「..ら。そら、起きて。そら」
直樹の優しい声に起こされ、私は目を覚ます。と同時に飛び起きて、咄嗟に腕を確認する。そして髪を掴み、自分の髪の長さを確かめた。大丈夫、いつも通りだ。異常は、ない。直樹に目を向けると、直樹は心配そうに私を見ていた。
「あ、よかった起きた。なんかうなされてたよ」
私は苦笑いをすると、自身の頭の中を整理した。
________あれは記憶だ。夢なんかじゃない。
あれが夢だったらどんなに良かったことか、と心から思えるほどの過去。それを私はいまこの瞬間思い出し、再びあの感覚を味わうことになってしまったのだ。あの忌々しい凄惨な記憶が私の脳内にしっかりとこびりついてしまった。
でももし、もう誰もいないならきっと藍奈だっていないはず___。たくさんのひとに生き残っていてほしいと願うなか、藍奈は唯一いなくなってほしい存在だった。
「どんな夢見てたの?」
そう聞かれつい、話してしまおうかと思った。
でもあの思い出をまた掘り返してもいいんだろうかって、喉に何かが引っかかる。
気にしているかもしれない。いまの時点で忘れられていることでも、私が話すことでそれを思い出させてしまうかもしれない。
直樹のやさしい表情に、あの記憶が溶かされてゆけばいいのに。そうしたら私はきっと、藍奈のことなんて考えずに過ごすことができるのに。
再び早くなってゆく動悸。はあはあと息切れをするたび、暑くもないのに汗が頬を伝う。
そのたびに直樹が背中をさすってくれるのが本当に申し訳なくて、つい「離して」、と思ってもいない突き放し方をしてしまう。
「やめて..っ!!!! っ、離して!!!」
それでも懲りず、背中をさすり続けてくれる直樹になんだが申し訳なさすぎて、つい声をあらげてしまった。
やってしまった、と口を両手で押さえると、直樹は上体を起こしたわたしの上にまたがり、私をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫。..何気にしてるのかわかんないけど、話していいんだよ」
直樹があんまりやさしくそう言うから、私はどうしたらいいのかわからなくなって。
溢れる涙も、自分で止めることなんてできなくて。
私は何も言えずにコクコクとただうなずいて、あの夢の話をした。
黙ってうんうんと相槌を打ちながらきいてくれる直樹に安心して、何も考えず見た記憶のありのままをすべて話してしまった。
黙っているから、大丈夫。
もう昔のことだし、直樹だってきっと気にしてなんていない_____。
だが、そう思ったのが間違いだった。