※この作品はR-18です。

メイドさんのいる診療所   作:鍵山ゆーな

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再生

 

 長かった冬も過ぎ、出羽にも新緑の季節がやって来ていた。

 

 世間では相変わらず美郷恭太郎の事件について尾を引いてはいるものの、人々の生活は落ち着きを取り戻しつつある。

 

 喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉もある通り、刑事被告人となった美郷恭太郎は既に過去の人。新たな若手が台頭し、彼が空けた穴を埋めていた。覇権が崩れた今、俳優業界は再びの戦国時代を迎えていた。

 

 美郷恭太郎が操っていた匿名・流動型犯罪組織は潰滅した。かの襲撃犯達や出羽県担当の指示役だった安藤美海が所持していた携帯端末の解析が進んだ結果、各県で上位指示役になっていた教唆犯が次々と逮捕されていったからだ。

 

 その影響か、全国各地で多発していた強盗や特殊詐欺といった荒っぽい違法資金獲得は一旦影を潜めていた。

 

 そういった治安改善への大きな功績が認められたことで、捜査指揮官だった神代金弥は警察庁長官からの表彰と一階級昇任という栄誉を受け、警視正に昇っていた。

 

 そんな金弥に対して与えられた次なるポストは、「出羽県警察本部長」。傍から見れば異例の若さでの地方栄転だ。一方ではその裏には彼の実力や捜査手法の強引さに恐怖を抱いた中央政府による恣意的な人事操作があったともされるが、真相は闇の中だ。

 

 そして彼の当面の敵は、古い柵に捕らわれた県議会と、硬直し切った古い警察組織。彼が本当に手腕が問われるのはむしろこれからだ。

 

 美郷くれは暗殺未遂事件では無事彼女を守り切ったものの、左大腿骨頸部複雑骨折と左アキレス腱損傷で全治三か月という大怪我を負った牧野友恵は、事件解決の功績と負傷への慰労も含めて、生還二階級特進という異例で賞され、警視に昇任していた。

 

 友恵に対しては、複数の役職が打診され、その中から希望するものを彼女に選択させるという方式で次のポストが決定される事になっていた。様々なポジションの中、彼女が敢えて選んだのは「出羽県警矢島警察署地域課課長」という地味かつ現場寄りの役職だった。

 

 勿論元彼で未だ彼女が憧れる金弥が出羽県警本部長になるということで、それを追いかけていったというのが六割くらいの理由だろう。だが、残りの四割のうち、その八割くらいは紅葉に対する贖罪であったと、後に彼女は語っている。

 

 美郷恭太郎がボロを出す切欠を作り出したとも言える保戸野三郎は、大スクープを齎したという功績により、晴れて政治局へと転向する事が出来ていた。

 

 但し、帝経新聞本社では年末進行のスケジュールを破壊したという恨みが強く、三郎は受け入れられることが叶わなかった。だから彼は結局故郷である出羽支社の政治局次長という微妙なポストに収まっていた。年齢的にも、キャリアの終点に近い位置ではある。

 

 だが、三郎自身はそれでもやっと与えられた真に希望していた職責に満足しているようで、心を入れ替えて早速県議たちと丁々発止を繰り広げている。

 

 保戸野三郎を改心させる切欠を作った黒部萩雄は、務めていた東京の弁護士事務所を退職し、この春から出羽に自身が代表となる弁護士法人を立ち上げていた。地縁が多いのもさることながら、美郷くれはの担当弁護士として名声を稼いだ結果であったと言えよう。

 

 

 大事件の舞台の一つとなった刈和野綜合病院とそれを傘下に収める医療法人十文字会では、創業家である安藤家の影響下から脱するべく改革が進められていた。その推進役として白羽の矢が立ったのは、かつての病院看護師長であった旭川鳴美だった。

 

 彼女は病院を立ち上げた名誉院長でもある治輝の祖父、安藤恒三(こうぞう)の薫陶が厚かった。鳴美自身も、若い頃恒三に大怪我を治療してもらった事が切欠でそれまでの職を捨てて医療の道を歩み始めたという秀才。彼女は恩人の意を無下にはできなかった。

 

 その鳴美が行った改革は「医局から名士筋の医師を排する」という実に徹底的(ドラスティック)なもの。旧来的な柵を医療の現場に持ち込まれてはたまらない。それが今回の事件を通じて彼女が学んだ事だった。確かにそれは正論ではあるが、一方で副作用も多く出る「劇薬」だった。

 

 鳴美が示した苛烈な方針は、優秀な医師や学閥の離反を招いた。その事による医師の退職者が想定以上に膨らみ、結果として刈和野綜合病院は診療科を大幅に縮小せねばならないなど、経営的にも厳しい舵取りを迫られる事となっている。

 

 一方、元妻が病院の権威を私物化し、それを止められなかったとして全ての責任を負わされた治輝の父、治三は地元を追われ、東北地方随一の大都市に居を移していた。

 

 彼は元々外科の名医であり、腕も確かだったから、都会では職に困る事は無かった。その彼が新たに就いたのは東北大学医学部の整形外科特任助教という立場。後進を育成しつつ、時には手術もこなすという、かつてよりはかなり忙しそうな毎日を送っているようだ。

 

 

 事件の関係者で一番苦しい立場にあったのは、白楽優香だった。彼女は金弥が行わせた警察庁による内部監査で三郎に情報を漏らしたという事が発覚していた。

 

 彼女の所業は、かつて紅葉に金弥が謝罪した際に断罪した通り「警察組織としてあってはならない」大事故だった。特に警察庁直轄案件でのそれは、致命傷になりかねなかった。何とか警察の面子が保たれたのは、金弥と友恵の命懸けの働きによるもので、彼等でなければ、日本警察の権威は地に落ちていたことだろう。それ程までに重大な事案だった。

 

 ところがそこまでの大事を引き起こしておきながら、優香は当初容疑を否認していた。その心境には

「これくらいみんなやっていること」

「悪いのは自分だけではない」

「奥さんにも落ち度がきっとあった筈」

というどこか他責思考の考えが染み付いていたという、彼女自身の人格欠如も大きく影響していたようだった。

 

 三郎が「協議・合意制度」で警察の協力者に転んだ事で、優香の所業は物証を示され、徹底的に追及される事となる。その結果が、地方公務員法第三十四条違反による懲戒免職と厳重処分意見付きでの検察官送致だった。

 

 本来ならば温情で不起訴処分となる事が多いとされる警察不祥事の事件で、優香の場合は厳重処分意見を付けられたことにより、異例の在宅起訴という重い処分が下されていた。

 

 それはマスメディアでも大きく取り上げられ、「今どきの若い子の失敗例」として社会に対する訓示として利用されている。他人をコンテンツとして扱っていたツケで、自分がワイドショーのコンテンツに。それは現代社会の皮肉としか言いようがない帰結だった。

 

 

 そしてその騒動の中心にあった治輝と紅葉は、順調に愛を育んでいた。

 

 治輝はあの後、大学時代の教授が院長に就任していたという縁故により、国立病院機構矢島病院で心療内科及び脳神経内科の非常勤医師という立場で保険医に復帰していた。

 

 確かな腕があるにも拘らず、治輝があくまで非常勤であるのは、刈和野綜合病院での事件がまだ尾を引いている証拠だった。それでも、今の立場は、彼が初めて自分で掴んだ職位でもある。彼はそれに腐る事なく、日々の職務に精励していた。

 

 紅葉は医師として現場復帰したそんな治輝を支える内縁の妻という立場に転じていた。二人の間にはまだ子供が出来る気配はない。だから、彼等は未だ恋人の間柄のままだ。

 

 萩雄の尽力により、離婚慰謝料及び財産分与の交渉は続いている。だが、そもそも元夫が社会的な死を迎えたまま刑事被告人となってしまったことから、紅葉の元にどれだけの賠償金が降って来るかは未知数だ。

 

 そんな紅葉は、一つ新しい夢を見つけていた。それは、高卒認定資格を取りつつ、医療事務で知識を身に付け、ひいてはいつか医学部を受験し、治輝のような医師になること。その為に、彼女は今彼に家庭教師をして貰って、猛勉強中だった。

 

 大人になってからでも十分人生はやり直せる。それを紅葉はまさに世に示そうと奮励努力していた。

 

 

 一方で、二人の生活に問題が無かった訳ではない。やはり治輝の立場は隔日の非常勤。常勤であった頃に比べれは、収入は非常に少ない。二人で食べていくのには微妙に不足。徐々に資金が減っていっているジリ貧の状態だ。

 

 そこでそれを根本的に改善すべく、治輝はどうにか起業、つまり開業医として拠点を構えられないかと模索していた。

 

 ところが、そこで問題となったのが、資金と信用の問題。資金は言わずもがな、最新鋭の検査機器などを揃えたならば、小さな診療所でも億単位が必要だ。現在の治輝の預金を頭金にしたとて、銀行から全額の融資を受ける事は叶いそうにない。

 

 そして何より治輝の頭を悩ませていたのは、地元医師会の反対とそれによる行政からのの不信だった。

 

 治輝は県央の医療体制に穴をあけた当事者として扱われていて、県医師会では戦犯扱い。だから、彼が開業などというのは、彼等にしてみれば到底認められない不許の案件だった。

 

 そして医師会と繋がりが深く、人材交流も盛んな県厚生局でも、そういった傾向が顕著。治輝が何かの許認可を受けようにも、数回は頭はねされてしまうという「嫌がらせ」が多発していた。そこに、地域と軋轢を起こした者の難儀さが顕著に表れていたと言えよう。

 

 

 そんな治輝の苦境を見かねて、手を差し伸べた人物がいた。それは病院の運営を愛弟子に禅譲して荷が下りた、彼の祖父である恒三だった。

 

 恒三は遠巻きに、孫の活躍を見守っていた。彼が今まで何があっても直接手出しをしなかったのは、治輝がどこまで責任を負えるのか、という点を見極める為。三代目のボンボンに収まっているままであれば、助けてやる義理はないと恒三はそう感じていた。

 

 だが、明らかに治輝は苦境にあった、制度の隙間に落ちた一人の女性を、自分の人生を擲ってでも救った。その様に、かつての自分の姿を重ねて見ていた恒三は、そのせいで苦しい舵取りを強いられている孫に救いの手を差し伸べようと思ったようだ。

 

 まず恒三が着手したのは、医師会に対する影響力の行使だった。恒三は出羽県の医師の中では戦後五指に入る伝説(レジェンド)。彼に比べれば、医師会でふんぞり返っているお偉方など鶏雛(ひよっこ)も同然だ。そんな彼が医師会に要求したのはただ二つ。

「派閥争いをしている場合ではなく、患者本位主義に立ち返り、出羽県地域全体の医療改革を促進するべき」

「過疎による医療空白地における総合診療のモデルを早期に検討するべき」

という、実に抽象的なものだった。だがその二つはどれも、治輝に関わりがある事。

 

 前者は当然気に入らないものを制度や手続きで虐めて排除するのは医師のやることではない、そんな輩は医師の風上にも置けぬ、と警鐘を鳴らすものに他ならない。

 

 後者は、恒三が治輝がやろうとしている事の本質をしっかりと見抜いていたからこそ提言できたもの。

 

 治輝が県に申請していたのは、過疎地に若手医師を定住させ、地域の医療を担わせるのを県主導で行うべきという提言と、それを自らが主体となって試験的に行う為の許可申請だった。

 

 つまり治輝は厚生労働省が自治医大などで行っているような事を、県主体でやるべきである、そしてそのモデルケースとして自費で生贄になる用意がある、と宣言していた。

 

 そんな先進的な取り組みとも言える事を内容も見ずに却下というのは如何なものか。それが恒三の言わんとしているところだった。

 

 医師会、そして県厚生局は恒三の意見を無下には出来なかった。だから、治輝は突然今までつっかえていた諸々が突然前に進みだしたという謎の感覚を、この時得ていた。

 

 

 突然県厚生局の実務担当者が訪れるなどして急に忙しくなった治輝の許に、一本の電話が入る。それは暫く会えていなかった祖父・恒三からのものだった。

 

「おう、治輝。元気でやっでだが。相変わらず無茶ばりしでだど聞ごえでだぞ。達者か」

「じいちゃん、久しぶり。どこまで聞いてるかは知らないけど、まぁなんとかやってる」

 

 治輝の言い草に、電話口の恒三はそうだろう、と頷いていた。孫は苦しい時でも絶対に音を上げないタイプ。こういう人間は、周囲が支えなければいつか折れる。それを彼ははっきりと理解していたようだった。

 

「おめどご、虐めでばりいだヤブ医者っこ、俺ぁ叱りつけ(ごしゃい)でおいだがらよ。おめだば、まず、気にさねで、やりでぇごど、やれは。但す、途中で投げらんねど。いいが」

 

 恒三は障壁は取り除いておいた、と豪快に語る。突然前に進んだのは、この爺の仕業か。治輝は漸く最近の忙しさが腑に落ちていた。

 

「わかってるよ。助力、ありがとうございます」

「んだが。へば、おめの口座さ当座の運転資金入でおぐがらよ。三億もあればいいがな」

「三億⁉」

「勿論けでやる訳でねど。貸しだ。それで先んず、医療法人作れ。んでねば、贈与税掛かるべしゃ」

 

 金銭面でも、祖父は助力をしてくれるらしい。実務的なやり方までレクチャーしてくれながら、祖父は気軽に億単位の金を無利子で融資してくれた。この人には足を向けて寝られない。治輝はこの時はっきりとそれを自覚していた。

 

「土地ど建物は、まだ決まり次第喋るがらよ。頑張れよ」

 

 そう告げて、祖父は電話を切った。兎角も、強力な味方を得て、構想は前に進んだ。治輝はいよいよ経営者としての第一歩を踏み出そうとしていた。

 

 

 それから何度かの調整を経て、治輝が発足させた医療法人「紅葉(もみじ)会」は拠点となる医院建屋とその周辺土地の権利を恒三の全額出資で賄う事で「矢島山麓診療所」を開業できる運びとなった。

 

 最終的に恒三が出資した金額は十億と少し。彼はそれを生存中は無利子、死後は年利三パーセント、但し曾孫が生まれた場合は残債の半額を免除という破格の条件で融資してくれた。これで、治輝は祖父に足を向けて寝られないという事が確定していた。

 

 市役所がある出羽矢島駅から延びる第三セクター方式地方私鉄路線、矢島高原鉄道山麓線の終着駅、山辺(やまべ)駅から徒歩五分程度の、丘の上の小さな集落に、矢島山麓診療所は設けられる。

 

 開業は今年の九月を予定していた。それに向けて、治輝は紅葉と共に慌ただしい毎日を送っていた。

 

 

 美郷くれはが失踪したことから始まった一連の事件。その関係者の中で、唯一処遇も未来も何もかもが一切決まっていない者が一人だけいた。真壁雪乃だ。

 

 彼女は後期研修医の状態で刈和野綜合病院から馘首を宣告されたことで、窮していた。

 

 雪乃が仕出かした所業に対する処罰は、不起訴処分。犯罪の事実はあったが、刑事事件として罰する程ではない、という検察官の判断によるもの。それは雪乃の罪の法定刑と照らしても、彼女が事件に係る「協議・合意制度」に参加した時点での既定路線だった。

 

 だが、彼女が窮していた事情の本質の出元はそこではない。何より重い「世間罰」だったのが、地方病院組織を破壊した張本人である安藤美海の手先であったという「事実」と、美海が老人を中心とした社会的弱者に対して狼藉を働いていたという「体裁の悪さ」だ。

 

 そうした評判が尾を引いて、彼女は後期研修を引き継いで貰える病院に未だ恵まれていなかった。だから雪乃は、医師免許という強力なカードを持っている筈なのにも拘らず、それを死蔵する他ないという憂き目に遭っていた。

 

 そして老人などに狼藉を働いた悪党の一味だったというとんでもない悪評は、彼女がアルバイトをしようとする際にも影響を及ぼしていて、家庭教師や塾講師はおろか、コンビニエンスストアのバイトでさえ一度も採用通知を貰ったことがないという窮地だ。

 

 更に彼女の困窮に拍車を掛けていたのは、実家からの勘当という、重い身内処分だった。

 

 雪乃の実家は開業医で、治輝と同じく名士階級の家系。そんな立場の人間が悪党に与したというだけで、真壁家の名誉としては致命的だ。だから雪乃は、実家から一人娘であったにも拘らず勘当されるという、一番きつい社会的制裁を浴びる事となっていた。

 

 つまり雪乃は、家も、職も、医師としての矜持も、憧れだった幼馴染も、推しの衣装を快く着てくれた美人の友人も、何もかもを失ったまま、社会の奈落、その隙間に転落してしまい、いよいよ這いあがれずにいた。

 

 そんな苦しい境地になって、雪乃はいよいよ気付かされていた。こうした自分のような何物にも成れなかった人たちを救おうと、幼馴染は一人奮闘していたのではなかったかと。

 

 それを理解した時、このままでは自分は生き恥なのではという恐怖が彼女を襲っていた。

 

 そういった使命に躍起となっていた人物を、一時の嫉妬と軽率さで裏切り、貶めてしまった。それは最早取り返しのつかない重罪だったのではないか。彼女は自身の貯金を切り崩して生活する中で、次第にそう感じるようになっていた。

 

 

 八月も半ばになると、いよいよ雪乃は蓄えが底を尽きそうという危機的な状況に至っていた。このままでは諸々の支払い、特に奨学金などの支払いが詰む。それが彼女の焦りを増長させていた。

 

 収入源が一切ない彼女は、このままでは風俗などで身体を売ってでも稼がねばならなくなる。然るに、未だ純潔を守っていた雪乃は、それをするくらいなら自死を選ぶべきだ、とこの時考えるようになっていた。それ程までに、彼女は追い詰められていた。

 

 ただ、雪乃としては、自身が身を冥界に擲つ前にやらねばならない事があるという事をはっきりと理解していた。それは、裏切ってしまった人たちへの謝罪だ。

 

 結局逮捕されて弁護士の手によって引き合わされた時も、碌に会話は出来なかった。謝罪などをする余裕も、何に対して謝ればよかったのかも当時は分かっていなかったのだから、それは当然ではあった。

 

 だが、今になっては、彼女ははっきりと分かる。自分は治輝のやろうとしていた大事な使命の邪魔をした。そして、裏切りと人権無視で紅葉を傷つけた。どちらも、謝ったところで許して貰えるかどうかは分からない。雪乃の中ではそれ程には重い罪だった。

 

 そんな中、彼女は、治輝と紅葉が尽力の末、矢島市で医院を立ち上げるという話を、風の噂で聞いていた。

 

 だから雪乃は、治輝と紅葉に会いに行く事を決めていた。当然、許して貰えるなどとは思っていない。それでも、最後に謝らなければならない。

 

 そしてもし、その謝罪すら受け取って貰えなかったならば、その時は、自らそっと命を断とう。彼女は、そう覚悟していた。

 

 

 借りていたアパートを引き払い、申し訳ばかりの荷物だけをキャリーに詰めた雪乃は矢島高原鉄道山麓線の単線汽車に揺られていた。

 

 その車窓から見えるのは、駅の周囲にのみ存在する集落、そして田畑だらけの田園風景。それも駅を追う毎に集落は小さくなり、森林の比率ばかりが高くなる。

 

 こんな寂れたところに、わざわざ新しく診療所を開設する。それがどれだけ勇気の要る事か。雪乃自身、元地方病院の常勤医師であったから、それをはっきりと理解していた。

 

 それでも、治輝が今やろうとしているのは金が全てでは決してない。そう信じれるだけの根拠が今の彼女にはあった。だから雪乃は、次第に二人にどんな顔をして会えばよいのか、分からなくなりつつあった。

 

 終着の山辺駅からバスどころか車も殆ど来ない小高い丘の、所々アスファルトが罅割れて草が生えている古ぼけた道路を登ってゆく。暫くすると、小さな集落が見えて来る。

 

 古民家が立ち並ぶ光景に一つだけ真新しい新築の建物が目に入る。その真新しい表札には、「矢島山麓診療所」とある。ここか。雪乃は一つ息を吐いた。

 

 人の気配はない。九月開業予定と診療時間を示す箇所には貼紙がしてある。無駄足だったか。雪乃が踵を返そうとしたその時だった。

 

「……雪乃、ちゃん……?」

 

 彼女の背後から、聞き覚えしかない声が掛かる。雪乃がはっとして振り向く。そこには、袖や裾の赤が美しいメイド服を着こなした美女が一人佇んでいた。しかも収穫したばかりらしい、キュウリを携えて。

 

「くれはさん……っ。ごめんなさい、ほんと、ごめんなさいっ」

 

 雪乃は、思わず紅葉に抱き付いて、涙を流していた。自然と、謝罪の言葉が零れてゆく。それを優しく受け止めた彼女は、ただ一言「大変だったね」と。何も言わなくてもただ包み込んでくれる。その安心感で、雪乃は涙が止まらなくなってしまった。

 

 紅葉に案内されて、診療所の中へ。ほぼ完成した建物の中には、何やら小難しい書類を目にして眉を顰めている幼馴染の姿があった。更に男を上げた治輝の姿が、雪乃には非常に眩しく映っていた。

 

「治輝くん。雪乃ちゃんが、来てくれたよ」

 

 紅葉の言葉で振り返った治輝は

「やぁ真壁。久しぶりだ。そろそろこちらから連絡しようかと思っていたところだ。来てくれて嬉しいよ。二人だけじゃ手が回らないところがどうしても多くてね」

あたかも助けに来てくれたようなそんな様子で歓迎してくれる。そうじゃないでしょ。人の気も知らないで。どうしてそんな迎え入れるような真似を。私は罪悪人なのに。その気持ちが溢れ、雪乃は遂にその場にへたり込んで、泣き出してしまった。

 

 そんな状況に、治輝は困惑するばかり。そんな半狂乱状態の彼女を、紅葉が優しく介抱してあげている。

 

「その様子じゃ、よっぽど苦労したんだろ。僕はそういった人を見捨ててはおけなかった。くれはさんも、かつてはそうだった。そして、真壁。お前もきっとそうなんだろう。だから、僕は……そんな君を見捨てる訳にはいかない。罪悪感とか過去とかはもう、考えなくていいぞ。共に生きよう。ここは、そういう場所にしたいと考えているんだ」

 

 少し落ち着きを取り戻した雪乃に、治輝は優しく手を差し伸べる。それで治輝の本質にいよいよ触れてしまった彼女は、彼の両手を掴んだまま、また感極まってしまう。

 

「雪乃ちゃんったら、そんなに泣いたら脱水になっちゃうよ?」

「くれはさん、冷蔵庫に経口補水液あったでしょ。真壁に一本あげて。一旦落ち着こう。詳しい話はそれからにしよう」

 

 早速医師と看護師のような顔になった二人。それが、やはり今の雪乃には眩しく映っていた。

 

 

 九月。いよいよ診療所が動き出していた。既に据え付けられていた表札は、急遽取り替えられ、診療科が三つほど追加になっていた。

 

「内科・皮膚科・産婦人科・心療内科・脳神経内科 矢島山麓診療所」

 

 雪乃を正式に後期研修医として迎え入れたことで、過疎地域に出来るにはあまりにも高機能な、地域医療拠点がそこには誕生していた。

 

 この診療所の特色は、診療科の豊富さだけではない。受付での医療事務と院長の指示の下で放射線技師助手をする紅葉と、研修医として内科・皮膚科・産婦人科を診る雪乃が、メイド服姿で医療に従事しているということだ。

 

 半ば女性職員の制服と化しているそれがあまりにも奇天烈すぎるので、地元では「メイドさんのいる診療所」などと実しやかに呼ばれつつあるのだが、本人たちはそれをむしろ唯一無二のユニークな点として押し出そうとしている気配すらあった。

 

 彼等の住まいは、診療所の隣に併設された、平屋の住宅。宿泊措置が発生した場合に備えて、仮設ベッドを置けば簡易的な病室にすることもできる客間もいくつか備えている。三人はそこで共同生活を営んでいた。

 

 

 その日は残暑がまだまだ厳しい一日になりそうだった。オープンからこの方、ちらほらと患者は来るものの、まだ周囲は様子見といった感じの日々。院長の治輝としては、浸透までには時間がかかるだろうから、と何も言わずどっしりと構えている。

 

 三人の日課は、まず朝食を揃って摂るところからだった。

 

「くれはさん、ごめんなさい。お醤油取ってもらっても?」

「は~い❤」

 

 紅葉は魚が大好きだった。だから、必ず朝食には焼き魚が並んでいる。今日は塩鮭と味噌汁と卵焼き、そして白米。如何にも慎ましいが、ザ・日本の朝食といった感じのメニューだ。その塩鮭に、治輝は何の躊躇いもなく醤油を垂らしていた。

 

「いや、治輝さん。マジすか。くれはさんの鮭、ここでは初めて出ましたけど……醤油は、ちょっとヤバくないですか」

「ん、そうか? くれはさんも、いりますよね?」

「うん❤ これにお醤油掛けると、丁度いいの」

 

 二人はすっかり「ぼだ」に毒されている様子。特に治輝はあの温泉旅行以来、ただの塩鮭では物足りないと感じるようになってしまっていたようだ。

 

 その様子を、雪乃はすこし引き気味で眺めていた。その光景があまりにも衝撃的だったのか、彼女は前々から言おうと思っていたことを、すっかり頭から飛ばしてしまっていた。

 

「そ、そうだ。あの。ずっと一言言おうと思ってたんですけどっ」

 

 ようやく我に返った雪乃は、治輝に向き直って真顔になると、

「なんで治輝さん、くれはさんにだけ敬語なんです? 私だけ、ちょっと雑みたいでヤなんですけど」

少し頬を膨らませながら抗議する。

 

「そういえば、そうかも。なんで?」

「うーん。馴れ、ですかね?」

「なんか二人だけの空気みたいでずるい」

 

 不思議がる二人。それに雪乃は仲間外れは嫌だと不平を鳴らす。

 

「わかった! じゃあ、治輝くん。宿題ですよ。これからは、雪乃ちゃんのことは雪乃、私のことも、くれはって呼ぶこと。あと、敬語はダメね。わかった?」

 

 そこで、紅葉が最善策を思いついて提案する。それに

「あ、それいいですね。じゃあくれはさん、私もタメ口でいい?」

「もち❤」

「やりぃ♪」

雪乃はすぐさま乗っかる。むしろ紅葉とすぐさま握って、既成事実を作ってしまっていた。そんな女性職員同士の素早い連携を目の当たりにして、

「……難題かもしれないな、これは」

院長は思わず唸ってしまうのだった。

 

 

 この日は水曜日。急患を除けば、全ての科で休診だ。この日は各々が好きに過ごしていいという決まりになっていた。治輝は近くの小川に釣りに。紅葉は出羽矢島に食材の買い出しに。雪乃は紅葉が小ぢんまりと作っていた家庭菜園の整備と庭園化に精を出していた。

 

 特に雪乃は元々ガーデニングに興味があったらしく、早速凝り出して庭に小さな池を作り、そこにメダカや金魚を放って小さな水生生物生息空間(ビオトープ)を作り出してしまっていた。

 

 それは皮膚病やその他各種伝染病を媒介する蚊の発生を抑えるのにも一役買っていて、病院という清潔空間とは非常に相性がいい趣味だった。

 

 それには治輝も乗っかり、今度川から水を引いて流水池泉にしてみてはどうか、という提案もなされていた。そんなこんなで不足がちの諸々の資材の購入も、この日紅葉がついでだからと引き受けていた。

 

 ホームセンターで買い物を済ませた紅葉は、それらの配達手続きを済ませて、外へ出た。普段ならば、眩しいな、と思う程度で済むはずが、この日はどうも朝から調子がおかしい。それを自覚していた彼女だったが、この時は遂に力が入らず、その場にへたり込んでしまう。

 

「ちょっと! くれはさん、大丈夫⁉」

 

 そこへ駆け寄ってくる婦人警官が一人。警邏がてらホームセンターの敷地内にある牛丼屋に昼食を買いに来たらしい、矢島署地域課長の友恵だった。

 

「あ、ともえさん……こんにちは。なんか、今日ちょっと調子へんで……」

「ちょっとPC乗っていきなよ。明らかに変だもの。一旦PB(しょ)へ。治輝くんたちにもすぐ連絡してあげるから」

「ごめんなさい……おねがいしても、いいですか?」

 

 友恵が介抱していると、紅葉は少し熱っぽい感じの体温だった。熱中症などになっては拙い。友恵は昼食を諦めて、すぐさま彼女を自身が使用していたミニパトへと乗せる。そしてエンジンを掛けた友恵は、すぐさまどこかへ電話を掛け始める。

 

「はい、神代」

「至急至急、矢島地域一より、出羽本部。急患あり」

「……友恵か? お前、無線と電話を間違ってないか?」

「繰り返す。出羽本部。急患一名、こまち二号」

「……! ヘリでいいか」

「その通り、搬送先、矢島署。これより搬送予定」

「出羽本部、了解」

 

 通話相手は、県警本部長になっていた金弥。あの事件はまだ公判すら始まっておらず、完全には解決していない。そんな今、重要参考人で保護対象は解除されていない紅葉に何かがあっては困る。友恵の金弥への電話は、そういう現場判断だった。

 

 

 小川に座ってのんびりと釣り糸を垂らしていた治輝の許に、一本の電話が入ったのは十三時を過ぎた頃だった。それは、矢島MAからの発信で、下四桁が○一一〇となっている。治輝としては見覚えしかない電話番号だった。

 

「はい、安藤です。事故ですか、事件ですか」

「あ、もしもし。治輝くん? 友恵です」

「あ、どうもお疲れ様です。どうしました、課長自ら……」

「くれはさんが、さっきホムセンで倒れてて。今署に収容したところ。熱中症疑い。すぐ受け入れ準備。もうすぐ出羽本部からヘリが飛んでくるから、それでそっちに行くから」

 

 世間話をする間もなく、急用を告げられた治輝は真顔になる。医師としても、恋人としても、緊張が走る。だから、彼は思わず

「医療一、了解。すぐ準備します」

「ふふ。了解、以上矢島地域一」

警察無線での応答のように答えてしまっていた。それに友恵は思わず小さく笑みを浮かべ、彼に合わせて警察無線風に応答して電話を切ってくれる。だから彼はそれで、少し緊張を解す事が出来ていた。

 

 

 雪乃はこの日実った野菜を収穫していた。そこに、長靴姿で釣り竿とバケツを抱えて慌てて走って戻ってくる治輝の姿が。何かあったのだろうか。直感で思った彼女は

「治輝さん、どうしました?」

自然と声を掛けていた。それに息を切らしながら

「雪乃先生、急患です。直ちに内科の救急受け容れ準備を。はぁ……っ。くれはさんが、これからヘリで来ます。熱中症の疑い」

治輝は危急を伝えた。完全に仕事モードの口調。それで、雪乃も真顔になる。そこから先は、二人が手分けをして準備を整えてゆく。

 

 矢島警察署から出羽県警のヘリが飛んで来たのは、その七分後だった。ヘリから降ろされた担架には、顔面が蒼白な紅葉の姿が。

 

「くれはさん、大丈夫ですか⁉」

 

 治輝は紅葉に駆け寄る。すると、たどたどしいながらも、彼女は左手でピースサインを作りながら、

「もー、口調戻っちゃってる。ただいま。なんかすっごい豪勢なタクシーで帰って来ちゃった……税金じゃぶじゃぶだね、これは」

軽く冗談を飛ばす。その台詞には、担架の一端を担っている友恵が思わず苦笑いを浮かべている。

 

「すぐバイタル取ります。確かにちょっと熱っぽいですね。血圧一二一の、九三。脈拍、少し早いな。九四か。瞳孔は迅速、と。すみません、友恵さん。中までお願いします。中で真壁医師が準備してますので」

「了解。お邪魔するわね」

 

 簡単な確認を済ませた治輝が、紅葉のバイタル情報を書き込んだ付箋を、彼女の右手に貼りながら搬送を友恵に依頼する。彼女はそれに頷いて、同伴していた警官にもそれを指示していた。そうして一先ず仕事を終えて大きく息を吐いた治輝に

「よう、お疲れ。タクシー代はツケとくからな」

「いや、冗談キツいですよ、本部長殿。完全に『オバケ』じゃないですか……」

さっきの紅葉の軽口を聞いていたらしい金弥が一言。それには治輝は思わず苦笑いだ。

 

「ま、何もなけりゃいいがな。美郷恭太郎(ホンボシ)の公判もまだだ。今彼女に何かあると、警察としても困るんでね」

「お手数をお掛けしました。ちょっと中で休んでってください」

「おう、そうさせてもらうわ。あと、治輝。ここ、ヘリポートにしたらどうだ? 警察や消防がこうして拾ってくることも今後あるだろうしな」

 

 治輝と金弥は完全に実務モードで会話を始める。その二人は、ヘリのパイロットも伴って、自宅として使っている平屋へと向かっていった。

 

 

 紅葉の診察をしていた雪乃は、内科的な異常が見受けられない事に違和感を覚えていた。確かに微熱で、バイタルも変。だが、一番危惧された熱中症ではどうやらなく、感冒などでもなさそう。彼女は慎重に、症例を除外してゆく。

 

「ふーむ。となると……」

 

 雪乃はとある可能性に行きあたっていた。それを確認するには、ある手順が必要だった。

 

「すみません、男性の警察官の方。ちょっと、患者さんのプライベートなところ、診ますんで……しばらく、居間でお待ちいただいてもいいでしょうか? 牧野警視はそのままで」

「はっ、承知いたしました。失礼します」

 

 それは、男性の人払い。紅葉のプライベートに配慮したようだ。そして、警察案件であることから、一応友恵だけは残してある。

 

「婦人科系ってことね、雪乃ちゃん、研修医とは思えない手さばきね」

「ありがとうございます。で、くれはさん。前生理きたのいつ?」

 

 采配を褒めながら、友恵は核心を突く。それに頷いた雪乃は、いよいよ紅葉に肝心の問診を始める。

 

「えーっと……一月半くらい前かな?」

「前の生理の後、治輝さん以外とえっちした?」

「するわけない」

「だよね。最後に膣内射精でえっちしたのは、何時?」

「昨日、かな」

「あらあら」

 

 紅葉の答えに、雪乃は人が寝てる横でなんということを、という顔。友恵はお姉さんコレ聞いてていいのかしら、という顔をそれぞれしていた。

 

「ハイ、コレね……使い方、分かる?」

「大丈夫、だと思う」

 

 雪乃は引き出しから試薬を取り出して、紅葉に渡す。それで彼女はいよいよこの不調が何に由来するものかを勘付き始めたようだ。

 

「OK。終わったら、それはこのトレイの中に。私はエコーの準備してくるから、済んだら内診室に来てね」

「ねぇ、雪乃ちゃん。これって、その、アレよね」

「はい。十中八九、アレです」

 

 早速トイレに向かった紅葉を尻目に、友恵は雪乃に意味深に語り掛ける。雪乃は、今彼女が考えていることが正解だ、と大きく首肯していた。

 

 

 診察結果を、男性陣四名はそわそわとした様子で待ち侘びていた。特に治輝は思ったより時間が掛かっている事に、不安を覚えていた。そこに

「診察、終わりました」

真顔の雪乃、少し頬を赤らめている紅葉、ニコニコ顔の友恵が姿を現してくる。

 

「ど、どうですか。なんか見つかりましたか」

 

 開口一番の治輝の問いに、雪乃は表情を変えぬまま首を横に振り、紅葉を見る。すると紅葉は小さく頷いて、

「その……デキてました……。二か月、だそうです。お騒がせ、しました……」

恥ずかしそうに妊娠を告知したのだった。それには、治輝以外の男性三人は思わず脱力だ。

 

「おめでとう、治輝くん」

「いろいろ言いたいことは山ほどありますけどね、治輝先生。取り敢えず、おめでとうございます」

 

 友恵が純粋に祝福している中、雪乃はどうも不機嫌だった。それで昨晩も愛を育んだのがバレてしまったのだろう、と察した治輝は、思わず頬をぽりぽりと掻いていた。

 

 

 元々の予定通り、治輝と紅葉は結婚する事になっていた。そしてそれは妊娠発覚をトリガーとした予定調和だったことから、準備はとんとん拍子で進み、その一月後には入籍と挙式が行われるという、とんでもないスピード婚となった。

 

 会場は、矢島山麓診療所の住居棟。ほぼ関係者だけの、小ぢんまりとした華燭の典だ。紅葉にとっては初婚の時とはうってかわった、あまりにも質素なそれ。それでも彼女はとっても幸せそうだった。

 

 外部から駆けつけてくれたのは、あの時お世話になった温泉旅館の女将くらい。それ以外は皆あの事件の際に苦楽を共にした面々ばかり。一応最低限の礼儀として、治輝は安藤家の関係者にも招待状を送ってはいたが。それは全て黙殺されてしまっていた。

 

 そして彼自身もそうだろうな、とは薄々感じていたから、最早特に何も思うところは無かった。

 

 一方で、安藤家の中では唯一恒三だけが、「開業祝い」と称して電報を一通。参加はしてくれはしなかったし、内容自体も

「コンゴノハッテンヲ、オイノリイタス ジイ」

という大変古風かつ単調なもの。だが、明らかに気に掛けてくれている事は分かる。治輝としてはそれが純粋に嬉しかった。

 

 

 参列者たちは、流石に私用にヘリを使う訳にはいかなかったようで、四輪車のタクシーでそぞろに帰っていった。残されたのは、生活を共にする三人だけだ。

 

 ドレス姿の紅葉に対して、いつもの「制服」の雪乃。そこには、確かに隔絶が存在していた。もう治輝は自分には絶対に振り向いてくれない。その事実が、自然と雪乃の気持ちを沈めていた。

 

 ここに来てから、約二か月。やはりどうにも二人から一線を引いてしまう自分が、雪乃としては惨めだった。そんな彼女の様子を察した紅葉が、治輝と雪乃を手招きする。

 

「あのね。治輝くんに、一つ、お願いがある」

 

 昨今はお茶目にムードメーカーをする事が多い紅葉が、いつもに増して真剣な眼差し。それに、治輝も小さく頷いて真剣な眼差しを返す。そんな中雪乃だけは、どうにも疎外感から不貞腐れ気味であった。

 

「あのね。今日……その、初夜でしょ。だからね、治輝くん。どうか雪乃ちゃんを抱いてあげて」

 

 紅葉からの要請。それは二人にとっては、到底信じられないものだった。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで、私? この人、くれはさんの、旦那さんなんだよ?」

 

 いの一番に驚きの声を上げたのは、雪乃だった。それに紅葉は

「うん。だからだよ。私ね、どうしても、雪乃ちゃんが他人にに思えなくって……きっと、私と、同じ傷を負った人……そう思うから」

理由を簡潔に述べる。雪乃はそれを聞いて、思わず押し黙ってしまっていた。

 

「く、くれは。でも、それは……。僕は……」

「うん、わかってるよ。治輝くんは、きっと、私だけに、って思ってると思う。でもね、私には、そんな贅沢を言う資格はないの。あなたに救ってもらっただけで、十分だから」

 

 治輝の言わんとする事。それをはっきりと言い当てた紅葉は、続けてこれ以上を望むのは強欲だ、とばかりに。そして

「勿論ね、他人の女の人、例えば友恵さんとかが治輝くんに抱かれるのは、絶対ダメだよ。でもね……雪乃ちゃんは、家族だし。この三人の中では、仲間外れなんて作りたくない。私は、そう思う」

紅葉は自身なりの結論を出していた。それもまた、互いに見捨てないという意思の表れ。治輝が言った「共に生きる」という理念に合致する話でもあった。

 

「くれはさん……。でも、どうして、そこまで……」

「あなたはずっと役を演じて来た人。私にはわかる。でももう、その役は降りたでしょ。そしてあなたには恩義がある。それだけで十分、治輝くんに愛される理由になると思う」

 

 未だ戸惑う雪乃に、紅葉は続けた。確かにあの時、雪乃が紅葉にコスプレを勧めなければ、今この瞬間は無かったかも知れない。そういう意味では、確かに雪乃は紅葉の恩人だった。

 

 そうして息を一つ吐いた紅葉は、

「あなたのいいところは、傷を負った私たちを一人の人間として愛を平等に与えてくれること。でも、今のままじゃ、不公平。私を愛するというのであれば、雪乃ちゃんも、私の半身だと思って抱いてあげて」

改めて治輝に向き合って、告げた。そこには、覚悟が滲んでいた。後悔などは微塵も見られない。だから彼も、その要請に応じる事を決めていた。

 

「わかった。くれはがそこまで言うなら。でも、雪乃。これは僕の童貞をくれはにあげた時に、彼女にも聞いた言葉だけど。あとは、雪乃自身が決める事だ。雪乃が、望むなら、僕は、君を受け容れるよ。でも、あくまで望むなら。義務感とかで繋ぎ止めるのが目的なら、やめたほうがいい」

 

 治輝は、かつて紅葉にも確認した言葉で、雪乃の意思を問う。その言葉が懐かしかったのだろう。紅葉はしたり顔で腕を組み、しきりに頷いていた。その様があまりにも可笑しかったのか、雪乃は思わず吹き出してしまっていた。それですっかり空気が緩んでしまう。

 

「あはは、くれはさん、なにそのドヤ顔。ふふ、可愛いんだ。なんかこっちの方が、私達らしい。確かにね、私はずっと治輝さんが好きだった。でも、くれはさんとくっついちゃって、モヤモヤしてたこともあった。でも、こうして一緒に苦楽を共にするようになって、改めて思った。私も、ちゃんと仲間に入れて欲しいな、って。だから……うん。治輝さん。お願い。私の、処女(はじめて)、もらって……?」

 

 いよいよ雪乃も、決意したようだった。治輝に女にしてもらうことで、初めてこの共同体の仲間に入るという事をだ。それを、紅葉はとても嬉しそうに眺めていた。

 

 

 治輝と雪乃は、彼女が普段使っている自室にしけ込んでいた。新婚の新郎なのに、別の未婚女性と初夜に密室の寝台の上で二人きり。一般的な感覚ならば、浮気者と断罪されても仕方がない明らかに倒錯的な状況だ。

 

 新婦が公認という時点で余程特殊な事例だ。最早常軌を逸しているとしか言いようがない。だが、彼等にとってはそれでも正しいこと。三人にとって、周囲がどう思っているかなどは最早些事だった。

 

 だが、いざ突然二人きりになったとて、いい雰囲気になるかと言われればそんな事は決してないのが実情だった。実際いきなり「好いていた男に抱かれる機会」が降って湧いたことで、雪乃はかちこちに緊張してしまっていた。

 

「雪乃、緊張してる?」

「ひゃっ、そ、そんなことは……」

 

 見かねた治輝が声を掛ける。それだけでも、雪乃は身体をびく、と跳ねさせてしまっていた。そんな初々しい反応に一つ頷いた彼は

「よし、少しアイスブレイクしよう。雪乃が、実際くれはに対して羨ましいな、って思ってた事ってなんか具体的にある?」

先程「告白」された際に雪乃が語っていた「モヤモヤ」の部分を、上手く引き出してみようと試みていた。それに

「ん、んー。例えばですけど。ナチュラルに治輝さんとタメ口で喋れることとか……ほらなんか、どうしても私ってば、敬語になっちゃって……」

雪乃はある意味習慣づいてしまっている点を挙げていた。それに治輝はなるほど、と頷いていた。

 

「それじゃ、まず、そこからやめてみる?」

「わ、わかりました」

「ほら。早速だな」

「う、うん……」

 

 そうして治輝が暫く雪乃の言葉遣いを柔らかくするように「指導」していくと、いつの間にかだいぶ二人は打ち解けていた。

 

「治輝さんは、くれはさんのどこがよかったの?」

「んー、そうだな。必要としてくれている、というのがきっかけだったな」

「そう、なんだ……」

 

 雪乃がふと気になった事を訊ねてみる。すると、治輝から返ってきたのは意外な答え。てっきりくれはの身体的な部分、特に美人な顔立ちだとかスタイルの良さとかが気に入っていると思い込んでいた節があった雪乃は、思わず口淀んでいた。

 

「ほら、ウチは何につけてもであれ、らしかれ、だったろ。期待されることは当たり前だったし、別に期待に応えたかて、褒められることも嬉しがられることも一切なかった。出来て当然、みたいな。だから、何かをして『嬉しい』って言われる、喜んでもらえるっていうそのもの自体が嬉しかったのかもしれないな」

「あー、何となくわかる。うちもなんか、こうなってるのが当たり前、みたいなそういう感じあったし……医学部入って、出ても、みんな『そんなの当たり前』って目で見るし」

「そうそうそれ。僕は勝手にそれを『情緒的飢餓』って呼んでるけど。くれはもそうだけど、僕らみんなきっとそうなんだよな。誰かの『当たり前』を押し付けられて生きて来た。だから、誰かに必要とされることに、すっごく喜びを感じてしまう……」

 

 治輝にそこまで説明されたことで、雪乃も納得でしかなかった。特に彼はその傾向が強い。だから、他人を見捨てられないし、必要とされたら、その人の為に尽くしてしまう。

 

 そういった会話を繰り返すことで、雪乃は治輝の事を「分かっていたつもり」になっていたという事を改めて思い知らされていた。知れば知る程、深みに嵌ってゆく。この人に必要だと言われたい。欲しいと言われたい。そんな欲が、雪乃の中に芽生え始めていた。

 

「治輝さんは……どうしたら、私のこと、女って見てくれるんだろう……」

「それは、もっと見て欲しいということ……?」

 

 雪乃が思わず漏らした一言。それが彼女の靄の核心であるように思えた。治輝が問い返すと、彼女は小さく頷く。

 

「例えば、おっぱい、とか……。私、昔からデカかったし、そのせいで高校大学ではずっと男から胸ばっかり見られるからコンプだったんだけど……治輝さんって、私のおっぱい、全然興味なさそうで。寧ろ女として見られてないのかな、って思ったんだけど……」

 

 雪乃はいよいよ少し顔が赤くなっている事を自覚しながら、自身の身体の事について触れてゆく。それに成程、と治輝は頷く。

 

「そうだな、そういう身体的特徴は敢えて見ないようにしていた、というのはあるかもしれないな。というか、雪乃は雪乃だろ。おっぱいだけで人を見るのも失礼だと思うが……」

 

 治輝の意見は至極真っ当だった。確かにこの男は誰に対してもそうだった。その点こそがこの男の美徳で、自分が好感を持っていた点ではなかったか、と雪乃は思い至っていた。

 

 そう考えた時、彼女は自分から求めていくという積極性が不足していたのでは、という事にようやく気付き始めていた。だから

「じゃ、じゃあ……治輝さん。私の、おっぱい……見て? どう、かな……。変じゃ、ない……?」

いよいよ雪乃は自分の意思で、治輝に要求していた。そうして求められたことで、彼はようやく幼馴染のそこに自発的に意識を向ける。

 

 メイド服の上からでも、その存在感は隠しようがなかった。治輝の記憶の中では、これほどの大きさを誇る女性は、未だ出会った事はない。それだけは確信できる。

 

「僕が、知る中では……一番、デカいと思う……。あと、すごく柔らかそう。変なところは、特にないかな……」

 

 治輝は率直な感想を口にしていた。明らかに誉め言葉だった。それで、雪乃はすっかり顔を真っ赤にしてしまっている。

 

「その、触ってみてほしい……って言ったら、だめですか?」

「いや、いいけど……敬語になっちゃってる」

「あ、あはは……男の人に触らせるなんて、初めてだから……。どうしちゃったんだろ、私……何か、触れて欲しくって、仕方なくて……」

 

 初めての感覚。それに雪乃は思わず戸惑っていた。その緊張は、自然と治輝にも伝わっていたようで、彼も思わずおっかなびっくりな様子になっているようだ。

 

「あ、でも、ちょっと待って……ブラ、取ります……。ん、しょ……」

 

 雪乃は服をまさぐって、器用に上半身の下着を取り外してゆく。その過程で、締め付けが緩んだ途端、服越しでも分かる程、乳房がぶるん、と揺れていた。

 

「すごい重みじゃないのか、それ」

「そうですよ? 多分治輝さん整形外科やってないからちょっとピンとこないかもですけど……これだけで頭痛肩こりとは一生お友達みたいなもんです」

 

 こんな時でも、やはり先に来るのは医学的興味から。どこまでも医者なのだな、と雪乃は内心苦笑いだ。でも、それが逆に治輝らしく微笑ましい、と彼女は思う。

 

「雪乃、また敬語になってる」

「あ……。何か、説明してる時って、つい癖で」

「そういうところ、雪乃も『医者』だよな」

「ふふ、そうかも」

 

 最早何回目のやり取りだろうか。二人の間では、それだけでも笑みが零れる。当初よりはかなり空気は軽くなった気がする。雪乃は実直にそう感じていた。

 

「それじゃ……治輝さん、さわって……?」

「わ、わかった」

 

 雪乃はいよいよ自らの意思で治輝に身体を差し出していた。それに応じて、彼は優しく包み込むかのように、彼女の乳房を優しく持ち上げてみる。手が触れた瞬間、雪乃は身体を小さく震わせる。

 

「大丈夫……?」

「ん、ちょっとぞく、っとした……でも、やじゃない……」

「そっか……。すっごく、やわらかい」

 

 雪乃の様子を窺いながら、治輝は感想を口にする。すると彼女は顔にすっかり熱を上げてしまう。だがそれには、嬉しさや照れなども混じっているように、彼には思えた。

 

「あの……ちくびも、さわって……」

「いいけど……好きなの?」

「ん……❤」

 

 要求に応じて、治輝が触れながら。すると、雪乃の身体はぴくん、と跳ねる。敏感なそこを優しく布越しに撫でる。すると彼女の口からは吐息と共に甘ったるい声も漏れ始める。

 

「はるき、さん……どんびかないで、ね……。わたし、こうやって……はるきさん、に、くりくり、してもらうの、そうぞうして、いつも、ひとりで、シてて……」

「そう、なんだ……実際、どう、かな」

「すごく、きもち、いい……❤」

 

 雪乃の告白。それに治輝も思わず気恥ずかしさを覚えていた。だが、そういった個人の性的嗜好を彼は一切否定しない。彼女はそうして自分の性癖が受け入れられたことに安心したのか、次第に治輝に身体を預け、甘えてきていた。

 

「もっと、さわって、ほしい……❤」

「おっぱいを……?」

「そこだけじゃなくて……ここ、も……」

 

 雪乃はいよいよ我慢が出来なくなってきてしまったようで、治輝の右手をメイド服のスカートの中に誘導する。彼の指が、愛液でしっとりと湿りつつあるショーツに触れる。それだけで彼女は嬉しそうに身体を震わせる。

 

 雪乃の求めに応じて、治輝がクロッチに指を滑らせてゆく。そこは溢れた蜜を吸って既にぐっしょりと濡れていた。

 

「すごく、濡れてる」

「やだ……こんなになったの、って……あのとき、くれはさんが、えっちシてるところ、みながら、ひとりで、シたとき、いらい、かも……。あ……」

 

 雪乃は快感で蕩けてしまい、ついかなり倒錯的な事を口走ってしまっていた事に後から気付く。しかし時既に遅しだ。

 

「僕と、くれはがセックスしてるところ、見て、ひとりでシてたんだ……どう、だった?」

「うう……いわなきゃ、だめ……?」

「だめ。見物料くらいは、せめて貰わないと、ね?」

 

 治輝は少し意地悪をしてみたくなったらしい。雪乃に対してその答えを要求する。但し、それを詰ったり否定したりはしていない。あくまで、どうだったか。感想を訊ねているだけ。だから雪乃はただ羞恥を感じてしまっているだけの様子だ。

 

「その……すっごく、くやしくて……。でも、くれはさん、すっごく、きもちよさそうで……それで、ぐちゃぐちゃに、なっちゃって……。ゆびで、イっちゃった……。うう、はずかしい……」

 

 雪乃は羞恥でいよいよ涙目になってしまっていた。それを治輝は頷いて肯定する。そして

「ちゃんと言えて、偉いね……何か、ご褒美、あげるよ」

何か対価を要求していい、と告げた。すると雪乃ははっとして治輝を見る。

 

「僕が、知りたいと思ったから……だから、それに応えてくれた雪乃には、何かを要求する権利がある、と思うよ」

 

 あくまで、自分を見てくれる。そして、何かをしたら、何かを返してくれる。そんな当然のようなことが、彼女にとってはとても新鮮に思えていた。だから雪乃はいよいよ欲望を抑え切れなくなりつつあった。

 

「それじゃ……あの……。キス、してほしい……❤」

「それくらいなら、いくらでも……」

 

 雪乃の要望に応えて、治輝はそっと彼女の唇を奪う。紅葉のそれとはまた違った感触。最低だとは思いながらも、彼は彼女達それぞれに良さがあるな、という発想に至っていた。

 

 治輝が彼女の歯列を割って舌を挿し入れてみる。すると雪乃はそれにたどたどしく応じて舌を合わせてくれる。そうして二人は、「初めてのキス」を暫くの間堪能していた。

 

「ふぁ……はぁ、ふぅ……」

「ごめん、息継ぎ、考えてなかったよな……」

 

 初めてのそれに夢中になっていた雪乃が、酸欠で唇を離す。それに配慮不足だと謝した治輝だったが、

「これ、だめ……しあわせ、すぎて……ずっと、しててほしく、なっちゃう……❤」

彼女はすっかり夢見心地だ。性器や乳房は一人で弄せても、キスばかりは二人でないと出来ない。だから、初めてである雪乃が夢中になってしまうのも、無理はなかったのかも知れない。

 

「もういっかい、する?」

「うん……❤」

「苦しくなる前に、離すんだぞ。継いだら、もう一回口付けていいから……」

 

 治輝が言った傍から、今度は雪乃から唇を奪いに行く。次は先程よりも長く。唇が合わさる淫靡な水音が、暫く部屋に響いていた。

 

 夢中でキスをするうち、雪乃は我慢が出来なくなり、無意識のうちに自身の左手をスカートの中に入れ、ショーツ越しに陰核をぐりぐりと刺激し始めていた。

 

「雪乃……キスしながら、するの、気持ちいい……?」

「ふぇ……? あ、っ……ごめんなさい……つい、すごくて……たまらなくって……」

「いや、謝らなくても……むしろ、すっごく、えっちで……」

 

 治輝の指摘に、はしたないことをした、と思ったのだろう。雪乃は咄嗟に謝っていた。だがそれを直後に肯定されたことで、彼女は再び真っ赤になってしまう。

 

「雪乃の、えっちなところ……もっと、見せて……?」

「いいん、ですか……?」

「うん……いっぱい、気持ちよくなって、欲しい……」

 

 治輝もいよいよ少しずつ欲情してきている様子。そして全てを受け止めてくれると感じた雪乃は、嬉しそうに蕩けた笑みを浮かべながら、彼の唇を再び奪いつつ、秘唇をショーツ越しに弄する指の動きを再開させる。

 

 すっかり欲望の箍が外れてしまった様子の雪乃は、夢中でキスを繰り返しながらも、いよいよ性器を弄る左手はショーツの中へ。中指を直接陰核に当てて快感を得ていた。一方で空いた右手で自らの右胸の乳首を布越しに擦る。

 

 まるで自身とのキスをオカズに自慰をしているよう。雪乃の今まで抑え込まれていた欲望が溢れ出しているかのような姿に、治輝は最早興奮を隠しきれずにいた。

 

「んぁ……はぁ……。ふぅ……。はるき、さん……。わたし、もう、せつない……っ」

 

 もう何度目かも分からないキスの息継ぎで唇を離した際に、雪乃が懇願する。蕩け切った、何かを求めるかのような目で、彼女は治輝を見つめて来ている。そんな表情をされてしまえば、彼としても最早欲情を抑え切れない。

 

「僕も、そろそろ、限界だったから……うん。しよう……。どんな格好でしたいとか……希望(リクエスト)は、ある……?」

「……くれはさん、と……はじめて、シたときと……いっしょが、いい……」

 

 治輝の問いに、雪乃は迷いなく希望を口にしていた。ただ、それは恐らく紅葉が経験豊富だったからこそ出来た業。今日が初めての雪乃にはかなり重荷なのでは。経験が浅いながらも治輝はそう思ったので

「雪乃が、上に、乗るんだぞ……? 大丈夫か……?」

彼は思わずそれを訊ねてみていた。だが彼女の意思は揺るがない。

 

「はるき、さん、が……いれるの、てつだって……くれたら……。きっと、だいじょうぶ……。わたしも、ぎゅ、って、されながら……えっち、したい……❤」

 

 改めて対面座位での破瓜を希望する雪乃に、治輝は最早否と言う事が出来なかった。

 

 雪乃はメイド服のスカートをたくし上げながら、タキシードのズボンと下着を脱いだだけの治輝の上に乗りかかってくる。

 

 紅葉とは違い、健康的な肉付きの柔らかそうな脚。それを膝まで覆う白い薄手の靴下。明らかに蜜を吸ってしまっているのが分かる、薄藍色のショーツ。そして興奮と不安とが入り混じった、切なそうな雪乃の表情。そのどれもが治輝の興奮を掻き立てている。

 

「下着、脱いでも、いいんだぞ……?」

「やだ……。くれはさんと、いっしょが、いいの……っ」

 

 難易度を下げようと配慮する治輝だったが、雪乃は初志貫徹に拘泥していた。

 

 雪乃は伝聞のままに色取り取りの花弁の刺繍装飾や縫い付けられた飾りリボンが可憐な印象を与えている、繊細ながらも大人の可愛らしさが前面に押し出されているショーツのクロッチをずらし、いよいよ誰にも見せた事が無かった秘所を、治輝の前に曝け出す。

 

 恥丘には紅葉程ではないが、しっかり目に陰毛が生え揃っていた。身嗜みとして最低限は整えているという、雪乃の意思が見て取れる。陰核は長年の自慰によるものか、かなり肥大していた。そうして秘唇を広げて見せてくれる彼女の様子を、治輝はじっくり観察してしまっていた。

 

「ね、ねぇ……はるき、さん……。そんなに、じっくり……みられると、はずかしい……」

「ご、ごめん……」

 

 それは彼のいつもの観察癖。この場に於いてでは些か配慮がない行動と言わざるを得ない。それを理解できる治輝は、思わず謝罪を口にしていた。

 

 どうやらそんな彼の様子で少し緊張が解れたらしい雪乃は

「えっと……。このあと、どうすれば……? なかなか、バランス、むずかしい……」

治輝の硬く滾った逸物の根本を左手で掴み、右手で押し広げた秘唇の膣口に彼の先端を押し付けるようにしていた。早速性器同士が擦れ合い、くちゅ、と淫靡な音が鳴る。

 

「僕が、根本固定しててあげるから……。そのまま、ゆっくりでいいから、腰を降ろして……」

「う、うん……。ん、んっ……」

 

 治輝の手助けもあって、雪乃の膣内に、ゆっくりと肉棒が刺さってゆく。すると、ある程度侵入したところで、引っかかりに辿り着く。

 

「これが、嬢膜(じょうまく)、かな……」

「きっと、痛いぞ……?」

「だいじょうぶ……。はるき、さんに……もらって、ほしかったから……。ん、あぁっ」

 

 いよいよ意を決した雪乃が、腰を深く落とす。治輝の逸物は遂に雪乃の処女を奪い、彼女の膣奥へと到達していた。

 

「く、ぅっ……。だいじょうぶ、か……?」

「ん、っ……。むりやり、おしひろげられてる、かんじ……けっこう、いたい、です……。でも、しあわせな、いたみ……」

 

 涙目になる雪乃を、治輝は慮っていた。彼女はそうして気遣ってくれるのが嬉しかったのだろう。嬉しそうな泣き笑いを浮かべ、キスをせがむ。治輝はそれに頷いて、雪乃の唇を優しく奪ってゆく。二人は破瓜の痛みを癒すかのように、しっかりと抱き合いながら、暫く舌を絡めていた。

 

 雪乃の膣は、初めて侵入してきた滾った肉棒を、優しく蕩かすかのように包み込んでいる。だが、適度に萎えないように、締め付けても来る。紅葉のふわとろとはまた違った、「甘え上手」な様子に、治輝は思わず腰を浮かせてしまう。

 

「ん、っ……!」

「ご、ごめん……。いたい、よな……」

 

 微かな動きだけでも、雪乃の呼吸には苦悶が混ざる。だがそれに彼女は首を振って

「いいの……うれしい、から……。とちゅう、で……やめないで……。さいごまで、シて……。おねがい……」

涙目で見つめながら、続け様の抽迭をねだる。治輝はその覚悟に頷くと、雪乃の様子を確かめつつ、抱いたままだった彼女の身体をゆっくりと揺らす。

 

 そうして時折唇を合わせ舌を絡めながら、慣らすように優しい抽迭を繰り返してゆくと、痛みよりも快感の方が勝ってきたのだろう、雪乃の吐息には明らかに甘ったるい嬌声が混じり始める。それを耳元で聞かされた治輝は、いよいよ欲望が抑え切れなくなる。

 

「ゆきの……ごめん、ちょっと、うごく、な……」

「うん、いい、よ……❤ はるき、さんも……きもちよく、なって……❤ はるき、さんの……おチ○ポ……❤ いっぱい、かんじ、させて……❤」

 

 治輝の確認に、雪乃がしっかりと抱き付きながら。それで堪らなくなってしまった彼は、いよいよ下から突き上げる抽迭で待ち侘びた快感を得てゆく。

 

 先程までゆっくりと慣らしていたのが功奏したようで、雪乃の膣の愛液は十分。治輝が腰を遣う度に、ぐちゅぐちゅとそれが攪拌される音が鳴る。次第に彼女の表情も痛みで硬直しがちだったものから、再び蕩けたようなものへと変化していた。

 

「は、はるき、さん……っ❤ きもち、いい……?」

「あ、ああ……っ。ゆきの、の……お○んこ……すごく、きもち、いいよ……っ」

「うれしい、っ……❤ わたしも、すっごく、よく、って……❤ ゆび、で……シたときよりも、ぜんぜん、よくって……❤ しあわせ、な、かんじ……❤ すごく、って……❤」

 

 気付けば、雪乃も自ら腰を振るって治輝と快感を分かち合っていた。既に彼女は多幸感から破瓜の痛みなど微塵も感じなくなってしまっていたようだ。

 

「ん、ぁっ❤ そこ、っ❤ おく、っ❤ しゅごい、っ❤」

「ゆきの、も……ここ、すき、なんだ……」

「うん、っ❤ きもち、いいっ❤ もっと、ごりゅごりゅ、してぇ❤ んぅ❤ ひぁぅ❤」

 

 普段この体位で紅葉と交わる際に責める箇所を、治輝は突いていた。それは雪乃にとっては未知の快感。だが、早速彼女は病みつきになってしまったようで、続け様の抽迭をねだってくる。それに応じていると、次第に治輝の逸物には射精感がこみ上げてくる。

 

「ゆ、ゆきの……っ。やばい、っ……お○んこ、きもち、よすぎて……ぼく、もうっ……」

 

 治輝は雪乃の膣の中程まで垂れさがって来ている子宮口に亀頭をめり込ませつつ、腰の動きを小刻みなものに変えていた。彼が先端を子宮口に擦り付けながら射精に至ろうとしている。それを感じ取った彼女は

「うん、っ❤ いい、よっ❤ はるき、さんっ❤ イってぇ❤ なかっ❤ なかに、っ❤ だして、だひて、っ❤」

無意識のうちに治輝の動きに同期させるように自らも腰を遣っていた。もう、持たない。そう思った瞬間、雪乃が唇を奪い、舌を挿し入れてくる。それが引き金だった。

「ん、んぅぅ~~~~~~~っ❤」

治輝の箍がはじけ飛び、雪乃の膣奥に精が迸ってゆく。彼の肉棒はびくびく、と震えながら脈動して、白濁で彼女の女性器を満たしていった。

 

「はぅ……❤ これが、なかだし……っ❤ はるき、さんに……なかだし、されて……イっちゃった……❤ すっごく、よかったぁ……❤」

「ゆきの、ごめん……。なかに……」

「ふふ、だいじょうぶ、ですよ……❤ あとで、ちゃんと、おくすり❤ しょほう、してもらいますから、ねっ……❤ あ、でも……くれはさんと、おなじに、なるなら……むしろ、いらないかも、かな……❤」

 

 紅葉と同じ立場になれた。それがどうやらとても嬉しかったらしい雪乃は、治輝に脱力した身体を預けながら、冗談めかした事を言う。それには、治輝も思わず苦笑いだ。

 

 そうして二人が性器を結合させたまま抱き合っていると、雪乃は安心し切ってしまったのだろう、いつしか静かに寝息を立てていた。それを把握した治輝はゆっくりと彼女を寝台に横たわらせつつ、膣から肉棒をゆっくりと優しく引き抜いてゆく。

 

 栓を失った彼女の秘唇からは、早速先程大量に注がれた精が、溢れ出てくる。それには、雪乃の純潔の証も、はっきりと分かる程には混じっていた。治輝はそれを目の当たりにした事で、いよいよ二人分の重責を担ってしまったとはっきりと自覚し始めていた。

 

 

 雪乃の身体を清拭してやった治輝は、身支度を整えて、彼女の身体に布団を被せると、静かにその場を後にしていた。その彼が向かったのは、新婦・紅葉が待つ、自室だった。

 

「あ、はるき、くん、っ……❤ おかえ、りっ……❤」

 

 そこには、雪乃の部屋と自室とを隔てる壁越しに椅子を置いて座り、ドレスの裾をすっかり股上までたくし上げて、ショーツをずらして指を二本も秘唇に挿し入れて自らを慰めている紅葉の姿があった。

 

 状況から察するに、夫と雪乃との行為に聞き耳を立てているうちに、切なくなってしまったようだ。

 

 今まで紅葉が自慰をしている姿など見たことがなかった治輝は、そのあまりにも淫靡な様子に興奮を隠しきれず、先程雪乃の膣内にたっぷりと注いだ筈なのに、もう欲望が復活して来ているという事をはっきりと自覚していた。

 

「くれは……。だめ、だよ……ぬすみぎき、は……」

「ごめん、なさい……❤ でも、ゆきのちゃん……すっごく、きもちよさそう、で……。ん……❤ すごい、におい……❤ おそうじ、するね……❤ はむ、っ❤ れぅ、っ❤」

 

 治輝が紅葉の至近まで寄ると、彼女は何の躊躇いもなく彼のタキシードのズボンを下履きごと脱がせてしまい、彼の精と雪乃の体液と血液とが混じる混合液が未だ付着しているであろう肉棒を、無遠慮に咥えて後始末を始める。

 

 すぐさま、治輝の逸物には復活の兆しが見え始めてくる。それを口淫で感じ取っていた紅葉は、嬉しそうに表情を蕩けさせている。

 

「はふ……❤ えへへ、おっきく、なったね❤ これが、ゆきのちゃんの、あじ、かぁ❤」

 

 紅葉がしみじみと口にする。それがあまりにも淫靡だったので、治輝は最早我慢ならぬ、とばかりに彼女を抱きすくめると、寝台へと運び、そのまま押し倒してしまう。

 

「やんっ❤ がまん、できなく、なっちゃった……?」

「くれはが、あまりにも、えっちすぎる、から……」

「いいよ❤ はるきくん❤ ゆきのちゃん、だけじゃなくて……わたしも、あいして❤」

 

 妻の可愛いおねだり。それに頷いた治輝は、雪乃が履いていたものと同じような意匠のものらしいが、それよりも透け感がはっきりと強調されていて、紅葉の黒叢がはっきりと視認出来る仕様の薄い鴇色のTバックショーツの先程の自慰でぐしょぐしょに湿ってしまっている、か細いクロッチをすらすと、優しく、だが確実にとろとろに蕩けた膣内へと、滾った逸物を埋没させてゆく。

 

 待ち侘びた最愛の人の肉棒を迎え入れた紅葉は、その感覚だけで達してしまったようで、気持ちよさそうに身体をびくびくと震わせている。

 

「ん、ぅぅ、っ❤ はぁ、っ……❤ ひさびさ、だから❤ おっきな、お○んぽ❤ めりめり、って、はいってくる、ねっ……❤」

 

 妊娠が発覚してから少しの間は、紅葉も悪阻がひどく、体調を崩しがちだった。だが、それも今は落ち着きを見せていて、彼女はようやく性交も激しくしない程度ならば、と主治医の雪乃からお墨付きを得ていた。だからこの日は、凡そ一月半ぶりの挿入だった。

 

「ん、はぁ、っ……❤ んぁぁ、っ❤ おくまで、いれて……❤ くれはの、えっちな❤ にんしん、お○んこ、に❤ はるき、くんの、ふっとい、お○んぽ❤ かんじ、させて❤」

 

 自らを妊娠させた、前夫のものよりも遥かに硬くて太く、そして愛おしい肉棒を膣奥に咥え込んで嬉しそうに下腹部を撫でる紅葉は、早速子を宿した臓器の入口を、雁首や亀頭の裏筋に擦り付けるように、ゆっくりと腰を動かして性感を得始めていた。

 

「ふぁ❤ あん、ひぁぅ❤ はるき、くんの、お○んぽ❤ びくびくしてるの、わかる❤ ぜんぜん、うごいて、ないのに❤ わたし❤ また、イっちゃいそうに、なってる、っ❤」

 

 治輝も紅葉も、胎の子を慮り、ほぼ動きがないスローセックスを徹底していた。然るに、二人は興奮からそれだけでも、性欲と快感で焼き切れそうになってしまっていた。

 

 当然治輝も妻の蕩けた膣肉で優しくねっとりと咥えられただけで、射精に至りそうになっていた。だが、それでは沽券に係わると、彼は一物をひくつかせつつ、何とか紅葉を悦ばそうと耐えていた。

 

「ん、いい、よ❤ はるき、くんっ❤ わたし、が❤ ゆっくり、うごく、からぁ❤ あかちゃんの、おへやの❤ いりぐち、で❤ ちゅぽちゅぽ❤ とんとん、って、するから、ね❤ いっぱい❤ きもちよく、なって❤ くれはの、にんしん❤ お○んこ、で❤ いっぱい、せーし❤ ぴゅっぴゅ、してぇ❤ ひあぁっ❤ はるきくんの、お○んぽ❤ さきっぽ、で❤ おく❤ ぐりゅぐりゅ、するの❤ すき❤ きもち、いぃっ❤ んぅっ❤」

 

 紅葉はゆっくりとした腰つきながら、しっかりと性感を得て高まってゆく。彼女が察していた通り、子宮口で亀頭責めを受けている治輝も、本日二度目の射精なのにも拘らず、早速射精感が限界に近付きつつあった。

 

 紅葉はその射精寸前の肉棒の様子を膣内で感じとったのか、蕩け切った表情で嬉しそうに頷きながら、

「はるき、くんっ❤ いいよ❤ わたしの、お○んこの、なかで❤ イって❤ くれはの、にんしんお○んこ、で❤ いっぱい、きもちよく、なってぇ❤ ん、んぅっ❤ イくっ❤ わたしも、もうすぐ、イっちゃうからぁ❤ はるきくん❤ いっぱい、なかだし、して❤ いっぱい、せーし、なかに、だしてぇ❤ なかだし❤ せーしで❤ わたしのことも、イかせてぇぇ❤ はぅ、んぅぅっ❤」

膣内射精を欲して、先端を膣奥で舐るだけの浅い抽迭を繰り返して快楽を貪り始める。

 

「くれは、もう、イく、っ……なかで、だす、よっ……!」

 

 紅葉の腰の動きに限界を迎えた治輝は、そのまま彼女の膣奥で果てた。彼女の子を宿している臓器の入口に、彼の精がびちゃびちゃと浴びせ掛けられる。彼女はその感覚を受けたことで

「ふぁ、ぁぁっ❤ にんしん、お○んこに、なかだし、きたぁ❤ せーし、すっごく、あっつくて、きもちいい、よぉ❤ んっ、んぅっ❤ そこ、おくぅ❤ なかだし、しながら、ぐりぐり、らめぇ❤ イぐ、イぐぅぅぅぅぅぅっ❤」

口の端から涎を垂らしたままの、蕩け切っただらしない表情で絶頂を迎えてしまっていた。

 

 治輝が紅葉の膣からゆっくりと逸物を引き抜く。すると早速彼女の膣は胎の子の素となった子種をどろどろと溢れさせた。紅葉はショーツのか細いクロッチにもべったりと付着してしまっているそれを指で掬い取りつつ、

「はふ、ふぅ、はぁ、っ❤ ん、んぅぅぅ、っ❤ せーし❤ いっぱい、でたね❤ こんなどろどろなの❤ まいかい、しゃせーされてたら❤ いつか、ふたごちゃんが、デキちゃいそう……❤」

治輝との子が宿る胎を撫でながら嬉しそうに独りごちていた。

 

 

 翌朝。三人の食卓には、鯛の塩焼きと赤飯が並んでいた。明らかに、雪乃に向けられたもの。それが分かる彼女は、真っ赤になったまま箸を進めていた。

 

 その様子を、紅葉はやはり箸を進めつつ楽しそうに眺めている。二人の様子を傍観する治輝としても、どうしても気恥ずかしさばかりが募る。だからこの日は、誰も一言も喋らないという、非常に珍妙な食事風景となっていた。

 

 相変わらずどうも微妙な空気が流れる中、食後に三人分の茶を汲んでいた紅葉が、

「雪乃ちゃん、昨晩……どうだった?」

不意に口を開いた。それは明らかに下世話な、軽率な問いかけだった。治輝はそんな想定外の質問を耳にして、思わず茶を噎せってしまう。

 

 いつもならツッコミ役に回りがちな雪乃も、この日ばっかりはどうもしおらしい。その問いに、意味深に下腹部を撫でながら

「……凄かった」

とただ一言だけ。それに、紅葉は満足気に頷いていた。

 

「だって、さ。治輝くん。よかったね❤」

「あ、治輝さん。緊急避妊薬(アフピル)は診療報酬(レセプト)面倒になるんで、やっぱ、いいです。その代わり……責任、取ってくださいね❤ 今更、逃げ出すなんて、許さないんだから❤」

 

 純粋に雪乃を迎え入れられた事が嬉しそうな紅葉と、女医の顔を見せつつも、しっかりと仲間になった雪乃。そんな女性陣の様子に、治輝はいよいよ覚悟を決めざるを得なかったのだった。

 

 

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