ブラック・アーカイブ 作:Lone Omega
―――シド・ヴィシャス/ミュージシャン
転生者
キヴォトスで目覚めたのは、16年前。
ちょうど地球で目覚めてから35年を迎えようとしていた頃の話だ。
(あーやべぇ、声でねぇ……寒いのに土手っ腹だけクソ熱ちぃ……)
眼前には煙を上げる車のボンネットと、バンパーにめり込む太く頑丈そうな木。
少し下へ視線を移せば、そんな大木の枝がお気に入りのパーカーごと俺をブチ抜いていることは一目瞭然だった。
「PC25より本部、マル被は県道――号―――付近にて車両ごと崖下へ転落!救急手配求む!」
(いやー……しくじったなぁ……やりすぎたわ)
頭上から聞こえる
発端は何だったか、確かクマが怖いとかそんな感じの世間話だった覚えがある。
俺もそこに乗っかって、話がヒートアップして……マタギを悪く言った奴がいたのを俺が咎めたんだよな。
そんで続けて俺が『真の原因は銃刀法だ』って話した途端 だ、あの瞬間に周囲が俺を見る目が変わった。
(あのクソ上司め……何が異常者だ、そりゃお前のことだろ)
何故か俺が責められる流れになってた。
たぶん、そこで自分がおかしいと認めて引き下がるのが社会人としては正しいんだろう。
俺もそうできれば、楽ではあったんだろうな。
なまじ反論しちまったばかりに、俺へのバッシングが激化した。もはや反論というより人格否定に近いものだったが。
(そのくせ上層部はロクに事情も聞かずにクビ宣告だもんな……何も考えず多数派にすり寄ればOKとは、楽な仕事で良いねぇ)
そうして仕事も人間関係も失い、当時まだ20代でありながら再就職も面接で蹴られ続け、とうとう貯金が尽きかけたころ―――半ばヤケクソで探す職の幅を広げた。
(やっぱ昔の
人間と仲良くできない俺に天職があるなんて。
人間に嫌われ、怖がられる才能が役に立つ
社会が俺を役立たずと言うなら、社会の足を引っ張る仕事を探せばよかったんだ。
(で……金に余裕もできたし次の闇バイトけしかける先も選べる立場になったから、あの時クビの原因になったクソどもを狙ったら……まさか私怨で捜査線に浮上しちまうとはね)
それを知ってアジト畳んだ矢先にガサが来て、慌てて車で逃げて……
(ま、お前と死ぬなら良いか……先に地獄落ちたクソどもがどうなってるか見に行ってやろうぜ。)
足がつかないからと、馴染みの密輸ブローカーが目をかけている不法移民のジャンクヤードで買ったニコイチ整備の盗難車。
ナンバーだけ定期的に偽造して使い捨てることもなく、割と長いこと付き合ってきた相棒的存在でもあった。
今や大木にボンネットを潰されスクラップに逆戻りした姿が、俺が『地球』で見た最期の景色だった。
―――理解できぬ。
(なんだ、地獄のお迎えか?)
儀式は失敗したはずだ。
忘れ去られし神秘は失われた。
ならばこの生徒も生まれ得ぬはずだ。
これは何だ?
理解できぬ。
(やかましいな、こちとら死んだばっかだぞ。
何も分からねえのは俺の方だっつーの)
もしや、神々の箱庭のものではない?
有り得ぬ。
であれば、かの嚮導者と同じ人の子ではないか。
有り得ぬ。
人の子に、これほどの*恐怖*が宿るなど。
理解できぬ。
理解できぬ。
だが儀式が続くのならば理解する必要もない。
(さっきから何言ってんだこいつら……?)
忘れられし神秘を、外なる神が置き換える。
然り、それで姿は成る。
豊穣の黒山羊、砂漠の猫、父なる蛇。
然り、然り。
(なんか俺、ヤバそうな事に巻き込まれてねーか?)
外なる魂よ、恐怖の申し子よ。
25番目の悪魔となれ。
万智を伝える賢きものたれ。
大いなる殺戮の名手たれ。
―――目覚めよ。
『■■■■=■■■■』
深い水底から水面へ浮上するように、静かに意識が覚醒する。
俺は瞼を開いて周囲を見回した。
「……どこだここ、ッマジか女の声かこれ?」
見覚えの無い路地裏だった。
誰にともなく呟いて、己の声がおかしいことに気がついた。
「セーラー服と、
さて、つい先程カーチェイス中に事故って死んだはずのロクデナシこと俺だが。
一体何が起きたのだろうか。
着ているのは黒いワイシャツに赤いネクタイ。
それからプリーツスカート……初めて履くのがこんな超常体験とセットなのは笑いどころだが、思ったより頼りねえなコレ。
そして持ち物だが……なんとスカートに挟んであったハンドガン一挺のみ。
身分証とか財布とかスマホとか、そういった貴重品さえ一切なし。
マジでどういう状況なんだコレ、そもそも女の体になってるらしき時点で考えてもしょーがねーか。
情報が足りなさすぎるので、とりあえずもう一回周囲を見回してみた。
おそらく建物に挟まれた路地裏、落書きやゴミの散乱からして治安水準はおそらく低レベル。
それから地面には無造作に空薬莢が転がっており、壁には大量の弾痕。
「紛争地域かな?」
巷で流行りの異世界転生とはかけ離れた、かなり生々しい治安の悪さに天を仰ぐ。
今日は快晴のようだ、空に浮かぶ光の輪がよく見える……
「あー……なるほどね。」
ここが異世界であることには間違いなさそうであった。
【人物・用語・補足のコーナー】
『主人公』
転生者、前世はガチのアウトロー。
Fランとはいえ一応大卒、カタギ時代には頭脳労働に就いていたインテリ反社である。
カタギ時代からミリタリー趣味に傾倒しており、サブカルに関してはたまにラノベを嗜む程度。ブルアカ未プレイ勢。
『謎の声』
主人公を巻き込んで何らかの儀式をしていた模様。
なんだろうね(すっとぼけ)