人間をテイムする方法 作:阿鼻巣
別に旦那が嫌いというわけじゃない。
ただ少し、旦那といるのは息苦しい。
旦那はBランクの探索者で、この国ではその地位は尊ばれるものだ。
私も数年前までは同じ地位で、旦那と一緒にダンジョン探索をしていた。
けれど気配を消すのが上手い魔獣が沢山いるダンジョンを攻略していた時、最後尾の私が一番最初に戦闘不能になることが沢山起こった。
味方に私を襲っている魔獣を引き剥がしてもらい、さらに自分の傷を治療してから他の人の治療に回ると、すでに味方はボロボロで回復の速度が追い付かないことが多く、そのまま逃げることしかできない状況が多くなった。
その状況を鑑みて、私の旦那は新しく別のヒーラーをパーティーに迎えた。
その人は『魔放術式』もかなり修練していて、自分独りでも戦える攻撃方法を持っていた。
最初は私とその人の二人体制だったけれど、被弾が私に集中し、私は旦那から探索者を引退するよう説得された。
回復術式しか取り柄のない私は、何度も魔獣に怪我を負わされた経験からダンジョンに恐怖を抱くようになっていたから、特に歯向かうこともなくそれを了承した。
だから結局、魔獣への
今の私はただの探索者学校の保健室の教員。収入も旦那に比べればずっと少ない。
旦那は私に言う。
「フィアは危険なことはせずに楽をしてくれていればいいから」
「もう戦わなくてもいいし、辛い思いもしなくていいから」
「教師もいつでもやめて専業主婦になってくれていいから」
旦那にとって、私のやっていることは『楽』なことらしい。
とはいえ、社会的に尊ばれているのが探索者であることは疑いようはない事実で、国内最大級の探索者養成学校である『ガーデン』の教員の中でも、ダンジョンにまったく入らない私は少し浮いている。
馴染める相手も、相談できる相手も、周りにはいない。
本当に、君が初めてだった。
私と同じ悩みを持ち、私が押し殺していた、間違いだと思っていた気持ちを代弁してくれるような人は……
だから、この居場所を守るために、少しだけ……間違いを犯すことを許して欲しい。
◆
さすが人妻というべきなのか、フィアの手コキはあのめちゃくそ遊んでそうなライラよりも巧かった。
献身的で、優しくて、ずっとこっちを気遣うような感じ。
多分、やってることは回復術式と同じだ。相手の身体的な状態を把握し、それに対して効果的な治療を行うのは回復術式をある程度齧った者にしかわからないかもしれないが紛れもなく神業だ。
それに至るためには人体構造を熟知する必要がある。
その経験が、この献身的で包容力のあるテクニックを生み出しているのだろう。
「大丈夫? 痛くない?」
別に俺は遅漏というわけでもないし、回復術式で精力を復活させられるから『耐える』ということをやったことがない。
「先生、上手すぎてヤバい……です……」
「そんな風に褒めてもチョコレートくらいしかでないよ。よしよし、沢山出たね」
出たらそれで終わりのライラと違って、フィアは丁寧に俺の性器を拭って綺麗にしてくれた。
まぁ、俺としては少し退屈だがたまにはこういうのも悪くはない。
それにこういうところを知っているほど、完全に支配した時のギャップが増えるから楽しみだ。
「満足できた? ライラさんにはちゃんと嫌なことは嫌って言わないとダメだよ」
「わかりました。すいません、こんなことに付き合わせてしまって」
と、いうわけで、俺にはライラとダンジョンに行く理由は一切なくなった。
◆
「なにしてんの? 今日はダンジョンの日でしょ。早く行くわよ」
「いや、もういいや」
「は?」
そもそもライラとダンジョンに行っていたのは、フィアの恐怖心を煽るためだ。
あそこまでフィアの懐に潜り込めれば、俺に依存させるプランを進めることができる。
もうライラという存在はお払い箱だ。
後、普通にそろそろイラつきが限界だったし。
「75階までの
こいつ45階までしか進んでなかったから、75階に進めさせるのにも付き合ってやったんだ。
卒業時の記録が75階に伸びるんだから、普通の生徒にしてみれば大金星。
感謝こそすれ、まさか文句なんて……
「ふざけんな。あんたの力のことバラされたいの? 陰キャごときが私に逆らってんじゃねぇよ」
はい、こいつもう許さん。
「好きにしろよ。けどバラしたらお前には二度と補助術式は使わない」
そう言って立ち上がり、俺は保健室に向かう。
ライラはなにか言いたげだったが、言葉が思いつかなかったらしい。
特に止められることもなかった。
あいつの本当に実力は、パーティーで45階層攻略レベル。
だが、あいつは味を知った。
ソロで75階の
クラスのヤツらはライラのことを天才だなんだと持てはやしている。
さぞかし気持ち良かっただろう。
でもそのせいで、お前はもう誰ともパーティーを組めない。
組めばバレるからだ。
自分の本当の実力が映像とはまったく異なることが。
冷静になって、自分の状況をただしく自覚して、お前がどんな顔で媚びてくるのか、楽しみにしとくよ。
「お疲れさまです、フィア先生」
「来てくれてありがとう、ユウヒくん。ちゃんと後で約束は守るから」
それから一週間が経ち、俺はフィアに毎日ヌいてもらう生活を続けていた。
ちゃんと申し訳なさそうな演技を続けるのはちょっと面倒だが、フィアの弱みに付け込むためだ、演技なんていくらでもしよう。
秘密の共有は親密度を上げるために非常に優れた方法だ。
証拠に、フィアは少しずつだが俺に自分のことを話すようになってきた。
旦那がBランクの探索者であること。元は自分も旦那と探索していたが、奇襲が多いダンジョンで攻略が難航し、戦闘力もあるヒーラーが加わったことでクビになったこと。この学校の教員もみんなダンジョンに行くから話が合わないこと。旦那が自分の仕事を無意識に下に見ていること。
「ごめんね。こんなこと言われても困るよね」
だが、フィアの話に少し違和感がある。
「あの、なんでそんな奇襲してくる敵が多く出てくるダンジョンに行く必要があったんですか?」
「え? それはたしか強くなってきたからより稼げるところに行こうって」
「いや、難易度上げるだけなら気配を消すのが上手い魔獣が沢山出てくるダンジョンである必要ってあるんですかね?」
「それは……けど、旦那がそこがいいって言ってたからには、なにか理由があるんじゃないかしら」
フィアの旦那はそのパーティーのリーダーらしい。
リーダーには色々な権利がある。
パーティーの人事とか、金の管理とか、どのダンジョンに行くか選択するとか。
でも、なんの理由もなくメンバーを解雇すれば残ったメンバーからも不信感を抱かれることになる。
だから、フィアが活躍しづらいダンジョンを選んだ?
まぁ、俺の推測でしかないけど、特定の宝や魔獣が目的じゃないのに敢えてそんなダンジョンに行く理由はそれくらいしか思いつかない。
さて、これをフィアにそのまま言うのは簡単だが、それはできない。
ロミオとジュリエット効果、または吊り橋効果だ。
恋愛において障害となるものが多いほど、それを乗り越えようとする心理が働き、恋愛感情が増幅するというものだ。
ここで俺が旦那を直接的に否定するようなことがあれば、フィアの旦那への恋愛感情に燃料を注ぐことになりかねない。
実際、普通の恋愛でも意中の相手に別の好意的対象(彼氏や旦那)がいるなら、その相手を否定しないことはマストだ。
というわけで、フィアには自分で気が付いてもらおう。
「あの提案なんですけど……」
「どうしたの? 言っておくけどこれ以上のことはさすがに無理だよ」
「わかってます。ただ、フィア先生とダンジョンに行ってみたいと思って」
「私とダンジョンに? どうして?」
「俺は回復術式も結構得意なんでわかるんですよ。フィア先生の回復術式は神業レベルです」
「またそうやって、すぐに褒めるんだから」
そう言ってフィアは俺の口にチョコを突っ込んでくる。
いつも貰った瞬間に食ってたからか、最近は直接食べさせてくることが増えた。
甘っ……
「そんな先生がクビになるなんておかしいです。旦那さんを否定するわけじゃないですけど、フィア先生自体が自分の力に気が付いてないだけなんじゃないかと思って」
「でも、学生と教師は一緒にダンジョンには入れないから」
「それは、
「でももう何年もダンジョンには行ってないし……」
「このままでいいんですか? 自分の才能を知らないまま終わって……」
一番強力な術式がダンジョン内に同行する必要なく発動できる俺と違って、あんたにはダンジョン内で役割がある。
それを無駄にするのはあまりに損だ。
そっか……俺は自分と違って才能があるヤツが、自分を諦めていることに少しムカついているらしい……
「俺は知ってる。あなたはヒーラーとして超一流だ。一回だけ俺を信じてくれませんか」
「……しょうがないな、一回だけだよ。それでちゃんと諦めてね」
「はい。俺がフィア先生の力を証明してみせます」
そう言った俺を優しそうな目で見たフィアは、何故か俺の頭を撫で始めた。
「今度の日曜、空いてますか?」
「うん。わかった。でもあんまり危ないところはダメだからね。魔獣が恐いっていうのも本当なんだから」
「はい。FかEランクで遠くない場所を選んでおきます」
「うん」
フィアの弱点は単純に戦闘能力だ。
才能が回復術式に特化していて、努力もそれに費やしている。
だから、相手を倒す方法がない。
でも、俺の補助術式があればその問題は解決する。
フィアは俺と組めば、容易にダンジョンを攻略できる戦力を持てる。
◆
フィアとの約束の日まであと二日。
俺には嫌いな授業がある。体育だ。
探索者学校で行われる体育の授業とは、つまりは『模擬戦闘』だ。
だが、俺は補助術式をバレたくない。だけど、強化術式を使ってない俺なんて並み以下の戦力しかない。
だから普通にボコられる。
まぁ、バレない程度に防御力を上げているからそこまで痛くはないが、一緒に授業を受けている相手や教員に見下した目をされるとムカつく。
だから、基本サボるか見学してる。
単位? 出席日数? そんなのどうでもいいね。
今日の四限も体育だったから、俺は見学していた。
「ねぇ」
すると、ライラが俺に話しかけてくる。
「先生に道具取って来てって言われたんだけど、ちょっと手伝ってくんない?」
「なんで俺が?」
「見学してるんだからいいでしょ。いいから来てって」
教師の命令ならさすがに断れないか。
半ば強引に、俺はライラと体育倉庫に向かった。
「で、なにを持っていけばいいんだ?」
「あのさ、あたしと一緒にダンジョン行ってよ」
「……なに持っていけばいいのか聞いてんだけど?」
「別に、そもそも頼まれてないし」
「あっそ。じゃあ戻るわ。お前とダンジョンは行かない」
そう言って出口の方を振り向くと、下着姿のライラが立っていた。
「……これでもダメ?」
ライラは俺を誘惑するように、自分の胸に手を置く。
「……一応、話くらいは聞いてやるよ」
「そーゆートコ好きだよ。陰キャくん」
「さっさと話せ」
「見たまんまの意味だよ。ヤらせてあげるって言ってるの。だから一緒にダンジョンに行ってよ」
うっわ……なんだこいつ。
そんなんで俺の力を使えるって本気で思ってるのか。
いや、そういう態度をしてたから勘違いして当然か。
でも、もうこいつに合わせる必要とかまったくないからな……
「はぁ……お断りだ。お前なんかにそんな価値ねぇよ。さっさと服着ろ」
「……え、は? なに言ってんの……?」
「だから、俺にメリットねぇっつってんの」
こいつにはフィアみたいに手間をかける必要すらない。
「お前の考えてることなんか全部わかってんだよ。他人からの評価ばっか上がって辛いよな。本当のお前はクラスの平均くらいなのに、期待されて、持てはやされて、でもダンジョンに入ればそんな嘘すぐばれる」
図星って顔で、ライラの瞳は大きく揺らいでいる。
「お前はもう俺に縋るしかないんだ。それともクラスの奴らに言うか? 本当はズルしてたんです、私はただ雑魚なんですって」
「な、あんた……」
「なぁ、お前さ、自分の立場わかってる? それがお願いするヤツの態度なの? それともまだ俺を利用できる、なんて勘違いしてんのか?」
俺はライラに近付き、首を掴む。
「ヤらせてあげる? お前が俺に? 圧倒的に俺より下の分際で? 正気かよ?」
「ふ、ふざけないで! あんたなんか女に相手もされない陰キャの雑魚でしょ! なのに私がヤらせて上げるって言ってるの、十分メリットでしょ!?」
「あっそ。もういいわ。じゃあこのまま『普通』に生きていけよ」
お前が知った栄光も栄誉も全部俺が与えてやった偽物だ。
それを自覚できるまで、いつまでだって待ってやるよ。
どうせお前みたいな自分を着飾ることでしか自分を認められない人間に、一度覚えた蜜の味を求めないなんてことできるわけないんだから。
もうお前の身体は普通じゃ満足できねぇよ。
「じゃあな」
ライラを押しのけ、今度こそ倉庫を出て行こうとすると……目尻に涙を溜めたライラは俺の腕にしがみつく。
「離せよ。俺はお前が自分を嫌いになろうが知らないし、雑魚の自分を認められないとか興味もない。お前のことなんか、心底どうでもいいんだよ」
「うぐっ、嫌だ……」
「あ?」
「うぅ、あぁ、辛いの……期待が辛いの……」
「知るか。一人で
「ねぇ、なんで、なんでよ……なんでもしてあげるから……」
ついに、ライラは涙を流し始める。よし、心は折れたみただし、そろそろ優しくしてやるか。
「あぁそっか。ごめんごめん、教えてもないのにやれって方が無理があるよな」
「……え?」
「俺が気に食わないのはさ、お前の態度だよ。人に物を頼む態度じゃないよな」
「あ、じゃあお願い、お願いします。手伝ってください」
涙を溢れさせながら、恐怖に満ちた目を俺に向け、必死に頼み込んでくるその顔はかなり俺好みではある。
「まぁ、お前には一応約束を守ってもらってる恩もあるしな。お願いの仕方次第で聞いてやってもいいよ」
「ほ、本当!?」
「うん。だからはい、土下座しろ」
「……え」
「裸でね」
気さくに笑いながらそう言うと、ライラは身体を震えさせはじめる。
やっと、自分の目の前にいるのがどういう人間なのか理解できたらしい。
「やんないの? じゃあもういいや」
「ま、待って、やるから!」
ライラはブラのホックに手を掛け始める。
もう下着姿になっていたんだから、裸になるのにそう時間は掛からなかった。
そのままライラは膝を折る。
「お願いします。力を貸してください……」
「それだけ?」
「その代わりに、ユウヒくんにいつでも身体を使わせてあげます」
「は?」
「あっ、いや、えと……あたしの穴、いつでも使って欲しいです!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔。
恐怖と羞恥でぐちゃぐちゃになった表情。
ライラはそんな顔を地面に伏せる。
俺はそれを……
「最初っからそうやってろクソ女」
「ぎょえ!」
踏み躙る。後頭部に運動用のシューズの靴底を付けて、体重を乗せる。
「二度と逆らうな。必死に媚びろ。そうしたら、力だけはくれてやる。返事は?」
「あ、ありがとうございます……」
「じゃあ明日、土曜なら行ってやるよダンジョン。そこでお前がちゃんと俺の物になれるのかテストしてやる」
「うぅ……あぁ……うぐ……」
「返事」
「う、はい! わかりました!」