天才幼馴染のヒモ生活 作:猫屋敷てん
懐かしい夢を見る――
昔、昔の話だ。
まだ純粋な幼馴染でしかなかくて、ただの直哉と琴葉でしかなかった頃。
中学生と小学生。成長して俺の学年が上がろうとも、俺達の関係が幼少から変わることはなかった。
それはまるで仲の良い兄妹のようであり、家が隣同士だったからというありふれたきっかけではあったが、それだけ仲良くなれたのは相性が良かったのだろう。
「琴葉ももう少し相手のことを考えられたら、世間を生きやすくなるんだけどな」
「ぶー。だって私悪くないし」
「その気持ちもわかるが、手は出しちゃいけない」
「むー、むー!!」
そんな会話をしながら、傷だらけの琴葉の手を引いて、帰路についた日の記憶。
琴葉は友達と喧嘩をしてしまったらしい。
いや、喧嘩相手の彼女達を友達と評するのは琴葉に叱られるかもしれないので訂正するが、まあ喧嘩だ。
陰口を叩かれ、それを偶然聞いてしまった琴葉は女子五人を相手に真っ正面から殴りかかったという。
琴葉は普通とは違うところが多々あって、特に小学生の頃はそのせいで人付き合いが壊滅的だった。
相手に合わせるということができず、自分の特殊な価値観を全面的に押し出すことは、トラブルの元にしかならない。
「何でみんな、世界の音が聞こえないんだろ」
「……聞こえないもんだよ。自分と相手は違う。それを知ることが大切だ」
琴葉には、世界の音が聞こえるらしい。
それはつまり他の人が何とも思っていない日常の音に、意味を持たせる感性だ。
そのせいで親とも意見の食い違いを起こすのが琴葉だった。
今でこそ普通の人に合わせることもできるようになった琴葉だが、小学校の頃はまだそういうこともできず孤立していた。
「なお兄も聞こえないの?」
「聞こえないな」
「なのに私と音を聞いてくれる」
「琴葉を一人にしたくないからな」
「ふーん」
だから琴葉が俺に懐いたのは、その価値観や感性を否定しなかったからだろう。
もちろん俺だって琴葉の言っていることはあまりわからない。
しかしそれでもわかろうと努力したのは、可愛い妹分だから。
「まあいいや。ねえ、なお兄の音聞きたい。帰ったらギター弾いてよ!」
「まだ下手くそだぞ」
「それが良い!」
笑顔でせがんでくる琴葉に、俺は苦笑しながら帰路につく。
その日は琴葉の両親の帰りが遅く、俺の部屋で琴葉は過ごした。その時に聞かせたギターの音色は、まだ初めて数ヶ月程度だからとても下手くそなものだった。
でもその時間が幸せだったのは、言うまでもない。
◇
音が聞こえる。
ピチャピチャという水音と、下手くそなギターの音色。
この音色は、確か俺が大好きなバンド〝ガリウス〟のものだろう。
中学生の頃どハマりし、俺がギターを始める切っ掛けにもなったバンドだ。
それを下手くそなギターで奏でるのだから笑ってしまう。
はて、それにしてもこの混じっている水音は何だろう。
それに下半身がとても温かくて気持ちが良い。まるで極上のサウナに入っているような、このまま解放されたいような、そんな気分だ。
「ん♡ ふんす♡ んっぽ♡ ぐぽ♡ くぽ♡くぽ♡ くぽぽ♡」
ああ。出てしまう。何が出るのだ。よくわからないが、ものすごい快楽がやってくる。
温かな唾液のようなものと共に、まるで生気を吸い取るようにジュルジュルと吸引される。
無理矢理俺の大切なものを吸い出される、もの凄い気持ちいい快楽だ。
「らへ♡ らへ♡ んー、ちゅっ♡ れろ♡えろ♡ れろれろ~♡♡」
可愛らしい声と共に温かくて柔らかいものが這いずり回り、俺は腰をビクビクとさせる。
出てしまう。出るのは精液だ。この柔らかいものに包まれて、俺は呆気なく射精してしまう。
「らへ♡♡♡ んべ」
「うおっ――」
そして這いずり回るものが、鈴口をべろんと舐め上げたことで、俺は呆気なく射精した。
ドビュルルルルルルル♡と音を立てながら勢いよく発射して、俺はあまりの快楽に飛び起きる。
「へっ? えっ? こと、は?」
「あ、おひは。んべー♡」
俺の目の前には、ちょこんと座った琴葉がいた。
大きくあけた口は真っ白に染まっていて、満たされた液体の中で舌がチロチロ動いている。
ネバネバとして濃い液体は酷い臭いを放っているのに、琴葉は恍惚とした表情を崩さない。
ふと視線を移せば履いていたズボンは半脱ぎにされ、唾液まみれになったちんぽが露出している。
これはいわゆるおはようフェラというものだろうか。
目を細めた琴葉が美味しそうに精液を味わっている姿はとてもエロかった。
「ん、く♡ こくこく♡ ん、くん♡ ぷはっ…………おはよ、なお兄」
「お、おう。……おはよう」
「何だかズボンが大きく膨らんでいて苦しそうだったので。美味しかったよ♡」
チロッと舌を出しながら、蠱惑的な表情でそう言う琴葉。
朝勃ちを見られてしまったらしい。そしてそれを見て、よしフェラをしようという思考になるのも、琴葉らしいといえばそうだ。
「……まあ、ありがとう」
「んー」
とりあえず目の前の頭を撫でておく。寝起きだから少しボサボサな黒い髪は、とても撫で心地がよかった。
琴葉そうすれば気持ちよさそうに目を細めて、ほんと猫みたいな子だ。
「で、この音は?」
そして俺は、どこからか聞こえてくる下手くそなギターの音色を琴葉に尋ねる。
恐らく琴葉の仕事部屋から聞こえてくる音だろう。もう聞きたくないほど嫌な音だ。
「なお兄の音! 今CDかけてるから」
「琴葉…………はぁ」
まあそうだろうな。これはもう黒歴史となった、中学生の頃のギターの音だ。
当時は上手く弾けていた気になっていたらしいが、今聞けば下手の横好きというレベルだ。
それにこの曲、よく聞けばガリウスじゃない……。
「この曲のどこに俺がいるんだよ……」
俺はそう、口の中で消え去る声量で呟く。
それはよくよく聞けばだれでもわかる、俺の大好きなバンド、ガリウスの影響を多大に受けたんだなという凡人の曲だった。
ハッキリ言えば、下手くそが作ったガリウスもどき。そんな曲だ。
「ん、なお兄?」
「……もう止めてくれ。俺は嫌いな音だ」
少し強めに、俺は琴葉の肩を掴みながら言う。
「何で?」
「俺の曲じゃない。これは下手くそな、ガリウスのコピーだ」
「…………」
だが琴葉、じっと無表情で俺を見ていた。
その目は何かを言いたげで、口元がむにむにと動いている。
「何でなお兄はそう言うのかなー……」
そして含みを持たせるように、琴葉は呟く。
「んー! まあ、良いよ。止めてくる」
「……ああ。ありがとう」
「うん。そしたら朝ご飯にしようよ! 今日はベーコンエッグ!」
「そうだな。準備をしよう」
そう言って口元の精液をペロッと舐め取った琴葉は、立ち上がってパタパタと駆ける。
その背を見ながら、俺は聞こえてくる下手くそな音と琴葉との差に胸が苦しくなる。
琴葉は、最初に作った曲から琴葉のものだった。
俺みたいに劣化ガリウスもどきしか作れない凡人じゃない。
どこにもないメロディーを生み出して、オリジナリティ溢れる曲を作った天才だった。
一番近くにいた俺だから、琴葉の凄さがよくわかる。
最初は悔しくて頑張っても、結局凡人は天才に勝てぬのだという現実を知るだけだった。
その上歌声にも天性のものがあり、琴葉は最初から完成されていた。
劣化ガリウスもどきから抜け出せなかった俺とは違う。
俺はその圧倒的な差に心を折られて、音楽を止めた。そして成功していく琴葉に嫉妬して、逃げた落伍者だ。
「なお兄!」
「今行く!」
そんな俺を、なぜ琴葉は愛するのだろう。
◇
三枝さんが尋ねてきてから、俺達の関係が変わったかと言われると、変わったとも変わっていないとも答えられる。
変わっていないのは、インモラルなその関係だ。
変わったのは、より過激になったその関係だ。
俺は未だ琴葉の箱庭から抜け出せずにいて、毎日セックスする日々を過ごしている。
頑張って足掻いてみた。しかし最初からずっとそうだ。俺は、琴葉に勝てない。
凡人と天才の差とでも言うか、琴葉を前に俺は溺れることしか許されぬのだ。
朝起きたら先ほどのようにおはよう朝フェラ。それでまずは一日の活力を抜かれる。
そして朝ご飯を食べたら、仕事をする前の琴葉とセックス。
最近は後ろから乱暴に突かれるのが好きなようで、リビングのテーブルに手を突いた琴葉を立ちバックの体勢で犯している。
男優位の体勢のはずなのに、主導権は琴葉が握っている。そんな感じのセックスだ。
俺は琴葉の柔らかい体に抱きつきながら、パンパンと腰を振る。いつもなら琴葉を犯す優越感のようなものを感じるのだが、最近はそんなものも感じずただ快楽のままに腰を振っていた。
まるで性欲に狂った猿だ。とても人間だとは思えない。しかし俺は琴葉の体に溺れるように、乱暴なセックスをする。
そして最後は子供をつくるように一番奥に射精をするのだ。
それで琴葉は頭がスッキリするようで、おまんこから精液を垂らしながら鼻歌交じりに半裸で二階へと上がっていく。
リビングは恐ろしいほど性臭で満たされ、俺はすぐ服を着て換気をした。
そうしてようやく俺は一息つけた。とはいえそれも少しの間だ。
昼になれば性欲をたぎらせた琴葉が二階から下りてくる。
そうしてまたセックスだ。
俺が自由でいられるのは、琴葉が仕事をしている時だけという状況。
三枝さんが来てから琴葉の執着と性欲が増大していた。
俺をもう傷つけさせないと、琴葉はドロドロの愛で溶かしてくる。
俺が何かを考える必要はない。ただ快楽に浸っていれば良い。
未来のことなんて考えるなと、今の気持ちいいだけを考えるのだと、そう琴葉は伝えてくれる。
「ねえなお兄♡ 気持ちいい?」
「ん。こと、は……」
ソファの上で、対面座位の格好で俺達は抱き合う。
琴葉を抱きしめながら、その大きな胸に吸い付き、赤子のように乳首を吸う。
ちんぽは琴葉の柔らかおまんこに包まれて、とんとんとあやしてくれた。
「なお兄は可愛いね♡ よちよち♡ お外は怖いよね♡ だからずっとここにいよう♡」
琴葉が頭を撫でるたび、その母性に溶かされる。
このまま気持ちいい生活を続けて、琴葉のおっぱいから母乳が出るようにしよう、なんてことまで考える。
堕落。ああ堕落だ。今までの堕落なんて目じゃないほどに、俺は今堕落している。
琴葉という監獄から逃げられず、その愛に溶かされている。
「ばぶちゃんみたい♡ もっと吸って良いよ♡ このままおまんこに射精して、母乳出るようにしてみよ♡」
「うん。琴葉……」
「可愛いなあ♡ なお兄♡♡」
こんな情けない俺に、なんでそんなことを言うのだろう。
わからない。最初からそうだ。俺は琴葉のことを理解しているんじゃない。ただ否定しなかっただけだ。
本当は琴葉という人間を、俺はぜんぜん知らなかった。
「出る……」
「あんっ♡♡」
――ドビュルルルルルルル♡♡
今日何度目かの射精なのに、たっぷりと琴葉のお腹の奥に注ぎ込む。
熱々精子が子宮に侵入し、赤ちゃんを作ろうと蠢いている。
後は全て琴葉次第だ。琴葉が薬を飲むのを止めた瞬間、赤ちゃんが出来て俺は一生ここから出られなくなる。
それじゃあ駄目だと――そう、思っているのに。
「はぁ、はぁ。気持ちいぃ♡♡ なお兄も気持ちよかった?」
「……あ、ああ。きもち、よかった、ぞ」
「そっか。良かった。じゃあ私午後の仕事に行ってきます!」
そう言って立ち上がった琴葉は、ショーツだけ履くと曲作りだと二階へ足を運ぶ。
その姿を見ながら、俺はふと思い出したように声をかけた。
「あ、そうだ。琴葉」
「ん、どうしたのなお兄?」
「琴葉……ちょっと、出かけてくる」
「…………」
俺がそう言えば、すっと琴葉は双瞼を細める。
何を言っているのだと言いたげで、そっと俺へ一歩踏み出してきた。
険しい顔をする琴葉に、俺は慌てて弁明する。
「出て行くとかそういうのじゃない。ただの買い物だ。スーパー行かないとだろ。夕飯の食材がもうない」
「…………そっか。お買い物。なら、早く帰ってきてね」
「ああ……そうする」
その説明で納得してくれたのか、ニコッと微笑むと琴葉は背を向ける。
だがその笑顔すら、俺の背筋を凍えさせるほどに深かった。
「そうだ! ねえなお兄、今度から食品や日用品は通販を使おっか。そしたら外出る必要ないもんね」
「えっ? いや、食品ぐらいスーパーに買いに行く。お金が勿体ないだろ」
「外は怖いよ? ね、なお兄♡」
「…………」
琴葉は有無を言わせぬ笑顔を浮かべる。
だがそこは一線であると俺は思う。外出の自由も奪われたら、もう二度と格好いい兄ちゃんに戻ることはできなくなる。
だから俺は、それだけは同意できなかった。
「……スーパーに行くだけだ。何も怖いことはない」
「…………」
俺がそう言えば、すんと琴葉は表情を変える。
「そっか……まあ、近所のスーパーに行くだけ。うんうん、まあそれなら良っか」
もう一度にこやかに微笑んだ琴葉は、そう言って二階へ駆け上がっていった。
「……ふぅ」
どんどんと、琴葉の愛は重くなる。ただ近所のスーパーに行くだけで、ここまでの押し問答になるとは思わなかった。
琴葉の姿を見送りながらも、俺は急いで外出の準備をする。
食材と日用品の購入。今のところ予定はそれだけだが……。
「少し、町の方へ行くか」
このままじゃ駄目だという思いがある。
もう一度俺が真人間になるために、どこかで一歩踏み出さなければならないのだ。