この日、世界は終わった。
「……っは」
夢か。なんだろう、とても悪い夢を見ていた気がする。
真夏日______。 梅雨から夏にかけてのじんわりとした暑さで目を 覚ます。蒸し暑い、気分が悪くなりそうだ。
「..朝」
ぽつりと呟く。窓から漏れる光は間違いなく朝のそれだ。 汗が染み込んだベッドから離れ、クーラーをつける。
クローゼットから、腰辺りまでのワンピースと ショートパンツを取り出し着替えた。汗をかいたパジャマは気持ちが悪い。
徐々に空調が効いてくる中、何の気なしに机の上にあるスマー トフォンを取った。
「……あれ」
思わず声を漏らす。SNSのアプリ表示の上の [999+]という通知数に驚きを隠せなかった。
いつもならこんなに通知がくることはない。多くてせいぜい30~40通程度だ。なのに今日に限って どうしてこんなに?
不思議に思いながらアプリを起動させる。 すると表示される、トーク画面。
「..ッえ、」
目を、疑った。 これまでにほとんどトークをしたことがないよう なグループや友達などのトーク、いつもトークしているグループや友達からも信じられないほどの通知がきている。ひとつひとつ確認しなければならないが、正直恐怖を感じている自分がいる。普段ならこんなに通知がくることはないのだから。
普段あまりトークをしていないグループを開く。かなり通知がきていたので、遡ってトークを確認する。
瑠樺:みんな生きてる?!!
これが最初の言葉だった。普通、冗談でも「生きてる?」と聞くことはあまりないだろう。
だが、驚いたのはこのあとのトークだった。
愛華:生きてるよ!!でも、何これ?
月菜:私も辛うじて生きてるよ。
瑠樺:二人とも、よかった!!でも宙は…?
宙とは、私の名前だ。ちゅうじゃない、そらだ。だが今はそんな解説をしている場合ではない。
このあとのトークによると、何やら毒ガスのようなものが入ってきているということだ。親の姿がない、兄弟が目の前で消えたなど、トークを見進めていくにつれて内容は悪化していった。
その後、よくトークするグループを開いてみたが、どれもすべて同じような内容だった。
個人チャットで送られてきているメッセージにも目を通したが、やはりすべて同じような内容。
だがひとつ、大好きなしんゆうとのトークに目が止まった。みんなとのトーク同様、たくさん通知がきている。
胸騒ぎが襲うなか、恐る恐るトークを開いた。
由香:宙!!大丈夫?!生きてる?!
由香:お願いっ返事して、お願いだから!!!
由香:まさか、もう…
由香:私もそろそろまずいかもしれないの!!
由香:毒ガスみたいなものが、家に入ってきてて…
由香:今、部屋に逃げ込んでるんだけど、そろそろここもやばいと思う
由香:ごめん。もう無理かもしれない。
由香:息が苦しい
こんなトークがずっと続いていた。
心臓がうるさい。
脳が「見たくない」と拒否反応を起こしている。
由香:そら
由香:ごめんね
由香:いままてまめいわぬかの
由香:ごめんなさい
由香:そうだんのぬてくれね
由香:ありがとく
由香:ごめやなはに
由香:だいす
これが由香との、最後のトークだった。
途中から文字がおかしくなっているのは、やはりその毒ガスとやらのせいなのだろうか。
胸騒ぎがする。
そういえばおかしい。朝起きてから、蝉の鳴き声ひとつしない。普段はあんなにうるさくて、消えてほしいとまで思っていたあの鳴き声が今は愛おしくさえ思う。
どくん。どくん。どくん。
心臓が激しく波打つ。
ドッキリだと、みんなが私を驚かそうとしているのだと、そう思いたかった。空想に逃げたかった。
だがわざわざそんな手のこんだことをするものか。と、自分で自分に現実を突きつけられる。
「……そうだ」
バッと立ち上がり、階段を駆け降りた。
もしそれが本当なら。
お母さん____。