性犯罪が存在しない世界の定住ガイド 作:一般ヘテロ市民
今回は前回の居酒屋ぶどりでちらっと出たナナリのお話です。是非ご堪能下さい。
火曜日、午前。
いつものように通学途中の学園生相手に商品を売って、ある程度客足も捌けたタイミング。
次のラッシュは昼頃だなと気が休まったところで俺は物思いに耽る。
昨日は大変良い日だった。ちぃさんに手を出した翌日という余韻もあるが、月曜日は月曜日でバイト終わりのセフレちゃんとイチャイチャできたからだ。
ベッドの上で初のお賃金を手渡し、そのままオチンチンも挿入。ファンスの入った封筒の側で、制服姿の彼女を四つん這いにさせてバックで突きまくる絵面はさながら援交のよう。
セックス終わりには俺の思いつきで一枚、写真を撮影させてもらった。普段はそんなことしないし、彼女は撮られることに抵抗感ありありだったが、何でも言うこと聞く権をひとつ発行することで非常に渋々ながらの許諾に漕ぎ着けた。
貴重な機会なので、わがままついでに写真は細かな指示を出してパシャリ。『これっきりですからね!』とお小言をもらったが、返答代わりにキスをして有耶無耶にした。
なので今の俺のスマホフォルダには『封筒を口で咥え、恥じらうように目元を片手で隠し、M字開脚で陰唇を指で広げて精液を垂らした、どう見ても未成年の制服を着崩した女学園生』の画像データがある。
所持しているだけでも犯罪臭が凄い。でもヘテロシティでは無罪なのでセーフ。
これで不意にムラっときて、でもセックスする相手が今はいないどうしよう! なんて事態になっても安心だ。この世界、オナネタなんていくらあったって良いんだから。
(今度デートに誘って外で青姦とか……は流石に無理かな)
写真でも渋々だったので、屋外など普通に断られそう。でもいつかやってみたいな、なんて呑気に考えていた。この時間帯は本当に客が来ないので暇だ。
だったのだが、珍しくその自動ドアが開いた。
「いらっしゃいませ〜」
俺はすぐさまコンビニ店員に気分を戻し、対応しようとそちらを見る。すると、目に映るのは見覚えのある赤毛の少女だった。
「いよっす、わかばの旦那。あっしが来たぜ!」
「おやナナリちゃん、いらっしゃい」
やって来たのは、ほとりさんの店『エイボン』に喧嘩を売って骨董品をぶっ壊し、巡り巡ってそこの従業員になった女の子。ほとりさん曰くクソガキのナナリ・コリンス。
確かにこの前の居酒屋ぶどりではここに寄ると言っていたが、こうも早くに来るとは思わなかった。フットワークが軽いのは素晴らしいことだが、エイボンの仕事はないのだろうか。
それに『わかばの旦那』とはまた堂に入った呼び方をする。確かナナリちゃんは自身をコリンスファミリーの一代目、とか言っていたかな。俺への呼び方はその振る舞いの一環なのかもしれない。
そんな彼女は丸メガネの奥でキョロキョロと店内を見渡し、そそくさと俺の前までやって来る。
「それで急なんすけど、ちょっと匿ってくんない?」
「え? なんだって?」
「あっしをここで匿ってほしいっす」
聞き取れなかったのではなく、受け入れ難かっただけなのだが、しかし本当に急だ。
匿ってくれってことはその必要性がある何かに追われているわけで、ここで匿えば俺も巻き込まれるかもしれない。本当なら慎重に判断したいのだが――。
「匿うって、いったい誰から?」
「それを説明したいのは山々なんすけど、今はその時間も惜しくって……」
チラチラと窓ガラス越しに外の様子を伺いながら、ナナリちゃんは俺に語る。そして終いには頭を下げて懇願してきた。
「今は旦那だけが頼りっす! お願い! 助けて!」
なんともきな臭い要件だ。
ナナリちゃんはこの前と比べて随分と余裕がなさそうな表情。俺としては普通にお客さんとして来て欲しかったが、流石に冗談ではなさそうだし、悠長にしている時間もないか。
これがナナリちゃんではなく顔も知らない男なら追い出して終わりだが、彼女はほとりさんのところの従業員。俺が匿う理由としては充分だ。
「……こっちの階段上がって。二階は俺の家だから、そこで息を潜めるといいよ」
「マジっすか! 恩に着るっす!」
ナナリちゃんをレジ奥に通せば、彼女はスタッフオンリーの階段をドタドタと駆け上がり、姿を消した。
(つい引き受けちゃったけど、大丈夫かな)
今更ながらターミネーターみたいな理不尽に追われてはいないだろうなと思慮が追いつく。
ヘテロシティは人間相手だけではなく、アノマリーにも警戒が必要なので、常識の範囲だけでは警戒が足りない。もしかしたらが普通にあり得るのだ。
はてさて彼女はどんな面倒事に巻き込まれたのか。内心戦々恐々とはしつつも、なるようになるさと半分お祈り。顔に出てはいけないので気分は素知らぬコンビニ店員のままで固定。
しばらくもしない内、何やら外の商店街が騒がしくなった。
そしてあからさまな男が一人、うちに入店する。
「いらっしゃいませ〜」
俺は努めていつものように挨拶をした。
男はこちらに一瞥をくれると、悠然と店内をうろつきだす。
一見強面なだけの普通の客。普段であれば休憩ついでに立ち寄った会社員かなと思う程度の風体。
けれどよくよく見れば違和感があった。男の視線は商品ではなく、等間隔に並んだ棚の間に向いている。それこそ追っている誰かが隠れてやしないかと探しているようだった。
外にはこの男以外にも、似たようなスーツの男たちがこの商店街を行き交っている。商売繁盛の賑やかさではない。『そっちはどうだ?』だの『こっちにはいない』だのと物々しい喧騒だ。嫌になる。
「なあ、兄ちゃん。こんくらいの赤い髪のガキを見なかったか?」
早くどっか行かないかなーと思っていると、さっきの男が何も商品を持っていないのに、レジの俺に話しかけてきた。
「赤髪の子どもですか。なぜ探しているのか伺っても?」
「そいつがうちに忘れ物してよ。届けてぇんだ」
「なるほど……ちなみにその子の性別は? 年齢や背丈など分かるでしょうか?」
「こんくらいの獣特徴がある女だ。年齢は十代半ばくらいだ」
「ふむ……ん〜……いえ、すみません。うちに来る学園生にそういった特徴のお客様はいないですね。お役に立てず申し訳ありません」
わかばマートに来る客で、ガキという呼称が適切な年齢層はこの辺だとクレイモン学園生が大半。つまり、俺が本当にナナリちゃんを見ていなければ必然的にガキと学園生を結びつけるのが自然なはず。
矛盾はないと思うが、命綱なしの綱渡りをしている気分だ。一言でも間違えれば、一度でも態度を誤れば、即落下の綱渡り。気を配ることが多くて冷や汗出そう。
「よろしければ連絡先など頂けましたら、その特徴の子をお見かけした際にご連絡差し上げられると思いますが」
「……いや、そこまでしてもらうほどじゃない。悪かったな。商売の邪魔したみたいで」
「いえいえ、今は他にお客様がいないので大丈夫ですよ」
ビジネススマイルで言って返す。
そうだよな。ナナリちゃんは明確に追われていることを自覚して逃げていた。だのに追う男は『忘れ物をしたから』などと嘘を付くくらいだから、恐らく追う理由は一般的な正当性がない。仮にこの男が公序良俗に反する立場ならば、どんな情報であれ、第三者に深掘りされたくはないよな。
嘘は嘘を呼ぶ。やがて綻び、誰の目から見ても矛盾が生まれる。たったひとつの嘘でもこうして簡単にその腹を探られるのだから、俺も極力嘘は付きたくないものだ。ちぃさん? だってあれはセックスできたし。
「……」
男が帰っていく。去り際、彼は不躾にレジカウンターの陰や階段をチラ見するが、追求まではしてこなかった。
またのお越しをお待ちしております、なんて俺は最後までスマイルをサービスしてやりながら退店する様子を見送る。もちろん心の底では『玉餅商店街騒がしてんじゃねぇよ。迷惑だろうが、二度と来んなカス』と吐き捨てるが、思うだけなら無料だ。
出ていった男は仲間だろう人たちと外で合流し、やがてぞろぞろとどこかへと去っていく。
その様子を静かに眺めていると、不意に向かいで野菜屋を営んでいる清和さんと目が合う。彼はこっそりと俺に親指を立てて爽やかに笑った。
そうか、彼も位置関係からしてナナリちゃんがここにいることは目撃していたはず。その上でどうやらあちらも誤魔化してくれたらしい。後で礼を言っておこう。
俺は清和さんに会釈を返して、少し様子を見る。
もしかしたらあの男たちが引き返してくるかもと、念には念を入れた警戒だったが、なんとも静かなもので数分経過した。
(本当にどこかに行ったっぽいな)
最後にもう一度外を確認して、俺は二階に上がることにした。昼まで客は来ないとは思うが、一応レジにはスタッフ呼び出し用にベルを置いておく。長時間離れるつもりもないので万引きの心配はしなくて良いだろう。
「ナナリちゃん、たぶん危機は去ったよー」
説明はされなかったが、あの男たちが匿ってもらいたかった理由に違いない。全くもってとんでもない話である。何をやらかせばあんな大所帯に狙われることになるのか検討もつかない。
男はナナリちゃんが忘れ物を〜とか言っていたが、どう聞いても嘘だろ。白々しすぎて笑いそうになったわ。
「ナナリちゃん?」
黙って上がればあの追手たちかと勘違いされかねないので、呼びかけながら階段を踏み締める。てっきり第一声で『助かったっすよー!』なんて出てくると思っていたのだが、返事がない。
「扉、開けるからね?」
リビングの扉前、ここまで来ても返事はない。
上がり框に靴はあった。それを置いて窓からどこかに行ったとは考えにくい。だからこの扉の向こうに居るとは思うが、聞こえていないのか?
「ナナリちゃん、終わっ……たよ」
「ほぇぁッ!?」
なんていうことでしょう。
リビングに出しっぱなしだったディルドを自らの腹に当てて長さを測っていたナナリちゃんの姿を目撃してしまった。
「や、なっ、こ、これは違うっす! ほんのちょびっとの出来心というか、あの、あれで!!」
ナナリちゃんが赤面しながら何か言い訳をしている。その様だけを切り取るならば可愛いの一言。
ディルドは昨日セフレちゃんに使ったものだが、他にもローションや電マなども出しっぱなしだ。当然ナナリちゃんに見られただろう。
各種道具は手入れこそ都度しているから汚くはないが、セフレちゃん以外を家に上げることを想定していなかったのですっかり片付けることを失念していた。しまったな。この気まずい空気、どうしようか。
いや、それよりも。
「好奇心がくすぐられた感じ?」
「そっ、そうっすね! かー、旦那は言葉にするのが上手い! そんであっし好奇心旺盛なものだから――」
「好奇心は猫を殺すって言うもんね」
「こ……え? ははっ、いやぁ、あっし猫じゃなくて、虎……」
尻すぼみに彼女の言葉が消えていく。
まるで何かに怯えているようだった。
一歩、彼女に近づけばビクッとナナリちゃんの肩が跳ねる。
「あっし、ここで殺されるんすか!?」
「殺さないけど?」
物騒な。物の例えに決まってるだろう。助けるために匿ったのに、本末転倒させる意味がない。
「でも、なんか顔が怖いっす」
「そりゃあ怒ってるからね」
正確には今のナナリちゃんを見るまでは怒ってはいなかった。むしろ心配とか、
けれど、どうだ。
ナナリちゃんは人様に、どころか玉餅商店街全体に迷惑を引き込んでおいて、謝意を見せるでもなく、悪びれるでもなく、ディルドに興味を向けていたんだ。
それらを片付けていなかった俺にも非はあるかもしれないが、そこは棚上げさせてもらう。それはそれ、これはこれだ。真に罪悪感があるのなら、どのような部屋であろうと注意は逸れないはずである。たぶん。
つまり、今のナナリちゃんは当事者意識が欠けている。他人に迷惑を掛けた自覚がないのなら、また似たような状況を再現するかもしれない。これはほとりさんもクソガキ判定を下すわけだ。
まあ、怒ってはいるが裏腹に冷静でもある。
この怒りだってナナリちゃんを心配する気持ちの方が強い。迷惑掛けたくせに何してんだって憤りは少しだけだ。本当だよ?
「ナナリちゃんを追ってた奴らだけど」
「あ、はい。どうなったっすか?」
やや不安そうな上目使いが俺を見上げる。普段元気な女の子のしおらしい一面はなかなかに唆られてしまう。
「……」
言葉が詰まる。もう大丈夫だと思う、そんな一言だけが出てこない。
伝えれば今の状況は終わりだ。アイツらが戻ってくる前にナナリちゃんは俺の家から出ていくだろう。
一対一の密室。
邪魔をする人間はいない絶好の機会。
どうして手を出さない選択肢など取れようか。
「まだこの辺をうろついてるかもしれないから、しばらくこの部屋にいるように。カーテン開けたり、物音立てたりしないでね」
「分かったっす」
言ってしまった。しかし、後悔はない。
実のところ、ちぃさんに手を出してから俺の中のストッパーが明確に緩んだ自覚がある。あの前例ができたことで、これくらいなら良いだろうというレイプ可否のハードルが低くなった。
だから実際に手を出すかどうかは別として、そのための準備を進めるくらいはする。準備段階で
けれど準備を進めて、全部が整ってしまえば、それはもう理性では止まれない段階となる。そうなればナナリちゃんには時の運として貞操は諦めてもらおう。
それはさておき、今は話を戻す。
「ところで何で追われてたの?」
「それは――」
訊くと、コリンスファミリーとして街の見回りをしていたナナリちゃんは、路地裏で黒スーツの男たちの怪しげな取引を目撃してしまったらしい。
「そんで取引を見るのに夢中になっていたあっしは、背後から迫り来るもう一人の仲間にも気づいて渾身の回し蹴りをお見舞いしてやったっす」
「強い」
しかしその騒動で取引していた奴らにも存在がバレて、多勢に無勢で逃走開始。いつの間にかもっと仲間を呼ばれて大騒動。一息つく暇もなく、どうしようとなっていたところで近くに俺のコンビニがあることを思い出したそうだ。
総じてどこの名探偵かなといった感想だが、ひとまずナナリちゃんが悪くないことだけは分かった。いや、一人でそんな危ないとこ行くなとか、もっと警戒しろだとか、非の打ち所はあるけれど一旦話は切ろう。
「俺はほとりさんに連絡入れてくるから大人しくしててね。あと、それが終わったらお仕置きするから」
「えぇ!? どうしてっすか!?」
「今回の騒動はナナリちゃんが無警戒に路地裏に入ったことが発端だし、頼られたのは嬉しいけど多少の迷惑は掛けられたからね」
言うと、ナナリちゃんは仕方なさそうに受け入れた。営業妨害で賠償金とかを請求しているわけではないので、抵抗する気もないのだろう。
「ま、そんなに厳しくするつもりないよ。お尻パンパンくらいで許してあげる」
「うぅ、母親にも叩かれたことないのに! この歳でそれされるのはなんか恥ずかしいっす」
「罰にはなるでしょ?」
「そうっすけどー!」
じゃ、覚悟しといてねー、と俺はリビングを後にして階段を下りる。
何か叩かれるだのなんだのと言っていたが、はて? 誰もお尻ペンペンなんて言ってないんだが勘違いしているのかな。してそうだ。するように言ったし。
取り敢えずスマホの連絡先からほとりさんを探し出し、ワンコール、ツーコール。
「はいはい、どーした?」
「ほとりさん、すみません今良いですか?」
「良くなきゃ出てないさ。で? 何の用だ?」
「ナナリちゃんのことで」
一通り事のあらましを説明。
もしかしたら追ってる連中がまだ付近にいるかもしれない可能性を見込んで、一旦こちらで匿うことを約束した。
「うちの馬鹿が迷惑掛けたみたいで悪いね」
「いえ、実害は出てないので気にしないでください」
「そういうことなら任せた。そいつらのことはこっちで調べとく。一応安全確保できたら連絡するから、ナナリのことは頼んだよ」
「はい。では」
次の準備はセフレちゃんだが、こちらはまだ授業中かな。チャットの方で連絡を入れておこう。
『商店街付近で多数の不審者がうろついていたから、今日は安全のためにお店を閉めます。休業手当は出るのでバイトには来ないように!』
セフレちゃんの方はこれで良し。
客が来ないように自動ドアも施錠。閉店の貼り紙も忘れずに。ベーグルでも不審者云々で本日閉店と告知をすれば準備は完了だ。
窓ガラス越しに何か大変そうだねと同情的な清和さんと目が合うので、俺は再三会釈を返して二階へ。
彼目線では臨時休業に追い込まれるほどの面倒事を抱えた店主に見えるのかもしれないが、これはセックスをしたい自分都合の閉店なのでお気になさらず。絶対言わないけど。
さて、逃げ場のない男の家に女の子が一人。しかも逃げ込む候補に上がるくらいには多少なりともこちらに気を許している様子。
こんなのほぼ据え膳だろう。食わなきゃ損損。
(準備、終わっちゃった)
心がテーマパークへ向かう子どもみたいに跳ねる。足取りはゆっくりと二階へ。これからのことを想像して若干ズボンの股間部が膨らむ。窮屈で少し痛い。けれどもう少しの辛抱だ。
「お待たせー」
リビングに入れば、所在なさげなナナリちゃんが椅子に座って待っていた。
そうだよね、性玩具が散らかってる知り合いの部屋で待ってたらそうなるわ。お茶でも出しとけば良かったかな。でもこれから犯すし、大差はないか。
「あー、お疲れ様っす。さっき姉御から連絡が来て『事態が落ち着くまで預かってもらえ』って」
「うん。そういうわけで本日のわかばマートは閉店。好きなだけ居ていいよ」
というわけで一拍、切り替える意図で手を打つ。
「じゃ、さっそくお仕置きしよっか」
「うぇぇ本当にやるんすかー? せめてこう、別のお仕置きとか」
「店の手伝いをしろって言ってるわけじゃないんだから受け入れなよ」
「いやいや、むしろそっちのほうがマシっすよ〜」
頑なだ。ただ異性に尻を触れられることが嫌ってよりかは、年齢不相応のお仕置きが恥ずかしいって感じかな。
実際尻を叩くわけではないのだが、流れをセックスまで持ち込むためにはこちらにケツを向けさせる必要がある。ならばお尻ペンペンほど良い口実もない。
よって内容の変更は却下なのだが、それを嫌々と言う彼女をどう説得しよう。
報酬で釣るか。
「じゃあ終わったらゲームでもどう?」
「え、ゲーム? どんなやつっすか?」
「デジタル系が色々、ほらそっちの箱に仕舞ってるやつ」
世界が違えば歴史が違う。だからか俺が知っているゲームはこちらにはない。しかし似たようなゲームは存在していて、かつ全く目新しいゲームも山のようにあった。
そんな玉石混交の中から評判の良い有名どころがいくつか我が家にはある。シティライフで生計を立てていた時期に言語習得ついでに色々買って、気づいたらドハマリしていた結果の産物だ。
気分は完全初見でポケモンやモンハンを始めた大人。楽しくないわけがない。
特にここに住み始めてからは液晶ディスプレイを買って大画面で楽しめるようになったので、最近では据え置きゲームのソフトにも少しずつ手を出している。
「ほへー、確かに色々ある……あっこれやってみたかったやつ!」
ディスプレイの近くにはゲーム機と段ボールがある。段ボールの中には各種ゲームソフトのパッケージが綺麗に収まっており、そこからナナリちゃんは物色し、選んだのはこの世界の色んな創作キャラが操作できる複数人対応格闘ゲーム。
「それを選ぶとはなかなかセンスが良い。一応全キャラ解放してるから好きなの使えるけど、やる?」
「ほんとに!? やるやる!!」
語弊を恐れずにいえば、某スマッシュでブラザーズみたいなやつである。アノマリーや操作キャラの異能要素が複雑に勝負に絡んでくるので、ちょっとした操作で展開が二転三転する愉快なゲームだ。
ナナリちゃんは待ち切れないとばかりにパッケージを開けてソフトを取り出そうとする。逸る気持ちが抑えられないといったところだろう。
うん、なにしれっとゲームに移行しようとしてるんだ。
「こらこら、お仕置きが先だってば」
「くそぉ、誤魔化せなかったっすか」
油断も隙もない。
こういう対戦ゲームでわちゃわちゃしたいという気持ちは俺にもあるが、流石に優先順位はセックスの方が上だ。
ゲームで釣るというのは我ながら良い手かと思ったのだが、まだ足りないらしい。やり口を変えよう。
「……あぁそっか、コリンスファミリーの一代目は逃げるんだ。お尻パンパンが怖いから」
「はぁ!? それはちょっとばかし聞き捨てならないっすよ!!」
「いやいや、いいって。なんかごめんね? 一代目への配慮が足りなかったよ。もっと怖くないお仕置きにしようねー」
「ぷっちーん!!」
それ言葉にするんだ。
「ええい、それならもう覚悟決めてやる! コリンス一代目が逃げも隠れもしないってことを証明してやるっす! ほらぁ!! 好きなだけ叩けぇっ!!」
逃げも隠れもしたからこの場にいるのでは? とツッコミを入れるのは野暮として、ナナリちゃんはその場で四つん這いになり、尻を向けてきた。
十代の女の子が自分から俺に尻を向けている。どころか左右に振って誘うような動きすら見せていた。
(思ってた以上にえっちだな)
短いスカートから覗くのは、ピッチリフィットした丈の短い黒のスパッツ。腰から揺らめく尻尾は風に吹かれる煙のようだった。
「ならお言葉に甘えて、始めようか」
さて、今までの経験から分かることだが、この世界の人間は元の世界の人と比べて貞操への危機感が極端に薄い。なぜならば性的に襲う人間がいないからだ。
確かに危機感は薄い。だが前の世界っぽい貞操観念自体はある。だからいざレイプしてヤろうとなると『それはっ……』となるわけで。
つまるところ、この世界の女性は『人が来ない釣り場の魚』みたいなものなのだ。釣られたことがないから警戒心がない。でも釣られそうになると抵抗する。
俺にとっては都合の良い入れ食い社会。
そんな社会においても普通に強盗とか、暴行や詐欺など、そういった犯罪は存在しているし、誰しもがそれらに多かれ少なかれ警戒心を持っている。
だから不用意には襲えない。こちらがイニシアチブを握るか、知り合いをすけこますくらいしかやりようもない。それでもレイプ後の問題が少ないだけで性欲の獣にとってここは天国に違いないのだ。
翻って、ナナリちゃんについて。
「……ん、旦那? やるなら一思いに叩いてほしいんすけど、どうしたんすか?」
例えばだが、性的関係にない女性の性感帯に許可なく電動マッサージ器を押し当てる行為は立派なセクシャルハラスメントであり、前の世界であれば当然犯罪だった。
「んぇ? なんすか、『ブブブッ』って……ちょぉっ!? それどうするつもりっすか!? 待って、洒落になってない!!」
ならばここ、ヘテロシティではどうか。
セクハラ? なにそれ? である。
「ほら、ナナリちゃんがお尻叩かれるの嫌だって言ってたからさ」
「言ったっすけどぉ! 普通そうはならないから! ってかあっし叩かれるの受け入れたじゃないっすか!!」
がっしりと腹の下に片手を回して彼女の腰を固定する。残る片手には電源を入れた電マが震えていた。
「それに純粋に気になることもあってね」
「……一応訊くっすけど、何が?」
「獣特徴の異能者って、性感帯も獣特徴があるのかなって」
「え? ちょっ、待っ――」
言って、俺は彼女の尻尾の付け根に電マを押し付ける。
「ぁあああ゛あ゛」
「あーもう、勝手に動かない」
身を捩って逃げる逃げる。まるで釣り上げた魚のようで、俺はそれを逃がすまいと必死にしがみついて電マを当て続けた。
「無理、無理無理無理っ! 反省したからっ! もうしないからぁっ!」
「ごめんなさいで済んだら治安官はいらないよね」
セックスまで事を運んでいないのに、わざわざ止めるわけがないんだよなあ。
「取り敢えず、絶頂するまでいってみようか」
「鬼畜!」
とはいえ、あまり一箇所に集中させてもよろしくない。特に今攻めているのは腰だ。これが腰の凝りを解す程度ならばともかく、長期間当て続けるのは腰痛に繋がりそうだ。
俺はナナリちゃんを犯したいのであって、不健康にしたいわけではない。なので悶える様子を見つつ、ひょいと電マの対象をスパッツ越しのクリトリス付近へ変更。
「なお゛おおぁッ!?」
ははっ、発情期の猫みたい。
尻尾をピンと立てて、腰だって自分から高く持ち上げてしまった。そんなに挿れてほしいのだろうか。もうポーズからして誘っているようにしか見えない。
(まだ挿れないけどねー)
クリトリスから陰唇、陰唇からクリトリスへと上下に擦り付けるように電マを動かす。
ついでに彼女を捕まえている手で腹部を軽く押し込む。中指と薬指を使ってクニクニと膣辺りを外から刺激してやるのだ。
「ぅぁ、ううっ、ぁ゛っ、なぁんっ!」
ある程度攻めたところで、とりわけ大きくナナリちゃんの身体が跳ねた。電マを止めてやれば、ここぞとばかりに彼女は脱力する。
ナナリちゃんからすればようやく休めるといったところだろう。面白いのは尻尾や獣耳も脱力と同時にペッタリと垂れたことだ。こういうところを見ると本物なんだなあと実感が深まる。
「上手にイケて、偉いね」
俺は彼女の耳元で囁いた。
ナナリちゃんは息も絶え絶えでまともに会話できそうにない。平時であれば何かしら言葉を返してきていただろうに、顔だってこちらに向いていなかった。だから今の彼女がどんな表情なのか、俺には分からない。
普通なら嫌われたとか、そういう想像ができる。けれど如何せん、ここはヘテロシティだ。とんでもないセクハラをかまして、相手が想像通りの反応をするかは未知数。この程度ならばもしかしたらスキンシップとして許容されるかもしれない。
ナナリちゃんの表情を観測しないことによって量子的にセーフの可能性が生まれる。そうだ、これをナナリンガーの猫と呼ぼう。
などと、茶番は置いておき。
怒っているにしろ、そうでないにしろ。俺のふざけた言葉に反論がないのは、彼女にそれほどの余裕がないからに違いない。
ここからは時間の勝負だ。
俺は素知らぬ顔で天井に向けて直立するイチモツを露出させる。ナナリちゃんはまだ気づいていない。
「ところでナナリちゃん覚えてる?」
スーッと彼女の大腿に両手を沿わせ、スカートの中に潜らせる。獣耳がピクリと動いたので話は聞いているのだろう。尻まで撫でられていることに言及はない。
「まだお尻パンパン、してないよ?」
「……ぇ?」
スパッツを下ろしてひん剥けば、下着にプリントされた猫ちゃんマークと目が合った。大人のショーツではなく、お子様パンツって感じだ。もちろん、それも脱がす。
「ちょっとぉ!? なにっ、本当なにしてんすか!?」
ここまでされると流石に反応してしまうようで、気力を振り絞ったように彼女は振り返り、声を荒げた。
振り返ったナナリちゃんの視界には、勃起チンコもろ出しの俺と無理矢理露出させられた自身の下半身が映るわけだ。当然の疑問である。
「なにって、お尻パンパンの準備」
「……だって、さっき」
「俺、一言でもお仕置きの内容を変えるって言った?」
そう、言ってないよね。
「じゃっ、じゃあ! 脱いでるのはなんでなんすか!? 叩くのに、脱ぐ必要なんて――」
「あぁ、お尻ペンペンじゃなくて、お尻パンパンね。後ろから腰を打ちつけるの」
これを挿れてね、と逃げられる前に挿入。
「ぉぐっ」
ぐちゅぐちゅにほぐれたナナリちゃんのマンコは、滑らかに俺のイチモツを呑み込んだ。途中で一瞬だけ異物感があったが、なんてことはなく突破。恐らく処女膜だったのだろう。あまりに呆気ない。感覚からしてかなり薄かった。これなら痛みもそんなにないのではなかろうか。
「はぁーっ、はぁーっ、これっ、冗談じゃ済まないっ」
「ナナリちゃん、腰トントンされるの好き?」
「話をっ! 聞けっ!!」
いい加減怒らせそうというか、まだ怒ってないことが奇跡の上の産物のようなものなので、真面目に彼女を味わうことにする。
「そんなに怒ると疲れるよ。今は気持ち良いことだけ考えよう」
「だからっ、腰動かさっ」
「ほーら、腰トントントン」
「ひゃぐっ、ヤバいっ、それぁ゛っ」
ナナリちゃんの腰を掴んで、動物の交尾みたいに打ちつける。尻尾のこの辺が気持ち良いのかな。膣のスポットはこの辺が良い反応をしてくれる。
そんな観察と実践を交互に繰り返せば、なんていうことはない。簡単に人の言葉を話す余裕がなくなった女の子が完成した。
演技を交ぜられるとこうはいかないが、所詮は十代の処女。セックスの前に一度絶頂を迎えているだけあって、感度は良好のようだ。
こうも良い反応をする女の子なら何度も相手をしたいというのが男としての本音ではあるが、物理的な現実の話をすれば今日は一回しか射精できそうにない。
「ほんとごめんねナナリちゃん」
「謝るっ、くらいなら、抜けっ!!」
「お詫びにいっぱい気持ち良くさせるから」
「んぁぁ゛っ」
一昨日はちぃさん、昨日はセフレちゃん、と連日射精しているので普通に複数回するほど精力が回復していない。
だから本当はナナリちゃんに手を出さなくても良かったというか、ほとりさんの従業員であることも考慮すれば手を出さない方が良かったまであるのだが、ヤれそうな機会が巡って来ちゃったのだから仕方なし。
「絶対っ、ぁ゛ん、ヤバいっ、のにッ」
口では何か言ってるが、ナナリちゃんの足腰は俺が支えていないと倒れそうなくらいに脱力している。そのくせ腹筋が鍛えられているからか膣の締まりはとてもいい。
尻尾の付け根を刺激する度に、きゅうきゅうと膣肉が収縮してこちらの射精感を促してくる。おかげで前後に腰を動かせば膣ヒダがぞりぞりと竿を舐めあげてきて最高だ。
「ほら出すよ。しっかり受け止めて、二代目に恥じない母親になってね」
とうとうそれが我慢できなくなって、俺は突き上げるようにナナリちゃんのマンコの一番深いところへ亀頭の鈴口を押し当てた。
瞬間、そこから快楽が溢れ出る。
ビュゥッと勢い良く出た第一射を皮切りに、断続的に勢いを落としながらも、ナナリちゃんの子宮に俺の精液が注がれていく。
疲労がどっと押し寄せて、けれどこの『孕ませたかもしれない』という瞬間が俺は大好きだ。今頃無数の精子が彼女の卵子目掛けて泳いでいるのだろう。我ながら終わってる性癖だとは思うが、諸々の問題はこのヘテロシティであればなんとかなるはずである。
「ふーっ、ふーっ……出したっすね、出しやがったっすね。本当に」
四つん這いのまま、涙を浮かべたナナリちゃんが俺を見ていた。じんわりとした熱が腹の奥で主張しているのだろう。その顔は否定できない現実に葛藤しているようだった。
「これであっしのお腹がぽっこり膨れたら、旦那どうするんすか」
「赤ちゃんできたねおめでとう?」
「普通ならそうなんだけど! あっしはその普通の過程辿ってないから! 旦那をそういう目で見てなかったのに、恋愛のれの字も知らないままあっしお母さんになるんすか!? つーか責任取るくらい言え!!」
元気が戻ってきたようで何よりです。まあ空元気だろうけれど、前の世界ならこうはいかない。いやそもそもこんな世界じゃなきゃ俺もやらないけどさ。
「……はぁ」
体勢を変えて床に寝っ転がったナナリちゃんは、そうやって一度虚脱感を感じさせるため息を吐く。互いに少しだけ息が荒く、少しだけ気まずい沈黙が残る。
さあここからどうやって丸く収めようか。そんな風に俺が思案をこねくり回していると、ナナリちゃんの方から口を開いた。
「とりあえず、何でこんなことしたんすか?」
割り切りが良いのか、抑え込んだのか。言った表情は比較的冷静に見えた。
「ナナリちゃんが魅力的な女の子だったから、かな」
「み……いや、にしたって手段は選ぶべきっすよ。旦那は色々と段階を飛ばし過ぎっす」
段階も何も、セックスが目的なんだから選択肢はヤるかヤラないかの二択でしかない。まあ聞く感じ、ナナリちゃんが言わんとすることはそういうことではないようなのでこれは言葉にはしない。
「ほー、ならナナリちゃんが辿りたい段階ってどんなの?」
「そ、それはぁ……あー、あれっすよ! こう、一緒にショッピングとかテーマパークとか行ってぇ、お互いのことを深く知ってから、その……さっきみたいなことを」
乙女の言葉が夏場の氷みたいに溶けていく。可愛いね。
「じゃ、今度それもしよう」
「ぇ? い、いやいや、だってあっし自身、旦那のことが好きかどうかも」
「嫌いじゃなきゃ良いよ。なんなら嫌いになったとしても好きにさせてみせる。だからナナリちゃんの理想も叶えよう。そうしたら今日の出来事だって順番が多少前後しただけの話になる」
そっと倒れている身体を抱きとめて、顔を覗く。
丸メガネの向こうには揺れる瞳があり、頭上では獣耳が忙しなく動いていた。
「それとも俺は嫌かな?」
「……そんな、ことは」
ぐいっと抱き寄せて訊けば、熱に浮かされたような言葉で彼女は返してきた。これは押せばいけそうだ。普通はね、性的に襲ってきた相手なんだから嫌だって言うんだよナナリちゃん。
これはある意味では洗脳に近いのかもしれない。
激しい運動による心拍数の増加は吊り橋効果に近いものがある。運動後のただでさえ脳に酸素が足りていないところに、この世界では誰も想定していないレイプという情報は非現実的すぎて処理し切れないだろう。
そこに畳み掛けて別の判断を求めれば、まともに処理できるとは思えない。結果、判断能力が低下しているから要求を通しやすい、みたいな。
「俺の女になれ、ナナリ」
「……はい」
もしくはナナリちゃんがチョロいだけか。
さて突然ですが問題です。複数の女性と関係を持っている俺が、ナナリちゃんにだけこんなことを言う理由は何でしょうか?
(よし、これでセックスの正当性は確保と)
正解は保身でした。
流石に恋人でもないのに手を出しましたは俺がほとりさんに殺されかねない。あの人はナナリちゃんをクソガキと呼んでこそいるが、それはそれとして実の家族のように大切にしてもいる。ナナリちゃんに無体を働いたとなれば、ほとりさんは犯罪どうこう関係なく地の底まで追いかけて落とし前をつけさせることだろう。
つまり、レイプ後のアフターケア(保身)である。この程度で問題がなくなるのだから楽なものだ。
ただこうするとセフレちゃん方面にこれまで有耶無耶にしていた別の問題が生まれるのだが、これはバレるまでは放置で良いだろう。
「……ん、なんか、あっし丸め込まれてないっすか?」
「そんなことないよ。それより、続ける? それともシャワー浴びる?」
「あー、シャワー借りるっす。流石に続きはちょっと身体持ちそうにないんで」
「ならさっぱりした後でゲームにしようか」
「言ってたっすね。いやそれは楽しみなんだけど、あれ? これあっしがおかしいんすか?」
突かれて付き合って、そこからゲームはまあ早々ない流れだろうけれど、そんなもの人の数だけ違いがあるのだから気にするだけ無駄だ。
立ち上がり、立ち上がらせて、一緒に風呂場へ。
「うぇ!? 一緒に入るんすか!?」
「俺もカピカピになる前に股間洗いたいからね」
することした仲なのでと、勢いに任せて身体を洗い合う。一糸纏わず乳房と秘部をできる限り隠そうとするその初々しさは微笑ましかったが、興奮を誘うだけなので止めてほしい。風呂場は絶対外に響くから手を出せないんです。
ナナリちゃんが頭と前は自分で洗うと言うので、俺はすっぽりと覆えそうな彼女の小さな背中を黙々と洗う。滑らかで、けれど所々に古傷のある肌に泡が立っていく。
昼間の狭い浴室で、シャワーの音だけが反響する。
「じゃあ次、代わるっすよ」
濡れて艶やかさが増したナナリちゃんがバスチェアから立ち、俺の背後に回った。
素直に座る俺の背中に泡を纏ったボディタオルが当てられ――次いで彼女は俺の背中に頭を預けてきた。パタパタと少しだけ動いた獣耳がこそばゆい。
「……ここでもしないんすか?」
「してほしかった?」
「や、そんなことはないっすけど」
いきなりレイプしてきた男と全裸で二人きり。ナナリちゃんからすれば、いつ二度目が始まるのかとでも思ったのだろう。
俺の女に〜という発言に勢いと雰囲気で肯定してしまって、けれど次第に冷静になって不安にでもなったのかもしれない。
だのにそんな中で襲われる気配が一向にないから痺れを切らして訊いてきたのかな。
「あっし以外にも女、いるっすよね」
「……いるね」
あっ違うわ。いや合っている部分もあるのかもしれないけれども、純粋に嫉妬の比重が強いわ。
何でナナリちゃん以外にいると分か……リビングに証拠が散らばってましたね。むしろ俺用だと思わないでくれてありがとう。それはそれとしてどうしようか。
ギュッとタオルが握られたことが押し当てられた背中越しに伝わる。それが彼女のどうしようもない葛藤のように俺には思えた。
「ファミリー……だから。いなくなったら嫌っすよ」
呟きのような言葉だ。けれどこの距離では聞き漏らすはずがない言葉でもあった。
「言われなくても、いなくならないよ」
「なんか、言いたくなったんすよ。旦那の背中見たら『これがあっしの男か〜』ってなって、もしかしたらあっしのお腹に赤ちゃんができるかもって思ったら……」
「そっか」
「だから……あれっす。あっしの男なんすから、実質旦那ももうコリンスファミリーのメンバーも同然。というか、加入を強制するっす。本当なら下っ端の新人からだけど、一代目の男なんで特別にナンバーツーの地位をプレゼントっす」
「そりゃ光栄なことで。ちなみにファミリーが実は二人しかいませんでしたってオチとかある?」
「なぁ!? それは失礼っすよ! ちゃーんと他にもメンバーはいるっす!」
そもコリンスファミリーがどんなもので何をするものかも把握していないのだが、そんな俺をナンバーツーにされても困る。なので今更ながらコリンスファミリーとはなんぞやと訊ねれば――。
「『ニーニーの大冒険』ってアニメは知ってるっすか?」
「いや?」
「むむむ、ならそこから説明するっす」
つまるところ、ギャングらしい。
「???」
「一見何の変哲もないコンビニが実はギャングのアジトだった! って展開めっちゃ面白そうじゃないっすか?」
「それ意外性を重視しすぎてコリンスファミリーの規模がしょぼくなってない?」
「いやいや、親玉の居場所が日常的な場所だったってだけで、本部みたいなのは別っすよ」
ごっこ遊びとアウトローの中間ってところかな。ほとりさんが手綱握ってる分なら今後もたぶんセーフだろう。ビックリした。いきなり反社勢力に巻き込まれたのかと思ったよ。
「はぁー、昼間のシャワーってのも案外乙なものっすね〜!」
シャワーを終えて、リビングに戻る。ちなみにナナリちゃんの服装は一見着ていたもののままだが、下着は愛液で汚していたので履けずに洗濯。今は俺の替えのトランクスを貸している。
俺がコリンスファミリーの正式メンバーに強制加入させられた辺りから、俺とナナリちゃんの間にあった気まずさは鳴りを潜めた。関係性が戻った、というより以前よりも少しだけ近くなった気がする。
「お、尻尾ケア終わった?」
「バッチリっすよ。ほら見てみてこの艶、我ながら綺麗に整えられたんすよ!」
「本当だ。凄いな」
ちなみにナナリちゃんがシャワー上がりの毛並みケアをしている間、俺は情事の残り物を掃除したり、道具の片付けをしたりして待っていました。
そうしてリビングに戻ってきたナナリちゃんは、金持ちが飼ってる猫みたいな毛並みになって帰ってきたのだからケアとは凄いものである。
「あっしも今日で大人の階段を一歩登った……というか登らされたんすけど……ともかく今日から旦那の女っすからね〜。ケアにも力が入るっすよ」
言いながら彼女はそのままディスプレイ前でゲーム機にソフトを挿入して、ソファにどっかりと座る。まるで十年来付き合った彼女のような振る舞いだ。ビックリするくらい馴染むのが早い。
今日の出来事からこんな形に転がるなど、今更ながら驚きだ。
今でさえ、お茶を用意する俺に向かってソファの空いた隣をポンポンと叩く催促までするのだから、度量が広いというかなんというか。流石はファミリーの一代目を名乗るだけあって、本当に相応しい器なのかもしれない。
「あっし動画で見たことあるだけなんで、最初は手加減してほしいっす」
「了解、ならアイテムありありのランダム性が強めなルールで最初はやろうか」
「そこは任せるっす。はいこれ、コントローラー」
ナナリちゃんの隣に座れば、さりげなく半歩寄ってきて開いていた隙間を埋められた。肩同士が触れそうな、けれど邪魔にはならない接近だ。可愛らしいね。
コントローラーを手渡され、ゲームを始める。
男女二人。けれどそこにイヤらしさはなく、温もりと対戦に盛り上がる熱だけが満ちた空間が形成されていく。ここだけを切り取れば、仲の良い異性の友人に見えるかもしれない。そんな距離感。
終わりが見えたのはそれから数時間してからのこと。
ほとりさんから連絡が入り、事態が収束したことを告げられ、楽しいゲーム大会もお開きとなった。
俺はほとんど部外者なので詳細までは訊かなかったが、何やら治安官が何十人も動員される大捕物にまで発展したらしい。夕方のニュースで報道される規模だ。
「じゃあそろそろあっしはエイボンに帰るっすよ」
「うん、気をつけてね」
自動ドアの施錠を解いて、ナナリちゃんを見送る。外の様子はいたって見慣れた商店街の客通り。不審者の影はない。
「……送ってくれないんすか?」
「一般人はね、戦えないんだよ」
「はー、情けないっすね〜」
何とでも言うがいい。俺は足手まといになるつもりはない。やれることといったら、精々無事に帰れることを願っとくくらいが関の山だ。
ただ野生のアノマリー被害とかもあるわけだし、俺自身も自衛手段は持っておいた方が良いのは確かである。今回だってナナリちゃんの不用心が発端とはいえ、町中での話だし。もしかしたら俺が同じ立場になる日が来るかもしれない。
「そこまで言うなら今度戦い方とか教えてよ」
「え? あっしっすか? 旦那が良ければあっしの師匠を紹介するっすけど」
「人に教えることで分かることもあるだろうからね。ナナリちゃんの成長に繋がるかもだし、それにナナリちゃんと会う口実にもなる」
「あー、確かに色恋に耽っているよりかは外聞が良いっすね」
俺とナナリちゃんの関係性がどうなろうと、大前提として彼女はエイボンの従業員。頻繁に会うにはそれなりの理由も必要だろう。
戦術指南役としてナナリちゃんを派遣してとほとりさんにファンスを包めば、何も憂うことなく家に招くことができるはずだ。
「その辺は師匠と姉御に相談してみないとあれっすけど……まあ、なんとか話はつけてみるっすよ」
言って、不意にナナリちゃんの顔が近づいてくる。いつの間にか胸ぐらも掴まれていて、反応したときには既にすべてが彼女の思いのままだった。
ちう、と唇を吸われて、顔が離れていく。
「へへっ、これでちょっとはやり返せたっすかね? んじゃあっしはもう帰るんで、また今度っす!」
駆け足で彼女の背中が遠ざかる。
キス逃げされて、少しだけ呆然としてしまった。
やりおるなあ、と唇に残る熱に意識を割いていたのだが、何やら視線を感じる。なんぞやと見てみれば、本日度々視線の合う向かいの清和さん。
「いよっ、色男!」
「うっせいやい」
「え? なになに! 今面白そうな気配を感じましたよ!」
「おおっと、それが聞いてくれよルーリンさん。わかばの店でさっきさあ!」
「言うな言うな、てか仕事しろお前ら」
「お客さんが来たら接客するよー。それでそれで?」
向かいの清和さんと左隣のルーリンさんが俺を肴に話し始めた。どうやら暇を持て余していたらしい。よく見れば他の店のやつらも聞き耳を立てている様子。噂は爆発的に広まりそうだ。
玉餅商店街の一員として、こういうフレンドリーな一面は大好きだし、逆の立場なら俺もそうするけれど、まったくどうしたものか。
――これでちょっとはやり返せたっすかね?
(とんでもない反撃喰らったよ)
これたぶんセフレちゃんへの牽制だよなぁとか思いつつ、俺は今後の立ち回りを考えるのであった。
NTEの予告番組は毎回大ボリュームで凄いですね。
そしてナナリ復刻! 最初の期間限定キャラということで、今まで手に入れられなかったという鑑定士さんはチャンス到来ですよ!