私は、すべてを話した。見た記憶すべて。
教室の椅子に座っていたところから、直樹がなにかを呟いたというところまで、すべてを。
話し終わり、ふと直樹を見ると、直樹は狂気をふくんだ目で下を向き気味にどこかを見ていた。様子がおかしいと思い顔を覗き込もうとすると、直樹がなにかブツブツと言っているのがきこえた。
「直樹?」
名前を呼んでみる。が、反応はない。
肩をゆすってみる。がしかし、それにも反応はない。
なんだか不安に苛まれて、掛け布団から足を出し、ベッドに座るとひたすら直樹の名前を呼び、肩を揺すり続けた。
反応はない。私は怖くなって、思わず直樹に抱きついた。飛びついた、という表現の方が正しいかもしれないが。
直樹しっかりして、お願い。と、そう叫びながら。
「‥っ、は」
ようやく目を覚ましたように、我に返る直樹。
安心したが、やはりまだ不安感がのこる。わたしがあんな話をしたから、直樹はあんな虚ろな目をして、ブツブツなにか呟きながら我を失ってしまったのだろうか。
わたしのせいなのだろうか。
そう思うと申し訳なくなり、わたしは直樹に抱きつくのをやめて思わず頭をさげた。
「ごめんなさい!!!」
すると直樹は「なにが?」とでも言うように首をかしげ、不思議そうな顔をした。
私のために気を使ってくれている。そう思った。
私はいたたまれなくなり、謝罪の言葉を述べた。
「直樹、ごめんなさい。私があんな話したから..っ」
頭を下げたままそう言うと、直樹は私の頭にポンと手を置いた。そしてゆっくりと、その手で私の頭を撫で始める。
そして彼は、優しい口調でこう言った。
「なんのことかわかんないけど、大丈夫だよ」
と。一瞬、耳を疑った。なんのことかわからないなんて、いまさっき話したばかりなのにそんなことあるわけがない。
もしかして、ショックで記憶がとんでるんだろうか。でももしそうなら、私がまたもういちどそのショックを与える必要はない。黙っておこう。
直感で、そうした方がいいと悟った。
「‥ううん。ごめん、なんでもないの。変な夢見てたみみたい、あはは」
適当に笑って誤魔化す。嘘をつくことに罪悪感はあったが、この場合致し方ないだろう。
直樹はふふ、と笑うと、私を抱き寄せた。直樹の体温が私をそっと包む。とても、あたたかい。
大丈夫大丈夫、と言いながら直樹は私の背中をさする。罪悪感と申し訳なさが入り混じり、とても複雑な気分だ。
直樹は私のおでこの髪を右手で少しあげると、おでこにやさしくキスをした。そのキスはとても甘くて、やわらかくて、溶けてしまいそうだった。
直樹の表情はとても儚げで、私を大切にしてくれていることがよくわかった。
いまなら、いけるかもしれない。
私は、賭けに出ることにした。