※この作品はR-18です。

よう実 実験   作:鳥ささみ

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第9話:悪魔の盤上勧誘

 

1.胎動する資本、あるいは特権階級への謁見

 

6月も中旬を過ぎると、高度育成高等学校における「プライベートポイント」を巡る生態系は、歪な形を保ったまま固定化されつつあった。

 

1年Dクラスの最後列に居座る男――継国漣(つぐくに れん)のスマートフォンに表示されている残高は、【 17,240,000 pt 】。

 

上級生を文字通り骨までしゃぶり尽くした賭け試合(チキンレース)の遺産と、困窮する同級生たちに張り巡らせた「融資(ローン)ネットワーク」から自動的に吸い上げられる利息。それらが絡み合い、一介の1年生が保持していいはずのない莫大な資本主義帝国を形成していた。

 

しかし、漣の尽きることのない欲望にとって、1700万という数字は通過点に過ぎなかった。

 

「金、名誉、権力……。すべては可愛い女を孕むほどに貪り尽くすためのスパイス、か。だけど、個人からチマチマと毟り取るフェーズはもう終わりだねぇ」

 

放課後の静まり返った廊下を、漣はいつものようにヘラヘラとした薄笑いを浮かべながら歩いていた。ポケットの中で、スマートフォンが微かに熱を帯びている。

今日の目的地は、学園の最高権力機関である特別棟の「生徒会室」だった。

 

事前に厳格な手順を踏んでアポイントメントを取ってある。

ドアをノックし、生徒会の許可を得て室内に足を踏み入れた漣を待っていたのは、冷徹な空気を纏う生徒会長・堀北学と、その傍らで興味深げに微笑む副会長・南雲雅の二人だった。

 

「……またお前か、継国。先日、佐倉の一件で揉め事を起こしたばかりだというのに、何の用だ」

 

堀北学の瞳が、凍てつくような氷の鋭さで漣を射抜く。先日のストーカー事件の余波で、彼の中での漣に対する警戒心は最高潮に達していた。

 

対照的に、南雲雅は楽しげに細めた目を漣に向け、まるで珍しい玩具を見つけたかのように口を開く。

 

「やあやあ、また君か。前回は面白そうな動きを見せてくれたねぇ。まさか、今日も何か君なりの『遊戯』でも持ち込んできたのか?」

 

二人の最高権力者からの、明確に異なる圧。警戒と探究心。

だが、漣はそのどちらも意に介さず、いつものヘラヘラとした余裕たっぷりの表情を崩さない。

 

「やれやれ、歓迎の言葉もなしとは悲しいねぇ。会長、南雲副会長。今日は喧嘩をしに来たんじゃない。あんたたちに、とびきりスリリングで、かつ……最高に知的で資本主義的な『臨時の課外特別ゲーム』の提案をしに来たんだよ」

 

2.「星とカードと電子サバイバル」:悪魔のルール構築

 

「特別ゲームだと?」

 

堀北学の声音が、わずかに鋭さを増す。

 

「そう。名前はね――『星とカードと電子サバイバル』。開催時期は8月。1学期の期末試験を終え、全生徒が南の島でのバカンスから帰ってきた直後の、あの気の緩んだ夏休み後半をターゲットにしたい」

 

漣は指を一本立て、自身の端末から生徒会室の大型モニターへデータを転送した。画面に映し出されたのは、緻密に構成されたゲームの基本設計図だった。

 

「概要を説明するよ。対象は全校生徒、完全自由参加型の個人戦。参加費用は一人一律10,000 PP(プライベートポイント)。学校が用意する専用の特設アプリを各自の端末にインストールしてもらい、その中で全ての処理を行う」

 

「参加費が1万ポイントか。1年生の困窮している連中にとっては決して安くない額だね」

 

南雲が興味深そうに身を乗り出す。

 

「そう、そこが良いんだよ、南雲先輩。飢えている奴にとっては命金、持っている奴にとっては端金。この絶妙な境界線が、人間の本性を一番綺麗に炙り出す。そして、参加費と引き換えに、生徒には以下のデジタルガジェットが初期配給される」

 

漣は画面の項目をタップした。

 

電子バッジ:ライフとしての『星』3つ

 

電子カード:計12枚(「グー」「チョキ」「パー」が各4枚)

 

「ルールは至ってシンプル。会場内で自由に相手を見つけ、お互いの端末をかざし合ってじゃんけんを行う。勝てば相手から星を1つ奪い、負ければ星を1つ失う。引き分けは移動なし。そして、使用したカードは勝敗に関わらず即座にシステム上から消去される」

 

「……ただのじゃんけんか。だが、条件があるのだろう?」

 

堀北学が冷徹に見抜く。

 

「さすが会長、話が早いねぇ。クリア、つまり『勝利者』として認められる条件は二つ。制限時間(3時間)終了時に、【 12枚のカードを全て使い切っていること 】、そして【 手持ちの星を3つ以上維持していること 】。この両方を満たした者だけが、勝者となる」

 

漣はそこで言葉を区切り、わざとらしく肩をすくめて見せた。

 

「逆に言えばね、星が0個になった者はその時点で脱落。そして、星がどれだけあろうとも、カードを1枚でも手元に残してしまった者は、その時点で自動的に『敗北者』となる。ゲーム終了時、運営による星の買い取りは一切なし。余った星はただのゴミデータになる。――ただし、だ」

 

漣はここでニヤリと不敵な笑みを浮かべ、画面をスクロールした。

 

「ゴミデータになる星だが、集める動機(インセンティブ)がなきゃゲームとして盛り上がらない。そこで、ゲーム終了時に【 最も多くの星を保持していたプレイヤー 】には、栄誉を称えて、胴元である俺個人のポケットマネーから【 特別賞として30万PP 】を支払う。ただし、最多得星者が複数存在した場合は、30万PPをその人数で均等に山分けするものとする。これもプール金からの分配じゃなく、完全な俺の手出し(自腹)のボーナスだ」

 

「ほう、30万の特別賞を自腹で、か」

 

南雲がその言葉に過敏に反応し、目を細めた。

 

「一番の肝は、これが『専用アプリを通じた処理』である点だ。これによって、物理的な暴力で端末を奪ったり、無理やり相手の手を握ってじゃんけんを成立させるような『原始的な強奪』は完全にシャットアウトされる。すべては規律と合意に基づいた、純粋な知略と経済力での奪い合いになる」

 

「その通り。暴力による解決を認めちまったら、それはただの野蛮なリンチだ。俺が愛しているのは、あくまで『資本主義』のルールに則った、合法的な絶望だからねぇ」

 

漣はヘラヘラと笑いながら、最大の障壁である「収支ロジック」へと話を展開した。

 

3.絶対に損害を出さないプール分配方式

 

「学校側、および生徒会がこの特別ゲームを認可するにあたって、最大の懸念事項は『運営に損害(赤字)が出るリスク』だろう?」

 

漣は画面を切り替え、複雑な数式とシミュレーションのグラフを表示させた。

 

「原作……いや、世間一般のクソみたいなギャンブルじゃ、勝者が増えすぎると元締めがパンクする。だが、俺が提示するのは、数理的に『絶対に運営が1ポイントも損をしない』完璧な変動型プール分配方式だ」

 

全体の参加人数をN、勝者(クリア者)数をW、敗者(失格者)数をLとする(N = W + L)。

 

「まず、ゲーム終了時、【 敗北者は、最初に支払った参加費1万ポイントのみを運営に没収される 】。それ以上のペナルティも、追加の借金も発生しない。極めてクリーンだ」

 

「だが、それでは勝者への賞金はどこから捻出する?」

 

堀北学の問いに、漣は凶悪な笑みを深めて答えた。

 

「このゲームの総インカム(集金総額)は N × 10,000 pt だ。そして、クリアした勝者には、まず自身の参加費1万ポイントがそのまま全額返還(キープ)される。つまり、勝者は実質的にノーリスクだ。問題の賞金の原資は、全て【 敗北者から没収したポイント総額( L × 10,000 pt ) 】から賄われる」

 

漣はホワイトボードの画面を指し示した。

 

項目:分配項目

・勝者全体の賞金(山分け):敗者没収金総額の 50%

・生徒会のロイヤリティ(認可料):敗者没収金総額の 25%

・胴元(継国漣の取り分・運営費):敗者没収金総額の 25%

 

「この比率で固定する。勝者1人あたりが受け取る賞金上乗せ額の計算式はこうだ」

 

「勝者1人あたりの賞金 = (L × 10,000 pt) × 50% / W」

 

「理解できるかい? 敗者が1人も出ない奇跡的な状況(L=0)なら、没収金は0。賞金も0だが、全員に参加費がそのまま返還されるため、運営の支出も0。逆に、敗者が大量に出れば出るほど、没収金の総額が跳ね上がり、生存したわずかな勝者たちで莫大なポイントを山分けすることになる。どのような結果になろうとも、生徒会と俺に配分される25%ずつの利益は、すでに没収されたプール金の中からしか支払われない。つまり、運営が自腹を切ってポイントを補填するケースは確率的に0%。絶対に損害は出ない」

 

「ふむ……。しかし継国、先ほどお前が言った『最多得星者への30万ポイントの特別賞』は、お前の完全な自腹なのだろう? それはお前にとって純然たる『赤字リスク』ではないのか?」

 

堀北学が鋭く突き刺すような指摘を飛ばす。漣は待ってましたと言わんばかりに首を左右に振った。

 

「ハハッ、まさか! 会長、これっぽっちの額が俺にとってリスクに見えるのかい? 確かに30万は俺のサイフから直接出る。だけどね、この30万というデカい『肉塊』をぶら下げることで、ゲームの狂気は跳ね上がる。さっきも言った通り、星は終了時にゴミデータになるはずだ。なら、普通の奴はクリア条件の『3つ』をキープして安全圏に引きこもろうとする。だけど、30万の特別賞があればどうなる? 欲深い実力者や、一発逆転を狙う下位クラスの連中が、安全なクリアに満足せず、他人の星をギリギリまで強奪しに動く動機ができる。つまり、この30万は市場を活性化させ、敗者(L)の数を爆発的に増やすための『最高の触媒』なのさ。結果として、胴元に入る25%の利益が30万の出費なんて軽くチャラにするほど膨れ上がる。資本主義の基本だよ、先輩」

 

南雲がパチパチと小さく拍手を送った。

 

「素晴らしいね。完全なノーリスク・ハイリターンだ。生徒会としては、名前を貸してアプリのインフラを貸し出すだけで、夏休み明けに数十万、あるいは数百万のプライベートポイントが自動的に転がり込んでくるわけだ。堀北先輩、これは断る理由がないんじゃないかい?」

 

しかし、堀北学の表情は未だに凍りついたように冷たいままだった。彼は漣の目を見つめ、そのルールの奥底にある「致命的な牙」を正確に看破していた。

 

「……計算は美しい。だが、継国。このルールには、生徒たちが自発的に『共謀』する抜け道が存在する。全校生徒が事前に示し合わせ、全員が均等に星を3つ維持し、カードを綺麗に消費し合えば、敗者は0になり、お前の言う『資本の流動』は起きない。あるいは、特定のクラスが組織票を投じ、市場を完全にコントロールするリスクを考慮していない」

 

「全員が談合してハッピーエンド? そんなこと、この学校の生徒ができるわけがない。なぜなら、星の買い取りが『一切ない』からだ。じゃんけんは必ず勝者と敗者を生む。引き分けを繰り返してカードを消費しようとしても、誰か一人が裏切って『勝ち』をもぎ取った瞬間、全体の均衡は一瞬で崩壊する。カードが余る恐怖、星が足りなくなる焦燥感。それに加えて、頭一つ抜け出せば30万が手に入るという誘惑だ。時間が経てば経つほど、生徒たちはパニックに陥り、隣のクラスメイトを蹴落とすために動き出す。市場の恐怖が引き締まった時、このゲームは本当の地獄になるのさ」

 

4.交渉の対価:自費100万ポイントの提示

 

「それにさ、会長」

 

漣は机の上の端末をトントンと指で叩き、さらに決定的な「餌」を提示した。

 

「学校のシステムを利用して臨時の特設アプリを構築・運用してもらう以上、サーバーの負荷や最低限の管理コストは発生する。その運営費として、俺個人のポケットマネーから【 100万ポイント 】を、事前に生徒会の口座に自費で振り込むよ」

 

「100万、だと……?」

 

その一言には、さすがの堀北学もわずかに視線を動かした。

1年生が個人で動かせる金額の規模を遥かに超えている。Dクラスの担任である茶柱佐枝ですら、漣の保有する資産の全貌を把握していない。100万ポイントという大金を、ただのゲームの「開催認可料」としてノータイムで差し出し、さらに30万の特別賞まで約束する狂気。それは、漣がこのゲームを通じて、これらの一時的な出費など遥かに凌駕する「何か」を回収できる絶対的な確信を持っている証拠に他ならなかった。

 

「自費で100万ポイントを前払い。さらに、ゲームが稼働すれば敗者没収金の25%が生徒会に入る。これだけの条件を揃えて、まだ秩序(ルール)を盾に拒絶するかい? この学校において、ポイントは絶対の自由であり、ルールそのものを買い取るための資本のはずだ。俺は正当な対価を支払って、生徒会とビジネスがしたいんだよ」

 

漣の言葉は、かつて綾小路清隆や堀北鈴音が須藤の点数を買うために身銭を切った行為の、さらにスケールアップした再現だった。

 

南雲雅は完全に愉快犯としての笑みを浮かべ、堀北学の顔を覗き込んだ。

 

「いいじゃないですか、堀北先輩。彼の言う通り、数理的な破綻はないし、生徒会への実利も大きすぎる。何より、生徒たちの『夏の終わりのサバイバル』としては、これ以上ない刺激的な特別試験になりそうだ。僕たち2年生も、喜んでこのゲームに参加させてもらいますよ」

 

南雲の賛成。それは、彼自身がこのゲームを利用して、2年生の支配力をさらに強固にし、あるいは漣という異分子の底底を見極めようとする計算から来るものだった。

 

堀北学は目を閉じ、数秒の沈黙ののち、ゆっくりと開眸した。その瞳には、毅然とした、しかし妥協を許さない絶対的な意志が宿っていた。

 

「……継国。お前の提案、数理的なロジック、正式な追加報酬(ボーナス)の組み込み、そして生徒会への実利の提示は認めよう。だが、このゲームを認可するにあたって、私から絶対に譲れない条件が二つある」

 

「ほう、聞かせて貰おうか」

 

漣は首を傾げ、面白そうに先を促す。

 

5.堀北学の絶対条件、あるいは悪魔の不参加

 

「第一に――」

 

堀北学は人差し指を立て、漣の顔を真っ直ぐに指し示した。

 

「【 お前自身は、このゲームに一人の『プレイヤー(参加者)』としても参加することは認めない 】。お前はあくまで発案者であり、生徒会とともにゲームを監視・管理する『運営側』の人間としてのみ、会場に存在することを義務付ける」

 

「……へぇ?」

 

漣のヘラヘラとした笑みが、わずかに固まる。

 

「お前のこれまでの行動パターン、およびこの1700万という異様な資産の背景には、常に『直接の賭け試合』による他者の捕食があった。お前のような規格外の怪物が一プレイヤーとして会場に混ざれば、ゲームのバランスは最初から崩壊し、特定のクラスや個人が一方的に蹂躙される結果を招く。お前が提示した『30万の特別賞』も、お前自身が参加すれば単なる出来レースになるだけだ。秩序を守るための絶対条件だ。お前は盤上の駒ではなく、盤外の観客でいろ」

 

その冷徹な宣告に、南雲が「おっと、それは手厳しいね。せっかくの30万の賞金首、僕が直接狩りたかったのだけど」と肩をすくめる。

しかし、漣はすぐにククク、と喉の奥で歪な笑い声を漏らし始めた。

 

「なるほどねぇ! 会長さん、俺をそんなに警戒してくれるなんて光栄だよ。いいさ、俺自身はプレイヤーとしては参加しない。最初から、羊たちが狭い檻の中で血を流し合うのを、特等席で見下ろすつもりだったからねぇ。ゲームの運営スタッフとして、喜んで会長の隣に並ばせてもらうよ」

 

「傷を舐め合うだけのぬるいゲームにする気はない。そのために用意した30万だ、誰がかっさらっていくか上から見物させてもらうさ」

 

「そして、第二の条件だ」

 

堀北学はさらに声を低くし、室内の温度を氷点下まで引き下げるようなプレッシャーを放った。

 

「専用アプリの稼働中、および会場内での進行において、万が一にも致命的な校則違反、あるいは看過できないレベルの不測の事態(物理的な脅迫の成立、システムへの不正アクセス、その他生徒会が進行不可能と判断するトラブル)が一段階でも発生した場合、【 その瞬間に、私の権限においてゲームを即座に強制終了(シャットダウン)する 】。その場合、お前が支払った100万ポイントの運営費は一切返還しない。これらを条件として組み込むことに合意できるか?」

 

「問題が起これば即終了、か。厳しいねぇ。だけど、それも含めてのスリルだ」

 

漣は立ち上がり、机の上の端末をポケットへと収めた。

 

「合意(イエス)だ、堀北会長。俺の作ったシステムと、人間の欲望の頑丈さを舐めないでほしいな。トラブルが起きる前に、生徒たちは自分たちの『カード』と『星』の処理で手一杯になるさ。100万ポイントは今夜中に生徒会の指定口座に振り込んでおく。専用アプリの開発と、学校側への認可の手続き、よろしく頼むよ」

 

「……手続きは速やかに行う。お前の言う通り、8月、南の島での旅行が明けた直後に開催をアナウンスしよう」

 

堀北学が書類に目を落とし、事実上の会談終了を告げる。

 

「ありがとよ。最高の夏休みにしようぜ、先輩方」

 

漣は背を向け、ヘラヘラと笑いながら生徒会室の扉を開けた。

 

6.絡み合う野心、あるいは夏の終わりの捕食者たち

 

漣が退室した生徒会室。

残された二人の最高権力者の間に、静かな、しかし激しい火花が散っていた。

 

「驚いたな。堀北先輩が、あそこまで1年生の提案を正面から受け入れるなんて。本当に彼を警戒しているんですね」

 

南雲雅が長椅子から立ち上がり、窓の外を見下そこから呟く。

 

「警戒ではない、南雲。私はただ、あの男がこの学園にもたらす『歪み』の規模を測っているだけだ。彼が提示した収支ロジックに破綻はない。学校のシステムを利用した『星とカードの電子サバイバル』は、生徒たちの本質的な実力を試す、極めて合理的な『課外特別試験』として機能する可能性がある。だからこそ、認可した」

 

「だけど先輩、気づいているでしょう? 彼がプレイヤーとして参加しないと言った時、一瞬だけ見せたあの邪悪な笑みを」

 

南雲は振り返り、自身の胸に手を当てた。

 

「彼はプレイヤーとして星を奪う必要なんて最初からないんですよ。それに、わざわざ自腹で『最多得星者に30万』なんてエサまで用意した。終了時に星の買い取りが一切ないということは、ゲームの終盤、必ず『星が足りなくて敗北を恐れる者』や『カードが処理できずにパニックになる者』が大量に出る。その一方で、30万のために星を過剰に溜め込んだ『独占者』が現れる。その時、行き詰まった羊たちに、運営側にいる彼が裏でどんな『救済(ビジネス)』を仕掛けるか……想像するだけでゾクゾクするねぇ」

 

「……だからこそ、問題が起これば即座に私が終了させる。それだけの話だ」

 

堀北学の言葉には、学園の秩序を守る者としての絶対のプライドが宿っていた。

 

一方、特別棟を出て、茜色に染まる校庭を歩いていた継国漣は、スマートフォンを取り出して、ある人物へのメッセージを入力していた。

 

【 宛先:一之瀬帆波 】

『一之瀬ちゃん、お疲れ。ちょっと面白い“夏のイベント”の認可が下りたよ。島から帰ってきたら、Bクラスの連中を救うための“特別講義”をしてあげるから、楽しみにしててねぇ』

 

画面を閉じ、漣は満ち足りた表情で天を仰いだ。

 

「星の買い取りはなし。だけど最多得星者には俺から30万。敗者は参加費のみ没収。賞金はプール金の半分を山分け……。完璧な表のルールの裏で、カードが余って詰みかけた羊たちと、30万を狙って星を強奪しすぎた狼どもが、どれだけ俺の『闇融資(ローン)』と『カード処理ネットワーク』にしがみつくか。30万なんて安い投資(マーケティング)だよ。今から楽しみで仕方がねえなぁ、龍園くん、坂柳ちゃん?」

 

1700万の資本を背景に、学園全体の生態系を揺るがす悪魔のゲーム『星とカードと電子サバイバル』の種は、初夏の生徒会室にて、完全に撒かれたのだった。

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