※この作品はR-18です。

少女ケシゴム   作:闇狐(あんこ)

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誤字脱字がありましたら暖かく見守って下さい。
間が空くと言ったのは嘘です(一日だけ空けましたし…)。
普段はゲームシナリオライター目指して、同人ゲームのシナリオを書かせて頂いています。
この作品は、練習と気分転換を込めた私的作品となっておりますので、宜しくお願いします。

霧崎蓮(キリサキレン)
姫野恵(ヒメノメグミ)
初音美咲(ハツネミサキ)


第三話 「遊戯」

 

 

 「おい、蓮。お前どうしたんだ? ニヤニヤしてて気持ち悪いぞ」

 人生の中で舞い上がるほど幸せな時があるとするなら、それは今だろう。

 幸福で息が詰まりそうだった。

 いや、実際胸がドキドキ高揚している。

 なぜなら、僕は美咲さんと付き合えることになったからだ。

 「そう見えるか?」

 「ああ、めっちゃニヤけてる。彼女でも出来たのか?」

 友達の海斗が僕の顔をのぞき込むようにして問い掛けて来る。

 よほどニヤけているのだろう。自分でも口角のつり上がりを感じた。

 「ああ、うん、出来た」

 「マジで!?」

 僕の使命――僕と美咲さんの恋仲をクラスに広め、噂を揉み消す。

 だから、海斗が食いついてくれたのは好都合だった。

 このままクラスにこの話題を広げれば……!

 「おい、相手って誰だよ。画面の中だったら許さねえぞ?」

 失敬な。僕はそんな人間ではない。

 それはむしろお前の方だろう、海斗。

 お前の部屋の年齢制限が掛かりそうなゲームの数々を僕は忘れない。

 「美咲さんじゃなくて! ――美咲だよ」

 「……」

 「……」

 「……は?」

 「はは」

 沈黙を破るように二人で思わず笑い出す。

 僕の言葉が信じられないようで、海斗は愕然としていた。

 無理もない。初音美咲はクラスどころか、学校のマドンナなのだから。

 そんな彼女と言葉を交わすことすら光栄なのだ。

 「嘘つけ! その冗談は笑えないぞ」

 「嘘でこんな無謀なこと言わないわ! ――美咲っ!」

 少し大きめな声で美咲さんをこちらに招く。

 美咲さんを呼び捨てにするのはかなり抵抗があったが、付き合っている彼女に『さん』を付けるのも変な話だろう。

 僕達の関係が疑われては困るのだ。

 ここで彼女を呼び出して信じて貰うと同時に、クラスの注目を浴びることを狙う。

 「なに?」

 美咲さんは僕の声に気付いて女子の輪から離れ、わざわざこちらに来てくれた。

 その目には少し不安が宿っている。こんなに手荒く呼び付けてしまったので無理もないが。

 「なあ、美咲さん! 蓮と付き合ってるってホントか!?」

 「ほ、ほんとだよ……」

 海斗の必死の問い詰めに対して美咲さんはぎこちない様子で頷く。

 やはり僕と違ってまだこの関係に抵抗があるらしい。

 所詮は『火消しのため』だけに繋がった関係なのだ。信頼など生まれるはずもないし、期待してはいけない。

 「……は?」

 美咲さんの肯定を受け、海斗は明後日の方向を向いて呆然と立ち尽くしてしまった。

 それと同時に、この騒動を見て周りの連中もこちらに寄って来る。

 ――よし、いいぞ。そろそろだ。

 「な? だから言ったろ。僕と美咲は付き合ってるんだよ」

 少しだけ声のボリュームを上げて海斗を諭す。

 すると、クラス中が更なる喧騒に包まれた。

 「おい、まじかよ。今の聞いたか?」

 「え、霧崎君嘘でしょ……?」

 クラスの端々からそんな疑念と驚愕の声が聞こえてきた。

 当の美咲さんは、困ったような顔を浮かべながら僕の隣で笑っている。

 好きでもない奴に彼氏面されたら誰だって複雑だろう。

 溜め息が溢れ出しそうになるのを堪える。

 僕は学校のマドンナと付き合えることになった幸せ者。せめて今だけはこの役職を演じなければならない。

 ……彼女の気持ちと僕の利己的な欲求が入り混じる。

 心は黒く濁りながら、深淵に沈んでいった。

 クラスの皆はすっかりこの話題に魅せられたようで、美咲さんと僕に詰め寄り様々な質問を投げ掛けていた。

「どこまでいったの!?」

「いつから付き合ってたの!?」

 そんな下賎な質問が僕達に浴びせられる中、それはやって来た。

 姫野さん……。

 「あら、美咲。私その話聞いてなかったんだけど……」

 人混みを押し割ってこちらにゆっくりと詰め寄る姫野さんからは、生気を感じられない。

 しかし、その目はしっかりと僕を捉えていた。

 まあ、そうなるよな。

 知らない奴に『彼女』を擬似的に取られたんだ。内心怒り狂っていたっておかしくない。

 「恵……」

 美咲さんがゴクリと息を飲む音が聞こえる。そんな彼女の緊張が伝染したのか、僕の足まで震え出す。

 今にも彼女の殺意が僕を飲み込まんとしているため、平静を装うのが精一杯だった。

 姫野さんは茶色く染めたショートヘアをなびかせて、キッと僕を睨み付ける。

 『てめえ何のつもりだ』

 そんな怒号が今にもそう聞こえてきそうだ。

 「き、昨日のことだったから言えなかったんだよ、恵っ」

 有り合わせの作り笑いを浮かべながら、美咲さんはぎこちなく質問に答える。

 「へえ~。おめでとっ! 美咲は霧崎の何処が良いの?」

 「え?」

 「何処が良いの?」

 皆顔は笑っているが、これは仮面だ。

 傍から見れば恋仲と親友の微笑ましい会話に映るかもしれないが、僕ら三人の内誰も笑える状況ではない。

 しかし、こうするしかなかったのだ。僕は美咲さんさえ幸せになれば他のことはどうでもよかった。

 美咲さんの幸福のためにこれは避けては通れない試練。

 「霧崎く――蓮君は優しいから」

 「――っ!」

 嘘でも良い。

 美咲さんが蓮君って呼んでくれた。

 例えこの関係が虚構だとしても、その事実だけで僕は満たされる。

 ――そんな僕とは対照的に、姫野さんからは怒りの感情が漏れ出す。

 美咲さんが僕を褒めたことに腹を立てたのか、勢い良く僕に詰め寄る姫野さん。

 「霧崎。美咲を傷つけたら許さないからねっ!」

 姫野さんは満面の笑みで僕の肩を叩き、クラスの外に走り去ってしまう。

 彼女の親友が応援してくれる――創作ではよくあるシーンの一つだが、僕の肩はまだヒリヒリと悲鳴をあげていた。

 ……痛い。

 「……私、恵の様子見てくるね」

 「あっ、美咲っ」

 「霧崎君。私達はただの友達だから」 

 誰にも聞こえないような声で僕に囁く美咲さん。

 呼び止めようとした僕の手は振り払われてしまい、無様を宙を漂う。

 姫野さんの後を追う美咲さんの後ろ姿を見ながら、僕はまた考えに耽る。

 この気持ちは何だ。

 美咲さんと進展したはずなのに、ちっとも満たされない。

 ただの知り合いよりワンランク上の存在になれたのに、全くそんな気がしない。

 『火消しのためだけでいいから』

 そう告げた僕はもう何処にもいない。

 嘘でも良いなんて言っていた僕は、どうしようもない嘘つきだった……。

 …………。

 ……。

 

 

 

 

 

 学校の帰り道。

 夕暮れに染まった茜色の街並みの中を一人で歩く私。

 霧崎君は一緒に帰ろうと誘ってくれたけど、私はそれを断ってしまった。

 学校以外で『恋人』のフリをする必要はない。

 冷たくあしらってしまったことは申し訳ないと思っているが、ここで優しくしてしまうと上手く終われない気がしたのだ。

 「霧崎君……」

 霧崎君は本当に私を心から好いてくれてるようだ。

 そんな好意に何処か甘えている自分に嫌気が差してくる。

 ――そんなことを考えているうちに恵の家に着いた。

 日の暮れた時間から家にお呼ばれするのは久しぶりのことだった。

 「恵、大丈夫かな……」

 朝の思い出が胸を焦がす。

 仕方ないとはいえ、恵に酷い仕打ちをしてしまった。

 ――ちゃんと謝ろう。

 「お邪魔します……」

 恵は私を待ち兼ねていたのか玄関でぎゅっと抱き締められる。

 いつもより強い抱擁に、私は恵の感じた辛さを肌で感じた。

 「来てくれないかと思った……」

 「恵。朝はごめんね。あれは演技だから……」

 「演技?」

 私は恵に事件の概要を話し出す。

 『火消しのためだけでいいから』

 そう言ってくれた霧崎君は噂を消すために尽力してくれた。

 もう私と恵の関係の有無など、誰も気にしていないだろう。

 先刻彼のことを優しいと形容した私は、嘘つきではなかった。

 霧崎君は優しい。

 「そっか、そうだったんだ……」

 「言えなくてごめんね、恵」

 「いいのよ、美咲。帰ってきてくれて嬉しいわ」

 恵は涙ぐみながら私を受け入れてくれる。まるで私が浮気したような様子だった。

 これは浮気ではない……。

 「恵、私この後家の手伝いが――」

 「嫌……もう少しだけ!」

 私は疲れたので今日はもう帰りたかったのだけれど、恵は心が通じ合った喜びを体の接触で共有しようとして来た。

 私達の間の誤解という隔たりは溶け、心が繋がったんだ。

 ――体を繋げる必要はあるのだろうか。

 セックスって、恋人の義務なのだろうか。

 そんなことを考えながら恵に体を委ねてしまう。

 「あっ……んっ!」

 皮肉にも私の体は嘘をつかないため、気持ち良い場所を触られて律儀に卑猥な声を出していた。

 私は自分の喘ぎ声が大嫌いだった。

 「美咲……美咲っ!」

 だからいつも人には聞かせたくない。

 けれど恵は私の嬌声を絞り出すかのように激しく求めて来る。私の胸を貪り、濡れてしまった秘所に手を伸ばす恵。

 そんな情景に底知れぬ温度差を感じてしまう。

 私が此処にいないような。

 まるで第三者を見ているような――そんな浮遊感に襲われる。

 「恵……っ! 気持ちいい。私、もう……っ!」

 「イって……イっていいよ、美咲」

 恵のことは愛しているのに。

 大好きなのに。

 私の心は何処へ行ってしまったんだろう。

 「……あっ、あ、あっ……んんっ!」

 『美咲さんっ!』

 ――っ!

 快感が絶頂に達し、脳内に閃光が迸る瞬間。

 脳裏に響いたのは霧崎君の声。

 ――ああ、私は最低だ。

 満足気に私を眺める恵に、愛を込めてにっこりと微笑み返した。

 …………。

 ……。




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