※この作品はR-18です。

少女ケシゴム   作:闇狐(あんこ)

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急いであげたので正直不安です。
必ずリマスター版を発表します



(次回、最終回です)


第六話 「破涙」

 

 

 

 

 午後も僕達はアトラクションに乗り、『マリンキングダム』を満喫した。

 お化け屋敷にコーヒーカップ、バイキングなど。

 回ったり、叫んだり、揺られたり。

 僕達は約束通り本物のカップルのように一日を過ごした。

 「今日は楽しかったね!」

 「ああ」

 「そろそろ閉園時間になるね……」

 「あ、ああ」

 『またのご来場をお待ちしております』

 閉園のアナウンスを聞きながら、僕は夕焼けに染まった空を見上げる。

 彼女がさっきから懸命に話し掛けてくれているが、内容が全く耳に入って来ない。

 邪険に扱っているわけではない。

 ……一日が、終わる。

 それが何を意味するのか、二人は言葉を交わさずとも感じていた。

 美咲さんは感じているからこそ気丈に振舞っているのだ。

 だから僕は、こうして項垂(うなだ)れている。

 気を遣ってくれているつもりなのか。

 「なあ、美咲……」

 『さん』を付けなかったのは、緊張からでも欲求からでもない。

 自分の中で決心がついたんだ。

 やっぱり僕は……。

 何度も何度も繰り返しているが、僕の気持ちはやっぱり変わらなかった。

 「ありがとね、霧崎君。また学校で――」

 「美咲さんっ!」

 美咲さんの言葉をかき消すように大声で彼女を呼ぶ。

 『霧崎君』

 蓮君と呼んでくれた美咲さんは、もういない。

 ――彼女は僕がこれからする話を理解しているのだ。だから先制で釘を刺してきた。

 その手にはもう引っ掛からない。僕は諦めが悪いんだ。

 「な、何かな? もうそろそろ帰らないと……」

 「僕は美咲さんのことを何も知らなかった。けれど、今日は美咲さんのいろんな表情を見ることが出来た。いろんな話を聞くことが出来た」

 ……。

 沈黙という圧迫感が僕達を覆う。

 夕暮れに染まった帰り道は、彼女の表情を赤く包み隠した。

 あと一言。

 あの時は届かなかった言葉を、もう一度!

 「それで?」

 『それで』ってなんだよ……。

 彼女は感情を押し殺した声色で、絞り出すような声を放つ。

 僕はありったけの勇気を振り絞り、美咲さんに今一度向き合った。

 「僕は美咲さんが好きです。付き合って下さい!」

 「……霧崎君」

 「……ん?」

 「霧崎君って、やっぱり嘘つきなんですね」

 「え?」

 彼女から出た言葉は僕の予想を遥かに上回る。

 同時に嫌な汗が僕の額を伝う。

 『嘘つき』

 彼女がしかめっ面から一転。笑みを浮かべて口を開く。

 「『火消しのためだから』とか『それを最後に』とか。終わらせる気なんてなかったくせに……」

 冷ややかな目で僕を見下ろす美咲さん。昼間の笑顔は、冷笑へと姿を変わっていた。

 「でも……それは!」

 「私の彼女は恵です。なので、霧崎君とはお付き合い出来ません」

 僕の反論を突っ撥ねて拒絶の意を露わにする美咲さん。

 分かっていたことだったが、手足の震えが止まらない。

 僕が嘘つきだという自覚はある。その場その場で彼女を縛り付けていた。

 褒められた行為ではないことは承知の上だが、こうでもしないと彼女の傍にいられないと思ったから……。

 「じゃあ、僕のことは嫌いなの? それは嘘だ。昼間の笑顔は!」

 「……霧崎君。『好き』の反対は『嫌い』じゃないよ」

 彼女は覚悟を決めたように、僕を諭すような笑顔を見せる。

 ――いや、違う。

 まだだ。彼女は揺らいでるはずだ。

 美咲さんの中の『恵』の存在が大きいだけで、彼女の心に『僕』が居ないなんて、考えられなかった。

 根拠もなければ自信もない。断言すら出来ない。そんな砂上の楼閣に縋りつく。

 「嘘をついているのは美咲さんの方だ。――貴女は! 今日の僕達は。今までの僕達は何も無かったわけがない!」

 「……止めてください!」

 「もう一度! もう一度あの時に戻ってやりな――」

 「止めてください!」

 彼女の怒号に気圧され、押し黙ってしまう。

 怒りと悲しみを混ぜ合わせたような目で僕を睨む美咲さん。

 ――悔しいほど、可愛い。

 こんな姿を見ても、僕の心は惹かれていくばかり。

 惨めだとは自分でも分かっている。しかし、しがみつくしかないのだ。

 蜘蛛の糸が見えている限りは、手を離すもんか。 

 「それ以上踏み込むなら――」

 美咲さんは僕から少しずつ後ずさる。

 じりじりと離れていく距離が、憎らしかった。

 「霧崎君なんて嫌い……。大嫌い」

 「美咲さん!」

 「―っ! これ以上私に関わらないで」

 彼女は目に涙を浮かべていた。零れ落ちるくらいの大粒の涙。

 なんで――。

 なんでお前が泣くんだよ。

 泣きたいのはこっちの方なのに。

 美咲さんは涙を見せまいと僕に背を向け、そのまま走り去ってしまった。

 夕焼けはいつの間にか夕闇へと変わっていた。冷たい空気が頬に突き刺さる。 

 「ははっ」

 涙よりも先に自嘲の笑みが零れ落ちた。

 すっかり太陽の沈んだ帰り道。

 僕は一歩も踏み出せずに、立ち竦んでしまう。

 「美咲さん……」

 諦めに近い寂寞が湧き上がる。

 でも、僕は――。

 …………。

 ……。 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 最後の力を振り絞り、自由落下に任せてベッドに倒れ込む。

 目を閉じて今日という一日を振り返る。

 いろんなことがあったせいで、朝家を出た時のことをなかなか思い出せなかった。

 「あ、そうだ……」

 マリンキングダムに居る間は携帯の電源を切っていたため、周りとの連絡を絶っていた。

 メール来てたりしないかな……。

 来てないはずがなかった。恵が連絡をして来なかった日は無いからだ。

 「あ……やっぱり……」

 ――着信十八件。

 今更この数字に驚く必要性も、体力も無かった。

 私が悪いんだ。恵に一報でも入れれば良かったのに。

 ただ、そうしたくなかった。

 霧崎君といる時に恵に電話してしまったら、罪悪感に苛まれてしまいそうだったから。

 誰に対しての罪悪感なの……?

 私の中の私が問い掛ける。

 それを振り切るべく、十八件の着信履歴の一つに電話を掛けた。

 「もしもし恵?」

 「もしもし……美咲……」

 三回目の着信で声が聞こえた。

 その声は恵が泣き腫らした後の少し枯れた声。

 ――私と同じ声。

 「恵……ごめんなさい」

 「何があったの? どうして返事くれなかったの?」

 「ごめんなさい。ごめんなさい」

 「……いいのよ、美咲」

 私が事情を話さなくても、彼女は私を受け入れてくれる。

 私の鼻声も、急な電話も。

 恵は何も言わずに迎えてくれた。

 「ねえ、美咲」

 「……ん?」

 「私のこと好き?」

 「……」

 恵の質問に即答出来なかったのは、わざとではない。

 私は恵に愛される資格なんてないのだから……。

 だって――。

 「好きだよ……」

 「そっか、よかったっ」

 その続きを遮るように、恵の甘い言葉が私を抱擁する。

 私の冴えない返事を聞いても、彼女は子どものように喜んでくれる。

 そういえば、私はなんで泣いてるんだろう。

 なんで――。

 私の心の核心に触れることを――私が拒絶していた。

 「それじゃあ、また明日」

 「うん、またね、美咲……」

 寂しそうに甘い声を漏らす恵の気持ちに蓋をするように、電話を切る。

 私は――。

 ごめんね、霧崎君。

 ごめんね、恵。

 自分の気持ちの居場所なんて。

 私は、どうすれば……。

 …………。

 ……。





次回が最終回なので今回は少し短めです。
すみません。
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