魔法少女チハル 敵の組織に囚われ凌辱を受ける少女達 作:錫鹿とらちよ
全てが終わった「あの日」から数ヶ月――。
これまで数々の街を怪物の脅威から護り続けていた無形の盾、魔法少女たちの結界は、まるでドミノが倒れるように次々とその光を失っていった。
そして、最大の希望であり、一際強大無比を誇った桃色の魔法少女チハルの結界が消失したその瞬間、世界の均衡は完全に崩壊した。
護ることを、戦うことを、すべて少女たちの肩に背負わせ、ただ安息を貪っていた人類に抗う術など残されているはずもなかった。
人類の敵たる怪物を従えた組織の進撃は、文字通りの嵐。
支配、略奪、そして徹底的な破壊。
それは「戦闘」と呼ぶことすら生温い、一方的な蹂躙に過ぎなかった。
侵攻の中、捕らえられた若い女性たちは組織が開発した「魔法少女の魔力入り媚毒薬」によって狂わされ、絶頂エネルギーをエサとする触手の糧となっていった。
今や、立ち上がる気力すら奪われた荒野に、人々の希望は塵となって消え去った。
◇
かつて西部と呼ばれ、今はただの瓦礫の山と化した街。
西日に照らされる崩落しかけたビルの屋上に、一人の少女が佇んでいた。
風にたなびく美しい黒髪――魔法少女、アヤノ。
かつては誇り高き正義の味方であった彼女は今、皮肉にもかつての敵であった組織の怪物を率い、街を蹂躙するための指揮官としてこの地に立たされていた。
冷徹に、淡々と、街を堕とす指示を出し終えた彼女の背後に、気配もなく一つの影が滑り込む。
「アヤノお姉様、お疲れ様」
小柄な身体に鮮やかな緑の髪。
マリノが、その唇に愉悦の笑みを浮かべて現れた。
「ま、マリノ……」
振り返ったアヤノの瞳に、隠しようのない怯えが走る。
彼女からは年長者としての威厳などはとうに摩滅していた。
「確かここは、3日で堕とすように言いつけておいたはずですけど? なんで一週間もかかっているんですか?」
「ご、ごめんなさい……思ったよりも、怪人たちの統率が難しくて……」
マリノの静かな詰問に、アヤノは身を縮めて弁明する。
しかし、その言葉は火に油を注ぐだけだった。
「言い訳なんか聞きたくないです。あーあ、チハル先輩に頼んでおけば、きっと1日で更地にしてくれたのになぁ」
わざとらしく溜息をつき、アヤノが最も抉られる言葉をぶつけるマリノ。
敵に寝返って以降、チハルはその圧倒的な実力とカリスマで組織の幹部へと上り詰めていった。
その後塵を拝し、常に比較され続ける屈辱がアヤノの胸を痛烈に刺す。
だが、マリノの言葉の刃はそれだけに留まらない。
「あんまり役に立たないお姉様は、また『お仕置き部屋』に戻さなきゃいけなくなっちゃいますよ?」
「そっ、それだけは……それだけはやめて……っっ!! ごめんなさい、私が悪かったわ……っ!」
『お仕置き部屋』――その単語が響いた瞬間、アヤノの顔面から血の気が引いた。
「前回は確か、5日ほどでしたっけ? 役に立たないなら、次は一ヶ月くらいぶち込んで『教育』し直しましょうか」
クスクスと、心底楽しそうに微笑むマリノ。
あまりに過酷な内容に冗談めかした発言にも思えるが、彼女の言葉には冷酷な本気が込められていることを、アヤノは自身の肉体で嫌というほど知っていた。
恐怖に歪み、涙を浮かべてガタガタと震えるアヤノの表情こそが、その部屋がどれほど凄惨で悍ましい場所であるかを物語っていた。
「はぁ、まったく使えないお姉様。じゃあ、次の制圧目標の話を――」
マリノが手元の端末へ視線を落とした、まさにその刹那。
ドン――ッッッ!!!
地上の暗がりの一角から、大気を引き裂くようなオレンジ色の閃光が狂い咲いた。
超高熱のエネルギーが、容赦なくアヤノの胸を貫く。
「っっ…………がはっっ!!!!?」
声にならない悲鳴と共に、口から鮮血を吐き出して崩れ落ちるアヤノ。
だが、狙撃手は容赦をしない。
倒れゆく身体を見捨てるように、間髪入れず放たれた第二撃がマリノの頭部を正確に捉える。
「きゃっっ……!!!」
本能的な危機察知能力で、マリノは間一髪その光軸から身体を捻って躱した。
頬の髪が数本、熱線に焼かれて弾け飛ぶ。
すぐさま身を翻し、眼鏡の奥の瞳を鋭く尖らせて、光の発生源へと杖を構えた。
硝煙の向こう、地上の瓦礫の上に、その影は毅然と立っていた。
数多の死線を潜り抜けてきたことを証明する、身体中の無数の傷。
ボロボロに引き裂かれた戦闘服。
しかし、その褐色の肌からは、未だ衰えぬ強靭な魔力が立ち上っている。
数多の結界が解かれ、絶望に染まったこの世界で。
唯一、その輝きを失わずに健気に燃え続ける橙色の灯火。
僅かに生き残った人類は、その光を最後の砦として集い、今も小さく、しかし決して消えない抵抗の炎を燃やし続けていた。
そして、その絶望の最前線で、迫り来る怪物の軍勢と、かつての仲間であった裏切りの魔法少女たちを相手にただ独りで戦い続ける戦士がそこにいた。
「あはっ……本当に、ゴキブリみたいにしぶとい女……」
恐るべき執念を見せるその姿に、マリノの背筋を冷たい汗が伝う。
だが、その表情には焦燥を塗りつぶすような、歪んだ笑みが漲っていた。
――魔法少女リオナ
四面楚歌、絶対的な絶望の渦中。
それでもなお、信念の牙を剥き出しにして孤軍奮闘を続ける最後の魔法少女。
吹き抜ける荒涼とした風の中、マリノはかつての仲間であり、今や最大の障害となった褐色の戦士を、憎悪と歓喜の入り混じった眼差しで睨みつける。
世界を取り戻すための、そして、闇に堕ちた仲間たちを討つための彼女の孤独で苛烈な戦いは、まだ始まったばかりだった――。
(第一部・完)
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
本作『魔法少女チハル』シリーズは、これにて第一部完結となります。
最初は一本の読み切り短編として投稿したお話でしたが、もっと彼女たちの物語を描きたいとシリーズ化を決意した作品でした。
執筆中、皆様からいただいた「いいね」やブックマークが何よりの励みになり、毎話大きなエネルギーをもらいながら最後まで書き続けることができました。本当に感謝しかありません。
リオナの孤独な戦いは、まだ始まったばかりです。世界がひっくり返ったこの先で、彼女たちがどんな運命を辿るのか、いつかまた物語を書きたいと思っています。
その時はまた応援していただけると嬉しいです。
それでは、また次の物語でお会いしましょう。ありがとうございました!