TS転生橘ありす 作:湯けむり桶
ついに、この日がやってきた。私のソロデビュー曲を、初めてファンの前で披露する大舞台。イベント会場の熱気は、舞台裏の控室にまで地響きのように伝わってきていた。
今日のステージには私の他に、片桐早苗さん、一ノ瀬志希さん、塩見周子さん、櫻井桃華さんも出演し、それぞれが大切なソロ曲を披露することになっている。
「……すごい熱気。これまでの合同イベントとは、まるで空気が違いますね……」
私は自分の出番を待ちながら、小さく深呼吸をした。胸の奥で、心臓がいつもより激しく動いている。前世の記憶にある楽曲。今世で血の滲むようなレッスンを重ねて、完全に自分のものにした歌。そして、今までの数々の経験と、胸に秘めた熱情。その全てが、今の私の背中を力強く押してくれていた。
「──橘さん、まもなく本番です!」
スタッフの声に、私は短く応え、ステージへの階段を上った。
光の海が視界を埋め尽くす。
イントロが流れた瞬間、私の身体から緊張が消え去り、代わりに橘ありすとしての、そしてアイドルとしての魂が弾けた。
(聴いてください……これが、今の私の全力です……っ!)
今まで経験してきたどんなステージとも違う、圧倒的な一体感。私はこれまでの人生の全て、レッスンの成果、その全てを出し尽くすようにして歌い上げ、踊りきった。
最後のフレーズを歌い終えると、会場が揺れるほどの歓声と拍手が降り注ぐ。
出し切った心地よい高揚感を全身に覚えながら、私はファンの皆さんに深く、感謝の礼をしてステージを後にした。
舞台裏に下がると、すぐに次の出番である早苗さんとすれ違う。
「ありすちゃん、最高のステージだったわよ! よし、お姉さんもハジけちゃうぞー!」
「はい、早苗さん、いってらっしゃい!」
背中を見送りながら、私は手渡されたペットボトルの水を一気に飲み、ふぅ、と長い一息をついた。喉を潤していると、出番を待つメンバーたちが私を囲む。
「にゃは~♪、ありすちゃん、いーいステージじゃん。大成功って感じ?」
「やるねぇ、ありすちゃん。こりゃシューコちゃんもちょっと本気出さないと格好つかないかなぁ」
志希さんがクスクスと笑いながら言い、周子さんも不敵に微笑んだ。
そして、桃華さんが私の前に一歩踏み出し、気合の入った瞳で私を見つめた。
「素敵でしたわ、ありすさん!素晴らしい先陣ですわ……ですが、わたくしも負けませんわ!」
「ええ、桃華さんのステージ、楽しみにしていますね」
その後、早苗さんのパワフルなステージ、志希さんの気まぐれで妖艶な世界、周子さんの飄々としつつも圧倒的なパフォーマンス、そして桃華さんの気品溢れる完璧なステージが続き、それぞれのソロ曲が披露されるたびに会場の盛り上がりは最高潮を更新していった。こうしてイベントは、大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
「みんな、本当にお疲れ様! 最高、最高のステージだったぞ!!」
イベント終了後の控え室。プロデューサーが顔を真っ赤にしながら、私たちの元へ飛び込んできて大絶賛の言葉を連発した。いつもは少し頼りない彼の、心からの熱い言葉を聞いているうちに、私の胸の奥に「ああ、本当にやりきったんだ」という実感が、じわじわと、しかし確かに湧き上がってきた。
そんな思いに浸っていると、コンコン、と控え室のドアが控えめにノックされる。
「失礼します……ありす、本当に素敵だったわよ」
「あ……お父さん、お母さん」
ドアを開けて入ってきたのは、招待席で私のステージを観ていてくれた両親だった。
普段は私のアイドル活動を喜んでくれながらもどこか一歩引いていた両親が、今は目頭を熱くしながら私に惜しみない賛辞を送ってくれている。
「ありがとうございます。私の歌、ちゃんと届いて、良かったです……」
少し気恥ずかしさを覚えながらも、私は橘ありすとして、本当の家族と温かい言葉を交わした。
そんな微笑ましい光景が繰り広げられる控え室の隅。
ふと視線を感じてそちらに目を向けると、そこにはなんとも言えない表情で私たちを見つめる二人の姿があった。
「フーン、あんな顔もできるんだぁ」
「いやぁ、ありすちゃんもすっかり立派になっちゃって。親御さんの前だとやっぱり年相応だねぇ」
腕を組み、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、興味深そうに観察している一ノ瀬志希さん。そして、その隣でどこか満足げに頷いている塩見周子さん。
(……あの二人、完全に『後方プロデューサー顔』で私のことを見てるじゃないですか……)
普段は自由奔放でマイペースな年上のアイドルたちからの、どこか温かい、だけどちょっとからかうような視線に、私は少しだけ頬を赤くしてそっぽを向いた。
その後、私たちはスタッフやプロデューサーと共に、イベントの成功を祝う打ち上げの席へと移動した。
目の前に並ぶ豪華な料理。だが、お祝いの席が始まると同時に、いつもの混沌が幕を開ける。
「ぷはぁーーーっ!! やっぱりステージの後のビールは五臓六腑に染み渡るわねぇ!!」
早苗さんが早速ジョッキを片手にビールをがぶ飲みし始め、早くも出来上がってプロデューサーに絡みついている。
「おやぁ? 志希ちゃん、さっきまでそこにいたハズなんだけどなぁ……」
「えっ!? 嘘だろ、志希!? どこ行ったんだ! すみません、ちょっと探してきます!」
気がつくと志希さんの姿が忽然と消えており、プロデューサーが顔を青くして右往左往しながら部屋を飛び出していった。
「ふふ、相変わらず賑やかだねぇ」
「もう、プロデューサーちゃまも大変ですわね」
そんな光景を見つつマイペースに唐揚げを口に運んでいる周子さんと、呆れつつ楽しそうな桃華さん。
周囲の騒がしさを横目に、私は少し離れた静かな席へと移動し、手元のスマートフォンを開いた。
画面をタップし、耳に当てる。数回のコールの後、静かに繋がる音がした。
『……もしもし、ありすちゃん。お疲れ様です』
スピーカーから聞こえてきたのは、耳に心地よい、あの落ち着いた文香さんの声だった。その声を聴いた瞬間、私の胸の奥にたまっていた熱い余韻が、一気に溢れ出しそうになる。
「文香さん! はい、お疲れ様です! 今、イベントが終わって打ち上げ中なんですけど……私、私のソロ曲、ステージでしっかりと歌いきることができました!」
『ええ、プロデューサーさんやちひろさんからの連絡で伺いましたよ。大盛況だったそうですね。……ありすちゃんの努力が形になって、私も、本当に嬉しいです』
受話器越しでも伝わってくる、文香さんの優しい微笑みの気配。
「はい……! ステージに立っている間、文香さんが前に言ってくれた言葉が、ずっと頭の中にあったんです。だから、迷わずに最後まで走れました。……本当に、ありがとうございました」
少し声を弾ませながら、私は今日一番の感謝の気持ちを伝える。
『ふふ、それは光栄です。……でも、私の言葉だけでなく、ありすちゃん自身の力が引き寄せた結果ですよ。……今日はゆっくり休んで、お祝いの余韻に浸ってくださいね』
「はい。……あの、文香さん。また今度、……あの時のお店で、直接お話を聞いてくれますか?」
少しトーンを落とし、二人だけの秘密を孕んだニュアンスで問いかける。
『……ええ。喜んで。ありすちゃんの特別なお話、いくらでも聞かせてくださいね……』
クスクスと悪戯っぽく微笑む文香さんの言葉に、私の胸が跳ねる。
「ふふ、わかりました。それではまた、事務所で」
通話を終え、スマートフォンを胸に抱く。
「ふぅ……」
文香さんへの熱い報告を終え、私は少し離れた席に戻ると、再びオレンジジュースのグラスを片手にクールにちびちびと口をつけ始めた。ステージで浴びたスポットライトの熱と、文香さんの優しい声の余韻が心地よく身体を巡っている。
そこへ、ドレスの裾を上品に揺らしながら、桃華さんが私の隣へと歩み寄ってきた。
「ありすさん、改めて先程のステージ、本当に素晴らしかったですわ!」
まっすぐな称賛の眼差しを向けられ、私はグラスを置いて微笑みを返した。
「いえ……桃華さんこそ、お姫様のように気品に溢れていて、本当に素敵なステージでした。なんだか、私とは住む世界が違う高貴な方なんだな、なんて改めて思ってしまいました」
「そんなことありませんわ!」
桃華さんは少し頬を膨らませて否定すると、すぐにまた嬉しそうに目を輝かせた。
「ありすさんの歌には、とても心がこもっていて……わたくし、舞台裏で聴き惚れてしまいましたのよ!」
「ありがとうございます、桃華さん。そう言っていただけると、頑張った甲斐がありました」
そんな風に、お互いのステージを称え合いながら楽しく会話を弾ませる私たち。
その裏では、先ほど脱走した志希さんが案の定プロデューサーに捕まって連れ戻されてきており、「ちぇー、すぐ見つかっちゃうんだもんなぁ~」などと言いながら、周子さんと一緒になってワイワイと楽しそうに盛り上がっている。さらにその隣では、早苗さんが「もーいっぱーい!」とビールを思う様飲み干し、すっかり出来上がってプロデューサーに絡んでいた。
やがて夜も更け、打ち上げもいよいよお開きの時間を迎える。
「よし、早苗さん、もう飲みすぎです! ほら、タクシー乗ってください!」
プロデューサーが泥酔した早苗さんをなんとか宥めつつ、手際よくタクシーに押し込むと、彼は乱れた髪を直しながら私たちに向き直った。
「みんな、改めて今日は本当にお疲れ様。最高のステージだったぞ!」
プロデューサーの労いの言葉を合図に、その場で解散となった。
「じゃあね~、ありすちゃん、桃華ちゃん。またね~」
「お疲れさ~ん。二人とも気をつけて帰りなよ」
志希さんと周子ちゃんも、それぞれマイペースに挨拶を交わして帰っていく。
皆を見送り、私も帰路につこうと荷物をまとめた。
「では桃華さん、今日はお疲れ様でした。また事務所で──」
「──あの、ありすさん。よろしければ今夜、わたくしのお屋敷でお泊まり会などしませんかしら?」
「ふぇっ!?お、お泊まり会……ですか?」
あまりにも突然の提案に、私は思わず素っ頓狂な声を上げて戸惑ってしまった。文香さんとの大人の時間や、他のアイドルたちとの破廉恥なレッスンは重ねてきたけれど、同世代の女の子とのお泊まり会なんて、橘ありすの純粋な少女としてのキャパシティを軽く超えている。
私の動揺を察してか、桃華さんは小首を傾げ、どこか切なげで、けれど確かな期待を込めて言葉を重ねた。
「ええ。せっかくのソロデビューの日ですし、わたくし、ありすさんともう少しお話ししたいこともありますの。今夜は特別、ということでどうかしら、ありすさん?」
少し上目遣いにおねだりするように見つめられる。
(……まあ、桃華さんならしっかりしたお嬢様ですし、千枝ちゃんや舞ちゃんの時みたいな、あんな事には絶対にならないでしょうから大丈夫ですよね。……それに、まあ、正直どれだけすごい豪邸なのか気にならないと言ったら嘘になりますし……)
前世の知識としても、櫻井家がとんでもない資産家であることは知っている。本物の大豪邸を直に拝めるチャンスだ。それに、このまま一人で静かな家に帰って眠るのも、なんだか勿体無い気がする。
「……そうですね。なんだかこのまま帰るのも、勿体無い気がしますし。……折角ですので、今日はお言葉に甘えてお邪魔させてもらいます」
私がそう答えると、桃華さんの顔がパッと一瞬で華やかに綻んだ。
「まあ!嬉しいですわ!では参りましょう、ありすさん!」
嬉しさを隠しきれない様子で声を弾ませると、桃華さんは早速スマートフォンを取り出し、自宅へ連絡を入れ始めた。
ソロデビューという大きな一歩を刻んだ祝祭の夜。
お嬢様の手配した豪華な送迎車に向かって歩きながら、私は(まあ、今夜ばかりは健全な、女の子同士の楽しいパジャマパーティーになるだろう)と、すっかり安心しきっていた。
「お母さん? はい、ありすです。……ええ、実は今日のイベントの件で、櫻井桃華さんの……はい、同じ事務所の。今夜は彼女のご自宅にお泊まりさせていただけることになりまして。はい、ご迷惑はかけないようにします。……はい、おやすみなさい」
スマートフォンで自宅への連絡を済ませ、私は櫻井家が手配した高級送迎車のシートに深く腰掛けていた。流れる夜景を眺めながら、私の心はどこか遠足前夜のような無邪気なワクワク感に満ちていた。
(まあ、桃華さんなら大丈夫。あんなことやこんなことには、逆立ちしたってなるわけがない。今夜は健全な、12歳の女の子同士の楽しいお泊まり会です!)
……そんな甘い見通しは、車が目的地に到着し、重厚な鉄門を潜った瞬間に消し飛んだ。
「さあ、着きましたわ、ありすさん」
車を降りた私の目に飛び込んできたのは、もはや「家」という概念を完全に超越した、ライトアップされた巨大なヨーロッパ調の白亜の城──いや、大豪邸だった。どこまでも続く美しく手入れされた前庭、中央で涼しげに水を噴き上げる噴水。
「……いや、本当に住む世界が違いすぎます、桃華さん……。一庶民の私には、ちょっと別世界の住人すぎます……」
私は口をあんぐりと開けたまま、その場に呆然と立ち尽くしてしまった。前世のゲームの知識でお嬢様だとは知っていたが、いざ本物の資産家スケールを五感で突きつけられると、格差の重力に押し潰されそうになる。
「うふふ、大袈裟ですわ、ありすさん。さあ、こちらですわ」
圧倒されて一歩も動けなくなっている私の手を、桃華さんは楽しそうに笑いながら優しく引き、豪邸の正面玄関へと連れていく。
扉が開くと、そこには映画からそのまま抜け出してきたかのような、老執事と、非の打ち所のないお辞儀で迎えてくれるメイドたちがズラリと整列していた。
(ひえぇ……本物の執事とメイドさんだぁ……。私、本当にここに泊まっていいんですか!?)
案内された客間は、客間というには広すぎる、素晴らしい調度品に囲まれた一室だった。
ふかふかのソファーに腰掛けたものの、自分が履いている靴下がこの部屋の高級絨毯を汚してしまわないかと、私は思った以上に場違いな感覚に陥り、自然と身体が小さくなっていく。
「お待たせいたしました、橘様。どうぞ」
お仕えのメイドさんが、見たこともないような繊細な装飾の施された洋菓子と、気品溢れる香りを漂わせる紅茶をテーブルに並べてくれた。
私はお礼を言いつつも緊張で喉を鳴らしながら、そっとティーカップを持ち上げ、おそるおそる口をつける。
(……何これ、めちゃくちゃ美味しい。お菓子も口の中で溶けるみたいだし、紅茶も香りが五臓六腑に染み渡るというか、今まで飲んできた市販のティーバッグとは根本的に何かが違う……!)
完全に内面で語彙力を喪失していると、カチャリとドアが開き、室内着に着替えた桃華さんが入ってきた。
「お待たせいたしました、ありすさん。お口に合いましたかしら?」
桃華さんは私の向かいに座り、小首を傾げて小鳥のように愛らしく微笑んだ。その純粋な問いかけに、私は橘ありすとしてのプライドとポーカーフェイスを必死に維持しながら、当たり障りのない感想を口にした。
「あ、はい。大変結構なお味です。このお菓子も……とても上品ですし、紅茶も、その、素晴らしい香りで美味しいです」
背筋をピンと伸ばし、できるだけ知的に見えるように答える。
すると、桃華さんは我が意を得たりとばかりに、嬉しそうに目を輝かせた。
「うふふ! その紅茶、わたくしの一番のお気に入りですのよ。ありすさんに気に入っていただけたなら、本当に良かったですわ!」
素直に喜びを表現する桃華さんの笑顔を見つめながら、私は心の中で(あぁ、やっぱり住んできた文化が違いすぎるわ……)と、改めて遠い目をせざるを得なかった。
「──お嬢様、橘様。ご入浴の準備が整いました」
二人の会話が途切れた絶妙なタイミングで、コンコンと丁寧なノック音が響き、メイドさんが静かに扉を開けて告げた。その言葉に、桃華さんは頷くと、パッと表情を輝かせて私を振り返った。
「ではありすさん、一緒に入浴いたしましょう!」
「けおっ!?に、入浴……っ!?桃華さんと、ですかっ!?」
あまりにも自然に提示された入浴への誘いに、私の脳内は大パニックを起こし、変な声が口から飛び出した。
いくら外見が同世代の可憐な美少女だからといって、私の股間には今、世界をバグらせるチート能力に守られた「男性の証」が堂々と鎮座しているのだ。蘭子さん達の時は色々な大義名分で押し通したが、今回の相手はあの純真無垢の象徴、櫻井桃華である。万が一にも、こんなお屋敷で何かが暴発してしまったら、今度こそ社会的に破滅する。
私の狼狽ぶりを見て、桃華さんはいたずらが成功した子供のように、くすくすと上品に袖で口元を隠して笑った。
「まあ、ありすさん。そんなに湯気が出そうなくらいお顔を赤くされなくてもよろしくてよ。女の子同士のパジャマパーティーなのですから、そう気になされなくても大丈夫ですわ」
(女の子同士なら何も問題ない……うん、桃華さんの常識は100%正しい!正しいけれど、今の私はその女の子同士の枠組みに重大なエラーコードを抱えてるんです……!)
「ぃやっ、えーと、その!着替え!そうです、お泊まりの着替えとか、その、替えの下着とか持ってきていませんしっ! やっぱり私、お部屋で一人で、後から入らせていただきますっ!」
今更ながら自分の置かれた状況の危険性に気付き、私は額に冷や汗を流しながら、必死にまくし立ててその場を逃れようとした。しかし、お嬢様のホスピタリティは私の想定の遥か上を行っていた。
「大丈夫ですわ、ありすさん。お呼びしたのはこちらですもの。ありすさんのサイズに合わせた最高級のシルクのパジャマも、替えの新しい下着も、すべてメイドたちに用意させましたわ。さあ、遠慮なさらずに参りましょう?」
「あ、う……っ」
退路を完璧に断たれた。
桃華さんは私の返事を待たずに、その小さな手で私の手首をきゅっと掴み、お屋敷の奥にあるという大浴場へと滑るように歩き出す。
(……あぁ。桃華さんの手、驚くほど柔らかくて、本当に大切に育てられたお嬢様の手って感じがしますね……)
迫り来る絶体絶命の危機から目を背けるように、私は繋がれた手のひらの、吸い付くような極上の感触に意識を集中させて現実逃避を試みた。
「ぅう……当然のように広い入浴場に、まるで高級旅館みたいな大きな湯船……」
案内された櫻井家の大浴場は、もはや一般家庭の風呂という概念を完全に置き去りにしていた。大理石で造られた壁面、湯気を優しく散らす高い天井、そして贅沢に注がれるお湯。その圧倒的なスケールにまたしても圧倒されながら、私は必死に小さくなって身体を洗っていた。
そして何より、最大の試練がすぐ隣に鎮座している。
(平常心……平常心、橘ありす……。これはただの同僚との入浴、健全なお泊り会の一幕です……!)
チラリと視界に入る、一糸纏わぬ姿の桃華さん。まだ幼さを残しながらも、白磁のように透き通った滑らかな肌、そしてお嬢様としての気品を一切損なわない美しい肢体。前世の記憶がなくても息を呑むようなその光景に、私は心の中で般若心経を唱えるかのように、一心不乱にボディソープを泡立てて自分の身体を洗い続けた。下半身の「男の証」が寝た子を起こしたように暴れ出さないよう、冷や汗を流しながら必死のポーカーフェイスを維持する。
すると、隣から桃華さんの少し落ち着いた、大人びた声が聞こえてきた。
「……ありすさん。わたくし、初めてあなたと事務所でお会いした頃は……少々、敵意にも似た対抗心がありましたのよ」
「え……?」
不意の告白に、私はゴシゴシと動かしていた手を止め、桃華さんの方を見た。彼女は自身の小さな身体に泡を乗せ、どこか遠い目をして、だけど愛おしそうに言葉を紡いでいく。
「わたくしと同じ12歳で、あんなにも知的で、自分の世界をしっかり持っていらっしゃるアイドル。初めて見た時、この方には絶対に負けられない、と強く思いましたわ」
普段の完璧なお嬢様としての仮面を少しだけ外し、一人の少女として、ライバルとしての内心を語る桃華さん。その真っ直ぐで熱い言葉を、私はただ静かに、息を呑んで聴き入っていた。
「……そして、その気持ちは、ありすさんの姿をずっと見ているうちに、少しずつ変わっていきましたの」
桃華さんは泡を流し、バスチェアにちょこんと座ったまま、濡れた髪の間から真っ直ぐな瞳を私に向けた。湯気に揺れるその眼差しは、いつになく真剣で、私の胸を深く突き刺す。
「ただの敵対心ではなく……『櫻井の女』という看板を背負ったわたくしではなく、ただの一人の少女、一人の『櫻井桃華』として、あなたに負けていられない、対等でありたいと思うように変化していきましたのよ、ありすさん」
「桃華さん……」
「今日のソロステージでも、客席のファンの皆様はもちろん、舞台裏で見てくれているありすさんの存在があったからこそ、わたくし、いつも以上の力を出せた気がしますわ。……だからこれからも、事務所の同僚として、そして良きライバルとして、共に切磋琢磨していきましょう、ありすさん!」
小さな拳を胸の前できゅっと握り、力強く宣言する桃華さん。その姿は、大豪邸のお嬢様でも、お人形さんのような美少女でもない。紛れもなく、私と同じ地平に立ち、同じ高みを目指して走る、一人の誇り高き「アイドル」の姿だった。
私は、自分が恥ずかしくなった。前世の知識や、彼女の家柄というフィルターを通してばかり桃華さんを見て、彼女の内側にある熱い魂を、本当の意味で見ようとしていなかったのかもしれない。
「桃華さん……。……ふふ、そうですね。正直に言うと、私は桃華さんのことを、どこか遠い住む世界の違うお嬢様だと、勝手に見誤っていたかもしれません」
私は桃華さんの真っ直ぐな瞳を見つめ返した。
「……そうですよね。桃華さんだって、私と同じ、12歳の女の子なんですよね。そして、大切な同僚であり、負けたくないライバルです。……桃華さん、私も、絶対に負けませんから!」
私の言葉を聞いた瞬間、桃華さんの表情がパッと華やかに綻んだ。
「ええ! 望むところですわ、ありすさん!」
熱い湯気の中で、私たちは互いの健闘を称え合うように微笑み合った。そこには、前世の記憶も、世界を欺くチート能力も関係のない、純粋な二人の少女の魂の共鳴があった。
……しかし、お互いの距離がグッと縮まり、心の壁が取り払われたこの瞬間。一糸纏わぬ姿で、至近距離で弾けるような笑顔を向けてくる12歳の美少女という現実が、再び私の脳脳を、そして股間の「男の証」を猛烈に刺激し始めた。
(だ、ダメです……! 今、凄く良い雰囲気なのに、ここで私の下半身が『フンス』と自己主張を始めたら、それこそライバル関係どころか一発で通報されてしまいます……!)
私は必死に顔の筋肉を固定し、ポーカーフェイスの裏で、かつてないほどの危機感に冷や汗を流し始めるのだった。
「……ふぅ、良いお湯でしたわね、ありすさん」
「ええ……本当に、気持ちの良いお風呂でした」
浴室での熱い誓いを経て、すっかりわだかまりのなくなった私たちは、仲良く大浴場を後にした。
湯船の中では、心の距離が縮まったことですっかり上機嫌になり、一糸纏わぬ姿で無防備に楽しげに笑う桃華さんの姿に、私は文字通り生きた心地がしなかった。心の中で般若心経を限界まで唱え続け、なんとか「男の証」の暴発をミリ単位の理性で抑え込んだ自分を、今は心の底から褒めてあげたい。
しかし、用意してもらった最高級のシルクのパジャマに身を包み、桃華さんの後を歩いて寝室へと向かう道すがら、私の脳裏にはどうしても先ほどの光景がこびりついて離れなかった。
(いや、先ほどは『対等なライバル』として熱い言葉を交わしましたけど……それにしても、桃華さんの一糸纏わぬ姿は本当にお嬢様すぎて……。あの白磁のような肌とか、可憐な肢体とか……うう、思い出すだけで頭がどうにかなりそうです……)
歩くたびに、浴室での桃華さんの眩しすぎる姿が脳内でぐるぐると回り、下着の中で再び熱い塊が存在感を主張し始める。
「うふふ、では今夜はこちらで休みましょうね、ありすさん」
長い回廊の奥にある大きな扉の前で、桃華さんが足を止めて優しく微笑む。
すると、待機していたメイドさんがスッと完璧な所作で重厚な扉を開け放った。
「……ぅわぁ、なんかもう、驚くのも慣れました……。もう当然のように、豪華な部屋ですね……」
目の前に広がっていたのは、もはや高級ホテルのスイートルームすら霞むような、天蓋付きのキングサイズベッドが鎮座する大寝室だった。あまりの非日常の連続に、私の脳は限界を迎えたのか、逆にすっかり冷静になって乾いた呟きが漏れてしまう。
「では、桃華お嬢様、橘様。お休みなさいませ。何か御用がございましたら、いつでもお呼びください」
メイドさんは深々と一礼すると、音もなく部屋を出ていき、静かに扉を閉めた。
扉が閉まる小さな音が、広い部屋に静かに響く。
ついに、この豪華すぎる密室で、完璧なお嬢様姿の桃華さんと私──二人きりの夜が始まってしまった。
大きすぎる天蓋付きのベッドに、二人で並んで横たわり最初はプロデューサーにスカウトされた時の思い出話から始まって、今日のイベントの裏話、そしてなぜか私が熱弁してしまった「苺パスタ」のこだわりについてなど、他愛もない話で大いに盛り上がった。桃華さんも楽しそうに声を上げて笑ってくれて、お泊まり会は至って健全に、最高に楽しい雰囲気で進んでいた……はずだった。
しかし、私の身体はそれどころではなかった。
用意してもらった最高級のシルクの下着とパジャマは、肌触りこそ極上なのだが、一糸纏わぬ桃華さんの姿を散々見た後の私の身体には刺激が強すぎた。滑らかなシルクの生地が擦れるたびに、下半身の「男の証」が過敏に反応して脈打ち、むずむずとした堪らない感覚が襲ってくる。
(くっ……、暴発するな橘ありすのペニス……!今は楽しいパジャマパーティーの真っ最中なんだから……っ!)
私がシーツの中で身悶えを堪えていると、ふと、隣にいる桃華さんの視線が、何やら普段と違う真剣なものに変わっていることに気づいた。
「……あの、桃華さん? どうかしましたか、私の顔に何かついていますか?」
不審に思って尋ねると、桃華さんは心配そうに眉をひそめた。
「いえ……その、先ほどからありすさんの様子がどうにも気になりまして……。もしや、わたくしが用意させた替えの下着やパジャマが、ありすさんのデリケートな肌に合いませんでしたかしら?」
「ふぇっ!? い、いえそんな滅相もないです! すっごく着心地が良くて、とても気に入ってます! 桃華さん!」
まさか下半身が猛り狂っているのを察せられたのかと、私は心臓が跳ね上がるほど慌てて否定した。しかし、桃華さんは納得がいかない様子で身を起こす。
「そうでしょうか? 何か、下半身のあたりをずっとむず痒くして、モジモジしていらっしゃるような……。お肌に腫れ物でもできていたら大変ですわ」
そう言うや否や、桃華さんはベッドの上で膝立ちになり、私の下半身へとスッと手を伸ばしてきた。
「ちょっ、桃華さん!?い、今ちょっと、本当にだめですって!」
必死に制止しようとする私だったが、こういう時の桃華さんのお嬢様特有の凄まじい行動力を甘く見ていた。
「失礼しますわね? 恥ずかしがることはありませんわ!」
「ひゃうんっ!?」
桃華さんは私の抵抗をあっさりとすり抜け、シルクのパジャマのズボンを掴むと、一気にグイッと摺り下げた。
「……まあ!」
桃華さんの動きがピタリと止まり、その大きな瞳が真ん丸に見開かれる。
パジャマのズボンの下に隠されていたシルクの下着は、その中央部分が、あり得ない角度と信じられないボリュームでパンパンに、そしてテントのように大きく尖って盛り上がっていたのだ。
「いけませんわ! こんなに大きく腫れ上がって……! 窮屈で痛かったのでしょう!? 早く脱いで見せてくださいまし!」
「お゛っ♡ ちょっと、桃華さん、そんな無理に引っ張ったら……っ♡」
桃華さんは完全にそれを腫れ物だと勘違いし、慌てて私の下着のゴムを掴んで力任せに引き下ろした。しかし、凶悪なまでにそそり立った私の「男の証」の亀頭がシルクの生地に引っかかり、ダイレクトな摩擦刺激が走って私は思わず変な声を上げて身悶えた。
「? 何か引っかかって……、もう、えいっ!」
「あ、ダメっ──」
桃華さんが両手に力を込め、一気に下着を剥ぎ取ったその瞬間。
キリキリと限界まで引き絞られていた肉の弩弓が、布地の拘束から完全に解放された。
──べちっ!!!
「……ひゃっ!?」
あまりにも勢いよく跳ね上がった私の太く猛々しいペニスは、目の前で覗き込んでいた桃華さんの、白く可憐な頬を正面から思いきり叩きつけてしまった。
静まり返る天蓋付きのベッド。
下着を剥ぎ取られ、完全に一物を剥き出しにした私と、頬を私の「男の証」で叩かれ、衝撃でフリーズしている櫻井桃華。
最悪の形で、私の秘密が文字通り彼女の目の前に突きつけられてしまった──。
(……ああ、やってしまいました。終わりました……。いや、でも待ってください。私の『常識改変チート能力』が働いているはずです。彼女の目には、これが「男のペニス」ではなく、何か別の「ちょっと変わった女の子の体の一部」として処理されているはず……!)
前世の推しアイバドルの顔を、あろうことか自分の凶悪なモノで「べちっ」と叩いてしまったという背徳的な事実に、股間の証はさらにドクドクと熱く、さらに一回り大きく滾り猛っていく。だがそれとは裏腹に、橘ありすとしての脳内は、絶体絶命のシチュエーションに逆にどこか冷や汗混じりの冷静さを保っていた。
目の前で完全に固まっていた桃華さんが、じっと私の天を衝くモノを見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「……まあ。女の子の部分が、こんなに赤く腫れ上がって……。可哀想に、さぞお苦しかったのでしょう。ありすさん、わたくしが責任を持って、これを収めて差し上げますわ」
「ふぉぉっ!?も、桃華さんっ!?いや、駄目ですっ!桃華さんみたいなお嬢様が、そんなことしちゃ絶対に駄目ですっ!」
桃華さんが迷いのない手つきで、私の脈打つ凶器へと手を伸ばし、その白く柔らかい指先で優しく包み込んできた。ダイレクトに伝わるお嬢様の体温に、私はベッドの上でビクンと身体を跳ね上げる。
「いいえ、わたくしも12歳の女の子ですもの。恥ずかしながら……本を嗜む身として、少々そちらの知識もございますわ」
桃華さんは私のモノを優しく愛撫しながら、上気した顔で、少しはにかむように微笑んだ。
「その……いわゆる『クリトリス』……ですわよね? 興奮なさると勃起するとは知っていましたが……まさか、ここまで大きく、猛々しくなるモノなのです。……わたくしのモノは、もっとずっと小さくて可愛らしいものですから……なんだか、自分の未熟さを見せられているようで、恥ずかしいですわ……」
ぽうっと頬を林檎のように染め、私の「天を衝く一本角」と自分の秘部を比べて、本気でコンプレックスを抱いている様子の桃華さん。
(いやっ! それはクリトリスっていうか、どう見ても立派な男のペニスなんですけど!! でもチート能力のせいで、桃華さんの脳内では『超絶肥大化した女の子のシンボル』として超解釈されてるーーーっ!?)
「いやっ、それはその、違うというか……違わないというか! く、クリトリスの大きさとか、桃華さんが気にするようなことでは絶対にないですからっ! 桃華さんはそのままで十分、完璧ですからっ!」
パニックのあまり、自分でも何を言っているのか分からない、謎のフォローを全力で叫んでしまう。
「ふふ、そんなに慌てて……お優しいですわね、ありすさん」
私の支離滅裂な優しさに、桃華さんは愛おしそうな視線を向け、うっとりと目を細めた。
「ともかく、今はありすさんのこの火照ったお身体を、優しく鎮めて差し上げることが先決ですわね……!」
そう言うと、桃華さんは私のモノを握る小さな手にギュッと力を込め、お嬢様としての責任感をその瞳に宿しながら、ゆっくりとしごくように上下に動かし始めたのだった。
「ほぉおおっ♡ 桃華さんの手でっ、私のがっ……♡」
桃華さんの、まだ幼く小さな手のひらが、私の猛り狂ったモノを優しくさする。その愛撫は不慣れながらも驚くほど繊細で、シルクのように滑らかな皮膚の感触が、敏感になった亀頭をじっくりと刺激していく。
前世で画面越しに愛でていた、あの気高き櫻井桃華に自分のモノを握られ、扱かれている──その脳が焼き切れそうなほどの強烈なシチュエーションに、私の理性は一瞬で溶かされていった。
「うふふっ♡ ありすさん、わたくしの……『手コキ』?はお気に召しまして?」
「手コっ……!?も、桃華さんっ、どこでそんな破廉恥な言葉を……っ!?」
お屋敷の天蓋付きベッドというあまりにも高貴な空間に、お嬢様の口から放たれたあまりにもド直球で似合わない単語。その衝撃的な発言に、私は快感とは別の意味で心臓が止まるかと思った。
しかし、桃華さんは私のモノを健気に上下させながら、フンスと誇らしげに小さな胸を張ってドヤ顔を浮かべた。
「以前、事務所の給湯室で比奈さんと奈緒さんが、『薄い本』というモノをお読みになっていて……。わたくしも未来のレディとして、少々お勉強させていただきましたのよ」
(何してるんですかあのオタク共ーーーーーっ!!! 12歳のお嬢様に一体何を吹き込んでるんですか!!!)
比奈さんと奈緒さんの顔を脳裏に浮かべながら、私は心の中で全力のツッコミを叫んだ。
しかし、そんな私の動揺など露知らず、桃華さんは「お勉強の成果、しっかり発揮してみせますわね」と、潤んだ瞳で嬉しそうに私のモノを見つめ、さらにその小さな手の動きを早めていくのだった。
「ふふっ♡ ありすさんのクリトリス、わたくしが扱くたびに、さらに硬さを増していきますわ……♡」
桃華さんは、頬を薔薇色に染めながら、たどたどしくも必死に小さな手を上下に動かしていく。比奈さん達から仕入れたという不純な知識を、持ち前の聡明さで即座に咀嚼し、リズミカルで的確なストロークへと変えていくその手つき。
「くぅっ♡ さすがは桃華さんっ……♡ このわずかな時間で、もうコツを掴んで……っ♡」
お嬢様の驚異的な学習能力の高さに、私は快感に身悶えしながらも感嘆せざるを得なかった。柔らかい手のひらが、猛り狂う私の「男の証」をきゅっと締め付け、ギリギリとせり上がる熱を限界まで高めていく。
「そろそろ、頃合いですかしら……。ふふ、次はこれでどうかしら?」
桃華さんは手の動きを少し緩めると、顔を私の股間へと近づけた。そして、限界まで昂って鈴口から透明な蜜を溢れさせている先端へと、自身の小さな舌をちろちろと絡ませてきた。
「ふぁっ!? ぁ……っ♡」
ダイレクトに脳髄を突き刺す極上の粘膜刺激に、私はベッドのシーツを涙目で掻きむしる。
「うふふ、いきますわよ、ありすさん♡」
桃華さんは潤んだ瞳で妖しく微笑むと、小さな可愛いお口を大きく開け、私の極太な先端へと大胆にかぶりついた。
「おほぉっ♡桃華さんっ!??嘘、そこまで……っ♡」
「んーむっ……♡ じゅぶっ♡ ちゅぶぅ、ちゅう……♡」
さすがに私のすべてを収めるには小さすぎるお口。それでも桃華さんは、薄い本で見たという「フェラチオ」の行為を必死に真似ながら、頬を凹ませて懸命に吸い上げていく。小さな喉が私の質量に押し上げられ、苦しそうに、だけど悦びに満ちた熱い吐息が私の下半身に直接吹き付けられた。
そして何より、私の理性を完全に消し飛ばしたのは、その状態で、桃華さんが私の顔をじっと上目遣いで見上げてきたことだった。
(も、桃華さん……っ♡それは、反則ですっ……♡)
純真無垢なお嬢様が、口の周りを私の蜜で濡らしながら、愛おしげに私を蕩けた瞳で見つめている。そのギャップと破壊力に、胸が締め付けられるような激しい愛おしさと背徳感が爆発する。
「んぅっ……♡ふぅっ……はむっ、ちゅ、じゅるぅ……♡」
小鳥のような甘い息を漏らしながら、必死に自身の口で私の昂りを治めようと、さらに深く咥え込もうとする桃華さん。
「……ぁっ♡もぅ、駄目っ……!桃華さん、出ます……出ちゃいますっ♡」
すでに私の限界はとうに超えていた。
その警告を聞いた桃華さんは、逃げるどころか、トドメとばかりにその小さな口腔の限界まで私のモノをゴクンと深く飲み込んだ。その瞬間、私の脳内で全ての理性のスイッチが焼き切れた。
どぶぅっ♡ ぶびゅぅーーーーーっ♡ぴゅぶぅぅーーーーーっ♡
凄まじい勢いで、私の最奥から解き放たれた白濁が、桃華さんのお口の中へと何度も何度も勢いよく吐き出されていった。
「んぐぅぅっ……!?んぅ、んぐっ……♡」
尋常ではない量と熱量を持ったドロドロとした塊が、彼女の小さな口いっぱいに広がっていく。あまりの衝撃に桃華さんは一瞬目を白黒させたが、櫻井の女としての、そして私のすべてを受け止めるというライバルとしてのプライドが、それを一滴たりとも溢すまいと、小さな喉をゴクゴクと激しく鳴らして必死に飲み下していく。
「ん、んぅ……ぷはっ……♡」
全てを 嚥下し終え、私のモノを口から離した桃華さんの口元からは、収まりきらなかった白濁が一条の糸を引いて、可憐な顎へと伝い落ちていた。
すべてを吐き出し終えた私の「男の証」は、桃華さんのお口から抜けると、じんわりとした心地よい疲労感と共にゆっくりと頭を垂れていった。
大量の熱いモノを放出したことで、私の脳にもようやく冷徹な理性が戻ってくる。
(……は、激しすぎました……。というか、本当に全部飲んでしまうなんて……)
私が呆然とする中、桃華さんは口元をシルクのパジャマの袖で上品に、だけど少し乱暴に拭うと、満足げな、どこか誇らしげな微笑みを私に向けた。
「……ふぅ♡ふふっ、ありすさんのクリトリスから、あんなにいっぱい注がれて少々吃驚(びっくり)いたしましたわ♡女の子の身体から、こんなに出るモノなんですのね。わたくしのモノも、大人になればあんな風になるのかしら……」
そう言って、桃華さんは不思議そうに自身の下腹部を繁々と見つめ始めた。
「……ぇっと、その、桃華さん。私のはその、クリトリスというか……その……」
さすがに申し訳なさと、あまりの超解釈への戸惑いで、何と言っていいか完全に言葉に迷ってしまう。女の子の体の一部として処理されているのはありがたいが、あまりに純粋な瞳で自分の未来と重ね合わされると、罪悪感がチクチクと胸を刺す。
「……?ああ!ありすさん、失礼いたしましたわ。クリトリスではなく、あれは『クリちんぽ』という名前ですのね!」
「…………えっ?」
お屋敷の天蓋付きベッドに、これ以上ないほど不名誉で淫らな響きを持つワードが響き渡った。私は一瞬、自分の耳を疑った。
「……くっ、あの、一応聞きますが、桃華さん……それは、どこで……?」
私は顔を引き攣らせながら、恐る恐る尋ねる。
「ええ!もちろん、比奈さんと奈緒さんの『薄い本』で学びましたの!ふたなり……というジャンルに出てくる女の子のシンボルですわよね? 素晴らしい機能美ですわ!」
屈託のない、100点満点の笑顔でそう言い切る桃華さん。
(本当に……本当にあの二人は、事務所で12歳のお嬢様に何を読ませて何を植え付けてるんですか……!!!後で絶対に、ありすの全力の説教を喰らわせます……!)
心の中で比奈さんと奈緒さんに強烈な鉄拳制裁を誓う私を余所に、桃華さんは私の手をそっと握りしめ、嬉しそうに目を細めた。
「ふふっ♡なんだか、ありすさんの『本当の姿』を、少しだけ知れたように思いますわ!ライバルとして、一歩近づけた気がいたします」
「うぅ……」
本当の姿というか、世界のバグが生んだ秘密なのだが、それをこんなに好意的に受け止めてくれる桃華さんに、私はただただ顔を真っ赤にして縮こまるしかなかった。
そんな風に少し話しているうちに、桃華さんが小さく可愛い口を開けて、ふわぁ、と大きな欠伸をした。
「ふぁ……、なんだか、急に眠くなってしまいましたわ……」
「ふふ、そうですね。ステージの疲れもありますし、先ほどたくさん……その、頑張ってくれましたから。もう夜も遅いですし、そろそろ休みましょう」
「ええ、そうですわね……」
桃華さんはベッドから這い出ると、壁のスイッチで部屋の明かりを落とし、常夜灯だけの薄暗い空間に戻した。そして再び私の隣へと潜り込んでくる。
「お休みなさいませ、ありすさん……。また、明日からも……よろしくてよ……」
私の手をきゅっと握りしめながら、桃華さんは急速に意識を手放していく。その可愛らしい瞼が閉じられ、まもなくスー、スー、と静かで規則正しい寝息が部屋に響き始めた。
完全に眠りについた桃華さんの横顔を見つめながら、私は静かに、深いため息をついた。
(ふう……。何だかもの凄い変な展開になって、一時はどうなることかと思って、本当に危なかったですが……一先ず、誰も傷つかずに乗り切れて良かった……)
繋がれた手の柔らかいぬくもりを感じながら、私は今日という濃密すぎる1日を振り返る。
初めてのソロステージ。ファンの歓声。両親の涙。そして、文香さんとの秘密の電話の後に訪れた、このお嬢様との甘く淫らなパジャマパーティー。
「……今日は、本当に色々ありましたね……ふぁ……すぅ……」
桃華さんの寝息に誘われるように、私も心地よい疲労感に身を任せ、ゆっくりと深い眠りへと落ちていくのだった。
爽やかな朝の光が、天蓋付きベッドの隙間から差し込んでくる。
あまりの寝心地の良さに、私は「んぅ……」と声を漏らし、危うくそのまま深い二度寝の海へと沈みそうになっていた。自分の家のベッドとは何もかもが違う、極上の羽毛に包まれた目覚め。
隣を見ると、すでに着替えを終えた桃華さんが、完璧なお嬢様の微笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
「あら、おはようございます、ありすさん。よく眠れましたかしら?」
「……ぁ、はい。おはようございます、桃華さん。信じられないくらい、よく眠れました……」
私がまだ半分夢の中にいるような声で答えると、桃華さんはくすくすと嬉しそうに目を細め、とんでもない提案を口にした。
「うふふ、我が家は部屋なら沢山余っておりますから……ありすさんさえ宜しければ、このまま我が家で一緒に暮らしませんこと?」
「っ……!」
そのあまりにも魅惑的なお誘いに、私は危うく本気で「はい」と頷いてしまいそうになった。
「この寝心地の良さを毎朝味わえるなら……って、危ないです! そんな冗談にも、ついその気になってしまいそうになります」
「まあ、残念ですわ。ありすさんが我が家に嫁いで──いえ、来てくださったら、毎日がもっと楽しくなりそうですのに」
「あはは……じょ、冗談、冗談ですよね……?」
さらりと不穏な単語が混ざったような気がして、私は引き攣った笑みを浮かべながら、それがハイレベルなお嬢様ジョークであることを心から願うしかなかった。
その後、私たちは身支度をして顔を洗い食堂へと移動し、素晴らしい朝食を頂いた。どこまでも優雅な時間を堪能し、ついに私は櫻井家の豪邸を後にする時間を迎える。
正面玄関の前には、昨日と同じ最高級の送迎車が、すでにエンジンをかけて静かに待機していた。
「では、桃華さん。この度は急なお泊まりだったのにお招きいただき、本当にありがとうございました。……とても、楽しかったです」
私は橘ありすとしての礼儀を尽くし、深々と一礼する。
「ええ、こちらこそ最高に楽しい夜でしたわ。またいつでもいらしてくださいね、ありすさん」
桃華さんはにこやかに、どこか慈愛に満ちた聖母のような微笑みを浮かべて手を振り返してくれた。これなら、昨夜の「クリちんぽ」騒動も、ただの夢幻として綺麗に流せたはず──。
そう安心し、私が用意された高級送迎車のドアへ手をかけ、乗り込もうとしたその時だった。
背後から軽い足音が近づき、私の背中に柔らかな感触がふわりと触れた。
耳元で、桃華さんの少し低く、熱を帯びた吐息が鼓膜を揺らす。
「昨夜の続き……いずれ、またいたしましょうね、ありすさん♡」
「っひゃい……っ!?」
心臓が跳ね上がるような甘い耳打ち。驚いて振り返った時には、桃華さんはすでに「うふふ」と妖艶に微笑みながら、優雅にステップを踏んで屋敷の中へと戻っていくところだった。
静まり返った高級送迎車の後部座席。
私はふかふかのシートに深く体重を預けながら、流れる車窓の景色を呆然と眺めていた。
(昨夜の続きって……つまり、また桃華さんのお口に私のあれを……。いえ、それとも今度は桃華さんの『可愛いもの』を私がどうにかするという意味でしょうか……?)
考えれば考えるほど、脳裏に昨夜のドロドロとした熱い快感とお嬢様の蕩けた顔が蘇り、パジャマから着替えた服の下着の中で、私の証が早くも小さく脈打ち始める。
「……ダメです、考えるのはやめましょう。これ以上の現実直視は脳に悪いです」
私はブンブンと頭を振って強制的に思考をシャットダウンすると、この事態を招いた諸悪の根源へと意識を向けた。
(それよりも……荒木比奈さん。そして、神谷奈緒さん。あの二人、12歳のお嬢様に一体どんな偏った知識を植え付けているんですか……。事務所に帰ったら、まずはプロデューサーに報告して給湯室のガサ入れですね。それから、ありすの全力の説教で泣いて謝るまでたっぷり『指導』してあげましょう……!)
車内で一人、顔にドス黒い影を落としながら、私は冷徹な制裁プランを練り上げることで、必死に桃華さんからの甘い予告から現実逃避を試みるのだった。