※この作品はR-18です。

皇帝が変える   作:ボルメテウスさん

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三獣士、エスデス対策会議

「相談がある」

 

エスデス直属部隊の控室に入った瞬間、三つの視線がこちらへ向いた。

 

リヴァは作戦書から目を上げ、ニャウは笛を指先で回し、ダイダラは斧の刃を布で磨いている。

普段なら、あまり長居したい部屋ではない。今日は別だ。背に腹は代えられない。

 

「殿下が我らに相談とは、珍しいですな」

 

「またエスデス様に何かされたの?」

 

「戦いなら俺も混ぜろよ」

 

「戦いではない。だが、俺の中では戦場だ」

 

三人の顔が、少しだけ近づく。

 

俺は息を吐いた。

 

「エスデスに誘われた。危険種の背中に乗って空を飛ぶデートだ」

 

沈黙。

 

最初に口を開いたのはダイダラだった。

 

「面白そうじゃねえか!」

 

「君とは一生分かり合えない」

 

「エスデス様らしくていいじゃん」

 

ニャウが笑う。

リヴァだけは、少し考え込んだ。

 

「では、軍務を理由に延期してはいかがでしょう。帝国の急務であれば、エスデス様も一考なさるはず」

 

「まともだな」

 

俺は目を閉じる。百通りの未来が開いた。

 

数秒後、こめかみを押さえる。

 

「駄目だ」

 

「どうなりました」

 

「エスデスが『ならば空から視察しよう』と言う。俺は危険種の背中で書類を読まされる」

 

ニャウが吹き出した。

 

「それ、ちょっと見たい」

 

「さらにリヴァ、お前も別の飛行型危険種に乗せられる」

 

「……私もですか」

 

「ああ。空中で報告書を読み上げる。風圧で聞こえず、エスデスに『腹から声を出せ』と言われる」

 

リヴァの顔から、軍人らしい余裕が消えた。

 

「軍務案は、再考しましょう」

 

「ようやく真面目になったな」

 

ニャウが軽く手を上げる。

 

「じゃあ隠れちゃえば? 殿下の服を着せた人形を置くとか」

 

「悪趣味だが、一応見る」

 

未来が走る。

すぐに終わった。

 

「最悪だ」

 

「えー、どうして?」

 

「人形を見たエスデスが笑う。『私から逃げるとは、いい度胸だ』と言う」

 

「ありそうだねぇ」

 

「そこから本気の捜索が始まる。そして人形を用意したのがニャウだとバレる」

 

ニャウの笛が指から落ちた。

 

「……え」

 

「共犯扱いだ。その後、お前は危険種の尻尾に括られ、逃亡劇の演出曲を吹かされる」

 

「やだ! 絶対やだ! 見る側がいい!」

 

「最低だが正直だな」

 

ダイダラが鼻を鳴らす。

 

「面倒くせえ。嫌なら嫌って言やいいだろ。駄目なら根性で乗れ」

 

「根性で高度は下がらない」

 

「男なら耐えろ」

 

「見るぞ」

 

未来は、すぐに氷の色で染まった。

 

「失敗だ。俺が嫌だと言うと、エスデスが『ならば慣れさせる』と言う」

 

「訓練か?」

 

「デート前に飛行訓練が追加される。しかもダイダラ、お前が呼ばれる」

 

「俺が?」

 

「危険種の背でバランス訓練。途中でエスデスが『実戦感覚が足りない。斧を振れ』と言う」

 

ダイダラの手が止まった。

 

「空中でか?」

 

「空中でだ」

 

「……それは違う。俺は地面の上で強い奴とやりてえ」

 

「常識が戻ってきたな」

 

三人の空気が変わった。

自分たちも巻き込まれると分かった途端、ようやく目が本気になる。

 

リヴァが作戦書を閉じた。

 

「殿下。止めるのではなく、内容を変えましょう」

 

「内容を?」

 

「名目を飛行型危険種の生態確認にする。殿下は地上の監視台から視察。エスデス様は実地確認」

 

ニャウが笛を拾う。

 

「僕が音で危険種の気を引いて、低空に留める。尻尾は嫌だし」

 

ダイダラが斧を肩に担ぐ。

 

「暴れたら俺が抑える。地上ならな」

 

「ようやく会議らしくなってきた」

 

未来を見る。

今度は少しだけ、色がましだった。

 

「二十七通りで生存率が上がった」

 

「低くない?」

 

「俺にとっては大幅改善だ」

 

その時、部屋の温度が下がった。

 

リヴァが背筋を伸ばし、ニャウの笑みが引きつり、ダイダラが斧を握る。

 

足音が近づく。

 

俺は最後に未来を開いた。

百通り。

全部、空だった。

 

「……全部バッドエンドだ」

 

扉が開く。

 

エスデスが、満足そうに立っていた。

 

「ここにいたか、第一皇子」

 

「人違いだ」

 

「顔も声も同じだ」

 

「今日は別人ということで」

 

「無理があるよ」

 

「ニャウ、黙れ」

 

エスデスの視線が三獣士をなぞる。

 

「何を話していた」

 

リヴァが迷いなく答えた。

 

「殿下が、危険種飛行についてご相談を」

 

「正直すぎる!」

 

エスデスの目が輝く。

 

「三獣士も同行するか」

 

三人が同時に固まった。

 

「お前たち、今こそ忠義を見せる時だぞ」

 

「エスデス様の命とあれば」

 

「僕、本当に?」

 

「地上ならいいんだけどな……」

 

「崩れるのが早い!」

 

エスデスが俺の腕を取る。

 

「まずはお前だ」

 

「まずは、という言葉が怖い」

 

「危険種は外に待たせてある。空は晴れているぞ」

 

「俺の未来は曇天だ」

 

城外には、巨大な飛行型危険種が翼を広げていた。

風圧で髪が乱れる。

 

「確認する。これはデートか?」

 

「ああ」

 

「規模が遠征なんだが」

 

「私と行くなら同じだ」

 

百通り見た。

やはり全部、空にいた。

 

「……全部バッドエンドだ」

 

エスデスは笑う。

 

「なら、一番面白いものを選べ」

 

「それをデートの誘い文句にするな!」

 

危険種が跳ねる。

足場が消える。

胃が浮く。

 

「高度は低めで頼む!」

 

「慣れるまではな」

 

「慣れさせる前提かああああ!」

 

帝国改革より、デートの方が命懸けだった。

 

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