「……よぉ、生きてるか?」
街を出て二日目が過ぎ、三日目の朝を迎えていた。昨夜はひたすら歩き続け、夜更けにこっそり姉さんに生気を捧げて……その後はあまり記憶にない。
ただ、眠りから覚めた途端、九霄さんが心配そうな目で僕を見下ろしていた。姉さんも膝を折り、僕の顔を覗き込んでいる。
「え……ええ。どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもあるか。お前、息が止まってたぞ。声かけても中々起きねえし……まぁ、寝坊した分休憩が長くなるなら俺は構わねえがよ。」
呼吸が止まっていた?……僕が?
軽く伸びをして起き上がろうとした瞬間、視界が一瞬暗くなり、膝をついてしまった。
「おいおい……大丈夫かよ。歩き過ぎて疲れたんじゃねえか?」
「僕は……大丈夫です。少し寝ぼけているだけかと……」
再度立ち上がろうとしたとき、白く冷たい手が僕の肩を強く押さえた。
姉さんだ。虚ろな赤い瞳で僕を見つめながら、立ち上がるのを阻んでいる。
「……あ……うー……」
「どいてよ、姉さん。立てないじゃないか……」
手を払おうとしても、姉さんは力を緩めない。むしろ少し強くなったように感じる。
「清ちゃんも心配してるみたいだぜ。まだ朝も早えし、急ぎの旅でもねえ。少し休んでから行こうぜ。」
九霄さんはそう言い残し、道の外れの茂みの方へ歩いていった。川の音が聞こえる。おそらく水を浴びに行くのだろう。
「……あー……う……」
九霄さんの姿が見えなくなった途端、姉さんは僕の体を引き倒すようにして寝かせた。背中に触れたのは、冷たくて柔らかい——姉さんの膝だった。
「ちょ、ちょっと……!」
僕は慌て起き上がろうとしたが、姉さんは離さない。羽交い締めとまではいかないが、胸を圧する勢いで、僕の体を抑えつける。
力加減がまったくできない。それほど不器用で、ぎこちない仕草。けれど、確かに僕を休ませようとしているのが伝わってきた。
「ね、姉さん?ちょっと……首が痛いって……!もう少し力弱くして……!」
膝枕というよりは、お腹の辺りで強く抱きかかえられている形だった。それでも……なんだか、昔の姉さんを思い出す。
夜更かしをした僕を、こうして膝枕で休ませてくれたことがあったな……。嬉しいような、怖いような。
姉さんは僕が殺してしまったようなものなのに、少しずつ人間らしさを取り戻していることが、素直に喜べなかった。
もし本当のことを思い出してしまったら——姉さんは、僕をどう思うだろう。優しかった姉さんは、怒るととても怖かったからな……
たとえ怒りに任せて僕を殺してしまっても、それは僕の咎だ。受け入れるべきだと、分かってはいる。
……でも、受け入れ難い恐怖が、胸の奥に確かにあった。
姉さんが僕を解放したのは、九霄さんが戻ってきた時だった。
「おっと、仲睦まじいようで何よりだ。坊主も浴びてこいよ。さっぱりすれば、少しは頭も冴えるだろうさ。」
九霄さんは親指で茂みの向こうを指した。気長に待ってくれるようなので、断るのも悪い気がした。
僕は足元を滑らせないよう、ゆっくりと坂を下りていく。姉さんも、すぐ後ろについてきた。
***
水を浴びて頭が少し冴えると、この頃の僕の体の異変に、ようやく気づく余裕ができた。
なんだか、起き上がることが少し辛くなってきた。
息が切れるのも早くなり、体を動かすこと自体が重く感じる。
そして、姉さんに生気を捧げる時……徐々に、求められる量が増えている気がする。最初は姉さんの消費が増えただけだと思っていたが、水浴びの最中にふと気づいた。もしかすると、僕の中の生気が、薄くなり始めているのかもしれない。何故なら僕の体は……
「坊主! 疲れてないか?」
先を歩く九霄さんが、振り返って声をかけてきた。
「あ、はい。まだ歩けます。」
「そうか。ならいい知らせだ。俺の村が見えてきたぞ。もう少しの辛抱だ」
九霄さんの言葉に、前方へ目を凝らす。
確かに、丘の向こうに集落が見えてきた。土壁と茅葺きの家々が点在し、白い煙がいくつも天へと昇っている。あれが、九霄さんの故郷——。
村に入るなり、薪を背負った壮年の男が九霄さんを見つけて声を上げた。
「おぉ、射陽!生きてたのか!」
「ハハハッ!逢蒙の末裔である俺が、そんな簡単にくたばるわけねえだろうよ!」
たちまち村人たちが集まってくる。皆、九霄さんを取り囲み、親しげに声をかけた。
「射陽、ちゃんと飯は食ってただろうね!」
「逢兄ちゃん!おかえり!また弓を教えてくれるんだよね!」
「何年ぶりだろうねぇ……食い物には困らなかったかい?」
九霄さんは村で相当な人気者らしい。幼い頃、父親を失った一家を村を挙げて支えていただけあって、誰もが家族のように接している。
やがて、村人の一人が僕と姉さんに気づいた。
「おや、この人たちは誰だい?」
その言葉を合図に、皆の視線が一斉にこちらへ集まる。特に外套を深く被った姉さんへの視線は、明らかに警戒と好奇心が入り混じっていた。
「あぁ、旅の途中で出会った道士の兄弟だ。いろいろ世話になったんでな」
九霄さんが取り繕うように言ったが、村人たちの目は変わらない。
「なんだか……不気味ねぇ。」
「流行り病でも患ってるんじゃないかい?」
「お母さん……あのぐるぐる巻きの人、ちょっと怖い……」
空気が一瞬、重くなった。
「そんなに怖がるこたねえって!この二人は皆に迷惑をかけるような連中じゃねえ!逢蒙と羿の名に懸けて誓ってもいい!」
「相変わらずですわねぇ、その言葉。」
穏やかで、芯の強さを感じさせる女性の声が響いた。
皆が声のした方を向く。腰をきっちりと締めた麻の襦裙を着た、背の高い女性だった。黒く澄んだ瞳と、すっと伸びた背筋が印象的だ。柔らかな笑みを浮かべているが、その瞳の奥には、九霄さんをしっかりと見据える力強さがあった。
九霄さんの顔が、一瞬で引きつった。
「め、め……
「ええ、おかげさまで。……それより射陽様、またずいぶんと無茶な旅をしてこられたようですね?」
明芳さんは優しい笑顔のまま、しかしはっきりとした口調で続けた。
「あ、いや!無茶なんて、そんなこたぁ……」
「村の皆がどれだけ心配していたか、お分かりになりますか? お帰りなさい、とは言いますけれど……まずはきちんとご挨拶をなさってからではいけませんこと?」
九霄さんが珍しくたじろいだ。
すごい……あの悪人共を震え上がらせてきた九霄さんが、まるで借りてきた猫のように縮こまっている。
「わ、悪い……た……ただいま。」
「よろしいですわ。さあ、皆さんも。射陽様が無事に帰ってまいりました。今日は祝いましょう。」
明芳さんは村人たちに柔らかく微笑みかけながらも、九霄さんの腕を自然に取って離さない。
慕わしげで丁寧な態度の中に、あの九霄さんを完全に掌握しているような、凛とした強さが感じられた。
やがて、明芳さんが、こちらに視線を移した。他の村人達とは違い、警戒している様子はない。まるで、最初から僕達が悪い人ではないことを知っているかのようだった。
「長いこと、わたくしの射陽様がご迷惑をおかけ致しました。
「よ、よろしくお願いします。李 玄明です。こちらは姉の清蘭です。」
明芳さんは深々と礼をし、挨拶を交わした後、再び村人達に向き直った。
「射陽様が故郷へお連れになったお方が、悪人である筈がありません。皆さんも、李様を温かく歓迎いたしましょう。」
「まぁ……確かにそうだな。」
「射陽と旅してた御方なら、大丈夫だろう。」
「にしても道士さんが逢の坊やと旅だなんて、珍しいもんだねぇ。」
明芳さんの言葉に、村人達の警戒心が少しずつ溶けていくのが分かった。
確か、九霄さんの父親が亡くなった時、この人が中心となって一家を支えたと聞いている。その総率力は、今でも衰えていないようだ。
僕は明芳さんに深く頭を下げた。
「あ、ありがとうございます」
「とんでもございません。もし貴方がたが悪党であれば、射陽様が成敗なさっているはずですから。」
「そりゃあそうだ。で……どこか空いている家はあるか?なるべく一軒の家で休ませてやりてえんだが。」
「ええ、いくつかございますわ。少し散らかってはおりますけれど、射陽様が綺麗に片付けて下さいますので」
「え……俺!?」
「お客様の手を煩わせるわけには参りません。そうでしょう?射陽様。」
明芳さんは柔らかな笑顔を九霄さんに向けた。
その笑顔は優しいようでいて、出かけた文句を無理やり喉の奥に押し込めるような、静かな圧力があった。
(……僕たちも手伝いますから……)
明芳さんに聞こえないよう、九霄さんの耳元で小さく囁く。
「だ、大丈夫だ!客に片付けをさせるようなケチな真似はできねえからな!俺に任せて、お前たちは村を回ってくれ!な?」
「あ……それでしたら、そうさせてもらいます。」
九霄さんには申し訳ないが、ここは素直に従った方が良さそうだ。
嫌な汗を浮かべている九霄さんを横目に、僕と姉さんは明芳さんと共に村を回ることになった。
***
「へぇ……そういう流れで、射陽と旅をしていたのか。あの子はそそっかしいところがあるからな……申し訳ないことをしたねぇ……」
村長さんは僕の鍼を受けながら、穏やかな声で言った。
明芳さんに連れられて村長の家を訪れた際、「村のためにお手伝いできることはありませんか?僕は道士で、鍼灸と薬草の知識は少しあります」と申し出たところ、頭痛を訴えられたのがきっかけだった。
姉さんは今、明芳さんと別室にいる。「もしよろしければ、お姉様のお顔に手を入れてもよろしいでしょうか?」という提案を受け、僕が承諾したからだ。
何をされているのかは、まだ知らない。
「あの子、それ以上貴方に迷惑をかけなかったかい?」
「迷惑なんてとんでもありません。むしろ、旅の間は僕が助けられてばかりでした。」
「それならよかった。あの子は粗暴に見えて、妙なところで義理堅いところがあるからね。小さい頃も、私たちに恩を返そうとして空回りしたものさ。死んだ父親そっくりだよ。」
九霄さんの父親……九霄さんは「ろくでなし」だと言っていたが……
「あの、九霄さんのお父さんは……どんな方だったのですか?」
「気前のいい男だったよ。弓の腕は誰にも負けず、見たこともないほど大きな鹿を狩っては、皆で肉を分けたものさ。晩年は西方の辺境へ兵役に出た息子を亡くして、すっかり荒れてしまった時期もあったが……どうせ、九霄はあまり良く言っていなかっただろう?」
「え、ええ……まあ……」
「あの子はああ言っても、心の底では父親をとても尊敬しているよ。親父さんの話をする時、右の耳をほじっていなかったかい? 嘘をつくときや、本心とは違うことを言うとき、あの子は昔からその癖があるんだ」
嘘をつく癖……あの時、そんな仕草をしていただろうか。あまり覚えていない。
そろそろ時間だ。手早く鍼を抜くと、村長さんは嬉しそうに肩を回した。
「おお!こりゃすごい!頭が軽くなった上に、肩も随分と楽になったぞ!」
「喜んでいただけたようで何よりです。肩のこりが酷かったので、風池と天柱*¹に鍼を打たせていただきました。やはり、村長さんの頭痛は肩から来ていたようですね」
「ありがとう、道士さん。村の皆にも伝えておくよ。腕の立つ方が来たとね」
「お心遣い、感謝します。」
そう言って振り返った瞬間、僕は思わず息を呑んだ。
明芳さんの横に、外套を脱いだ姉さんが立っていた。
肌は白く整えられ、唇と頰に薄く紅が差されている。眼差しこそ虚ろなままだったが、生前の姉さんが蘇ったかのような錯覚に陥った。
「……綺麗だ……」
「お望みであれば、明日もお姉様に化粧をさせて頂きます。長くは持ちませんでしょうけれど……」
明芳さんは柔らかく微笑んだ。
「あ……ありがとう御座います!是非ともお願いします!」
明芳さんにお礼はしたものの、僕は姉さんから目が離せなかった。明芳は気にしている様子はなく、見惚れている僕を嬉しそうに眺めていた。
***
村の中心地より少し外れに建てられた一軒の家、僕らはしばらくそこで住まわせて貰うことになった。
「結構散らかっていたが、これだけ綺麗になりゃあ住む分には不自由はない筈だ。」
だいぶくたびれた様子の九霄さんが、水を飲みながら言う。
家内には最低限の家具や調理器具が置かれている。これも九霄さんが使えるように整備したのだろうか……
「ありがとうございます。お手伝いができず、申し訳ありませんでした。」
「礼には及ばねえよ。村長の爺さんに気に入られて、良かったじゃねえか。明日は忙しくなるだろうから、今夜はゆっくり休みな。」
そういうと、九霄さんは家を後にした。あれだけ高く昇っていた日もすっかりと沈み、随分と暗くなった。外からは一家団欒の声が僅かに聞こえてくる。
「僕らも、そろそろ休もう。」
灯を消し、床に就いた。薄い布団だったが、廃屋暮らしに比べれば随分と清潔だった。
……横になり目を閉じても、背後が気になって眠れない。
僕の背中は、冷たくも柔らかい感触に包まれている。姉さんの腕が、豊かな乳房やお腹を強く押し付けるように僕を抱きしめていた。
何度も肌を重ねてきたはずなのに、こうして姉さんの方から強く求められると、胸の高鳴りが止まらない。
僕は片眼鏡を外し、体を姉さんと向き合うように寝返りを打った。必然的に、顔が彼女の胸の谷間に深く埋もれる。
ひんやりとした僵尸の肌、甘ったるい死の香り、それなのに押し返そうとする豊かな弾力。矛盾した感触に、股間が熱を持ち、硬くなっていく。
僕は彼女の襦をずらし、少し固くなった乳首に唇を寄せた。吸うように舐め、軽く歯を立て、舌で執拗に弄ぶ。
「んっ……!」
冷たい胸の先端を口に含み、夢中で吸い続ける。すると、僕自身の欲望がさらに熱く疼き、先端が布を濡らすのがわかった。
……これはもはや義務ではない。ただ、僕が姉さんの体を使って欲情を満たしているだけだ。
戒律も師の教えも、彼女の胸の前では霞のように消えてしまう。残るのは「もっと味わいたい」という、抑えきれない渇望だけだった。
不意に姉さんが起き上がった。
彼女は僕を拒絶するどころか、白く重厚な胸を露わにしたまま、僕の頭を自分の膝の上に乗せた。
「姉さん……?」
これはまるで、乳を与えるような姿勢だった。冷たく柔らかい豊かな曲線が僕の顔にのしかかる。
僕は再びその乳首を強く吸い上げ、舌で転がし、歯で甘噛みした。冷たい肌が僕の熱い息で少しずつ温まっていくのを感じながら、夢中でむしゃぶりつく。
その時、冷たい指が僕の袴をゆっくりと引き剥がした。月明かりに浮かび上がった僕の熱を、姉さんの掌が包み込む。
「……ひっ……!」
冷たい手が、熱くなった欲望を巧みに扱き始めた。ゆっくりと、しかし確実に根元から先端までを撫で上げ、締め付け、擦り上げる。まるで乳を搾るように執拗に。
「あ……ああ……姉さん……」
僕は彼女の乳房を吸う口を離さず、荒い息をその谷間に吐きかけた。舌で乳首を激しく刺激しながら、腰が勝手に跳ねる。
冷たい掌の感触と、口いっぱいに広がる柔らかな胸の感触が、同時に僕を襲う。死と生、冷たさと熱さが混じり合った、歪で甘美な快楽が背筋を駆け上がった。
姉さんはもう片方の手で僕の髪を優しく撫でながら、手の動きを速めていく。指先が敏感な部分を執拗に刺激し、根元を強く締め上げる。
「んぐっ……! あ……もう、駄目……姉さん……!」
理性の鎖が音を立てて切れていく。
罪悪感はもうどこにもない。ただ、彼女の冷たい手に搾り取られたいという、けだるい渇望だけが残っていた。
やがて、堰を切ったように熱い奔流が彼女の掌を満たした。
体が激しく痙攣し、白濁が僕の腹や胸を穢していく。
一つ目の放出が収まると、姉さんは汚れた場所に顔を寄せ、丁寧に舌を這わせて舐め取っていった……
息が切れていた。全身の力が抜け、だらしなく横たわる僕の隣で、姉さんは掌に満ちた露をゆっくりと嘗めている。一筋の光だけが闇を照らす中、僕は生気を得て回復していくかのような、理解できない響きのうめきを聞いていた。
「……あ……あ……うー……」
それでも僕の体からは熱が冷めなかった。満たされたはずの奥が、逆に強い渇きを訴えてくる。
「姉さん……」
かろうじて漏れた声は、もう自分のものではなかった。
僕は彼女に寄り添うように体をよじり、汗ばんだ肌を重ねた。そして耳元で、身勝手な願いを囁いた。
「僕も……もう、いいよね……」
姉さんの動きが止まった。虚ろな瞳が、初めてはっきりと僕を捉える。その赤はいつもより深く、血を吸ったような色を帯びていた。
「……あ……うー……」
彼女はゆっくりと衣類を脱ぎ捨て、仰向けに寝転がった。大きく脚を開き、自らの秘部を指で広げて僕に見せつける。まるで僕の欲望を理解しているかのように。
僕は獣のように四つん這いで近づき、その間に体を沈めた。
抵抗はなかった。熱く滑らかな壁が、僕の熱を優しく、しかし冷たく包み込む。
腰を動かすたび、生々しい水音が部屋に響いた。
「あぁっ……! あっ……あう……ぁうう!」
姉さんは虚ろな瞳を天井に向けたまま、ときどき甘えるような喉を鳴らすだけだった。
だが、僕を抱きしめる腕の力は強く、決して離そうとはしない。
「姉さん……姉さん……!」
僕は腰を激しく突き上げた。押し込むたび、生気が冷たい内部に吸い取られていく感覚が、異様な快楽となって僕を駆り立てる。豊満な胸が激しく波打ち、冷たい乳首が僕の胸を擦るたび、背筋に甘い悪寒が走った。
「あ……あぁ……んあ……あ、あ……あう……!」
姉さんの声が次第に甘く高くなり、僕の動きに合わせて体が震える。
僕は最後の最後まで腰を突き上げ、堰を切ったように熱い奔流を彼女の奥深くへ注ぎ込んだ。
「あぅ……うっ……う゛う゛ぅっ!!」
同時に姉さんの体が大きく反り返り、激しい痙攣に襲われた。虚ろな瞳の奥に、一瞬だけ何かが宿ったような気がした。
……名残惜しけど、吸精はここまで。もっと長く楽しみたいのに、早く果ててしまった。悔いの混じった余韻が、僕の体にのしかかる。
だが、僕がゆっくりと抜こうとした瞬間、姉さんは繋がったまま起き上がり、僕の上に馬乗りになった。
「え……え? ま、待って……! もう今日は……」
慌てる僕をよそに、彼女は自ら腰を振り始めた。先ほどより遥かに激しく、獣のような動きで。
まるで、僕から生気を搾り取ることだけが目的であるかのように——。
「や、やめて姉さん! もう出せないって……ひぅっ!」
抵抗も虚しく、僕は再び姉さんに蹂躙されていく。
彼女が顔を近づけてきた。口角が吊り上がり、瞳が愉悦に蕩けた蠱惑的な笑み——茂みの中で見た、あの笑みだ。
明芳さんがしてくれた化粧も相まって、まるで人間だった頃の姉さんと繋がっているように錯覚してしまう。
……いや、生前には見たことのない顔だ。
今、僕は姉さんの誰も知らない一面を、目の当たりにしている。
『阿明……あぁ……阿明ぃ……!』
不意に、欲情に色づいた甘い女の声が漏れた。
『阿明……!ねぇ……気持ちいい? あっ……あぁん……! 姉さんの中……気持ちいい……?』
分かっている。これは姉さんの声ではない。
今の彼女がこんなに流暢に喋れるはずがない。
……今、僕と肌を重ねているのは人間の姉さん?それとも僵尸の姉さん?
……どっちでもいい。今、姉さんと交わっている事実の前では、人間か僵尸かなんて、些末な問題だった。
「き……気持ちいい……気持ちいいよ……姉さん!」
『あぁっ……あんっ!ね、姉さんも……気持ち……いいわ……! あうぅっ!阿明の……ぁあっ!阿明のが……奥まで……届いて……!』
姉さんの内部が今まで以上に激しくうねり、きつく締め付けてくる。
僕はもう限界だった。
「ね……姉さん……!もう、出る……出ちゃう……!」
『いいよぉ!阿明、来てぇ!姉さんが受け止めてあげるからぁ!全部、中に出してぇ!』
姉さんの体が最大に仰け反り、激しい痙攣に襲われた。
『あああああぁぁぁぁんんんんッッッ!!!』
「うぐぅっ!ひぃぃぃぃいいいいいっっっ!!!」
叫び声と共に、僕の最後の奔流が彼女の最奥へと注ぎ込まれる。
姉さんの内部が僕を潰さんばかりに締め付け、小さな痙攣を繰り返した。
「お゛お゛お゛っっっ!!あ゛っ!!あ゛ぁ……ぁう……!」
低く嗄れた絶叫が部屋に響き、彼女は力尽きたように僕の上に倒れ込んできた。
唇が偶然、僕の唇に触れる。その冷たく柔らかな感触に、息が止まった。
やがて静寂が訪れる。月明かりだけが差し込む部屋に、二人の荒い息遣いだけが寂しく響いていた。
……先ほどの甘い声は、幻聴だったのだろうか。
それを確かめる術はない。僕はただ、姉さんの体の下で、深い倦怠感と安堵に包まれていた。
「……ごめんね、姉さん」
消え入りそうな声で謝る。そこに罪悪感の欠片もない、ただの甘えた謝罪だった。
姉さんは答えない。ただ、僕の耳元で、満足したように小さく喉を鳴らした。
*¹風池と天柱:共に後頭部にある鍼灸のツボ。頭痛や肩のこりに用いられる。