1.二日目の朝
高度育成高等学校が課した過酷な無人島サバイバル試験。その二日目の朝は、鬱蒼とした木々の隙間から差し込む、刺すような鋭い直射日光とともに幕を開けた。
巨大な岩壁に囲まれた1年Dクラスのベースキャンプ――「洞窟」の内部は、外の砂浜や鬱蒼としたジャングルに比べれば、驚くほど涼しい風が吹き抜けていた。しかし、一晩を固い地面と湿った空気の中で過ごした生徒たちの表情には、隠しきれない疲労と焦燥が早くも色濃く滲み出ている。
生徒たちが所持していたスマートフォンをはじめとする私物の電子機器は、この特別試験の開始前にすべて学校側に没収されていた。現在彼らに許されているのは、生存確認とポイント管理用の「腕時計(端末)」のみである。外部との娯楽や連絡手段を完全に遮断されたこの極限状態は、想像以上に彼らの精神的な余裕をすり減らしていた。
朝一番、洞窟の奥に設置された仮設トイレから出てきた軽井沢恵が、気怠そうに長い髪を掻き上げながら、クラスのまとめ役であり、彼氏でもある平田洋介のもとへと歩み寄った。
「ねえ、平田君。いくらここが涼しいからって、やっぱり地面が固くて全然眠れなかったんだけど。今日からはもっとマシな敷物とか、ポイントで買ってくれないの?」
「おはよう、軽井沢さん。気持ちは分かるけど、初日に仮設トイレやシャワー、それに初日分の食料を確保するために、すでに貴重なポイントを消費しているんだ。これ以上の出費は、試験終了時のクラスポイントに響いてしまうから、今はあるもので工夫するしかないんだよ」
平田はいつものように人当たりの良い苦笑いを浮かべながら、優しく軽井沢を宥めた。
初日にクラスの凡愚どもが「1ポイントも使いたくない」とぐだつく中、最後列の悪魔――継国漣(つぐくに れん)が提示した、圧倒的なロジックによるインフラへの初期投資。そのおかげで、Dクラスは女子の不満を最低限に抑え、体調不良によるリタイア(一人につきマイナス30ポイント)の最悪のリスクを回避することに成功していた。だが、それでもサバイバル生活が二日目に入ったという事実に、彼らは剥き出しの現実を突きつけられていた。
「全員、集まりなさい」
洞窟の入り口付近、涼しい風が抜ける岩陰から、冷徹な声が響いた。声をかけたのは、Dクラスの『暫定リーダー』を引き受けた堀北鈴音である。彼女の手には、初日に茶柱佐枝から手渡された黒いマニュアルの冊子が握られていた。その隣には、いつも通り感情の消え失せた、死んだ魚のような目をしている綾小路清隆が静かに佇んでいる。
「二日目の今日から、私たちは本格的な『自給自足』と『ポイントの維持』を両立させなければならないわ。昨日のようにポイントで食料を買い続けていては、上位クラスに追いつくどころか、自滅するだけよ。だから、今日からは役割を完全に分担して効率的に動してもらいます」
堀北の言葉に、男子の須藤健や池寛治、山内春樹たちが、渋々といった表情で集まってきた。
「役割分担って、具体的に何をするんだよ、堀北?」 須藤が大きな身体を揺らしながら問いかける。
「まず、最も重要なのは『他クラスの動向把握』と『スポットの偵察』よ。この試験では、島内にある特定のスポットを占有することで、継続的にポイントを獲得できる仕組みになっているわ。A、B、Cの各クラスがどのような拠点を築き、どのスポットを狙っているのか、それを正確に把握する必要がある。……これに関しては、私と綾小路くんで島内を広く回り、偵察陣として動くわ」
堀北の提案に、異論を唱える者はいなかった。他クラスの優秀な生徒たちと渡り合うには、クラス内でも知力に優れた堀北が赴くのが最も確実だからだ。綾小路が同行するのも、昨日のベースキャンプへの移動の際など、堀北のサポート役として無害に動けるという判断だろう。
「次に、拠点に残るメンバーの仕事よ。まずは『飲料水の確保と煮沸』。これは昨日の継国くんの忠告通り、野生の生水をそのまま飲むわけにはいかないから、常に火を絶やさず、沸騰させた水をストックしておく必要があるわ。そして『燃料となる薪の追加収集』。これらは主に女子の何人かと、平田くんに統率をお願いしたいの」
「分かったよ、堀北さん。ベースキャンプの維持と安全管理は、僕が責任を持ってまとめるよ」
平田が爽やかに微笑み、引き受けた。
「そして――最も深刻な問題である『食料の調達』よ。初日の食料はポイントで賄ったけれど、今日からは自分たちで野生の食材を確保しなければならないわ。これに立候補してくれる人はいるかしら?」
堀北がクラス全体を見渡すが、池や山内は「森の奥なんて虫がいそうだし、迷ったら怖い」と、あからさまに目をそらした。須藤も「俺は拠点の力仕事のほうが向いてる」と頭を掻いている。
その沈黙の中、最後列で岩壁に背を預け、ヘラヘラとした薄笑いを浮かべていた漣が、すっと片手を挙げた。
「あはは、それじゃあ食料調達(ハンティング)の仕事、俺が立候補させてもらおうかなぁ。せっかくの無人島サバイバルだし、じっとしてるのも退屈だからねぇ」
「継国くんが……? 貴方が行ってくれるなら、知識の面でも心強いけれど……」
堀北はサングラスの奥にある漣の琥珀色の瞳を見つめ、微かに警戒の色を浮かべた。一学期中、その圧倒的な「資本」と「肉体スペック」でクラスの裏の支配者として君臨してきた男だ。彼が動くということは、単なるボランティアであるはずがない。だが、今のDクラスで彼以上にサバイバルに精通し、頼りになる存在がいないのも事実だった。
「あ、あの……! れ、漣くんが行くなら……私、私も、一緒に行きたい、です……っ」
漣の背後から、小刻みに震えながらも、強い決意を秘めた声が上がった。Dクラスの日陰の美少女――佐倉愛里である。彼女はいつもの地味なメガネの奥にある潤んだ瞳で漣の背中を見つめ、そのシャツの裾をぎゅっと片手で掴んでいた。
「佐倉さん……? 貴方、森の中を歩き回るのは大変よ? 拠点に残っていた方が安全ではないかしら」
堀北が気遣わしげに声をかけるが、佐倉は小さく首を横に振った。
「ううん……! 私、漣くんの、お邪魔にならないように、一生懸命頑張るから……っ。だから……連れていって、ください……!」
かつてのストーカー事件で漣に救われて以来、佐倉にとって継国漣という存在は、自分の世界のすべてであり、絶対的な依存の対象だった。この不慣れな無人島という極限状態において、彼の手の届かない場所に残されることこそが、彼女にとって最大の恐怖だったのだ。
「あはは、いいじゃない、堀北ちゃん。愛里ちゃんは俺から絶対に離れないって言ってるし、俺の『専属の助手』として、しっかり面倒を見てあげるよ。森の危険から彼女を守るくらいのスペックは、俺には有り余るほどあるからねぇ」
漣はそう言うと、愛おしげに佐倉の豊かな栗色の髪を大きな手でぽんぽんと叩いた。佐倉はその愛撫に、まるで主人に褒められた小犬のように頬を林檎のように真っ赤に染め、至福の表情を浮かべた。
「……分かったわ。じゃあ、食料調達のメインは継国くんと佐倉さんにお願いするわ。それと、男子の何人かは川での『魚釣り』に回りなさい。ただし、釣り具をまともにポイントで買ってしまっては損失が大きいわ。何か現地で工夫して用意できないかしら?」
堀北の言葉に、漣がククッと喉を鳴らした。
「あはは、そんなの簡単だよ。マニュアルの釣り具セットなんて高すぎるからねぇ。俺の知識があれば、その辺のしなやかな枝と、衣服の繊維や細い蔓、そして適当な尖った骨や硬い木片を削って、プロ顔負けの『自作の釣り竿と針』が一瞬で作れるのさ。釣り道具は俺が現地調達の材料でパパッと作ってやるから、ポイントを使う必要はないぜ?」
「よっしゃ! 道具がタダで手に入るなら、釣りは俺に任せろよ! 川魚の扱いなら、昔ちょっとやったことあるしな!」
池がここぞとばかりに胸を叩いた。山内や他の男子数名も、森の奥に入るよりは川辺で釣りをしている方が楽だと判断し、一斉に賛同した。
「池くん、そんなに気合が入っているところを悪いんだけどさぁ、無人島の川魚を舐めない方がいいぜ?」
漣がヘラヘラと笑いながら、釣りチームに指名された男子たちの前に歩み出た。
「魚釣りって言っても、ただ針を垂らせば釣れるわけじゃない。ここの川は流れが速い場所と、岩陰で澱んでいる場所の差が激しいんだ。まず、俺が作る自作の仕掛けのウキの長さを川の深さにきっちり合わせること。そして、餌になる川虫は、そこの岩をひっくり返せばいくらでも獲れるから、それをケチらずに使うこと。魚が食いついたら、慌てて竿を引くんじゃなく、一瞬泳がせてから手首のスナップで軽く合わせるんだ。……いいかい? 最低限、これだけは頭に叩き込んでおきなよ。ボウズで帰ってきたら、今日の晩飯は抜きだからねぇ」
漣の「超高スペック脳」から放たれる、淀みのないプロ級の釣り指導に、池たちは気圧されたように「お、おう……分かったよ」と頷くしかできなかった。
「次に『調理』に関してだけど……」
堀北はマニュアルを開きながら視線を巡らせた。
「料理部の篠原さんを中心に、他数名の女子で『調理チーム』を編成して。ただし、食材を衛生的に捌くための最低限の『包丁』、そして味付けや脱水、保存のための『塩』だけは、どうしても現地調達が難しいわ。これらは必要不可欠な経費として、平田くんに言ってポイント使用で購入してもらいましょう」
「分かったわよ。任せなさいって。最低限の調理道具と塩さえポイントで買ってもらえるなら、せっかく男子が獲ってきたものを台無しにせずに美味しく料理できるしね」
料理部所属の篠原さつきが、腕を組んで頼もしく引き受けた。平田も必要最低限の包丁と塩のセットをポイントで購入する手続きを取った。
「残りの女子は、引き続きベースキャンプ周辺での『燃料(薪や落ち葉)の収集』をお願い。それから……」
堀北は、洞窟の隅の岩場にぽつんと座り、膝を抱えて不機嫌そうにこちらを睨みつけている少女――Cクラスから追放され、昨日Dクラスに保護された伊吹澪へと視線を向けた。
伊吹の足首には、昨日負ったとされる痛々しい怪我の包帯が巻かれている。
「伊吹さんは、まだ動ける状態ではないわ。それに、私たちのクラスの拠点の情報をこれ以上他クラスに持ち出されるわけにはいかない。彼女は『けが人』として、常に誰か監視を付けて、この洞窟から一歩も動かさないように徹底してちょうだい」
「チッ……。動けって言われても、こんな足じゃ動けないわよ。好きにすればいいだろ」
伊吹はフンと鼻で笑い、顔を背けた。
(あはは、龍園の描いた安っぽいスパイの絵図通りに、必死に『無害なけが人』を演じているねぇ、伊吹ちゃん)
漣は、洞窟の暗がりで膝を抱える伊吹の姿を横目で捉え、内心で肉食獣のような怪しい笑みを浮かべた。
伊吹澪という少女が、龍園翔によって送り込まれたスパイであることなど、人間の限界を超えた脳を持つ漣にとっては最初から「既知のゲーム」でしかなかった。彼女の内面にある深い孤独と、龍園の暴力への反発、そして強い自己承認欲求。傷ついた野良猫のような彼女を、どうやって最後は心も身体も、骨の髄まで自分の圧倒的な力で調伏し、忠実な『猟犬(コマ)』に変えてやるか。それを想像するだけで、漣のドSな本能がゾクゾクと奮い立っていた。
「それじゃあ、それぞれのチーム、行動開始よ」
堀北の冷徹な号令とともに、Dクラスの二日目のチェス盤が、激しく動き出した。
2.隠密なる占有
各自が役割に向けて動き出す中、堀北鈴音は自身の最初の『秘策』を実行に移すべく、綾小路清隆の他に、数名の男子生徒と女子生徒を伴ってベースキャンプの洞窟を密かに出発した。
「堀北、他クラスの偵察に向かう前に、まず別の場所へ寄るつもりか?」
並んで歩く綾小路が、抑揚のない声で問いかける。
「ええ。このサバイバル試験には『スポットの占有』という隠された、しかし最も強力な得点源があるわ。私たちは初日にベースキャンプの選定を急ぐ傍ら、この近くにある有用なスポットをいくつか確認し、仮の権利を確保した。けれど、試験のルール上、スポットは定期的に管理し、再占有を行わなければ、権利を奪取されたりするリスクがあるのよ」
堀北はマニュアルの条項を思い浮かべながら、毅然とした態度で説明した。
今回の彼女の最大の懸念は、昨日クラスに転がり込んできた『不純物』――伊吹澪の存在だった。
「伊吹さんが本当にCクラスを追放されたのか、それとも龍園くんの息がかかったスパイなのか、その確証はまだないわ。けれど、彼女がこの近くにいる以上、私たちの動向、特に誰がクラスの『リーダー』であるかという機密情報を絶対に握らせるわけにはいかない」
だからこそ、堀北が考案したのが、複数人による『煙幕作戦』だった。
スポットを占有するためには、支給されたリーダー専用のキーカードを端末にかざす必要がある。もし堀北が単独でスポットへ向かえば、万が一伊吹が監視の目を盗んで尾行していた場合、あるいは他のクラスの偵察が潜んでいた場合、一発で「堀北鈴音=Dクラスのリーダー」という事実が露呈してしまう。
「だからこそ、こうして複数人で行動するのよ。初日に抑えたベース近くのスポットの再占有を行うけれど、伊吹さんにはバレない様に、且つ誰がリーダーかわからないように複数人で行動する。これなら遠目からでは決して誰が本当の権限を持っているのか判別できないわ」
堀北の指示により、同行している須藤健や櫛田桔梗、そして綾小路たちが、スポットの周囲を囲むようにして同時に動く。外から見れば、誰がカードを所有し、誰が実際に端末を操作して占有手続きを行ったのかを曖昧にするフォーメーションだ。
鬱蒼とした藪をかき分け、初日に占有した『スポット』へと到着する。
「須藤くん、櫛田さん、私の指示通りに動いて」
「おう、任せとけ!」
「うん、分かったよ、鈴音ちゃん!」
須藤がわざとらしく大きな身体で端末の前に立ち、視界を遮る壁となる。その影で、櫛田も同時に手を伸ばして操作するフリをした。その複雑に交錯する腕の動きの合間を縫って、堀北は素早く自身のキーカードを取り出し、スポット管理用の固定端末に滑らせた。
ピッ、と電子音が響き、Dクラスによるスポットの『再占有』が完了する。これによって、継続的なボーナスポイントの権利が維持された。
「よし、これで当面の権利は守られたわ。伊吹さんにはもちろん、もし他のクラスの偵察が潜んでいたとしても、今の動きで誰がリーダーであるかを断定することは不可能なはずよ」
堀北は額の汗を拭い、満足げに息をついた。
「なるほどな。リーダーの秘匿と、ポイントの効率的な回収を同時に行うための複数人行動か。なかなかの生存戦略だ」
綾小路はいつものように平然とした口調で、しかし堀北の成長と慎重さを内心で評価していた。
「感心している暇はないわ、綾小路くん。ここからは、私たちの本来の任務である『他クラスの偵察』へ移行するわよ」
堀北の鋭い視線が、島のさらに奥深くへと向けられた。二人は他の生徒たちを拠点へと引き返させ、他クラスの偵察を開始するため、原生林の闇へと消えていった。
3.けもの道の罠
一方、ベースキャンプである洞窟を離れ、鬱蒼とした亜熱帯の原生林へと足を踏み入れた漣と佐倉。
頭上を覆う巨大なシダ植物や、傷のように伸びるマングローブの根。地面は昨夜の湿気を含んで泥濘(ぬかるみ)となっており、一歩進むごとに足元がズブズブと沈み込むような、過酷な環境だった。
しかし、漣の足取りは、そんな劣悪な環境にあっても微塵も乱れなかった。医術や骨格の知識、さらには細胞レベルで肉体をコントロールできる超人的な格闘技術を持つ彼にとって、泥濘の森を歩くなど、絨毯の上を歩くのと何ら変わりはなかった。
「ひゃあっ……! う、うわぁ……っ」
その後ろを必死に付いてくる佐倉は、何度も泥に足をとられ、バランスを崩しかけていた。そのたびに、漣がすっと長い腕を伸ばし、彼女の細い腰や華奢な手首を優しく、しかし力強く支え上げた。
「あはは、大丈夫かい、愛里ちゃん? だから拠点に残ってれば楽だったのにねぇ」
「う、ううん……! 漣くんと一緒にいられるなら、これくらい、全然へっちゃら、です……っ!」
佐倉は泥で汚れた顔を拭いもせず、漣に見捨てられまいと、必死に健気な笑顔を作ってみせた。
漣はフッと喉を鳴らすと、森の地面の、ある「不自然な痕跡」に目を留めて足を止めた。そこは、周囲の草木がわずかに踏み荒らされ、細い通路のようになっている場所――野生の動物が日常的に通る『けもの道』だった。
「さて、それじゃあまずは、ここにちょっとした『仕掛け(トラップ)』を施しておこうか」
「仕掛け……? 何をするの、漣くん?」 佐倉が不思議そうに首を傾げる。
漣はポケットから、初日に初期物資からいくつか多めに拝借しておいた頑丈なビニール紐と、その辺に落ちていた手頃な太さのしなやかな枝を拾い上げた。
「野生のウサギや小動物を捕まえるための、簡易的な『括り罠(くくりわな)』さ。動物がここを通って足を踏み入れると、枝の弾性を利用して、紐がキュッと足首を締め上げる仕組みになってるんだよねぇ」
漣の指先は、恐ろしいほどの速度と正確さで紐を編み込み、地面の泥や落ち葉を使って、人間が見ても全く気づかないレベルで罠を完璧に擬態させていった。その鮮やかな手際に、佐倉は感嘆の溜息を漏らす。
「すごいい……。漣くんって、本当に何でもできちゃうんだね……」
「これくらい、生き残るための基礎知識さ。さて、これをこの先のけもの道沿いに、あと数箇所仕掛けておこう。帰る頃には、運が良ければ極上の『お肉』が手に入っているはずだからねぇ」
漣はヘラヘラと笑いながら作業を続け、あっという間に合計4箇所の罠を設置し終えた。
仕掛けを終え、さらに森の奥へと進む中、周囲の鬱蒼とした木々がさらに深くなり、完全にクラスの他の連中の気配や声が届かない、二人だけの完全な密室空間へと変わっていった。
その時、一歩後ろを歩いていた佐倉の足取りが、ふと止まった。
「漣、くん……あのね……」
「ん? どうしたんだい、愛里ちゃん。疲れちゃった?」
漣が振り返ると、佐倉は両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、俯いていた。その身体は、寒くもないのに小刻みに震えており、泥に汚れた頬が、夕暮れのような熱い赤に染まっている。
「私……ずっと、ちゃんと言わなきゃって、思ってたの。教室でも、あの豪華客船の上でも……勇気がなくて、言えなかったから……っ」
佐倉は意を決したように顔を上げ、メガネのない、潤んだ琥珀色の瞳でまっすぐに漣を見つめた。その瞳の奥には、日陰の少女とは思えないほどの、強烈な熱量と純粋な感情が宿っていた。
「私、漣くんのことが……大好きなの……! 好きで、好きで……もう、胸が苦しくなるくらい、大好きなの……っ!」
唐突な、しかし魂を振り絞るような佐倉愛里の告白。森の静寂の中に、彼女の心臓の鼓動が聞こえてきそうなほどの緊張感が満ちていく。漣は驚く風でもなく、いつものように唇の端をヘラヘラと吊り上げたまま、彼女の言葉を待った。
「私ね……うすうす、気づいてるの。……漣くんが、櫛田さんと……そういう『特別な関係』だってこと」
「おや」と、漣は眉を微かに上げた。
「櫛田さんは、みんなの前ではすごく優しくて良い子だけど……漣くんを見る時だけ、全然違う目をしてるの。すごく熱くて……まるで、世界に漣くんしかいないみたいに、あなたに従い切っているような目。それに、豪華客船の時も……二人がすごく親しそうに、隠れてお話ししているのを見ちゃったから……」
佐倉の観察力は、ネットアイドルとして「他人の視線」に過敏だったからこそ、櫛田の僅かな仮面の綻びを見抜いていたのだ。
「私、すごく、悔しかった……。櫛田さんみたいに可愛くて、みんなに人気があって、男の人の扱いが上手な子には、私なんか絶対に勝てないって思った。だけど……だけど、私、どうしても漣くんを諦めたくないの……っ! どんなに惨めでも、漣くんの隣にいたい……!」
佐倉の目から、大粒の涙がポロポロと溢れ、泥濘の地面へと落ちていく。
「それにね……私、今でも時々、夜に夢を見るの。あのストーカーの男に、無理やり身体を触られそうになった時の……あの、冷たくて気持ち悪い感触。思い出すたびに、怖くて、息ができなくなるの……っ」
佐倉は一歩、漣の胸元へと詰め寄り、彼の強靭な胸板にその華奢な両手を押し当てた。
「だから……お願い、漣くん。私のこの身体を……漣くんのその大きくて熱い手で、全部、全部、めちゃくちゃに抱いて……っ。あのストーカーの男に触られた、忌まわしい過去の感触を……漣くんの愛で、上書きして……消し去ってほしいの……っ!」
内気で臆病だったはずの少女が、狂おしいほどの情欲と依存心を剥き出しにして、自らの純潔を悪魔へと捧げる懇願。その歪で、しかし極上に甘美な果実の告白を聞いた瞬間、漣の脳内のドSなスイッチが、完全にカチリと音を立てて入った。
「あはは……本当に、お前って子は、たまらなく可愛いねぇ、愛里ちゃん」
漣のヘラヘラとした笑みが消え、その琥珀色の瞳に、獲物を完全に捕食する肉食獣の残虐で妖艶な光が灯った。
4.泥濘の中の調伏
「そこまで俺に溺れてるなら……望み通り、骨の髄まで俺の色に染めてあげるよ」
漣は、佐倉の細い腰を強引に引き寄せ、その豊かな胸を自分の胸板へと強く押し潰した。
「ひゃあ……っ! 漣、くん……っ」
驚きと歓喜の入り混じった声を上げる佐倉の顎を、漣は強い指先で固定すると、そのまま猛烈な勢いで彼女の唇を奪った。
「んむ……っ!? ん、んんうぅ……っ!」
それは、優しさなど微塵もない、嵐のような蹂躙だった。漣の熱い舌が、佐倉の未熟な唇をこじ開け、口腔の奥の粘膜までを執拗に、貪るように蹂躙していく。医術の知識によって、女性がどこをどう刺激されれば最も快感を覚え、理性を失うかを完璧に把握している漣の愛撫だ。
「は……っ、あ、うあ……っ、れ、漣くんの、した、が……おっきくて……っ」
たった一度のディープキスで、佐倉の頭は真っ白に弾け、視界がチカチカと火花を散らした。彼女の口端から、耐えきれなくなった銀の糸が伝い落ちる。
漣は容赦しなかった。鬱蒼としたジャングルの大木の根元、周囲の泥濘から遮断された大きな岩の平坦なスペースに、佐倉の華奢な身体を押し倒した。
「あ……っ、地面、冷たい……。でも、漣くんが、上にいるから……あったかい……っ」
漣は、佐倉が身につけているDクラスの体操服のTシャツの裾に手をかけると、それを一気に胸の上まで捲り上げた。真夏の熱気の中に、彼女の驚異的なポテンシャルを誇る、はち切れんばかりの圧倒的な双丘が、白い下着に包まれたまま姿を現した。下着のフロントホックをパチリと外すと、遮るもののなくなった極上の肉塊が、自重でたわわに横へと広がる。その先端に鎮座する、淡いピンク色の初々しい蕾。
「う、あ……っ、見ないで、恥ずかしい……っ。でも、見て……っ!」
「恥ずかしがる必要なんてないさ。お前のこの身体は、世界で一番エロくて、最高に美しいんだからねぇ」
漣は低く囁きながら、その大きな手の平で、佐倉の豊かな胸を根元から鷲掴みにした。
「ひゃあうあぁっ!? つ、強い……っ、でも、すごく、気持ちいいの……っ!」
強靭な指先が、柔らかな脂肪を容赦なく変形させ、溢れ出た肉が指の隙間から盛り上がる。漣はその片方の先端を、自身の熱い唇で含み、舌先で弾くように、あるいは吸い上げるように強く貪った。
「あうッ! ん、んんぅぅ――っ! 駄目、そこ、吸われちゃうと……頭が、おかしくなっちゃうぅ……っ!」
佐倉は背中を弓なりに反らせ、漣の短い髪に両手を割り込ませて、彼を強く自身の胸へと押し付けた。
漣の愛撫はさらに下へと進む。体操服のハーフパンツと下着を、泥に汚れた生足から一気に引き抜いた。真夏の湿った空気の中に、佐倉の完全に無防備となった、白く滑らかな秘丘が露わになる。
彼女のそこは、すでに自身の溢れ出た愛液によって、周囲の泥濘以上にドロドロに濡れそぼり、蜜の雫をきらきらと滴らせていた。
「ねえ、愛里ちゃん。ここ、もうこんなに洪水みたいになってるよ? ストーカーが怖かったなんて、嘘みたいじゃないか」
「ち、違うの……っ、これは、漣くんに、触られてるから……っ。漣くんの手が、熱くて、エッチだから……あ、あうぅっ!」
漣の細長い指先が、彼女の最も敏感な突起――陰核へと容赦なく触れ、ピンとはじいた。
「ひゃんっ!? あ、そこ、らめぇえええ! 尖ったところが、ビクビクしちゃうのぉおおおっ!」
激しい快感の電気信号が佐倉の全身を駆け巡り、彼女の太ももが小刻みに痙攣する。漣はそのまま、指を二本、彼女の狭窄な結合部へと深く挿入した。
「あ、は……っ、ん、あぁあ! 入ってる、漣くんの、お指が、奥まで……っ!」
「すごいな、中が信じられないくらいギチギチに締まり合ってる。……本当に、まだ誰も知らない『処女』なんだねぇ」
漣が指を大きくかき回すたびに、グチュ、グチュと、下品な肉の咀嚼音が森の静寂に響き渡る。佐倉の理性は完全に消し飛び、ただ漣から与えられる圧倒的な快楽の波に、身を委ねて溺れるだけの性奴隷へと成り下がっていった。
十分に彼女の身体が解れ、蜜の潤滑油が溢れ出たのを確認すると、漣は自身のハーフパンツのポケットに手を伸ばした。超豪華客船でのバカンス、そしてこの無人島特別試験の裏側で、完璧なリスク管理の一環として『隠し持っていたコンドーム』のアルミパッケージを取り出す。
「あはは、愛里ちゃん。初めての経験だからって、無防備に俺の種を直に受けるのは、高度育成学校の減点リスク的にもちょっとねぇ。資本家として、安全な投資(避妊)は基本だからさ」
パキリと乾いた音を立てて袋を引き裂き、半透明の薄膜を取り出す。怒張しきった凶悪な質量を誇る熱い肉棒に、慣れた手つきでそれを滑らせるように装着していく。コンドームが密着し、さらに禍々しさを増したその太さと長さを目の当たりにした佐倉は、恐怖と、それ以上の期待に瞳を大きく見開いた。
「れ、漣くんの……ゴムをつけても、そんなに大きいの……私の中、壊れちゃう……っ」
「壊れないさ。お前の身体は、俺のこれを迎え入れるために、こんなに優しく手招きしてるんだからねぇ。……いくよ、愛里」
漣は、自身の熱く昂った質量を、彼女の狭窄な結合部の入り口へとゆっくりと宛がった。
「うん……きて……っ、私の、全部を、漣くんに……っ! 過去も、心も、身体も……全部、あなたのものにしてぇ……っ!」
佐倉が悲痛なまでの従属を口にした瞬間、漣は腰を強く沈め、彼女の純潔を護っていた薄い障壁を、一撃で無慈悲に貫いた。
「――っあぐ……ッ!? 痛、いぃいいいッ……!!」
佐倉の口から、引き裂かれるような悲鳴が上がった。
彼女の処女の証である鮮血が、溢れる愛液と混ざり合い、半透明のゴムの隙間から、そして白い太ももを伝って、泥濘の地面へとポタポタと滴り落ちる。あまりの激痛に、彼女の指先が漣の背中に深く食い込み、爪が皮膚を引っ掻いた。
「はは、痛いかい? だけど、これで分かっただろ。お前を今、完全に支配して、その身体を内側から引き裂いているのは、あのストーカーなんかじゃない。……この、俺の圧倒的な『現実(ちから)』だ」
漣はわざと腰を動かさず、彼女の最奥に自身の質量を根元まで埋め込んだまま、耳元で悪魔のように囁いた。
「あ……っ、は、はい……っ。漣くんの、熱いのが……お腹の、一番深いところに、当たってる……っ。痛い、痛いけど……すごく、幸せなの……っ」
佐倉の瞳から涙が溢れるが、その表情には、過去の恐怖から完全に解放され、絶対的な強者に自身の存在を完全に定義されたことへの、狂信的な救済の恍惚が浮かんでいた。
「よし、それじゃあ……ここからは、お前が動けなくなるまで、たっぷり上書きしてあげるよ」
漣はニヤリと笑うと、容赦のない速度と威力で、激しく腰を前後させ始めた。
ズチュ! ズブシュ! グチュグチュグチュ!
薄いラテックスの膜越しであっても、漣の超人的なピストンは一切の容赦がなかった。一発一発が佐倉の最奥のプレッシャーポイント(子宮口)を正確に、力強く叩き潰していった。泥濘の森の中で、二人の肉体が激しく衝突するペチペチという淫らな音が、幾度も幾度も木霊する。
「ひゃあぁあ! あ、あ、あぁああッ! 抜ける、入ってくる、おっきいのが、ゴリゴリ擦れてるぅうううっ!」
「あはは、最高だよ愛里ちゃん! その調子で、俺の資本のすべてをお前の中に刻み込んであげるからねぇ」
「あ、らめ、そこ、当たると、変な感じがぁあ! おしっこ、出ちゃう、出ちゃいそう、ひゃんっ!」
過剰なまでの肉体的快感と、精神的な絶対服従が交錯し、佐倉の限界を超えた神経は脳からの命令を完全に狂わせていた。漣の強靭な腰の打ち込みが、彼女の膀胱をダイレクトに圧迫し、極限の快楽へと追い詰めていく。
「はは、いいよ、我慢しなくていい。極上の絶頂と一緒に、全部さらけ出しちゃいなよ!」
「あ、あああっ、らめえええ! 漣くん、いく、いっちゃうのぉおお! あぁああああッ!!」
佐倉が白目を剥き、全身を弓なりに激しく硬直させた瞬間、肉壁を狂ったように締め付けながら、彼女の秘丘の隙間から、制御を失った熱い尿が勢いよく噴き出した。絶頂による完全な失禁。黄金の飛沫が、彼女の白い太ももを濡らし、結合部で泡立つ愛液や処女の鮮血、そして周囲の泥濘へと混ざり合いながら、グショグショと音を立てて溢れ出していった。
その羞恥と快楽の極致に悶える姿を見て、漣のドSな本能は最高潮に達した。
「あはは! 素晴らしいねぇ愛里ちゃん! 絶頂のあまりお漏らししちゃうなんて、本当に俺の忠実な猟犬にふさわしい壊れっぷりだよ!」
「あひぃいいいいいいいッ!? 出ちゃった、恥ずかしい、でも、すごく気持ちいいぃいいいいっ!!」
佐倉は、自身の細い両足を漣の腰に必死に絡みつかせ、一分一秒でも長く彼と繋がっていようと、狂ったように腰を突き上げた。漣のピストンがさらに加速し、コンドームの摩擦熱で肉の結合部は熱く燃え上がる。佐倉の膣内は、失禁の余韻と度重なる絶頂の痙攣によって漣の肉棒をギチギチと締め付け、極上の緊縛感を提供していた。
「いくよ、愛里――っ!」
「はい、はいぃい! 漣くんの、いっぱーい、出してぇええええッ!」
佐倉が完全に理性を失って絶頂の奈落へと再び突き落された瞬間、漣は彼女の最奥の壁に肉棒を強く押し付け、溜まりに溜まった濃厚な白濁液を、何発もの断続的な射精によって、薄膜の中に激しく噴射した。
「――ッうあぁあああああああああああッ!!」
コンドームの先端が破裂しそうなほどに、漣の放った大量の精液がパンパンに満たされ、彼女の最奥を内側から強烈に押し広げる。
佐倉は全身を大きく痙攣させた後、完全に脱力し、漣の胸の中に崩れ落ちた。彼女の琥珀色の瞳は、完全に焦点が定まっておらず、口元からは涎が垂れていた。しかし、その顔には、失禁の羞恥すら乗り越え、過去のすべてのトラウマが漣の圧倒的な質量によって完璧に「上書きされ、消滅した」ことを示す、究極の従属と至福の笑みが浮かんでいた。
5.豊かな収穫
情事の後、漣は自身の超スペックな回復力で何事もなかったかのように衣服を整え、精液の溜まったコンドームの口を器用に縛ってゴミとして処理すると、完全に腰が抜けて自力で立てなくなっている佐倉の服を、優しく着せ直してあげた。
「あはは、本当に愛里ちゃんは可愛いねぇ。ほら、頑張って歩かないと、みんなが心配するぜ?」
「う、うぅ……。漣くん、腰が、くだくだで……足が、震えて、動かないです……っ」
佐倉は顔を真っ赤にしながらも、漣にすべてを捧げた「女の顔」で、甘えるように彼を見上げた。
「しょうがないなぁ。ほら、おんぶしてあげるよ」
漣が背中を向けると、佐倉は嬉そうに歓声を上げ、彼の広くて逞しい背中にしがみついた。その瞬間、彼女の豊かな双丘が漣の背中にぐにゃりと押し潰され、極上の柔らかさが伝わってくる。
佐倉を背負った状態でも、漣の移動スピードは一切落ちなかった。彼はベースキャンプへと戻る道すがら、行きに仕掛けておいた4箇所の『括り罠』のポイントを順番にチェックしていった。
「さて、罠の成果はどうかなぁ……っと」
一箇所目の罠に近づいた瞬間、草むらからバタバタと激しい暴れる音が聞こえてきた。
「あ! 漣くん、何かいる……!」
背中の佐倉が声を上げる。そこには、漣の計算通り、罠の紐にしっかりと足を括り付けられ、逃げられずに暴れている、丸々と太った野生の『野ウサギ』の姿があった。
「よしよし、一匹目ゲットだねぇ」
漣はヘラヘラと笑いながら近づくと、プロの暗殺術さながらの正確さで、ウサギの首の急所を一瞬で圧迫して苦しませずに気絶(即死)させた。その鮮やかな手際に、野生生物の命のやり取りであっても、佐倉は恐怖を感じるどころか、やはり漣への崇拝を深めるばかりだった。
結果として、設置した4箇所の罠は、なんと『全て』的中していた。
丸々と太った、肉質の良さそうな野ウサギが合計4羽。これだけの肉があれば、Dクラス40人全員に、十分な量の動物性タンパク質(肉料理)を数日間にわたって提供することができる。
「野生の動物の行動心理なんて、確率論と行動経済学のモデルに当てはめれば、100%予測可能なチェス盤の動きと変わらないからねぇ。この野ウサギ4匹の命も、俺の資本の一部さ」
さらに、お土産はこれだけじゃない。
漣は、事前に船上からのスキャン、および森の植生解析から目星をつけていた、少し開けた陽当たりの良いエリアへと足を向けた。そこには、野生のバナナや、亜熱帯特有の甘い香りを放つ野生の『果実(フルーツ)』が、たわわに実っている群生地が存在していた。
漣は片手で手際よく、食べ頃に熟したバナナの房や果実を大量に収穫し、持ってきたアメニティリュックの中に詰め込んでいった。
「ウサギが4羽に、大量のバナナと果物か。初日にポイントを消費してインフラを整えた我がDクラスにとって、これ以上の追加物資はないねぇ。これで料理部の篠原ちゃんたちも、大喜びで腕を振るってくれるはずさ。さて、愛里ちゃん、これを持って誇らしげに帰ろうか」
「はい……! 漣くん、本当に凄いです……っ!」
佐倉は漣の首にさらに強く腕を回し、完全に彼に心酔した瞳でその横顔を見つめ続けた。
6.崩壊の足音
漣と佐倉が、豊かな収穫を抱えてベースキャンプである洞窟へと戻ってきたのは、太陽が西の水平線へと沈みかけ、あたりが美しい茜色に染まり始めた夕刻のことだった。
洞窟の入り口付近では、川釣りに向かった池や山内たちが、約束通り帰還していた。彼らの手元にあるバケツの中には、十数匹もの新鮮な川魚が元気に泳いでいる。
「おい! 継国、見ろよ! お前の言う通り、現地で枝や蔦から作った自作の道具だけで、マジでこんなにたくさん魚が釣れたんだぞ! マニュアルの釣り具なんて買わなくて大正解だったな!」
池が自慢げにバケツを突き出してくる。
「あはは、よくやったじゃない、池くん。約束通り、今日の晩飯は抜きにしなくて良さそうだねぇ」
漣は背中から佐倉を降ろし、ヘラヘラと笑いながら池の頭を軽く叩いた。釣り道具をすべて現地調達の自作で済ませたことで、無駄なポイント消費を完全にゼロに抑え込むことに成功したのだ。
さらに、漣がリュックから取り出した丸々と太った4匹の野ウサギと、大量の完熟バナナや南国フルーツを目にした瞬間、洞窟内は割れんばかりの歓声に包まれた。
「う、うわあああ! マジかよ、ウサギじゃん! それにバナナまである!」
「すごいわ、継国くん! これなら今夜はご馳走よ!」
調理チームのリーダーである篠原さつきや女子たちが、目を輝かせて食材を受け取った。彼女たちの手には、平田がポイント使用で購入したばかりのピカピカの包丁と、純白の塩の袋が握られている。
「現地調達できない包丁と塩だけは、平田君にポイントで買ってもらったからね。これさえあれば、ウサギの肉も魚も衛生的に完璧に捌けるし、塩をきっちり使って最高の味付けができるわ。無駄な釣り道具にポイントを使わなかった分、この調理道具の投資が最高に活きるわね!」
篠原たちはさっそく手際よく、塩を使ったウサギ肉の下処理と川魚の調理へと取り掛かった。
一方で、女子の燃料収集チームも平田の統率のもとで十分な薪を集めており、洞窟の入り口では轟々と暖かい炎が燃え上がっていた。伊吹澪は相変わらずその炎の光が届かない奥の暗がりで、割り振られた監視の女子生徒に厳重に睨みを利かされながら、不機嫌そうに膝を抱えて座っている。
すべてが完璧な分業体制のもと、Dクラスのサバイバルは軌道に乗ったかに見えた。
――だが、その平穏な空気を一瞬にして切り裂く、不協和音が響き渡った。
「フハハハハ! 実に滑稽、実にナンセンスだねぇ、ボーイズ&ガールズ!」
洞窟の奥から、自慢の金髪をかき上げながら、手鏡で自分の顔をうっとりと見つめる男――高円寺六助が、大爆笑しながら歩み出てきた。
その突拍子もない大声に、クラス全員の視線が一斉に彼へと集まる。
「どうしたんだい、高円寺くん? 何か不満でもあったのかい?」 平田が心配そうに声をかける。
「不満? ノンノン、そんな低次元な話ではないさ、平田ボーイ。私はただ、この『無人島サバイバル』という学校側の用意したおままごとに、心底から退屈してしまったのさ!」
高円寺は手鏡をポケットにしまうと、周囲の鬱蒼とした木々や、泥で汚れた生徒たちを蔑むような美しい笑みで見渡した。
「見てみたまえ。この美しく気高き私が、なぜこのような泥塗れの密林で、虫に怯え、泥濘に足を盗られながら過ごさなければならないのかね? 豪華客船の極上のベッド、三ツ星シェフの料理、および美しいプール。それらこそが、この高円寺六助に相応しいステージだ。このような原始的なサバイバルなど、私の美学が、私の細胞が『つまらない』と拒絶しているのだよ!」
「な、何言ってんだお前!? みんな必死で役割分担して頑張ってんだぞ!」
須藤が怒りで顔を真っ赤にして詰め寄るが、高円寺はそれを軽くいなした。
「だからこそさ、須藤ボーイ。凡愚たる君たちは、ここで泥に塗れて必死に生き延びるゲームを楽しめばいい。だが、私は天才だ。天才にこのような縛りプレイは必要ない。私は今すぐ、あの快適な豪華客船のバカンスへと帰還させてもらうよ」
高円寺はそう言うと、自身の左腕に巻かれた、生存確認・端末用の腕時計を掲げた。その画面の端には、この試験の唯一の『強制リタイア用』の緊急エマージェンシーボタンが配置されている。
「おい、高円寺! 待て! それを押したらどうなるか分かってんのか!?」
池が叫ぶ。マニュアルの規定により、自己都合によるリタイアは、クラスの保有する特別試験ポイントから『一律マイナス30ポイント』という甚大なペナルティが課される。
「分かっているとも。だが、それがどうしたのかね? 私の快適な自由(バカンス)の価値に比べれば、そのような数字などゴミ屑同然さ! では諸君、一足お先に楽園へ戻らせてもらうよ! チャオ!」
止める間もなかった。高円寺は、クラス全員の目の前で、何のためらいもなく、親指でその『緊急ボタン』を強く押し込んだ。
ピーーーッ!!!
洞窟内に、冷徹な警告電子音が鳴り響く。直後、高円寺の腕時計から「リタイア申請受理・本部救護班が向かいます」とのアナウンスが冷たく流れた。
「あ、あの野郎……本当に押しやがった……!」
「嘘でしょ……何もしないで、いきなりマイナス30ポイントなんて……っ」
洞窟内は一瞬にして絶望と怒りの怒号で埋め尽くされた。自作の釣り道具などで必死に節約し、漣の知略によって積み上げてきたアドバンテージのうち、30ポイントという大金が一瞬にして高円寺の我が儘によって消し飛んだのだ。
しかし、騒ぎ立てる凡愚どもを他所に、最後列にいた漣だけは、ククッ、と低く喉を鳴らして笑っていた。
(あはは、最高だねぇ高円寺。これぞ究極の個人主義、唯我独尊の天才の退場劇だ)
漣の琥珀色の瞳が、怪しく輝く。高円寺のリタイアによる30ポイントの損失など、漣が裏で握っている圧倒的な資本と、これから他クラスを叩き潰して巻き上げるポイントに比べれば、ただの「盤上の誤差」に過ぎなかった。むしろ、この予測不能な混沌こそが、ゲームをよりエキサイティングに進化させる。
高円寺は迎えに来た学校関係者に付き添われ、最後まで美しい笑みを崩さぬまま、颯爽とベースキャンプを去っていった。
一人の天才の勝手な退場によって、Dクラスの結束にはやくも目に見えない『亀裂』が響き始めていた。だが、それすらも継国漣の手のひらの上で踊るための、新たなるゲームの幕開けに過ぎないのだった。