「……ごめん、やっぱ顔見て言ってほしいわ」
直樹は私を自らの身体から離して、私の両腕を掴んだ。抵抗しようとするも、中学の頃から強かった直樹の力は高校にあがってより一層強くなっている。声も出せずにいる私を、ゆっくりと押し倒していく直樹。私が倒れこむのに合わせて、小さくギシッと音がなる。その音が何故かとてもいやらしく部屋に響いて、恥ずかしさとなぜこんなことになっているのかがわからないという気持ちが私の中から溢れ出てくる。
ようやく声が出せるようになってきた頃、もう私は直樹のベッドに寝ている状態だった。時すでに遅しというやつだ。押し倒されたことに不快は一切感じていなかったが、上からのアングルで見られるという初めての体験に、もう心はいっぱいいっぱいだった。
「ほら言ってよ、俺のことすき?」
そう言った直樹の目はどこか狂気を含んでいて、落ち着いていないというのは一目瞭然だった。口角をつりあげてわらう直樹は狂っているみたいで、私はそんな直樹に恐怖を隠しきれなかった。
でももしかしたら、私がちゃんとすきと言ってあげれば戻るかもしれない。そうだよ、きっとそうだ。と、おかしな期待を胸に抱き、私はなるべく笑顔で言った。
「うん、すきだよ。だいすき」
正直真正面からこんな言葉を言ったことがなく、自分で言っておいてかなり恥ずかしくなった。顔が熱いのが自分でもわかる。両腕で今すぐにでも顔を隠したい気持ちだが、あいにく両腕は直樹にがっちりと掴まれてしまっている。そもそも小学校の頃から腕相撲にも勝てたことがないのに、腕力で勝とうなんて無理があったのだ。
直樹は私の言葉を聞いて、少し嬉しそうにわらう。その表情を見てほっとしたのもつかの間、直樹はすぐに元の狂気を含んだ瞳に戻った。そして再び私の耳元に顔を近づけると、また囁いた。
「俺は愛してるけど」
どきっとした。「愛している」というワードだけで、ここまでドキドキさせられてしまうものなのかと思った。正直言って直樹にこんなこと言われるとは思ってもいなかった。言われたこともなかったし、そういうのは言う人じゃないから。でも「愛してる」と、そういった直樹の声は今日話した中で1番低くて、直樹も男の人なんだ、ということを改めて実感させられた気がした。
耳元に吐息を感じて、ついからだがそれに反応する。
だめだ、こんなの。ちゃんと話し合わなきゃなのに_____。
そう思っていると、直樹は私に軽くキスをして、両腕をはなした。まだ押し倒されている状態ではあったが、両腕が自由になったのでさっきのような拘束感は減った。だが黙っている直樹を見て、どうしようと目を泳がせる。すると直樹が、おもむろに私を抱き寄せた。
今日だけで何度、私たちは抱き締めあったのだろうか。直樹のぬくもりが、シャンプーの香りが、また戻ってきた。
「怖がらせて、ごめんな」
申し訳なさそうに言って、私のことを一層つよく抱き締めた。ああ、直樹の匂いがする。なんてこんなことを考える自分は変態かもしれない。でもこの独特な甘い香りは、私のぜんぶを包んでくれている。
その香りに埋もれそうなひまわりの香りが、一瞬だけ鼻を掠めた。