次回の投稿は少し間が空いてしまうと思いますが、ご容赦ください。
普段はゲームシナリオライター目指して、同人ゲームのシナリオを書かせて頂いています。
この作品は、練習と気分転換を込めた私的作品となっておりますので、宜しくお願いします。
霧崎蓮(キリサキレン)
姫野恵(ヒメノメグミ)
初音美咲(ハツネミサキ)
姫野恵と初音美咲は付き合ってもう二年になる。これに友達だった期間を足すと、美咲とは今年で三年の仲だった。
私は女しか愛せない。
生まれつき――と言うべきなのだろうか。
初恋の相手も、小学校の片想いも女の子だった。
最初はそういうこともある。と、事態を軽く受け止めていたが、歳を重ねるごとに私は皆とは違うと思い知らされた。
美咲と初めて会ったのは中学三年生の頃。
凛とした目つき。腰まで伸びた混じり気のない黒髪は、太陽の光を受けて負けじと輝いていた。
美咲は隣のクラスの人気者で、そんな彼女に一目惚れしてしまう……。
彼女と友達になることは難しくなかった。私も女の子だから、美咲に近づくこと自体は容易である。
男なら、気軽には話し掛けられなかっただろう。彼女はそう思わせるだけのオーラを纏っていた。
美咲と『ただの友達』の関係で満足出来なくなってしまったのは高校一年生のこと。
カミングアウトした時はさすがに驚かれたけど、美咲はそんな私を受け入れてくれた。
『こんな私を愛してくれてありがと』と、感謝の言葉まで掛けてくれたことを記憶している。
それから私達は晴れて恋人同士になることが出来たのだった……。
……。
――っ!
教室に鳴り響くチャイムの音でふと我に返った。
まどろみの中で、昔のことを考えていた気がする。
退屈な数学の授業が終わり、ようやく昼休みが始まった。
授業中は美咲と話すことが出来ないので、正直苦痛でしかない。
美咲との時間以外は灰色の世界。
そう思えるほどに、私の中の美咲は膨れあがっていた。
――それに、気掛かりなのは霧崎蓮。
美咲とはどこまでの仲なのだろう。私の知らない場所で話していたりするのだろうか。
私だって四六時中美咲に付きっきりでいられるわけではない。表向きは『大親友』だし、美咲を置いて他の友達と戯れることもある。
「美咲、ちょっといい?」
「どしたの? 恵」
そう――学校では私と美咲は『大親友』だ。
それ以上でもないし、それ以下でもない。
このラインを踏み越えることは絶対にしてはいけないことだった。
戸惑う美咲の手を強く引いて、階段の裏の空きスペースに移動する。
ここなら誰も見ていないし、誰も来ないだろう。
私は浮気の有無を問いただすように、彼女に詰め寄り詰問を始める。
「ねえ、美咲。霧崎とは仲良いの?」
「へ!? そ、そんなっ」
この反応は……。
美咲は明らかに動揺していた。
私と目を合わせようとせず、口元はピクピクと動いている。
これ程分かり易い子も珍しい。
普段は美咲の可愛い一面で済ますことが出来るのだが、今日は苛立ちしか感じなかった。
荒ぶる口調を抑えながら、しっかりと美咲を見据えて問い詰める。
「霧崎とは仲良しなの?」
「……め、恵には関係ないっ」
彼女が絞り出した言葉は、私の胸を切り裂くには十分過ぎる重みだった。
まさか……。
まさか既に恵と霧崎は。
嫌な想像を振り払おうとしても目の前の美咲の挙動がそれを阻止する。
その場から微動だにしない割に目線は宙を舞い、下唇を噛みしめている美咲。それは典型的な嘘つきの動作だった。
「か、関係ないって何よ! 教えてくれたっていいじゃない! それとも、何かやましいことでもあるの?」
「そ、そんなわけない……!」
美咲は今にも泣き出しそうな顔を浮かべる。拳を強く握り締めているのか、指は白く変色していた。
何か私に言えない事情があることは、火を見るより明らか。
「ねえ、美咲。本当に何もないの?」
「当たり前だよ! 私は恵だけが好きなの……」
彼女と霧崎の間に何かがあったことはおそらく事実だろう。
そしてそれを美咲は隠蔽しているこも……。
しかし、美咲が何もないって言っているのだ。これ以上詮索するのは『彼女』として褒められたことではない。
何より、これ以上責め立てて彼女に嫌われるのが怖かった。
嫌われたくない。拒絶されたくない。私には美咲しかいないのだ。
「わかった。じゃあ……キスして?」
「え!?」
「私は美咲を信じるわ。だから、キスして欲しい……」
突然の提案に美咲は思わず素っ頓狂な声をあげた。
無理もない。ここは家でもホテルでもなく、すぐ近くに生徒が大勢いる学校の中なのだ。今も男子の喧騒や女子の黄色い声が聞こえて来る。
「恵、ここ学校だよ……?」
「お願い、美咲……」
美咲が欲しい。
今の私には、美咲が私と想い合っているという証が欲しかった。
そうでもしないと、不安と恐怖で心がバラバラに砕けてしまいそうだったから……。
「わかった。恵がそう言うなら……」
美咲は綺麗な二重瞼を閉じ、薄桃色の唇を私に向ける。
それを迎え入れるように、私も目を閉じてそっと唇を合わせた。
――触れ合った部分から美咲の温もりが伝わる。
幸せ……。
この刹那が続くなら、私は今死んでも後悔しないだろう。
このまま縺(もつ)れ合いたい思ったが、さすがにそれは踏みとどまるべきだと感じた。
周りの喧騒さえなければそのまま吹っ切れていたかもしれない。そう思ってしまうほど、美咲とのキスは魅力的だった。
理性の欠片に縋る思いで、泣く泣く美咲から離れる。
しかし、遅かったようだ。
――っ!
「今の音……」
私が目を開けた瞬間に映ったそれは、走り去っていく人影。
額から嫌な汗が吹き出すのを感じた。いつの間にか左手は小刻みに震えている。
「もしかして、見られたかな?」
美咲は、気まずそうに笑いながら人差し指で頬を掻いていた。
気丈に振舞っていたが、美咲の声も震えている。
私達が最も恐るべきことはこの関係が明るみに出てしまうこと。
一時の不安と欲求に負けて美咲を欲しがった自分を呪いたい。
教室に戻るまでの道のり――私達は言葉を交わすことが出来なかった。
…………。
……。
*
なんてことをしてしまったんだ。
人生の中で、死にたいほど辛い時があるとするなら、それは今だろう。
僕は悲しみで息が詰まりそうだった。
いや、実際胸がズキズキと苦しい。
なぜなら、僕は美咲さんにフられてしまったからだ。
上手くいく勝算などまったくなかった。いや、寧ろなぜ勝てると思ったのか自分に小一時間問いただしたい。
本当はもっとちゃんと時間を掛けて友達と恋人の境界線を溶かしていく予定だった。それが、まだ友達と言い張ることすら出来ない段階で告白してしまうなんて……。
美咲さんには『霧崎君のことよく知らないから、付き合えない』と一蹴されてしまった。
そりゃあ、そうだろ。僕達は同じクラスになってからまだ数えるくらいしか言葉を交わしていないのだから……。
唇からは、思わず失笑が溢れた。
「はは、ははは……」
最後の威勢で諦めないと宣言したはものの、僕自身どうしていいか分からない。
きっと彼女も出会ったばかりの男にそんなことを言われて、どうしていいか分からなかったことだろう。
そんな僕の大失敗から数日が経った。
ああ、美咲さんは今日も変わらず美しい。
長い黒髪に目が行きがちだが、他のパーツも一つ一つがまるで宝石のように輝いていた。
庇護欲を掻き立てるような白く透き通った四肢。
豊満とは言えないが、男子の目を惹き付けるには十分な量の胸。
すらっとした鼻立ちの下には、あどけない桃色の唇がちょこんと添えてある。
勉強も出来るし体育の授業でも羨望の的。
そんな完璧美少女の代名詞のような存在――初音美咲だったが、最近彼女に関する黒い噂が流れていた。
なんでも、同じクラスの姫野さんとキスしていた姿を見たという人がいるらしい。
最初は僕含め、皆が鼻で笑った。
だってあの美咲さんに限って……。
けれどその二人をそういう目で見ようと思えば、確かにそう見えなくもない。
親友にしたって、美咲さんと姫野さんは仲が良過ぎる。
この二人が学校生活で別々に行動しているところをあまり目にしない。美咲さんに告白をするチャンスすら掴むのが難しかったくらいだ。
そして、極めつけは最近の二人。
彼女らが会話をしている姿をここのところ目撃しない。
これは、何か疚しいことがあるのではないか。
広まりつつある噂に対して、怯えているとしか思えなかった。
美咲さんはそのせいか表情に陰りが見られる。
まるで、華麗なはずの薔薇が日陰で弱ってしまっているような――そんな印象を受けた。
――美咲さんのあんな顔は見たくない。
男性として、美咲さんを想う人として、彼女のあんな姿は見過ごせなかった。
僕はおもむろに立ち上がり美咲さんの前に立つ。今なら姫野さんも割って来ないだろう。
「ねえ、美咲さん……」
「――っ! な、何かな?」
僕が話し掛けた途端、彼女はビクッと震え出した。
まるで周りの目線を気にしているように、キョロキョロとする美咲さん。
「ちょっとお話が……」
「えっと……階段の裏でいいかな? あそこなら誰も来ないから」
こ、これは!
美咲さんの方から二人きりになりたいって言ってくれた……!
――いや、調子に乗るな。
これはそういう類の物ではない。きっと姫野さんの視線を気にしているんだ。
これから確かめようとしているのに、つい噂を信じて推察してしまう。
教室を出る時に、姫野さんの目から殺意の眼光が放たれていたことは気の所為だろうか。
僕は焼け付くような視線から逃げるように、美咲さんを連れて階段の裏に移動した。
そう言えば、噂の中で美咲さんと姫野さんがキスしていたのは此処だったな。
「……それで、お話って何かな?」
上目遣いで僕を見上げ、これから僕がするであろう話を待つ美咲さん。
この子はこういうことを素でやっているから困る。
やっぱり僕は諦めきれない……。
「噂のことなんだけどさ……あれって本当?」
「……」
しばし沈黙が時を制する。
美咲さんは目を瞑り、ひと呼吸置いてから口を開いた。
「……だとしたら、何?」
絞り出したような声で、僕に問い掛ける美咲さん。
先ほどまでの笑顔は剥がれ、怯えとも怒りとも形容出来ない顔で僕を睨み付けた。
「え、あ、いや……」
ここでビビってどうするんだよ、僕!
謝って逃げ出したい気持ちを抑え、自分を奮い立たせた。
「何もないなら帰るけど……?」
上目遣いから一変して、美咲さんは僕を冷酷な眼光で見下ろす。
彼女の思わぬ一面を垣間見た僕は、内心微笑んでいた。
美咲さんのこんな顔を見れるなんて。
睨まれて喜んでしまうとは……。改めて自分が彼女に抱く想いを実感した。
我ながら惨めである。
けど、それくらい僕は美咲さんが好きなんだ。
ここで引いたらチャンスは二度とやって来ない――そんな気がした。
「もし噂が本当ならさ! ……僕と!」
「霧崎君と?」
「火消しのためだけでいいから、ぼ、僕と付き合ってみませんかっ!?」
震える体を必死で奮い立たせながら精一杯の勇気で口にしたその言葉。
彼女がどんな表情で僕の話を聞いていたか、僕にはもう映らなかった。
こうして、僕こと霧崎蓮は美咲さんの彼氏になった……。
…………。
……。
もしかしたら18禁タグがついたままかもしれませんが、エロはありません。
必要な時にしか書かないので、あまり期待しないでください。
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