ブラック・アーカイブ 作:Lone Omega
―――日本警察/職務質問の定型文
じっとしていても仕方ないので、明らかに紛争地帯としか思えない路地裏を抜けて大通りの様子を伺ってみる。
(んー……なるほど、こりゃ死ぬわ)
そこいらを歩く人々は皆こぞって銃をオープンキャリーしており、道路も経年劣化とは思えない新鮮な断面の穴だらけ。
道端に爆破されたのであろうブルドーザーの残骸が放置されているのを見るに、復旧を試みようにも重機や資材が狙われて逆に散らかるから放置されているのだろう。
(大通りに出るのはかえって危険かね……とはいえ土地勘皆無だしなぁ)
さっそく行動指針に迷う状況にブチ当たってしまった。
明かすべき謎も多ければ、警戒すべき危険も多い。
さてどうしたもんかと悩んでいると、背後から声をかけられた。
「おい、そこのアンタ。」
「……ッ!?」
真後ろに立たれるまで気付かなかった、考え事に熱中しすぎたか。
完全に相手の有利を譲ってしまった以上は刺激しないのが得策、銃を抜くのは諦めてゆっくりと振り向く。
もっとも、相手も銃を構えていないのは予想外だったが。
見たところ服装も一般的なセーラー服にしか見えない、おそらく俺と同年代あたりの少女といったところか。
銃を持っている以外に警戒すべきポイントは感じられない……いや、頭上に天使みてえな輪っかが浮いてやがるな。
「何か用か?」
「あぁ……財布を出しな。」
妙なバッテンマークのマスクで表情は伺えないが、その声音は確実に人を脅しつける時のものだった。どうやら路上強盗の類だったらしい。
しかし困った、今俺は財布を持っていない。
あるのはスカートに挟んだハジキだけ……と馬鹿正直に言っても絶対に信じる訳がない。
武装してると悟られた瞬間にこっちがブチ殺されて終わりだ。
「分かった、分かったよ……渡すから撃たないでくれよ?」
「おぉ、物分かりが良いじゃねえか。こっちに渡しな。」
俺はそっと、相手を警戒させないように歩み寄りながら左手を上げて右手をポケットに突っ込む。
一歩、二歩……三歩、相手は油断してるのか肩にライフルを担いだままだ。
そして―――前足の体重を抜き、後足で一気に踏み込む。
「うわっ……ぁぐッ!?」
「銃を放せ、逆らえば殺す。」
上げていた左腕でライフルを抑え込みながら突進。
右肩でタックルを喰らわせて壁に叩きつけたあと、ポケットから抜いた手で銃を抜き、左腕でライフルごと首を抱き込む。
まさにライフルの弱点はこれ、銃口よりも近距離にいる相手には滅法弱い。格闘戦ではナイフやハンドガンの方が便利だ。
俺は彼女が銃を捨てたのを確認し、こちらのハンドガンを突き付けたまま問う。
「他に仲間は?」
「い、いねぇ……一人だ!」
「じゃ確かめてみよう。」
俺は強盗女(仮称)を盾にしたまま路地にある適当な扉を開けて屋内に入る。
予想通り中は廃墟化しており、人の気配もなかった。
それから数十秒、緊張した空気のまま時間が流れる。
彼女を助けに駆け付ける足音は聞こえてこない。
「なるほど、本当だったようだな。正直ないい子だ。」
「そ、そうだ!だからもう離して……」
「ご褒美に殺すのは勘弁してやる。」
首を離すと同時に、握った銃のグリップを顔面めがけて振り抜く。
デコが割れて血が流れるが、ここで躊躇してはいけない。
ある程度殴れば、うずくまって地面に崩れ落ちる。
あとはサッカーボールキックを全身に満遍なく叩き込む。
「ぅ……ぐ…………すび、ません……でした……ごろざないで…………」
身の程知らずの強盗は全身に痣を浮かべ、原型が分からないぐらいボコボコになった顔は涙と血でグシャグシャになっていた。
歯が何本か折れたせいか、発音も怪しい……むしろ喋る元気が残っているのが驚きか。
俺は廃墟を後にし、彼女の持っていたライフルを拝借し現場を離れた。
もちろん大通りではなく、路地の奥へ。
ライフルを引っ掛けるスリングが無かったので、道端に打ち捨てられていた虎ロープの切れ端を拾って背負った後。
現場から離れるために移動している途中でまた声をかけられた。
「そこの貴方、ちょっと良いかしら。」
「……何かな?」
一言で言うなら……なんだろうな、何て説明すりゃ良い?
幼女がモップ被って、ホールソー頭に浮かべて、バカでかい機関銃担いでるような…………そうとしか説明できない子だった。
「こんな所で何をしているの?この辺りは不良生徒も多いし、店も大して残っていない過疎地域のはずだけど。」
「あー……えっと」
ガッデムこいつ治安維持組織かよ、話し方から警察臭がプンプンしやがる。
……あれ?じゃあ俺がライフル背負ってるのは良いのか?
「その制服、ゲヘナよね?うちの生徒が来る用事のある地域でも無いと思うのだけど。」
「ははは、そう言われましてもねぇ……」
「ちょうど風紀委員会の拠点に帰るところだから、一緒に来て。少し詳しい話を聞かせてちょうだい。」
「それ任意ですよね?」
「ええ、でも聞かれて困ることも無いでしょう?」
「それ言われたら実質強制ですやーん」
これだから嫌いなんだよ警察は。
【人物・用語・補足のコーナー】
『主人公』
ドンパチ上級者にして暴力常習者、ただしキヴォトス初心者。
キヴォトスにおける流血や欠損の重大さをまだ知らない。
『ホールソーモップ幼女(仮称)』
パトロールついでに不良狩りをしていたところ、ゲヘナ自治区内のスラムをうろつく不審者を見つけてしまった。
面倒臭がりなのに面倒事に好かれる体質。