次回、微エロ、次々回エロエロという感じです。
◇
姉弟仲は別に悪くはなかったけれど、良いものとも言えなかった。
別に互いが仲良くしようとはしていなかったし、する必要もない。ただ家族の一員という意識があるだけで、それ以外のものでもない。関わる場面があれば関わるし、それ以外では関わらないだけの話。きっとそれはありふれた環境であり、それは何か逸脱しているようなものではなかったはずだ。
けれど、ひとつの好奇心から、それは始まったのだと思う。当事者というか発端は姉なので、その詳細は知りようもないけれど、姉貴が何かをしようとしなければ始まることもなかったのだから。
◇
それは、俺と姉貴が小学生の時に遡る。
両親は夜になると二人そろって出かけていく。
別に彼らでデートとかをするわけじゃない。目的はいつだってパチンコというギャンブルをするためだけであり、夕飯の支度を整えた後、両親はにっこりとした顔でその場所へと赴いていくのだ。
だから、夜になると基本的に子供だけが取り残される。
俺はいつだってゲームに明け暮れていた。姉貴はそういうことに興味がないのか、自室にこもりきりで、何か一人で作業らしきことをしているようだった。
それを気にしないまま、ただゲームをやり続ける。家に両親がいないのをいいことに、いつも縛られている『ゲームは一時間まで』というルールを無視して。
そんな風にゲームに明け暮れていたある日、俺の部屋の扉がノックされた音が転がった。
なに? と気怠そうな返事をしつつも、それが両親でないかを確かめる。ゲーム機はつけっぱなしのまま、テレビだけを消していて、それでなにもルールは破っていないと言い訳をする準備を整えて。
「ちょっと話があるんだけど……」
少し深刻そうに話す姉の声が聞こえて、俺は安堵する。両親じゃないのならいいや、という気持ちで「開いてるよー」と間延びした返事をして、それから入ってくる姉貴の姿を目に入れてから、俺は再びテレビをつけた。
「まーたゲームやってんの? よくもまあ飽きないねぇ」
「べつにいいじゃんか。父さんも母さんも、どうせしばらく帰ってこないんだし」
まあね、と姉貴は苦笑しながら、テレビに向かい合っている俺の隣に移動して、それから膝を抱えるようにしゃがみこむ。それからスムーズに体育座りへ姿勢を変えて、それから沈黙を続けた。
「……なんか話あるんじゃないの?」
別に変なゲームをやっていたわけじゃないけれど、それでも姉貴が隣にいる中でゲームをやるのは不思議な感覚がした。そわそわとする感覚に、うっとうしいなぁ、という気持ちで声をかけた。
「う、うん。……でも、ちょっとゲーム、止めてほしくて」
「えぇ……? そんな大事な話ぃ?」
「……大事な話」
姉の視線はいつまでも俺の手を追い続けていて、仕方がないからテレビを切る。ゲームはやっぱりそのまま起動しっぱなしで、姉貴は何を話したいんだろう、ってそんなことを想像する。
この時まで、姉貴がそんなに深刻そうな顔をして話しかけてくるなんてことはなかった。だから、潔くテレビも消したし、それから姉貴の顔をのぞくように、真正面から体を向ける。それに姉は後ろめたそうに視線をそらしながら、どこに隠していたのか、後ろ手から何か本のようなものをこちらに見せつけてくる。
「教科書?」
「……うん、保健の」
「……ほけん?」
まさかここで教科書なんてものが出てくるとは思わなくて、俺は唖然とした気持ちで姉貴の言葉に返す。その時は保健っていう授業はごくたまに、なんか体にいいこと、悪いこと、とか、そういうことしか勉強していなかったから、どうして唐突にそんな教科書を持ってきたのかな、といぶかしんだ。
「これ、みて」
それから姉貴は教科書を開いていく。
開く、といってもページの最後のほう、背表紙の裏側のほうだけをめくって、その部分を俺に見せつけるようにする。
そのページに描かれていたのは『男の子と女の子のちがい』と図解されているもの。
「わ、わー! エロ本、エロ本じゃん!」
「ば、ばかっ! うっさい! あんまり大きな声出すな! っていうかあんたも来年はこれ勉強するんだから!」
「エロ本を勉強するの?!」
そんなばからしいやりとり。……まあ、俺が勝手にばからしいと思っていただけだし、当時の子供の視点からすれば、エロ本に近しいものに興味を示せば、それだけで恥ずかしいレッテルを貼られてしまうものだから、あまり図解の方には意識を向けないようにしていた。
それでも、いいから! と姉貴は俺の手を引くようにして、それからその手で図解しているページを指そうとする。そこは少年の裸体、というか、性器とか諸々の部位が載せられている箇所であり、俺は反射的にそれから手をどけたくなる。
ただ、姉貴は力強く俺の手を握っていて、そこから外させてはくれない。
「お、男の子ってさ、……こういうの、ついてるの?」
「は、はー?」
あまりにも直接的すぎる疑問、言葉。
それだけで恥ずかしくなってしまって、俺は視線だけをそらして、なんとか言葉を返そうとした。
「お、お風呂で見たことあるでしょ、……だから、ま、まあ? ついてるんじゃない? ……のかな?」
「そ、そんな結構前のこと、覚えてるわけないじゃんっ」
「知らないよっ!」
そんな風なやりとりをしているせいで、自然と『女の子のからだ』と示されているイラストへと意識を向けてしまう。
「そ、それを言ったらお姉ちゃんだってそうじゃん、お姉ゃんも、……ええと、その、……な、ないの?」
「……」
気まずくなる空気。言ってから、やばい、やっちまったな、と幼心で思ってしまう。
でも。
「……ない、けど」
そう正直に答えてしまった姉貴。
そこから、だんだんといろいろなものが崩れ始めていった。