鴨川ボクシングジム所属のボクサー木村達也。ある日起きると女性になっていたーー!?鷹村×女体化木村のTSF小説です。

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小物のクセにデカいとはなにごとだ

「へ?」

 

これがその日の朝の木村達也の第一声である。

 

身体が妙に軽い。起き上がって伸びをしてみる。見える身体がなんだかほそっこくてやわらかい気がする。「ふわ」とあくびを一つ。ベッドから降りて朝の仕事の手伝いをせねばならない。

いつも通りの動作のはずだったが、ベッドから降りる時木村は転んでしまった。いつもと感覚が違う。「いってて、」とぶつけた膝をさすろうとしたら太ももになにか柔らかいものがふれた。

 

弾力のある、やわらかな。

 

「……なんだぁ……?」

声もなんだか幾分高い。風邪でも引いたか?と自分の額に手を当ててみるが熱などはなさそうだ。

とりあえず朝の支度だ。木村は身体の違和感を感じながらすっくと立ち上がった。気づいていなかったが、パジャマのズボンがダボダボでいまにもずり落ちそうになる。おかしい。寝ていただけだぞ? ズボンがずり落ちないように持ち上げながらいつものように階下の居間へ向かう。身体が自分のものじゃ無いようだ。

「おはよー」

木村は自分の親に普通に挨拶をしたつもりだった。しかし

「達也!?!!??? なにあんた女の子連れ込んでるのよ!!!!!!!!」

という母の怒号で、ぱっちり、目が覚めた。

「……俺が達也だけど?」

そう言ってみて聞こえたのは、すこしハスキーな、でも確実に女の声。

「はぁ!?」

そう、木村達也は女性になっていたのである。

 

*

 

「むね、ある。下、ない……」

 

とりあえず両親に部屋に戻された木村は、自分の体を見聞していた。渡された鏡で顔を見る。変わらず地味な顔立ちではあるが、骨ばった輪郭は丸みを帯びており、まつ毛もいくぶん長い気がする。髪の毛の長さは変わりないようだ。

とりあえず自分に生えた乳房を揉んでみながら、おお……などと言ってみる。それなりにあるのかな、これ。いやそんなこと言ってる場合ではない。

誰かに連絡してみるか? と携帯を持ってみるが誰一人として当てにになりそうな人間がいない。木村はとりあえずボディラインが隠れるジャージと、裾を引き摺らないで済むハーフパンツに着替えた。ずり落ちるパンツをむりやりベルトで留めておく。

「これって、病院でいいのかな」

しかし保険証には確かに男と書いてある。鏡を見る限り今の自分は女性である。詐称か変態と思われて終わりな気もする。

どうしたものかな、と悩みながら、とりあえず勿体無いのでもう一度胸を揉んでみた。

 

状況証拠と必至の弁明で両親はかろうじて信じてくれたらしい。とりあえず店の手伝いは休むように言われた。さてどうするかと悩んだが、悩んでいても事態が好転するわけでもない。

「……まあ、でも、行かないとまずいよなあ……」

この女の声でジムを休むだなんて連絡したって理解されないに決まっている。木村は暗澹たる思いで鴨川ジムに向かうことにした。自分の身に起きていることをしっかり証明せねば、なんにせよ八方塞がりだからだ。

*

 

第一声をどうするか悩んで入口付近をうろうろすること三十分。

普通に? それともなんかトラブル起きた感じで? などとシミュレーションしていたら、ロードワークから戻ってきた鷹村に首根っこを掴まれてジムの中に放り込まれた。どすん!と尻もちをついてしまい「いてて……」とさする。

「鷹村さん!? どうしたんですか」

シャドーをしていた幕之内が音に驚いて入口を向いた。着替えを終えた青木もロッカールームから現れる。木村は心の準備ができておらず、南無三ととりあえず心の中で唱えた。

「入り口でうろうろしてたからよ、オレ様のファンかと思って見学させてやろうかと」

「何言ってんすか」

尻をさすりながらムッとした目を向ける。鷹村と木村の目が合い、鷹村が何かに気づいたように「んん??」と首を傾げた。

「なーんか……お前、木村に似てるな?」

「……木村達也本人なんだからそりゃそうでしょ」

「は? いや似てるしそのジャージも木村のやつと一緒だけどよ、なんだぁ? いつのまに女になったんだよ」

「今朝だよ!」

「はい?」

「今朝! 起きたら! こうなってたんです!」

ワァッと顔を覆って訴えるが、誰も彼も信じてはくれてなさそうだ。どういうことだぁ? と青木が首を傾げていると、会長が入ってきて、何騒いどるんじゃ!!とステッキを振り回し、その場は一旦解散となった。

 

木村は鴨川会長によって会長室に連行された。いつもの浅葱色のジャージをぶかぶかに着た姿に、なにかトラブルを察してくれたらしい。さすがは年の功である。

「で、お前はなんじゃ。出待ちとかそういうのはウチはお断りじゃぞ」

「……ここの門下生の木村達也です……」

「下手な冗談はやめとけ。どう見たってお主は女子じゃろ。木村は男じゃぞ」

「信じてもらうのはむずかしいと思うんですけど……」

かくかくしかじか。

木村が事情を説明すると、鴨川は冷静に木村の実家に電話をした。両親はこの異常事態についてかろうじて理解している。息子が娘になりまして、というめちゃくちゃな説明をしてくれて、鴨川も納得したらしい。

「なんという……」

隣にいた八木もまた、目を丸くして木村を見ている。木村といえば小さくなった体をさらに小さく縮こめて「すんません」と言うしかない。

「どうしてそうなったかとかはわからんのか?」

「皆目検討もつきません。朝起きたらこうなってて、もう大騒ぎで。悪いもんも食べた記憶無いですし。……これってこのままだと俺ボクシングできませんよね?」

「ウチは女性の門下生は受け入れてないしね……。強いていえばビジネスでダイエットコースとかは考えてみたことはあるけど、ウチのスタイルには合わないだろうしってことで却下したんだ」

「ですよねぇ……」

ますます小さくなる木村に、鴨川は「ええい! ウジウジするな」と一喝する。

「とりあえず連中にはワシが説明する。お前は水汲みなり掃除なりしておけ。なに、なんもせんよりは気がまぎれるじゃろ」

さすが会長。木村はぱあ、と花咲くように顔を明るくして、ありがとうございます!と頭を下げて部屋を出た。

 

ら、聞き耳を立てていたらしい、鷹村、青木、板垣、幕之内の面々に囲まれて、これは詰んだな、と目を細めた。

これを七転八倒というのだろうか。

 

*

 

「女になったってどういうこった」

その言葉と同時に鷹村がたわわに実った木村の胸を両手で鷲掴みにしたので、木村は「ギャーッ!!!!」と大声を上げた。

「お、お前、もしやノーブラか!?」

思いの外やわらかだった感触に、さすがの鷹村も動揺したらしい。木村は胸を両腕で隠しながら、「してるわけないじゃないですか!!そもそも持ってるわけもないし!」と抗議する。

「さっきも乱暴に引っ掴んでさあ! こちとら女の子なんですから優しくしてくださいよ!」

「……あ、お、おう……」

鷹村は両手をにぎにぎと、先ほどの感触を確かめるようなジェスチャーをする。「やめてくださいそれ!」と木村は悲鳴めいた声をあげる。

「やめろって言われたってお前、マジで胸あんじゃねえか」

「だからあるって言ってるじゃないですか。こっちはあってこっちはないの」

木村が胸に実ったたわわな肉をぎゅうと手で寄せると、幕之内は「わあ!」と目を逸らす。先ほどのノーブラ発言といい彼にはなかなか刺激が強いらしい。木村はおもしろいおもちゃを見つけたような気持ちになるが、ここで調子に乗って幕之内に胸を当ててみたりなどしたら面倒なことになりそうなのでぐっと堪える。

「っていってもよお、お前それどうすんだよ。そんなんじゃボクシングもできねえだろ」

「そうなんだよなあ。会長はとりあえず掃除とかしてていいぞって言ってくれたんだけど、治る手立ても思いつかないし……」

青木は腐れ縁の非常事態に眉を顰め、携帯を取り出して「トミ子にそういうビョーキとかないか聞いてみるわ」とさっそく連絡をとっている。そんな中、板垣は「おっぱいって重たいんですか?」と女性には絶対聞けないだろう質問を木村にして「そんなこと聞いちゃだめだよ学くん!」とまたも幕之内を絶叫させた。

 

*

 

青木がトミ子に連絡を取ったところ、そういう症例をみたことがあるという医師がいるらしい。木村はきょとんとしたあとに、青木ぃ~!と跳ねるように抱き着いてその胸元のたわわな実りを腕にめいっぱい押し付けた。青木は木村の本来ありえない胸にぎょっと目を丸くする。

「おまえなあ! とりあえず病院連れてってやるからバイク乗れ。送ってってやる」

「ひとりで大丈夫だぞ? 場所も知ってるし」

「そのデカさで外にホイホイ出るとか危なっかしすぎるんだよ! トミ子に話付けとくから、ついでに服だのなんだのも用意してもらえ!」

べしっとヘルメットを叩きつけられ、木村は青木の紳士的なところにじいんと感動し「ちょっと泣きそう」と言うと、青木は気持ちわりいなと一蹴した。

 

*

 

青木に連れられて病院にやってきた木村は、トミ子に案内されて症例を知っているという医師のもとにやってきていた。現役を退いて後進指導に当たっている老いた女性の産婦人科医は、特別にと木村をカンファレンスルームに招いてくれた。

青木はいないほうがいいと言われたので、木村一人で中に入る。医師は穏やかな表情で木村の様子を見分すると、「大変ですねえ」とおっとりと声をかけた。

「本当に珍しいことなんですが、ごくまれにこういった……風邪のように性が入れ替わってしまう病気があるそうなんですよ。私も初めて見ますけれども、古い医学書に論文が載っていましてね」

「風邪ぇ?」

「ちょっとしたたとえです。はしかとかそういうふうに、どこかからもらってきちゃうそうなんです。性転換症と記載されていましたが、本当にあるとは」

「で、どうやったら治るかとかは分かってるんですか?」

木村としては早く戻って日常を取り戻したい。薬があるなら何がなんでも飲みたいし、寝ていても治るなら家にこもりっぱなしで過ごすしかないだろう。治る見込みがないとなれば──その時はその時で覚悟を決めなくてはならない。

木村の問いかけに女医は言いにくいんですけどと眉を顰める。

「その論文には、女性体であれば精子を膣に注いでもらうことで治ると記載されていまして……。まあ端的に言えば性交渉が治癒の方法であると」

木村は「なんだ簡単」と言いかけたところですぐにその言葉を飲み込み、その代わり「はあ!?」と大きな声を上げた。

 

*

 

青木やトミ子から詳細を聞かれたが、木村は治療法を最後まで打ち明けることができず適当に茶を濁してしまった。まさか青木にセックスしてくれと依頼することはできない。トミ子という彼女がいるのだからなおさらだ。

 

とりあえず木村はこの状況が長丁場になる可能性を考慮し、トミ子に着いてきてもらってファストファッションの衣料品店で最低限の下着と服を揃えた。胸や尻のサイズがわからなかったので試着室でトミ子に確認してもらったが、とりあえず女子もうらやむデカさらしい。トミ子も大概女性らしい体つきをしているが、負けたわなどと言いながら差し出されたブラジャーはお椀のようなサイズをしていた。

そそくさと会計をしてトイレで一式身に着ける。なにが悲しゅうてこんな小さな布地を身にまとわなければならんのだ、と眉を顰め、見繕ってもらったスキニージーンズとパーカー姿で外に出た。

これで外に出ることはできる。木村はほっと一息ついて、仕事を途中で抜け出してくれたトミ子と別れた。

「助かったわ。今度ちゃんと奢る」

「いいっていいって。俺が困ったときは頼むわ」

「こんなことほいほいあってたまるか」

青木のバイクにまたがって鴨川ジムに戻ると、幕之内と板垣はロードに出ていったらしく不在だった。鷹村はサンドバックを叩いており、振り向いてぎょっとした顔をした。木村が先ほどまでのちぐはぐなジャージ姿とは違い、ボーイッシュな女性らしい姿に変わっていたからだ。

「……マジかよ」

「なんすか」

「いやはや、小物のくせにデカいとは……」

「うるせえすよ。ちゃんと練習してください」

木村は鷹村をじとりと睨みつける。鷹村は「へいへい」と返事をしながら、竹ぼうきを取り出して外の掃除をはじめようとする木村のまるい尻を見送った。

 

「鷹村さん、木村っすよ」

「……木村なんだよなあ」

「木村っすからね」

「うるせえ!」

 

箒で落ち葉やら塵を掃いてまとめていると、不思議と色々なことが頭をよぎるものだ。すっかり変わってしまった自分の身体。治す方法は分かったといえ、方法が方法なだけあってどうしたものか、と悩んでしまう。

別に興味が無いわけではない。もとは木村だって男なわけで。実際自分でも胸をもんでみたりしたし、きっと風呂で体を洗う時に陰部についても見てしまうだろう。でも、触ってみるのは少し怖い。他人に触らせるのはもっと怖い。

風俗が手っ取り早いんだろうな、とふと考えるが、中出ししてもらわないと治らないらしい。自分がいくら大丈夫だと言ったところで、客の女を孕ませようとする風俗男はいないだろう。あまりにもリスキーすぎる。

じゃあ知り合いに……という発想になるが、もし本当に治らなかったらどうする? 精液を注がれるということは下手すれば子供ができる可能性があるわけで。──それはそれはおぞましい想像だが、妊娠の危険が無いとは言われていない以上、考えなければいけない点ではある。

鴨川ジムの面々を思い浮かべる。一歩はまずダメだ。初心過ぎてクミちゃんとすらうだうだずっとやっている。板垣は実家が貧乏だしまだまだ甲斐性がなさそうだ。青木は先ほど言った通り論外。じゃあ鷹村さんは? 頼めばやってくれそうだが……いや喜んでやりそうだが……。

範囲を広げてみよう。宮田はどうだ? 事情を説明すればやってくれるだろうし、子供ができたら責任も取ってくれそうだけどいきなり巻き込むのは誠に申し訳ない。間柴はそもそも会った瞬間拒否されそうだ。

「いつまで同じとこ掃いてんだおめーは」

いきなり声をかけられてびくりと肩が跳ねる。木村はギギギとでも音がしそうな動きで首を回すと、鷹村がそこにいた。ロードワークに出るところだったらしい。

「すいません、考え事してて」

「考え事だあ?」

「……こんなんなっちまってますからね。そりゃ考えもしますよ」

木村がそう言ってつんと顔を背けると、鷹村は面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 

*

 

翌日以降も行き場のない木村は慣れない下着に戸惑いながら着替え、何もしていないとむやみやたらに考え込んでしまうため、いつも通り店の手伝いをすることにした。息子の達也が合宿中だけ手伝いに来た親戚の子、という設定で、裏で帳簿の整理や備品の補充をし、カウンターの中で花束を作る。接客で声をかけられたらバイトなので分からないと誤魔化して、母や父に声をかけた。

鴨川ジムでは掃除やタイムカウント、水のボトル補給などの手伝いをした。最初はミット打ちくらい手伝えるのではないかと青木に声をかけてみたが、どうにもこうにも女に手をあげるようでやりにくいと断られてしまった。「70超えた年寄りに全力でミット打ちしてる鷹村や一歩はどうなる」と木村は思ったが、そこはそこでいきいきとしているので気にしないことにする。

「でも女の子がいるとやる気出ますよね。木村さんですけど」

「うるせえぞ板垣」

水のボトルを押し付けるように渡すと、板垣はあざっすと言って受け取る。実際、木村自身は退屈をしている鷹村の理不尽を受けずに済むし、はたから見てると木村が気を聞かせて声をかけることで、オーバートレーニングを防ぐのに大いに効果がある。努力・根性が浸透しているマッチョな思想の鴨川ジムではあるが、それは鴨川、篠田両名の管理下において行われるものであり、勝手なオーバートレーニングで怪我をしたりコンディションを崩すのは論外だ。

幕之内は練習の虫のような存在なのでよくオーバートレーニングになりがちだが、木村が「休憩」と声をかけることでそれは防がれている。

木村本人にとってもボクシングができないだけでわりかし悪い状況ではない。のだが、とにかくボクシングができないのはつらいし、女性の身体というものでこれから生きていくのか?と思えば現実的でないことこの上ない。

 

──となればセックスするしかないわけで。

「でもまあ、こういうこと頼めるのはあの人しかいないよなあ……」

 

いつもの面々と別れた後の帰り道、すこし冷たい夜風に吹かれながら、木村はううんと悩んでぽつんとつぶやいた。

 

*

 

「んで、女の子の木村くんが何の用かね」

 

結局のところ一択なのである。

 

その日の練習終わり、木村は鷹村の住む太田荘にやってきていた。うろうろとまわりを歩き回り、本当にいいのか? と自分を問い詰め、道の端でしゃがみこんでうんうん唸っていたところを鷹村に発見されてしまったのである。

鴨川ジムに連行されたときのように首根っこを掴まれて鷹村の部屋に放り込まれ、現在は荒れた部屋の一角でちょこんと正座をしている。

「……相談なんすけど、いいすか」

「おうおう。小物が女になったところでちっちゃい相談だろうからな。言ってみろ」

「……た、鷹村さん、今の俺を抱けって言われたら、どうしますか?」

「はあ?」

「やっぱ聞かなかったことにしてくれません?」

木村が両の手を突き出して目を逸らす。二の腕がぎゅうと大きな乳房を中央に寄せ、ゆったりとしたTシャツの上から谷間の皺が出来上がる。直接的な性交渉のお誘いを口にするなど恥ずかしいことこの上なく、頬も紅潮しており、今の木村の状態は男性からしてみれば据え膳という言葉が大層お似合いな状態だ。

鷹村はごくりとのどを鳴らす。木村だぞ? という気持ちが去来する。しかし、男のころと同じように地味な顔つきではあるが瞳はくりくりとよく動き、まつ毛は幾分か長い。紅潮した頬の曲線は丸みを帯びており、それでいて身体を見てみればたっぷりとした胸がぽよんと柔らかそうに突き出ている。正座している尻と太ももも煽情的な丸みを帯びていて、この状況になってから、青木がよくよく「心配とかいらねえよ」と言う木村をたしなめて送って帰っていたが、鷹村とて分からないではない。

 

もともと男だということで女性としての危機意識が非常に低いのだ。

 

ジムでも「あち~」とか言いながらスウェットの襟を伸ばして仰ぎ、ちらちらとブラジャーが見え隠れしたりするのは目に毒だし、あまりに警戒心がなさすぎて、ひとりで電車でも乗ってようものなら、ほいほい痴漢が近寄ってきそうなものである。

 

そんな状態の木村が「自分を抱いてほしい」と頼んできた。正直鷹村からしてみれば”木村達也”という存在だということを考慮しなければ据え膳以外の何物でもない。

「なんだあ? 俺様に欲情しちまったのかぁ?」

ふん、と鼻を鳴らして牽制してみる。すると木村はもじもじとしながら「そういうわけじゃなくて」と言った後に「中出しセックスしないと治んないらしくって」と超ド級の爆弾を放り込んできたので、さすがの鷹村も木村が差し入れだと言って持ってきていたビールを盛大に噴出した。

「な、中出しぃ!?」

「そうなんスよ。でも症例も少ないから本当にそれで治るかもわかんねえし。治んなかったら……ほら、子供とかできちまうかもしれねえし……って思うと、誰にも頼めなくって。鷹村さんなら隠し子の一人や二人いてもそういうキャラってことで押し通せそうじゃないスか。だから……」

「お前なあ!! 知らねえぞもう!!」

 

*

 

「ん、は……」

食われるようなキスから解放されて木村はうっとりと鷹村を見つめる。鷹村は木村が着ていたパーカーの裾から手を差し入れた。レースが施されたブラジャーの上から胸を鷲掴みすると、痛みで木村が顔をしかめる。

「もちょっと優しくしてくださいよ……ッ!」

「うるせえ、ちゃんと抱いてやってんだからありがたく思え」

「めちゃくちゃな……」

もみもみと大きな手で胸を揉みしだかれていると、次第におかしな気分になってくる。木村は「はぁ」と悩まし気なため息を漏らした。

「本当にでけえな……」

「好きでデカくなった訳じゃ、アッ」

突然パーカーを脱がされて、あらわになった下着を乱暴に外される。ぼろんとまろびでた乳房を鷹村は包み込むように揉みしだく。「いたっ、ちょ、たかむらさッ!」と木村がいやいやと体をよじるが、「痛いだけじゃねえだろ」とピンと乳首を指ではじかれて甘い快感が脳天をついた。

「やんっ、あっ、ァっ……!」

「エロい声出しやがる……」

「だっ、あっ、すごぃ……」

乳首をこりこりと指でねじると、木村は身をよじって嬌声を上げた。知らない快楽の恐怖から逃れようとするが、鷹村の逞しい腕が腰に絡みついてそれを許さない。「んぁ、アッ、やぁっ……」と猫の鳴くような声が自分から出てくることが恥ずかしくて、でも気持ちよくて声は収まらない。

じわ、と下腹部が熱くなるような感覚がある。さわってほしい、と木村は思った。体面に胡坐をかいて座る鷹村に腰を押し付け、上目遣いで鷹村の顔を覗き込んだ。無意識のアピールである。

「なんだ? どうしてほしい?」

鷹村は木村の腰の曲線を楽しむように撫で上げる。そしてデニムの上から尻を撫で上げると、木村は「ふぁ……」とうっとりとした声を上げた。

「どうしてほしいか言わねえと何もしねえぞ」

「いじわる、せんでくださいよ……ッ」

木村の尻を撫で上げながら、鷹村はにいと笑う。そして乳房に口を付けると、乳輪ごと乳首をじゅうと吸った。舌が乳首を舐め回し、濡れた感触に木村は悶える。

「んぁ、はッ! あ、アッ……!」

腰がびくんと跳ねるのを止めることができない。まるで犬みたいだ、とぼんやり思う。でもやめられない。獣みたいに重なり合いたい。

「たかむら、さん、ねえ……ッ!」

木村は衣類の上からでもわかる鷹村の勃起した陰茎を撫でた。上から下。形がはっきりとわかる。ビキビキと血管が浮くほど勃起しているんだろう。自分でこんなに興奮してくれるんだ、と何となく嬉しくなってしまう。

「ねえっ、たかむらさん、ほしぃ、たかむらさん、ほしぃよ……!」

舌ったらずな声で懇願すると、鷹村はチッと舌打ちしながら木村のデニムをパンツごと脱がした。溢れた愛液で下腹部はてらてらと濡れている。鷹村が性急に指で木村の陰部をまさぐると、ぐちゅぐちゅという濡れた粘液の音がした。

 

──頭、バカになりそうだ

 

「アァッ!! やっ!! そこ、やっ、感じ過ぎちゃ、ウッ あッ! たかむらさんッ、こわい、きもちぃっ、やぁっ、あっ!」

恐らくクリトリスと言われている部分をこすられているのだろう。腰がしびれるほどに熱く、脳天が快楽でおぼれている。股がさらに濡れそぼっていくのを感じる。

「やぁっ、おかしくなる、おかしくなるぅ! たかむらさん、ねえっ、手、止めて、ねぇっ!」

「うるせえな。もっと濡れねえと俺様のブツが入らねえだろ」

木村が懇願しても鷹村は手を動かすのをやめない。男では感じられない強烈な快楽に、やだ、やめて、もういいからと涙を流しながら首を横に振る。

「も、いいからぁッ、いれて、いれてっ! 鷹村さんのちんぽ、ほしい……ッ!」

木村の善がり狂う姿を見て、鷹村も限界だった。「知らねえぞ!」と言い放って、パンツを脱ぎすて怒張した逸物を陰部に突き立てる。そのままメリメリと木村の内部に割りいると、木村は「ぁあっ……!」と喘ぎながらのけ反った。

「たか、むらさ、おっき、おっきいよぉ、あっつい、やだ、いたぃ、おれ、おかしくなる……ッ……!」

「くっそ、初モノだからせめえ……!」

ぐ、ぐ、と腰を動かして蜜壺に入り込む。最後はどちゅん!と一気に体を埋め、木村の子宮に陰茎が衝突する。その甘い衝撃に木村は「アァッ!!」と喘いで涙をこぼした。

「はいっ、たぁ……?」

舌ったらずな声で確認するように下腹部を撫でる。うねるような内部は熱くぬれそぼっており、その気持ちよさに鷹村は我慢ならず腰を激しく動かした。

「うぁっ! たかむらさっ! アァッ!! すごいよぉッ! おっき、おっきぃ……あっつぃ……ッ!」

「なんっ……だよ! 木村のクセにエロいって……ッ!!」

「しゅご、しゅごぃよお、おんなのからだ、おかしくなる、おかしくなるよお……ッ!」

「おかしくなれッ! なあ、木村ッ! イけッ!!」

「あぁ、あぁーーッ……!」

どちゅん!と鷹村のものをめいっぱい食らいついた状態で木村は果てた。中がびくん、と痙攣するようにうねり、その刺激に反応するように鷹村もまた木村の中に精をどぽりと吐き出した。

 

*

 

所謂中出しセックスを終えたわけだが、木村の身体に変化の兆しが無い。肩で息をしてぐったりと床に横たわる木村を見下ろしながら、鷹村は「まだ足りねえのか?」とううんと唸る。

「も、もぅむり、むりです」

木村はその言葉に首を横に振るが、あの鷹村守が一発だけで終わるわけもない。木村の身体が戻らないからという大義名分を振りかざし、木村が気絶するまでセックスは続いた。

 

*

 

木村が目覚めたとき、まだ体は女のままだった。よくよく考えれば男に戻っていたとして、着替えを持ってくるのを失念していた木村は、まあこのほうがいったん都合はいいかと上体を起こす。隣で眠っている鷹村に向かって「たかむらさん」と呼びかけようとするが、さんざん喘がされたせいで喉がつぶれている。

仕方ないので木村は立ち上がり、よた、よた、と歩いて勝手に風呂場を借りた。昨日たっぷり注がれた精液が股から伝う感触が生々しい。

熱い湯でキレイに体を清めると、改めて洋服を身に着けて、鷹村が目覚める前に帰宅した。どんな顔して会えばいいかわからないからだ。

 

無事自宅に戻った木村はその日の昼から熱を出した。なにも考えられないほどの高熱にうなされながら眠り、起きたときに体がすこし重いことに気づく。もし男に戻っても困らないようにとぶかぶかのサイズの男物のパジャマで眠っていたが、そのパジャマがしっくりくるサイズに戻っている。

 

「……まじかあ」

 

汗だくの身体が気持ち悪いなと思いながら起き上がり、もしかしてと鏡を覗き込むと、本当に男に戻っていた。「あー」と声を出してみるとちゃんと男の声だ。久々だがちゃんと自分のものだと認識できる。

たわわに実って肩こりの原因になっていた胸もきれいさっぱりぺったんこで、大事な男性器も戻ってきていた。

「……もっかい揉んどけばよかったかな」

出てきた言葉が自分でもばかばかしいものだったので、木村は「バカか俺は」とひとりごちた。

 

*

 

その後木村は菓子折りを持って鴨川ジムに向かい、板垣に惜しまれ、青木に「戻って良かった」と泣かれ、幕之内におかえりなさいと朗らかに笑われ、鷹村とは目をあわせないようにした。

「どうやったら治ったんですか?」と言う板垣に、鷹村が「あー」と余計なことを言いそうだったので、木村は「薬で!!!!!!!!!」と大声で遮り、久々の練習で汗を流した。

 

かくして木村の奇妙な体験は幕を下ろす。しかし、原因不明の奇病。木村はきれいさっぱり治ったと思っているが、また同じことが起きてもおかしくはないのだ。


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