて実行できるのは… 【超高校級の絶望】江ノ島盾子、君しかいない!」

 

  *

 

「ああああァーッ!」

 盾子が床に這いつくばり、拳で床を打ちつける。

「あと少し… あと少しで裕也とアタシが永遠に結ばれたのに!」

 かぐやが眉をひそめ、蹲うずくまる盾子を見下ろす。

「ということは、寝取らせがどうとかいう話も嘘だったのですか?」

「当たりまえだろッ!!」

 盾子が目を見開き、大喝する。

「アタシは【超高校級の絶望】江ノ島盾子! アタシにある恋心は、嫉妬心と執着心の2つだけ。アタシが裕也と結ばれるより… 他の女と結ばれるのが許せなかった。裕也と他の女がキスするのを見るだけで、胸が張り裂けそうだった。苦しかった。なのに、裕也が他の女と寝るなんて、見過ごせるわけないでしょ…」

「それは【超高校級の絶望】じゃなくて、ただのみっともない女の嫉妬よ」

 響子が冷淡に言う。

 詩羽がクスッと小さく笑う。

「けど、そう考えると許せるところもあるわね。だって、私たちが裕也くんと共同生活を送っているあいだ、彼女はそれを画面越しに眺めていることしかできなかったんだもの」

 盾子が無言で床を殴りつける。

 裕也は昨夜の悪夢が夢でなく、現実に起きたことだと理解した。だが、ひたすら敗北感に耐える盾子を見ていると、むしろ同情が湧いた。

 かぐやが声をあげる。

 裕也たちが見ると、壇上にモノクマが現れていた。スピーカーからモノクマの音声が流れる。

《あー、マイクテスマイクテス。盾子ちゃんが裏方を下りたから、ここからは私が、おっと、僕が司会を務めるよ。みんな、電子生徒手帳で誰がクロか投票するんだ》

「本物の黒幕でしょうか」

 かぐやが緊張して言う。

《あとのことは追って説明するから、まずは投票を済ませてくれるかな?》

 真兎が手の甲で口元を隠し、裕也の耳元で囁く。

「こんなこと言うのもなんだけど、江ノ島ちゃんの司会のほうが面白かったね」

 少女たちが電子生徒手帳を取りあげる。裕也も電子生徒手帳を出そうとして、今までの自分の投票は意味がなかったことを思いだした。代わりに、床に座りこんだままの盾子が電子生徒手帳を出す。

 

 

・集計結果

 

江ノ島盾子 6票

霧切響子 1票

 

《投票の結果を発表します。投票の結果… 江ノ島盾子さんがクロに決まりました! そして、クロかどうかは正解! みなさんの勝利です!》

 そう言われても、裕也たちに達成感はない。むしろ、先行きが不明なことの不安感のほうが大きい。

 モノクマの動きを待っていると、動作が停止した。壁面の扉が開く。黒のスーツを着た1人の女と、黒のジャンパースカートの制服を着た3人の少女が現れる。

「お疲れ。盾子ちゃんのおかげで私たちもだいぶ楽させてもらったから、お礼を言わないとね」

 盾子は床に両手を着いたまま、女のほうを向く。

「黙示録の四騎士… いまさら来やがったのかよ」

「私のモノクマのアナウンスはどうだったかな? 猟奇殺人鬼がマスコットキャラクターをアイコンにするような邦画は、個人的に好きじゃないから、うまくできたか自信がないんだけど」

 やや幼い顔立ちをしていて、鼻筋が通り、顎が細い。朱色の長髪を三編みにして束ねている。茫漠とした目で、表情が読めない。

「ああ! 暗い画面、ボソボソとした喋り。邦画はダメだ! 映画はやっぱりハリウッドでないとな! 爆発、銃撃戦! マイケル・ベイ最高!」

 長い黒髪の少女が言う。眉付きが凛々しく、顎がしっかりしている。顔に横一文字の刀傷があり、武人のような雰囲気だ。

 女が溜息をつく。

「そんな下らない話はしてないんだけどな…」

「あ、でも、ポップコーンを食べるにはアクション映画のほうがいいですよね… ポテトチップスでもいいですけど」

 蓬髪のような、やや長い髪の癖毛の少女が言う。顔は痩せている。眉が下がっていて、目元に隈がある。

「映画館で音の出るものを食べないで… 私は映画はカール・テホ・ドライヤーしか見ないけど」

 短髪の少女が言う。小顔で眉が細く、日本人形のような顔立ちだ。ただ、顔に黒子が多く、不吉な印象だ。

 女はその場で拍手する。

「コロシアイ学園生活はこれで終了。いま生き残っているみなさんの勝利です。みんな、おめでとう」

 響子が不審そうにする。

「あなたが黒幕なの?」

「うん。マキマって呼んでね。盾子ちゃんは支配の悪魔って呼んでたみたいだけど」

「脱落したみなさんはどうなったのですか?」

 かぐやが硬い表情で尋ねる。

「安心して。みんな敗者控室で、自分が脱落したあとのゲームの進行を見てたから。そもそも、勝者が裕也くんと永遠に2人きりになるっていうのも、みんなにヤル気を出してもらうための嘘だからね」

「それはなんというか、拍子抜けね…」

 詩羽が名状しがたい表情で言う。

 マキマは大きく手を叩く。

「さあ、打ちあげに行こうか。盾子ちゃんっていう強敵も倒したし、これ以上、ゲームを続けても消化試合にしかならないでしょ? 体育館に打ちあげの会場を用意したから、みんな行って。敗者のみんなはひと足先に行って待ってるよ」

 一方的な展開だが、監禁から解放される以上、反対することもない。響子たちは表情に不完全燃焼の思いを表しつつ、荷物用エレベーターのほうに向かった。盾子も立ちあがり、呆然自失の表情で響子たちのあとに着いていく。マキマが呼びとめる。

「待って。盾子ちゃんはオシオキがまだでしょ?」

「え…?」

 盾子は目を見開く。虚脱状態で、もはや響子たちと対峙していたときの迫力はない。

「ルールだからね。あ、裕也くんと響子ちゃんたちは先に行ってて。これはあくまで形式的なものだから」

「オシオキは、やはり知らない少年とのキスなのですね」

 夢子が尋ねる。

「うん。私は悪趣味な罰は趣味じゃないんだけど。そもそも、デスゲーム自体が好きじゃないしね。予算の制約は『CUBE』や『SAW』みたいな優れたアイディアの、ワンシチュエーションの映画を生みだした。けど、そのあとはその模倣… ただギャラの安い役者が会話して尺稼ぎするだけの、駄作を生むことしかしなかった」

 マキマは指を顎に当てる。

「本物の男の子を使ったのも良くないね。私だったら、女の子に男装させて、ゲームのあとでネタバラシするよ。現実と演出は区別しないと」

「この映画オタクが… レンタルビデオ店だってアダルトビデオの売上げで保もってんだろうが。観客はつくり物より本物のスナッフを見たいんだよ」

 盾子は眉を寄せ、マキマを睨む。マキマは平然としている。

「でもルールは守るべきだからね。盾子ちゃんにもオシオキを受けてもらうよ。もちろん、本物の男の子を使ってね。盾子ちゃんは本物志向だもんね」

 盾子が喉から声を出す。涙目で裕也のほうを見る。

「お願い… 裕也、見ないで…」

 裕也の心に同情が起こる。

 真兎が裕也を見て、マキマに向きなおる。

「でも、それっておかしくない? もうゲームは終わってるんだよね。なら罰ゲームもないんじゃない?」

「そッ、そうだよ!」

 裕也が追従する。

 マキマはわざとらしく考えこむ。

「そっか。ゲーム終了の宣言が早すぎたな。じゃあ、オシオキもやめようか」

 裕也は安堵した。

 安心感のためか、盾子はその場に膝を着く。

 あらためて響子たちが荷物用エレベーターに向かい、裕也だけが残される。

 マキマは盾子の体を引きおこし、壁面の扉から連れていこうとする。裕也はその背中を追った。

「あッ、あのッ… 結局、このコロシアイ学園生活って何が目的だったの?」

「それはもちろん、君を楽しませるためだよ。君に最高の快楽や幸福を提供することはできる。でも、それだと飽きちゃうでしょ? だから、特別なシチュエーションを用意しようと思ってね。他にもサバイバルゲームやマーダーミステリー、恋愛リアリティーショーなんか考えてるよ」

 マキマは淡々と言う。

「そッ、そんな…」

「みんなはすぐに理解したみたいだよ」

「でッ、でも、僕はなんの才能もない凡人だし… しかも、みんなは超高校級の天才だし… 僕なんかのためにみんながこんな大がかりな計画に乗るなんて、ありえないよ…」

 マキマは正面から裕也を見つめる。無表情だが、端整な顔付きのために迫力がある。スーツを着ているために肩幅があるように見えるが、実際は華奢な体格だということに気づく。今まで共同生活をしていた高校生の少女たちより年長だが、20代の若い女を間近にして、裕也は気圧されるような感覚をおぼえた。

「『CUBE』や『SAW』の話は覚えてるかな。ソリッドシチュエーション映画のオリジナル。あとは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』とか。POV映画のオリジナルだよ。君はそれと同じ、オリジナルなんだよ。出来や位置付けは関係ない。それがすべての中心なんだ。予算が増やされようと、脚本が巧緻にされようと、他の作品はすべてオリジナルの模倣でしかないんだ。だから、君はそのままでいいんだよ」

 裕也が困惑していると、マキマは口元だけで、人為的な笑みをつくった。

「さあ、行った行った。みんなが待ってるよ」

 疑問の解消されないまま、裕也は荷物用エレベーターへと向かった。

 

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