間が空くと言ったのは嘘です(一日だけ空けましたし…)。
普段はゲームシナリオライター目指して、同人ゲームのシナリオを書かせて頂いています。
この作品は、練習と気分転換を込めた私的作品となっておりますので、宜しくお願いします。
霧崎蓮(キリサキレン)
姫野恵(ヒメノメグミ)
初音美咲(ハツネミサキ)
「おい、蓮。お前どうしたんだ? ニヤニヤしてて気持ち悪いぞ」
人生の中で舞い上がるほど幸せな時があるとするなら、それは今だろう。
幸福で息が詰まりそうだった。
いや、実際胸がドキドキ高揚している。
なぜなら、僕は美咲さんと付き合えることになったからだ。
「そう見えるか?」
「ああ、めっちゃニヤけてる。彼女でも出来たのか?」
友達の海斗が僕の顔をのぞき込むようにして問い掛けて来る。
よほどニヤけているのだろう。自分でも口角のつり上がりを感じた。
「ああ、うん、出来た」
「マジで!?」
僕の使命――僕と美咲さんの恋仲をクラスに広め、噂を揉み消す。
だから、海斗が食いついてくれたのは好都合だった。
このままクラスにこの話題を広げれば……!
「おい、相手って誰だよ。画面の中だったら許さねえぞ?」
失敬な。僕はそんな人間ではない。
それはむしろお前の方だろう、海斗。
お前の部屋の年齢制限が掛かりそうなゲームの数々を僕は忘れない。
「美咲さんじゃなくて! ――美咲だよ」
「……」
「……」
「……は?」
「はは」
沈黙を破るように二人で思わず笑い出す。
僕の言葉が信じられないようで、海斗は愕然としていた。
無理もない。初音美咲はクラスどころか、学校のマドンナなのだから。
そんな彼女と言葉を交わすことすら光栄なのだ。
「嘘つけ! その冗談は笑えないぞ」
「嘘でこんな無謀なこと言わないわ! ――美咲っ!」
少し大きめな声で美咲さんをこちらに招く。
美咲さんを呼び捨てにするのはかなり抵抗があったが、付き合っている彼女に『さん』を付けるのも変な話だろう。
僕達の関係が疑われては困るのだ。
ここで彼女を呼び出して信じて貰うと同時に、クラスの注目を浴びることを狙う。
「なに?」
美咲さんは僕の声に気付いて女子の輪から離れ、わざわざこちらに来てくれた。
その目には少し不安が宿っている。こんなに手荒く呼び付けてしまったので無理もないが。
「なあ、美咲さん! 蓮と付き合ってるってホントか!?」
「ほ、ほんとだよ……」
海斗の必死の問い詰めに対して美咲さんはぎこちない様子で頷く。
やはり僕と違ってまだこの関係に抵抗があるらしい。
所詮は『火消しのため』だけに繋がった関係なのだ。信頼など生まれるはずもないし、期待してはいけない。
「……は?」
美咲さんの肯定を受け、海斗は明後日の方向を向いて呆然と立ち尽くしてしまった。
それと同時に、この騒動を見て周りの連中もこちらに寄って来る。
――よし、いいぞ。そろそろだ。
「な? だから言ったろ。僕と美咲は付き合ってるんだよ」
少しだけ声のボリュームを上げて海斗を諭す。
すると、クラス中が更なる喧騒に包まれた。
「おい、まじかよ。今の聞いたか?」
「え、霧崎君嘘でしょ……?」
クラスの端々からそんな疑念と驚愕の声が聞こえてきた。
当の美咲さんは、困ったような顔を浮かべながら僕の隣で笑っている。
好きでもない奴に彼氏面されたら誰だって複雑だろう。
溜め息が溢れ出しそうになるのを堪える。
僕は学校のマドンナと付き合えることになった幸せ者。せめて今だけはこの役職を演じなければならない。
……彼女の気持ちと僕の利己的な欲求が入り混じる。
心は黒く濁りながら、深淵に沈んでいった。
クラスの皆はすっかりこの話題に魅せられたようで、美咲さんと僕に詰め寄り様々な質問を投げ掛けていた。
「どこまでいったの!?」
「いつから付き合ってたの!?」
そんな下賎な質問が僕達に浴びせられる中、それはやって来た。
姫野さん……。
「あら、美咲。私その話聞いてなかったんだけど……」
人混みを押し割ってこちらにゆっくりと詰め寄る姫野さんからは、生気を感じられない。
しかし、その目はしっかりと僕を捉えていた。
まあ、そうなるよな。
知らない奴に『彼女』を擬似的に取られたんだ。内心怒り狂っていたっておかしくない。
「恵……」
美咲さんがゴクリと息を飲む音が聞こえる。そんな彼女の緊張が伝染したのか、僕の足まで震え出す。
今にも彼女の殺意が僕を飲み込まんとしているため、平静を装うのが精一杯だった。
姫野さんは茶色く染めたショートヘアをなびかせて、キッと僕を睨み付ける。
『てめえ何のつもりだ』
そんな怒号が今にもそう聞こえてきそうだ。
「き、昨日のことだったから言えなかったんだよ、恵っ」
有り合わせの作り笑いを浮かべながら、美咲さんはぎこちなく質問に答える。
「へえ~。おめでとっ! 美咲は霧崎の何処が良いの?」
「え?」
「何処が良いの?」
皆顔は笑っているが、これは仮面だ。
傍から見れば恋仲と親友の微笑ましい会話に映るかもしれないが、僕ら三人の内誰も笑える状況ではない。
しかし、こうするしかなかったのだ。僕は美咲さんさえ幸せになれば他のことはどうでもよかった。
美咲さんの幸福のためにこれは避けては通れない試練。
「霧崎く――蓮君は優しいから」
「――っ!」
嘘でも良い。
美咲さんが蓮君って呼んでくれた。
例えこの関係が虚構だとしても、その事実だけで僕は満たされる。
――そんな僕とは対照的に、姫野さんからは怒りの感情が漏れ出す。
美咲さんが僕を褒めたことに腹を立てたのか、勢い良く僕に詰め寄る姫野さん。
「霧崎。美咲を傷つけたら許さないからねっ!」
姫野さんは満面の笑みで僕の肩を叩き、クラスの外に走り去ってしまう。
彼女の親友が応援してくれる――創作ではよくあるシーンの一つだが、僕の肩はまだヒリヒリと悲鳴をあげていた。
……痛い。
「……私、恵の様子見てくるね」
「あっ、美咲っ」
「霧崎君。私達はただの友達だから」
誰にも聞こえないような声で僕に囁く美咲さん。
呼び止めようとした僕の手は振り払われてしまい、無様を宙を漂う。
姫野さんの後を追う美咲さんの後ろ姿を見ながら、僕はまた考えに耽る。
この気持ちは何だ。
美咲さんと進展したはずなのに、ちっとも満たされない。
ただの知り合いよりワンランク上の存在になれたのに、全くそんな気がしない。
『火消しのためだけでいいから』
そう告げた僕はもう何処にもいない。
嘘でも良いなんて言っていた僕は、どうしようもない嘘つきだった……。
…………。
……。
学校の帰り道。
夕暮れに染まった茜色の街並みの中を一人で歩く私。
霧崎君は一緒に帰ろうと誘ってくれたけど、私はそれを断ってしまった。
学校以外で『恋人』のフリをする必要はない。
冷たくあしらってしまったことは申し訳ないと思っているが、ここで優しくしてしまうと上手く終われない気がしたのだ。
「霧崎君……」
霧崎君は本当に私を心から好いてくれてるようだ。
そんな好意に何処か甘えている自分に嫌気が差してくる。
――そんなことを考えているうちに恵の家に着いた。
日の暮れた時間から家にお呼ばれするのは久しぶりのことだった。
「恵、大丈夫かな……」
朝の思い出が胸を焦がす。
仕方ないとはいえ、恵に酷い仕打ちをしてしまった。
――ちゃんと謝ろう。
「お邪魔します……」
恵は私を待ち兼ねていたのか玄関でぎゅっと抱き締められる。
いつもより強い抱擁に、私は恵の感じた辛さを肌で感じた。
「来てくれないかと思った……」
「恵。朝はごめんね。あれは演技だから……」
「演技?」
私は恵に事件の概要を話し出す。
『火消しのためだけでいいから』
そう言ってくれた霧崎君は噂を消すために尽力してくれた。
もう私と恵の関係の有無など、誰も気にしていないだろう。
先刻彼のことを優しいと形容した私は、嘘つきではなかった。
霧崎君は優しい。
「そっか、そうだったんだ……」
「言えなくてごめんね、恵」
「いいのよ、美咲。帰ってきてくれて嬉しいわ」
恵は涙ぐみながら私を受け入れてくれる。まるで私が浮気したような様子だった。
これは浮気ではない……。
「恵、私この後家の手伝いが――」
「嫌……もう少しだけ!」
私は疲れたので今日はもう帰りたかったのだけれど、恵は心が通じ合った喜びを体の接触で共有しようとして来た。
私達の間の誤解という隔たりは溶け、心が繋がったんだ。
――体を繋げる必要はあるのだろうか。
セックスって、恋人の義務なのだろうか。
そんなことを考えながら恵に体を委ねてしまう。
「あっ……んっ!」
皮肉にも私の体は嘘をつかないため、気持ち良い場所を触られて律儀に卑猥な声を出していた。
私は自分の喘ぎ声が大嫌いだった。
「美咲……美咲っ!」
だからいつも人には聞かせたくない。
けれど恵は私の嬌声を絞り出すかのように激しく求めて来る。私の胸を貪り、濡れてしまった秘所に手を伸ばす恵。
そんな情景に底知れぬ温度差を感じてしまう。
私が此処にいないような。
まるで第三者を見ているような――そんな浮遊感に襲われる。
「恵……っ! 気持ちいい。私、もう……っ!」
「イって……イっていいよ、美咲」
恵のことは愛しているのに。
大好きなのに。
私の心は何処へ行ってしまったんだろう。
「……あっ、あ、あっ……んんっ!」
『美咲さんっ!』
――っ!
快感が絶頂に達し、脳内に閃光が迸る瞬間。
脳裏に響いたのは霧崎君の声。
――ああ、私は最低だ。
満足気に私を眺める恵に、愛を込めてにっこりと微笑み返した。
…………。
……。
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