それから、私とTくんはほとんど言葉を交わすこともなくTくんは卒業した。振られたことへの悲しみはあまりなかった。Tくんが何を考えていたのか、もう考えることも放棄していた。あの時、Tくんは告白されるのを確信していたのだろうということだけが後味悪く覚えていた。
4月。私がちょうど高校3年生になった頃。私は母と新しく住む家に引っ越した。駅から近い場所に立つアパートの一室だった。今まで住んでいた一軒家からすると狭く、自分の部屋という部屋もなかった。父親の顔は見なくて良くなったが、父親のところに残った弟とは離れて暮らすようになった。
新しい家は、なんだかその大きさ以上に狭く感じられた。
それでも月日は過ぎていく。受験曲の練習に励む日々が続いた。練習時間の確保のために駅から近い新しい家から毎日時間をかけて通うことにしたのだ。通学時間はかかるものの、寄宿舎のイベントやルールに縛られることは無くなった。
5月。季節外れの異常な暑さに見舞われる年だった。私の誕生日が過ぎた頃。すっかりライムで連絡を取る人もいなくなり、無音だった通知に、ある人の名前が表示された。
Tくんだった。メッセージには一言。「久しぶり、元気?」なんで急に?もう終わったでしょ?と思いながらも「元気だよ」とだけ返す。そのうち、「久しぶりに話したいんだけど、夜空いてる?」と言われた。前から頼まれたら断りづらい性格の私は、「いいよ」と送ってしまった。
その日の夜、私は数ヶ月ぶりにTくんと話していた。数ヶ月しか経っていないので、どちらも何か変わっていることもない。あるとしたらTくんが職業訓練校に通い始めたことくらいだろうか。他愛もない話をしていたが、Tくんがなぜまた電話をかけてきたのか、理由が掴めない。少し痺れを切らした私は「ところで、なんで電話かけてきたの?」と聞いた。すると、Tくんは少し口ごもりながらこう言ったんだ。
「あれから考えたんだけど、やっぱり⭕️⭕️のことが好き。だから、付き合ってほしい。」
・・・え?何を言われたのか分からなかった。あの時、Mさんが好きだからと言ったのになんで今なのか。そして私は心の奥の方で思ってしまったのかもしれない。今、付き合ってしまえば一人じゃなくなる。そう、「ひとり」の寂しさがなくなるんだ。
気づけば私はまた、Tくんを「好き」だということにして「付き合おう」と言ったのだった。こうして私は、孤独や寂しさを忘れるために、自分の心に自ら「好き」という呪いをかけた。