九霄さんが去ってからも、僕はその場に立ち尽くしていた。
今、僕を支配している感情が何なのか、自分でも分からない。
ただ、不快だった。
冥鶴子への怒りもある。でも、それ以上に、この得体の知れない感情は、姉さんへ向けられていた。
姉さんは、僕がいなければ生きていけない。それなのに、僕ではなく冥鶴子なんかに気安く触れられて、物のように扱われても、あいつを拒もうともしなかった。
愛すべき姉に対して、怒りにも、苛立ちにも似た感情が、胸の奥から湧き上がってくる。
……あいつの言う通りなら。これが、狂気という感情なのだろうか。
「……姉さん。」
僕が呼ぶと、姉さんはゆっくりとこちらを向いた。焦点の定まらない、いつもと変わらない眼差し。
その目さえ、何故か癪に障った。
「なんで……。」
声が震える。
「なんで、あいつを拒まなかったの……?」
気付けば目頭が熱くなっていた。
怒りだけじゃない。悲しみも、悔しさも、全部入り混じっている。
「姉さんは……あいつに触られて、嫌じゃなかったの……?姉さんは……あいつと一緒に行きたかったの……?」
返事はない。
姉さんはただ、虚ろな瞳で僕を見つめ返すだけだった。
「姉さん……。何とか言ってよ……姉さん……!」
気が付けば、僕は姉さんを押し倒していた。
僕よりずっと大きな体が床へ倒れる。
力の抜けたその体は、僕の細い腕でも簡単に押さえつけることができた。
姉さんと目が合う。
顔が近い。
それでも、その表情は何一つ変わらなかった。
そのことが、ただ悲しかった。
僕は姉さんを見つめたまま、声もなく涙を流していた。
「……そうか。」
悲しみは、不思議なほどあっさりと消えた。
代わりに、胸の奥へ静かな納得が落ちてくる。
「姉さんは……僵尸だから、言葉じゃ分からないんだね。」
今、僕がどんな顔をしているのかは分からない。
もしかしたら、自分でも恐ろしくなるような顔をしていたのかもしれない。
ただ、いつもより姉さんの肌が冷たく感じられた。
「……なんだ。難しく考える必要なんて、なかったんだ。」
指先で、姉さんの肌をなぞる。
頬から唇、首筋、胸元へ。
冥鶴子の指が触れた部分を上書きするかのように、ゆっくりと辿っていく。
「言葉で分からないなら……分かるまで、教えてあげればいいんだ。」
その言葉と共に、僕は姉さんの襦を乱暴に剥いだ。豊満な膨らみが露わになり、重みを持って柔らかく揺れる。
僕はそれに、指を埋め込んだ。
「あ……」
罪深いほどに豊かだ。冷えた磁器のような手触りでありながら、僕の指を、掌を、柔らかく受け止め、優しい抵抗と共に包み込んでくる。
少しでも手を動かせば容易く形を変え、手を離せば微かに揺れながら元へ戻る。
「あぃっ……! あっ……! あうぅ……!」
尖端を軽く噛み、吸う。柔軟な曲線とは対照的に、仄かに色づき、硬く尖っていく。
道観での日々を、不意に思い出した。姉さんは兄師たちにも分け隔てなく接していた。しかし思い返せば、兄師たちの視線は姉さんの顔ではなく、胸元や腰のあたりに向けられていた気がする。
無理もない。禁欲の地で、これほどまでに官能的な肉体を纏った異性がいるのだ。意識しない方が不思議だ。
兄師たちが部屋から中々出て来なかったこともあった。あれは、姉さんを想いながら自慰に耽っていたに違いない。
その兄師たちを惑わせた乳房を、今、僕が思うままに弄んでいる。
優越感にも似た高揚が、僕の身体に熱を持たせた。
僕はさらに深く顔を埋め、柔肉を貪るように吸い、舌でねっとりと辿り、歯を立てた。
姉さんの喉から漏れる掠れたうめき声が、部屋の静寂を震わせる。その声は、獣のようでありながら、どこか懐かしい響きを帯びていて、僕の狂気をさらに掻き立てた。
(もっと……もっと僕の印を、姉さんの体に……この冷たい肌の隅々にまで……)
指が自然と下腹部へと滑り落ち、秘められた花弁を探り当てる。冷たいのに、僕の生気で育まれた温かな蜜が、わずかに滲み出ていた。そこはまだ、冥鶴子の気配など微塵も感じさせない、純粋に僕だけの領域だった。
「んあぁ……っ!?」
閉じた花園に無理矢理指をねじ込むと、姉さんの体がびくりと強張る。嬌声の中に、僅かな痛みを訴える響きが混じっていた。
もう片方の豊かな柔肉に顔を押し付けながら、内部を執拗に擦り上げる。襞の一枚一枚を余さず、力づくで解していくように。内壁が僕の指を締め付け、熱を求めてうねる。
「あぅ……! あっ……! んうぅ……あぁうッ!」
指を締め付ける力が強くなってきた。溢れる蜜の量も増え、指の皮がふやけるのがはっきりと分かる。
「あっ……あぁあ……ぁあ゛……っ!」
そろそろ達する頃だろう。幾度となく姉さんと肌を重ねてきた僕には、それがよく分かった。
だが、僕は敢えて指を止め、ゆっくりと引き抜いた。
少し粘り気のある愛蜜が、蜘蛛の糸のように指から秘所まで長く繋がり、ゆっくりと途切れる。その淫靡な光景が、僕の胸にさらに暗い悦びを呼び起こした。
「まだ駄目だよ、姉さん。」
姉さんは震えながら、僕を見つめている。虚ろだった瞳は潤み、眼の奥で僕の精を貪欲に求めているのがはっきりと感じられた。
僕は姉さんの脚を大きく開かせた。達しきれなかった秘裂は物欲しそうに蠢き、甘く酸い匂いが、顔を近づけずとも鼻腔をくすぐる。
その姿は、まるで発情した獣のようだった。
「分かってるよ。姉さんも、欲しいんだよね。」
ゆっくりと袴を下ろし、姉さんに見せつけるように己の昂りを晒す。一瞬、姉さんの赤い瞳が見開かれた気がした。
「……いいよ。姉さんが理解するまで、全部あげる。」
僕は灼熱した自身を、その窄まりの入り口にあてがい、焦らすことなくゆっくりと腰を沈めた。
「あ……ああ……!!」
内壁を掻き分け、熱を押し込んでいくたび、姉さんの声が甘く、高く溶けていく。内部は僕を拒むことなく、貪欲に包み込み、絡みついてくる。
根元まで深く飲み込ませ、息を整える。氷のように冷たい外の肌と、熱く濡れた内部の落差が、いつも僕を狂おしく昂ぶらせる。これは全身を以て僕から生気を絞り取る、背徳の肉体そのものだった。
ようやく落ち着いたところで、僕は腰を動かし始めた。
浅く、素早く。半分も届かないところで引き戻し、再び沈める。
「あん……! あっ……! あう……ぅあ……!」
浅いところばかりを掻いていくと、姉さんの腰が芋虫のようにくねり始めた。言葉に出さずとも、何を求めているのかは痛いほど伝わってくる。
──もっと深く。もっと強く。奥まで、全部。
でも、あげない。
言われるがままに与えてはならない。これはただの交わりではない。吸精でもない。これは躾なのだ。姉さんが、誰のものなのかを、骨の髄まで理解させるための。
「あぁぁ……! あぁっ! あぁぁあっ!」
嬌声に、少しずつ焦りの色が混じり始めた。僕の思惑通り、切なさに悶えているのだろう。
「うあぁ! あああ! あうう!」
姉さんの長い脚が、僕の腰に絡みついてくる。その脚を掴み、大きく押し開いた。
それでも姉さんは、必死に脚を使って僕の腰を引き寄せようとする。これでは満足に動けない。
……仕方がない。
僕は側に脱ぎ捨てられていた帯を手に取り、姉さんの足を大きく開いたまま固定した。白い帯が、青白い肌に食い込む様子が、異様な艶めかしさを帯びていた。
「あうぅ……うぅ……あぁぁ!!」
姉さんが何かを訴えるような、切ないうめきを漏らす。それでも僕は、意地悪く浅い場所ばかりを、灼熱で責め続けた。
「ああう! あぁぁ……ああああぁ!」
次第にその声は、嬌声というより、泣き声に近くなっていた。虚ろな赤い瞳が、涙で濡れ、僕を懇願するように揺れる。
……そろそろ、いいだろう。
僕はようやく、姉さんの望むまま、根元まで深く、熱を埋め込んだ。
「あ゛う゛ぅっ!!!」
姉さんの身体が大きく跳ねる。達してはいないが、その手前まで追い詰められたのだろう。内部は僕を待ち受けていたかのように、執拗に襞を絡め、熱を貪ろうとする。
先端が、行き止まりのような柔らかな壁に軽く触れる。挿入のときには感じなかった、この奥深くの領域。それこそが、女の最も秘められた宮の入り口なのだろうか。
「あっ!! あっ!! あうぅ!! あっ!! あ゛ぁ!!」
腰を突き上げるたび、姉さんは体を震わせ、豊かに実った双丘を妖しく波打たせる。先ほどの焦らしが効いたのか、痙攣に至るまでは予想以上に早かった。
この痙攣の後、姉さんは達する。
「あ゛っ……あぁ……あう……?」
だから僕は、その寸前で腰を止めた。
「まだ……まだだよ……まだあげないよ……」
痙攣が収まるまで、僕は一切の動きを止めた。
「あ……あうぅ……! あぐっ……!」
「姉さんが悪いんだ……あいつに触られても、姉さんは嫌がらなかった……姉さんは僕がいないと駄目なのに……」
耳元で、囁くように言い聞かせる。声は優しく、しかし冷たい。
「だから、姉さんがちゃんと謝るまで、果てさせない。謝らない限り、精もあげないよ……ちゃんと反省してね、姉さん……」
「んあぁ……あああ……!」
痙攣がようやく落ち着いた頃を見計らい、再びゆっくりと腰を動かし始めた。
「あ……あぁっ……! あう……ううぅっ……! あ……ああぁぁっ!!」
少し動くだけで締め付けはさらに強くなり、苦しげで甘い声が連続して漏れる。またしても、痙攣の淵まで追い詰めるのに、そう時間はかからなかった。
もちろん、果てる寸前で僕は灼熱を抜き、一切の悦楽から姉さんを引き剥がした。そして、荒い息が落ち着いた頃を見計らって、再び深く挿入する。
……何度、この繰り返しを続けたことだろう。
数えるのも馬鹿らしくなる頃には、姉さんは目から、鼻から、唇の端から体液をだらしなく零し、戒められたまま無理やりにでも体を捩らせていた。
冷たい肌は汗で濡れ、熱を帯びて小刻みに痙攣を繰り返している。虚ろだった赤い瞳からは涙が溢れ、唇が弱く震え、まるで泣き顔のような、痛々しくも美しい表情を浮かべていた。
「あ……うぅ……あう……!」
もう嬌声すらまともに出せなくなっていた。追い詰められた姉さんの喉から漏れるのは、泣きながらの懇願のような、途切れ途切れの声だけ。
「あう……うぅ……あ……あうぅっ……!」
言葉にならないのに、必死に何かを訴えているのが伝わってくる。赤い瞳が涙でぐしゃぐしゃに濡れ、僕をじっと見つめながら、弱々しく腰をくねらせる。もう限界だということを、全身で懇願している。
「あう……あ……うぅ……あぁ……!」
その泣きじゃくるような喘ぎが、僕の胸を激しく締め付けた。愛おしさと、歪んだ満足感と、罪の痛みが同時に溢れ出す。
その姿が、初めてはっきりと僕を『懇願』するように見つめてきた。
「……許してほしいんだね、姉さん。」
僕はようやく腰を深く押し込み、激しく動き始めた。
「いいよ……もう許してあげる。僕のものだって、ちゃんと分かったね。」
「あ……あぁっ……!あう……ううぅっ……!あ……ああぁぁっ!!」
姉さんの声が一気に高くなり、体が大きく仰け反った。内部が激しく収縮し、僕を強く締め付ける。やがてそれは激しい痙攣となり、姉さんの全身を小刻みに震わせた。
「あぁぁぁっ……!あ……あ゛……あ゛あ゛あ゛っ!!!」
待ち望んだ絶頂。
姉さんの体が激しく波打ち、低く長い絶叫のような声が喉から迸る。
「姉さん……!」
同時に、僕も抑えきれなくなった限界を迎え、熱い奔流を彼女の最奥へと注ぎ込んだ。
「うう゛ぅっ!!! あ゛っ!!!……いぃぃっ……!!」
長い絶頂の波が引かぬうちに、姉さんは力尽きたように崩れ落ちた。荒い息を繰り返し、虚ろながらも蕩けたような瞳で僕を見つめている。その顔には、泣き顔の残滓を残した、初めて見るような甘く儚い表情が浮かんでいた。
「あ゛……あぁ……ううう……」
しかし——僕はまだ終わらせる気などなかった。
ゆっくりと自身を引き抜いたかと思いきや、すかさず最奥まで一気に突き上げた。
「お゛っっっ!!!???」
今までで一番汚く、獣じみた声が姉さんの喉から爆発した。体が大きく跳ね上がり、内部が激しく収縮しながら僕を締め付ける。
「あ゛あ゛っ!! うぐぅう゛う゛っ!!!」
「まだ……終わらないよ、姉さん。」
僕は低く囁きながら、再び激しく腰を動かし始めた。さっきよりも荒々しく、容赦なく。
達したばかりの敏感な体を、容赦なく突き上げる。
「お゛っ!! お゛あ゛っ!!うぐっ……あうううっ!!! お゛ぉぉっ!!」
姉さんの声はほとんど言葉にならない、獣じみた喘ぎばかりだった。嗄れた声がさらに低く、汚く掠れていく。
体がびくんびくんと激しく痙攣し、あまりの力に脚を固定していた帯が千切れてしまった。
僕は絡まる脚をほどき、体勢を変えた。四つん這いにさせ、後ろから深く、強く突き上げる。
そのたびに、豊満な乳房と尻が大きく波打ち、妖しく揺れる。
兄師たちが、ただ眺めることしかできなかった姉さんの胸も、尻も、内部も——今はすべて、僕だけのものだ。
誰も触れられない。僕だけが、こうして好きにできる。
その優越感が、僕の狂気をさらに掻き立てた。
「あ゛あ゛あ゛っ!! お゛う゛ぅ!! お゛うううっ!!!」
「お願い……妊娠して……!」
突然、喉の奥から言葉が零れ落ちた。自分でも馬鹿げていると分かっていた。姉さんは既に死んでいるのに。
それでも、この時の僕は、心の底から信じていた。姉さんを満たし続ければ、もしかしたら奇跡が起きるかもしれないと。
「姉さん……! 僕との赤ちゃん、産んで……! 姉さんとの子供が、欲しい……!」
……そうだ。姉さんとの子ができれば、彼女はもう離れられなくなる。ずっと、僕だけのものになる。
「僕との赤ちゃんが欲しい……! 姉さんの体に、僕の精を……いっぱい、注ぎ込んで……!! ずっと、僕だけの家族になって……!」
霞がかかった思考の中で、僕は次々と歪んだ願いを吐き出していた。
大きく腹を膨らませた姉さん。豊かな胸から母乳を滴らせながら、我が子に乳を与える姉さん。二人に似た子供を抱き、静かに微笑む姉さん。
慈しむべきはずの情景が、狂おしい形で次々と脳裏に浮かんでくる。
「……あ゛……あ゛あ゛っ!!うぐぅっ!!あうううっ!!!」
姉さんの内部が激しく収縮し、僕を締め付ける。
僕は理性の最後の糸が切れたように、腰を荒々しく打ち続けていた。
「姉さんだけのものにしたい……ずっと一緒に……離さないから……! 赤ちゃんを産んで……僕の家族になって……!!」
あぁ、もう限界だ。さっき出したばかりなのに、再び熱が込み上げてくる。
「姉さん!! 孕んで!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!お゛ぉ゛っっっ!!??お゛っっっ!!!!お゛う゛う゛ぅぅぅ!!!!」
興奮の頂点で、再び熱い奔流が彼女の最奥へと注ぎ込まれる。
姉さんの体が最大限に仰け反り、獣のような絶叫が部屋に響き渡った。
……まだ足りない。
奔流を放った後も、僕は構わず動き続けた。
***
どれだけ経っただろうか。もう何度、姉さんの中に注いだのか、すら覚えていない。
最後の頃になると、姉さんからは喘ぎ声すら出なくなっていた。白目を剥き、目から、鼻から、口から体液のようなものをだらしなく零していた。
みっともない顔だ。
それでも、僕はその顔が堪らなく愛おしかった。穢れきったその姿さえ、胸の奥が疼くほどに。
ようやく、僕は姉さんの中から自身を引き抜いた。蜜と精が混ざり合い、十二分に攪拌されたそこは、形容し難い淫靡な匂いを放ち、栓が抜けたかのように大量の白濁が音を立てて溢れ出した。
しばらくの間、僕は言葉では言い表せない充足感に包まれていた。まるで長年胸に空いていた穴が埋まったかのような、不気味な安堵だった。
だが、熱を帯びていた頭が少しずつ冷えていくにつれ、その甘い余韻は音もなく剥がれ落ち、代わりに罪悪感と自己嫌悪だけが胸を締めつけ始める。
「僕は……何を……していたんだ……?」
掠れた声が、静まり返った部屋へ消えていく。
姉さんを欲しいと言い放った冥鶴子に、僕は確かに怒った。
――姉さんは物じゃない。
そう思った筈だった。
ならば、さっきの僕は何だ。
姉さんが誰の物なのかを教え込もうとした。僕だけを見ろと、僕だけの姉であれと、そう願ってしまった。
「……違う。」
震える唇から否定が漏れる。
「違う……違う……!」
……違わない。
僕がしたことは、冥鶴子と何が違う。
「なんで……こんなことを……!」
その瞬間だった。
頭の奥で、聞こえる筈のない声が響く。
『ほら、君にもあるじゃないか。私と同じ――狂気というものが。』
『私は僵尸へ変えることで他人を我が物にする。君は悦楽によって姉を我が物にする。違うのは手段だけだ、玄明君。』
「やめろ……。」
耳を塞いでも、声は止まらない。
「やめてくれ……!!」
『賢い君なら、もう分かるだろう?君と私は――』
その声は、不意に途切れた。
そっと、僕の手に重ねられる温かな感触。
顔を上げる。
白濁と僕の指の痕、僕が残した噛み痕に塗れたまま、姉さんが静かに僕を見つめていた。
表情は変わらない。
言葉もない。
それでも、その手だけは、生前と何一つ変わらない優しさを宿していた。
従順だからではない。
肯定しているからでもない。
ただ、泣いている僕を案じるように、そっと触れてくれているだけだった。
その温もりが、胸を覆っていた黒い靄を静かに溶かしていく。
「……ごめん……姉さん……。」
涙が止まらなかった。
「本当に……ごめん……。」
姉さんは何も言わない。それでも、その手は離れなかった。
……こんな人を、所有物になどできるはずがない。
僕はようやく、自分が犯した過ちを、心の底から恥じた。