※この作品はR-18です。

皇帝が変える   作:ボルメテウスさん

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潜入者の言葉

俺は執務室に戻らなかった。

 

戻れば机の上に胃薬が置かれている。

その胃薬の横には、誰が置いたのか分からない朝食と、誰が書いたのか分からない警護計画と、誰が見ていたのか分からない短い手紙が並んでいる未来が見えた。

 

百通り中、七十二通りでそうなった。

 

残り二十八通りは、もっと悪かった。

 

「……というわけで、資料室だ」

 

城の奥にある古い資料室は、湿った紙と埃の匂いがする。大臣が失脚してから、誰も近づかなくなった場所だ。棚には古い税制記録、地方官の報告書、過去の粛清命令が並んでいる。帝国の悪癖を煮詰めて紙に染み込ませたような部屋だった。

 

だが、少なくとも静かだ。

 

俺は奥の机に腰を下ろし、持ち込んだ書類を広げた。

隠れるために来たのに仕事をしているあたり、我ながら救いがない。

 

羽ペンを取ろうとした時、机の端に湯気の立つ茶が置かれた。

 

「……」

 

置いた覚えはない。

 

扉は閉まっている。窓もない。

俺は目を閉じる。百通りの未来が開く前に、棚の陰から軽い声がした。

 

「今さら驚くの?」

 

本棚の隙間から、地味な侍女服の少女が出てくる。

次の瞬間、姿がほどけるように変わった。

 

チェルシーが、棒つきの飴を片手に立っていた。

 

「君は、せめて入室の気配くらい残してくれ」

 

「残したわよ。あなたが気づかなかっただけ」

 

「それは残していないのと同じだ」

 

チェルシーは笑わず、俺の机をのぞき込んだ。

広げた書類の順番を一目で見て、黙って二枚を入れ替える。

 

「そっちが先。地方官の罷免案は、軍の再配置と一緒に見ないと穴が出る」

 

「……助かる」

 

「素直ね。昨日、男だけで逃げ回った人とは思えない」

 

羽ペンの先が止まった。

 

「誰から聞いた」

 

「胃薬」

 

「胃薬は喋らない」

 

「置き忘れた場所が喋るのよ。会議室。窓の傷。ラバックの糸の跡。あと、あなたの字で書かれた『避難』の二文字」

 

「消したはずだ」

 

「消し方が下手」

 

チェルシーは飴を口に入れ、棚にもたれた。

からかう声なのに、目は机の上を見ている。散らばった書類、減ったインク、俺の指先。何も言わずとも、こちらの疲れを拾っていく。

 

そういうところが厄介だった。

 

エスデスの観察は氷の刃に似ている。正面から肌に触れ、逃げ場を削る。

チェルシーのそれは針だ。服の縫い目から入ってきて、気づいた時には奥まで届いている。

 

「逃げ場所を探すのはいいけど」

 

チェルシーは机の上に、小さな包みを置いた。

中には、焼き菓子が二つ。甘い匂いが、古い紙の湿り気を少しだけ押し退ける。

 

「逃げた先で倒れたら、意味ないでしょ」

 

「……君も追加で食わせる側か」

 

「違うわ。これは二つだけ。人間用」

 

「その分類はありがたい」

 

思わず口元が緩む。

チェルシーはそれを見て、ほんの少し目を細めた。

 

「そういう顔、他の人の前でもすればいいのに」

 

「すれば包囲が強くなる」

 

「しなくても強くなってるわ」

 

「救いがない」

 

「あるわよ」

 

チェルシーは扉へ向かう。

鍵はかかっていたはずなのに、彼女の手が触れると音もなく開いた。

 

「今日の昼までは、ここを誰にも言わない」

 

「昼まで?」

 

「午後は知らない。私も暇じゃないし」

 

「味方なのか敵なのか、はっきりしてくれ」

 

扉の向こうで、チェルシーが振り返る。

飴の棒が、唇の端で小さく揺れた。

 

「どっちでもないわ」

 

少し間が空く。

 

「あなたが潰れたら、つまらないだけ」

 

扉が閉まる。

足音はすぐに消えた。

 

俺は机の上の焼き菓子を見下ろした。

包み紙の端に、小さく文字がある。

 

午後は、別の場所に逃げなさい。

 

俺は天井を仰いだ。

 

「……本当に、逃げ道を塞ぐのが上手い」

 

茶は、まだ温かかった。

 

「楽にしてあげようか」

甘く囁く声。普段の茶化すような響きは薄れ、耳元に吐息がかかるだけで背筋が震えた。

 

俺が返事をするより早く、チェルシーの手が俺のズボンの上から股間に触れた。

「……予想以上に硬くなってる」

くすくす笑いながら、その掌で形をなぞる。

布越しでも伝わる熱と圧力。彼女の指先は、針で急所を狙う時と同じほど正確に、俺の弱みを捉えていた。

 

「チェルシー……」

「ん? なに? 『やめて』とか言っちゃう?」

 

言えるわけがない。

俺の視線が答えだったのか、彼女は満足げに目を細めた。

「素直でよろしい」

 

チャックが下ろされる音が、静かな資料室にやけに大きく響いた。

下着の中に手が滑り込み、熱い肉茎を直接握り込む。

 

「っ……!」

「冷たい? それとも気持ちいい?」

指先が亀頭の溝をなぞり、裏筋を上下する。

暗殺者として鍛えた指の動きは、残酷なほど心地よかった。彼女は俺の反応を楽しむように、先端を親指の腹で擦り、溢れた先走りを塗り広げる。

 

「はぁ……っ」

「顔に出すぎ。こんなことされてるのに、必死に耐えようとするところが……いじらしいね」

 

手首を返し、竿をしごき上げる。

ねっとりとした水音が立ち込め、理性的な思考を溶かしていく。

俺は椅子の背もたれに頭を預け、荒い息を吐いた。

彼女の手が止まる。

 

「……ここまで?」

 

目を開けると、チェルシーが俺を見下ろしていた。

頬は薄っすらと紅潮し、普段の余裕とは違う熱がその瞳に宿っている。

彼女自身も、ただの奉仕では済まない熱を持っているようだった。

 

「……足りない」

俺は彼女の手首を掴み、引き寄せた。

バランスを崩したチェルシーが、俺の膝の上に倒れ込む。

スカートの生地が捲れ上がり、太股の柔らかな感触が直接伝わってくる。

 

「急がないでよ。……でも、まあいいか」

 

彼女は俺の首に腕を回し、唇を重ねてきた。

飴の甘い味がする。舌を絡め合い、互いの口腔を貪る。

その間にも、俺の手は彼女のブラウスのボタンを外し、下着ごと胸を露わにした。

 

「んっ……」

控えめだが形の良い乳房を掌で包み込み、乳首を指で弾く。

チェルシーの口から甘い喘ぎが漏れ、俺の首に回した腕に力がこもる。

 

「入るよ」

俺は彼女の下着を横にずらし、濡れそぼった秘所に屹立した先端を押し当てた。

彼女は小さく頷く。

 

「来て」

 

腰を引き寄せると、ずぶりと肉が沈んでいく。

「あぁっ……!」

きつい。狭い通路が俺を飲み込み、締め付ける。

だが、拒絶の痛みではない。歓喜の証のような熱と湿り気だ。

 

「くっ……すごい締まりだ」

「言わないでよ……恥ずかしい……」

 

だが、彼女の腰は自ら動き始めた。

椅子の上で体を上下させ、俺自身を奥深くまで飲み込んでいく。

対面の体勢。互いの顔が近く、表情の変化まで鮮明に見えてしまう。

 

「はぁっ、あぁっ……! んっ……!」

チェルシーの声がだんだん高くなる。

目尻に涙が滲み、軽口を叩く余裕はもうないようだった。

彼女の内部が蠕動し、俺を搾り取ろうとする。

 

「チェルシー……」

「んっ……あぅっ……! もっと……奥…っ!」

 

俺は彼女の腰を抱え、下から激しく突き上げた。

パンッ、パンッ、と肉がぶつかる音が響く。

彼女の細い体が跳ねるたび、赤茶けた髪が揺れる。

汗ばんだ肌が擦れ合い、体温が混ざり合う。

 

「私……っ、イく……っ!」

「俺も……!」

 

 

最奥を何度も打ち据え、互いに絶頂へと駆け上がる。

体が硬直し、体内が痙攣した瞬間、俺は彼女の子宫に向けて欲望を迸らせた。

 

「あぁぁっ……!!」

 

ドクドクと注がれる熱。

長い絶頂の後、俺たちは崩れ落ちるように抱き合った。

荒い息遣いだけが、空気を震わせていた。

 

「……はぁ、はぁ……」

チェルシーが俺の胸に顔を埋めたまま、ぽつりと呟く。

「……午後も、ここにいようかな」

 

その声は、いつもの軽口ではなく、少しだけ甘えているように聞こえた。

俺は彼女の髪を撫でながら、天井の染みを見上げた。

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