10月上旬。突如として始まった疑似恋愛という名の恋愛ごっこ。次の日、日曜日の夜にお母さんの運転する車で寄宿舎に戻ると、玄関にはTくんがいた。緊張からか早くなる心臓と裏腹にお母さんは上機嫌だった。
お母さんに対しても気にせず、笑顔でTくんは話していた。3人で階段を登り。別れ際でTくんが言った。「音大卒業したらどうするの?」私は「オーケストラに入って世界で演奏するんだ。」
高すぎる目標かもしれない。でも私は本気だった。そんな私の目を見てTくんは言ったんだ。
「おう!有名になったら聞きに行くからな!」
お母さんには笑われたものの、私は嬉しかった。純粋に嬉しかったんだ。
その次の日から本格的に疑似恋愛は始まった。学校と寄宿舎の短い登下校を二人で歩き、休み時間には二人で他愛もない話をした。
そして週末の金曜日。土日だけ家に帰ることに決まっている。私は電車。とは言っても1時間半弱かかる。さらに遠いTくんは、いつも新幹線で帰っていた。方向は同じものの、いつも別々に帰っていた。でも、その日は違った。
一緒に電車で帰るとTくんが言い出したのだ。流石に、Tくんも電車でとなると、彼は約2時間半かかることになる。そのことを言ったのだが、帰っても何もないからと言われ、一緒に電車に乗った。
夕暮れの日の光に照らされた車内。その日は割と空いていて、二人で隣同士の席に座った。他愛もない話をしながら電車は進む。ふと、Tくんが言った。
「眠いから肩貸して」
私の思考が一瞬止まる。少ないとはいえ、学生から社会人まで様々な人がいる車内。ほぼ反射的にいいよと言ってしまった私の右肩にTくんの頭の重さが加わる。起こさないようにと意識して座っていた。少し気になって横を見ると、寝ているのか目を閉じているTくん。少し整った顔立ちが、いつも開いている瞳が今は閉じられていて。近くにある。好きではないのに、不覚にもドキッとしてしまった。
しばらくして、私の最寄りの駅が近づいてきた。Tくんはもう起きていたが、そのことを伝えると「寂しい」と言われた。しかし、降りなければならないので「またね」とだけ言って電車を降りた。
そんな日々がすぎ10月下旬。秋とは思えない暑さの中、修学旅行の時期がやってきた。例年、この学校では就職をする人が大半なためか、3年生が行くことになっている。しかし、私が来年、受験を控えていることと学年1人ということで、2、3年合同で行くことになった。
3年生、Tくんの学年は他に女性の先輩が二人いて、どちらも全盲だった。全員で回るところもあるが、二手に別れてめぐることの多い日程だった。全盲と弱視で分かれた方が回りやすいと思ったのか、Tくんと私、それから男性の先生2人で回ることになった。行く場所のプレゼンで私が無理やり?いれたユニパにも行くので、とても楽しみだった。
次話あたりから残酷描写等々入るかもなのでお気をつけください。