インターホンを押してもうかれこれ10分ほど。
彼は______出てこない。
嘘だ。彼までいなくなったなんて信じられ無い、信じない。嘘だ。うそだ。ウソだ。ウソダ。嘘ダ、うソダ、うソだ。
私は気が狂いそうになるのを必死に抑えながらドアノブにそっと手をかける。大丈夫、彼はきっと生きてここにいる。
深呼吸をして、ゆっくりとドアノブをまわすと、かちゃりと音がした。
鍵が、開いてる?
普通ならとても危険だし、おかしいことだが今回は好都合だ。私は勢いよくドアを開き、人の気配のしない彼の家に「お邪魔します!!」と言いながら入った。
ドタドタと、彼の部屋へと続く階段を駆け上がる。すると目の前に現れる、彼の部屋のドア。
大丈夫。大丈夫だ。彼はきっと、この部屋のなかにいる。私と同じように何もわからないという顔をして呆然としている。
コンコン。一応ノックをして、声をかけてみる。
「直樹。勝手にお邪魔してごめんなさい。
入ってもいい?」
やっと出てきたが、直樹とは彼の名前だ。
今まで恥ずかしがりながらも名前を呼び合って、その度にお互い照れたりなんてこともしていた。だがもうイチャイチャした思い出に浸っている場合ではない。
「……そ、ら、?」
「!!!直樹?! 直樹なの?!!」
間違いない。いつもの強気な声とはうってかわって弱々しくはあるが、それでも確かにこれは直樹の声。私を叱ってくれて、慰めてくれて、心配してくれて、私を救ってくれた、だいすきな、声。
良かった。生きていたんだ。そう思うと、少し気が楽になる気がした。家族や友達が消えてしまったかもしれないという不安感は拭いきれないが、それでも生きていてくれるひとがいるだけで心強い。
「..そ、ら。宙、なのか?」
震える声。
やはり怯えているんだろうと心配になるが、ここは私が少し余裕を持たないといけないかもしれない。
「うん、そうだよ。
直樹、あなたが生きててよかった」
そう言う私。声だって自分でもわかるぐらい震えてきて、目尻が熱くなっていることだってわかっていた。
溢れそうになる涙を必死に堪えていた次の瞬間。
「宙……っ」
部屋のドアが勢いよくバンッと開き、直樹が飛びついてくる。
やはり直樹も怖かったのだろう。普段の直樹はツンデレ..というよりはツンギレで、構ってくれることが少なかった。先ほどのお互いが照れ合うようなエピソードは本当にごくわずかで、日常的にそんなことをしているわけではないのだ。
「なお、き」
正直驚いた。
と同時にものすごくどきどきし始める。心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うくらい、直樹は私を強く抱きしめる。
中二くらいまでは私より背が低く、中三の頃には抜くか抜かれないかの狭間という感じだった彼の身長は高校生に上がってから急激に伸びた。心なしか色気が出てきて艶っぽくなった気がする。
そんな彼に置いていかれている気もしていた。
だけど今はどうだ、お互い素直だった昔と同じように、彼とのぬくもりや安心感をからだいっぱいに感じられている。
でもそういうことは、このとんでもない状況を抜け出してからゆっくり考えることにしよう。