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「……そら、お疲れ様。よく頑張ったね」
直樹は今までにないくらい優しく、泣きそうな顔で微笑んだ。その手には、さきほど産まれた、新しい生命がしっかりと抱かれていた。私は泣きながら、か細い声でうん、うん、と返事をする。
ああ、産まれたんだ……。
あれから何年経っただろう。思い返せば、なかなかに楽しい日々だった。
最初はSNSの通知から始まって、家を飛び出すようにして直樹の家に行ったなあ。……なんか、すごく遠い昔のことが思い出されているみたいだ。
いっしょにお風呂入ったり、誰もいない遊園地に行ってみたり、擬似結婚式してみたり、お腹にいる子供のことで喧嘩したり。
ふたりだけっていうのが寂しくて、お互いに当たり散らしてはどちらかが謝る日々も続いた。
でも、それも、今日で終わり。
「そら」
直樹は落ち着いた、安心したような優しい声で、私の名前を呼ぶ。私はそんな彼を見つめる。
すると彼は子供を抱きかかえたまま私に近付き、子供を間に挟むようにして私を抱き締めた。直樹の肩が震えているのがわかる。荒い息と、鼻をすする音が聞こえる。
私、この人と。
この人と私の腕の中で泣いている、元気な新しいいのちと、絶対に、絶対に、離れない。
彼が、彼のことが、この子が、この子のことが、
そして_______私は、私のことが、
大好きだ。
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『___……遂事件、被告人とされる真嶋藍奈は容疑を認めており_______…』
院内で流れる、そんなテレビ。
僕はそれを見ながら、またひとつため息をつく。4年程前の夏、ここに運ばれてきたカップルと思われるふたり。彼らはふたりで旅行に行っていたところ、あとをつけてきたのであろう真嶋藍奈に__殺された。
……いや、言い方が悪かった。正確には、殺されてはいない。
真嶋藍奈は、ふたりを“殺そうとした”。なんでも、小学生か中学生のときに被害者の倉持直樹と付き合っていたらしくそれから程なくして別れたのだが、その倉持君に彼女ができたと聞き、それが恋敵だった三上宙だったという。
まあ、嫉妬からきた殺意だったのだろう。
ある日、真嶋は三上さんのSNSのアカウントを見つけた。何か倉持君に関することが書いてないか、探したのだろう。三上さんはあまりそういうことはSNSには載せないタイプだったらしいが、ひとつだけ倉持君に関する投稿があった。
今は削除されているが、それが、「○日に直樹と○○に旅行に行く、楽しみだ」というような内容だったらしい。ふたりの仲の良さそうな写真もついたその投稿に真嶋は激怒し、必死で計画を練ったそうだ。
そして遂に、その旅行の日。
わざわざふたりとは別のバスに乗ってその場所へ向かい、ふたりの向かったホテルまであとをつけて、真嶋もそこに時間を変えてチェックインした。
そしてその夜、真嶋によって、ふたりは殺されかけた。真嶋が出ていったあと、倉持君が残りの力を振り絞って警察に電話をしたことでふたりの命はなんとか助かったが、ふたりはそれからずっと植物状態のままだ。
余りに残忍な犯行だったので当時はネットニュース等にも大きく取り上げられ、4年経った今でもときどき話題に上がるほど。
命は助かったといえど、ふたりの貴重な高校生活の時間を奪ったことは、決して許されることではないだろう。
「先生!!」
そんなことを考えていると、ひとりの看護師がこちらに向かって急いで駆けてきた。どうしたのかと問うと、彼女は青い顔で言った。
「三上宙さんと倉持直樹さんの容態が……」
最後まで聞く前に、僕は走り出していた。良くなったのか悪くなったのかはわからないが、あの看護師の顔色からして、恐らく_______。
病室の扉を開ける。
たくさんのコードを繋がれ、酸素吸入をしているふたりの姿が1番に目に止まった。
「急げ、助けるんだ!!」
その場にいた看護師たちと息を合わせ、僕達は必死に彼らを助けようとした。何も悪いことをしていないのに、殺されかけたふたりを。きっとお互いを本当に想い合っていただろう、ふたりを。可哀想な、ふたりを。
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ピ______________。
残酷だった。
静かな部屋に鳴り響くその無機質な音が、僕達の心をますます締め付け、痛めつける。
「……」
手は尽くした。
しかし彼らの上に覆いかぶさるようにして泣く、彼らを1番愛していたであろう家族を前に、かける言葉も、なかった。
僕は冷静を装い、倉持君の上まぶたと下まぶたを指で引っ張り、目を開かせる。
その時だった。
“あること”が起きたのだ。
そして慌てて、三上さんにも同じことをしてみる。
「これは……」
思わず声に出る。なんとふたりとも、まるでさっきまで生きていたかのように、涙を流したのだ。それも、悲しみの涙なんかではない。美しい、感動の、嬉しさの____涙だ。
「…………」
なんてことだ。
彼らは植物状態になってもなお、無意識下の中で互いを求め合い、巡り会っているのだろうか。
僕の瞳からも、涙がぽろりと落ちた気がした。
-End.
終わりました。
書いてて、とても楽しかったです。
閲覧 ありがとうございました。
もうひとつの新作の方も
是非よろしくお願いします。