ブラック・アーカイブ 作:Lone Omega
――――――エマ・ゴールドマン/アナーキスト
追放者
キヴォトス中心部、ミレニアムサイエンススクール。
そこは叡智の集うところ。
あらゆる技術が溢れ返り、実務から娯楽まで幅広く受け入れられる自由な校風を持つ。
まぁ……時には発展のための犠牲が『事故』や『災害』や『ヒヤリハット』として姿を見せることもあるが。
(とはいえ多くの場合、騒ぎが起きる理由はゲヘナより理解できる内容なんだよな)
爆発したドローンの残骸を囲んで騒ぐ生徒たちにを尻目にそんな事を考えながら、アタシは私物の詰まったコンテナを車に積み込んでいく。
目指すはブラックマーケット、行き場のない根無し草の掃き溜めだ。
時は遡って1週間前。
セミナーから『至急の重要事項』があると呼び出されミレニアムタワーへと向かったアタシは、案内された一室でこう告げられた。
「本日付けで『
「おい生塩書記ィ、呼び出して第一声が死刑宣告ってのはあんまりじゃねえか?」
「では理由もご説明しましょうか?」
「おう」
そう促せば淡々と、いつも笑みを張り付けた彼女にしては珍しい無表情で語り始める。
「まず、あなたの日常的な言動について周囲から苦情が寄せられていることはご存じですか?」
「……そりゃまぁ、な。」
これ自体はさして驚くことでもない。
そもそもアタシは育ちが悪い、もともと要求される学力が高く転校生の少ないミレニアムだが、それを差し引いても異質なゲヘナ出身者だ。
ゆえにゲヘナのではちょっと引かれる程度のことでも、ミレニアムの物差しでは物騒すぎて周囲を怖がらせる……いや下手をすれば精神科の受診を勧められることが多々あった。
排斥や攻撃や、それに近い反応を受けたことも片手の指じゃ数え切れないぐらいある。
5回じゃなく、伸ばす・畳むを0と1に使って5ケタ回。つまり10進数で言うと31回以上だ。
(そういや、
特にアタシを見下し、事あるごとに絡んできた御学友(笑)の筆頭2人を思い出す。
そういやアイツらが喧嘩売ってきたあたりから、アタシの周りで起きる騒ぎにセミナーが介入し始めたんだっけか。
「だがよ、それこそセミナーが取り決めた校則があったじゃねえかよ。」
「『周囲の生徒に対して不満がある場合、直接のクレームや当事者のみでの対処を避け、セミナーへと相談すること。』ですね」
「よく全文暗唱できるな……そう、それだ。
わざわざその相談窓口まで新設してたじゃねえか。」
「ええ、実際セミナーにはあなたに関する相談が多数寄せられていました。」
「で、相談が多けりゃ退学か?
確か畠山あたりは校則施行後も懲りずにルール破って喧嘩売ってきたことあったよな。元々それで大乱闘になったからできた施策だろ?
ルールの1つもロクに読めねえ奴より、明文律しか守らずに周囲の和乱す奴のほうが害か。」
「……これはセミナーの決定です、貴方に非があるか否かの議論はすでに終わっています。」
「…………そうかよ。」
もともと感情表現が大きい方ではないのを差し引いても珍しいぐらい、表情筋が完全にニート化した生塩のツラを見てこれ以上の対話は無意味と悟る。
「つきましては、1週間後に学生証の機能を停止し学籍情報および口座を抹消します。」
「それまでに出てけってんだろ、分かってる。」
「寮の鍵と失効した学生証は、施錠後にドアポストへ投函してください。」
「はいはい、話はこれで仕舞いか?」
「……ええ。」
ならこちらも用は無い。1週間というタイムリミットを無駄にできないアタシは踵を返しドアノブに手をかけた。
「…庇いきれなくてごめんね、ライラちゃん」
「何か言ったか?」
「……いえ」
「あぁそう。」
生塩が何事か呟いたような気がしたが、深くは気にせずミレニアムタワーを出た。
【人物・用語・補足のコーナー】
『倉澤ライラ』
主人公、ゲヘナ出身、元・ミレニアム転校生、現・根無し草。
キヴォトスの誰にもカミングアウトしていないが、転生者であり特異な考え方や価値観もそれのせい。
『1週間の猶予』
ミレニアムは退学者に対しても比較的温情のある措置を取る。
口座凍結される前に最後の買い物もできるし、学内の設備も使うことができる。
退学直後、当面の生活を凌ぐ準備期間である。
多くの退学者からは『自治区内で野垂れ死ぬと迷惑だから、新天地を求めて遠くに行くだけの余裕を持たせて効率よくゴミ掃除している』と受け止められている。