※この作品はR-18です。

お姉ちゃんにお任せ   作:ボブ・ニンジャ

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第3話

 

 

映画館を出ると、空はすでに茜色に染まり始めている。

家族連れや学生、カップルたちに紛れて、詩乃と雄一は大通りを駅へと歩いた。

手をつなぎ、さっき見た映画について話しながら。

 

「アクションすごかったね! 最後の爆発のところとか」

「あそこ、CGじゃなくて本人のスタントらしいぜ。ネットで見たけど」

「本当!? あの俳優さん大物でしょ、たしか……」

 

2人は足を止めた。

車道の向こうで、歩行者用信号が赤を示している。

 

「……なあ、姉ちゃん。この後……」

 

雄一が遠慮がちな視線を向ける。

詩乃は見返し、微笑んだ。

 

「うん。私のアパート行こうね」

 

詩乃の緊張は朝よりも相当に和らいでいた。

雄一と1日行動を共にする中で、彼が愛すべき弟であることを再確認し、肌を重ねることにある種の覚悟や納得を得ていた。

しかし、雄一の表情が曇っている。

目を逸らす。

 

「……ごめん、姉ちゃん。俺、このまま帰るよ」

「え……?」

「今日1日一緒にいて、昔と同じ姉ちゃん見てたら……なんか情けなくなってさ。頭が冷えたっていうか」

 

雄一は苦虫を噛みつぶしたような表情だった。

 

「姉ちゃんにあんなひどい要求して。やっぱ受験のストレスでアレだったんだと思う。本当ごめん」

 

そう言って、頭を下げる。

姉弟と同じく信号を待っている周囲の通行人たちが、一瞬だけ奇異の目を向けた。

 

「あ……謝らないでよ」

 

詩乃は困惑していた。

普通の姉であれば、弟から肉体関係を求められる異常な状況から解放されることは喜ばしいはず。

しかし今、彼女の心は激しくかき乱されていた。

考えがまとまらないまま、おぼつかない言葉がこぼれる。

 

「ユウくん、頑張ったじゃない。私とそういうことするために、すごく頑張ってくれたんでしょ?」

「そうだけど……姉ちゃん、嫌だろ。俺とそういうことするの」

「嫌っていうか……ユウくんに言われるまで、考えてなかったのはそうだけど」

「……そこまで甘えられない」

「いいじゃない。甘えてよ」

 

雄一が視線を戻すと、詩乃と目が合った。

彼女の目は先ほどまでの余裕を失い、すがりつくような色さえあった。

 

「もうちょっと甘えてよ、私に。そんな急に……勝手に、大人にならないでよ」

「……」

 

雄一は、自分の心がぐらりと揺れるのを感じた。

一度は抑え込んだ昏い欲望が、ふいごで吹かれた熾火のように再燃する気配。

唾を呑み込む。

 

「……姉ちゃん……本当に、いいのか?」

「うん。ユウくんとなら私、大丈夫だから」

 

詩乃はつないだ手の指を絡めた。

 

「今晩だけ、一緒に大人になろ。……ね?」

「……うん」

 

歩行者信号が青に変わる。

周囲の夫婦やカップルと並んで、恋人繋ぎをした姉弟が歩き始めた。

 

 

 

 ◆

 

 

鉄扉を開けると、その先は詩乃にとって見慣れたワンルームだ。

しかし今日はどこかよそよそしい光景に感じられる。

洗面所で雄一が手を洗っている水音を背後に聞きながら、詩乃はベッドを見た。

今朝シーツを替えて、きれいに整えた場所。

 

――自分は今夜、ここで性行為をする。

その事実が詩乃の中でたしかな実感を伴い、重く感じられた。

深呼吸をする。

 

駅前での会話では自分から彼に関係を迫るような形になってしまった。

しかし、だからといって行為の最中でまで彼の求めに唯々諾々と応じることは適切ではないだろう。

セックスについて謝った常識を抱けば後でガールフレンドとモメるのは雄一自身なのだ。

彼をリードしなければならない。

 

「姉ちゃん」

「あっ、ユウくん……」

 

居間に現れた雄一は、まっすぐに詩乃へ近づいた。

熱い息を吐く。

太い指先を一瞬空中にさまよわせた後、詩乃のシャツの袖を引いた。

 

「も、もう……なに?」

「ごめん。俺、もう我慢できない」

 

雄一は低い声でそう言い、空き手を詩乃の腰に回して引き寄せる。

明確に女性の肉体を求める仕草。

ふだんから感じていた雄一の体臭が、少し濃く感じられる。

太い腕、分厚い胸板。

 

「こ、こらっ……! ユウくん、ストップ!」

 

詩乃はまた焼き付きそうになった思考を強いて落ち着けた。

弟の手をほどき、自分の手で握りこむ。

 

「姉ちゃん……?」

「ダメよ、いきなりは。こういうことはシャワーとかお風呂に入ってからするの」

「そ、そうか。ごめん、俺余裕なくて……」

「……わかればよろしい。じゃあ、私先に浴びちゃうね。お風呂溜めておいてあげるから」

 

肩を落とす雄一にそう言い置いて、詩乃は風呂場へ向かった。

頭から熱いシャワーを浴びる。

雄一に触れられて高まった胸の鼓動が元に戻るのに、少し時間を要した。

 

いつもより念入りに髪と体を洗う。

その後、防水ケースに入れたスマートフォンとカミソリを手に取り、方法を調べつつ体毛を処理した。

 

ふと、画面をスクロールしていた詩乃の手が止まる。

――「彼氏が喜ぶ! お家デートでのお風呂タイム」。

曰く、パートナーと一緒に入浴してスキンシップするとムードを高めるのに効果的である――

そのネット記事には、そんなことが書かれていた。

 

詩乃は弟との混浴を想像し、顔を熱くした。

一緒にお風呂に入るとしたら、小学生の頃以来になる。

今の成長した彼の身体を直視できる自信がないし、こんな明るい場所で見せるほど自分の体に自信がない。

しかし葛藤してもいた。

「セックスするのは今晩だけ」……それが彼との約束だ。

一緒に風呂に入れるとしたら、今日を置いてない。

弟にそれを体験させてやりたいという思いもあったし、ドキドキする時間を共有したいという思いもあった。

 

『お風呂が沸きました』

 

電子的な自動音声が、彼女の思考を断ち切った。

彼女は息を吐き、決心した。

洗面所へ出て髪と体をざっと拭き、バスタオルを胸のところでしっかりと巻く。

 

鏡に映る自分の姿が目に入る。

とうてい他人様に見せることができないほど肌やボディラインをあらわにして、しかし誰かに見てもらうことを想定して局部だけは隠した、裸よりもみだらな格好の女がそこにいた。

目を逸らして、脱衣所から居間へ。

 

「――ユウくん、あのね……」

「えっ、姉ちゃん」

 

姉の声に振り返った雄一は、目を丸くした。

脱衣所から顔を覗かせた詩乃はどうやら、バスタオル1枚のあられもない姿だ。

 

「……ね。久しぶりに、一緒にお風呂入ろっか?」

 

"久しぶりに"――

その言葉には少し誤魔化しのニュアンスがあると、詩乃は自覚していた。

今回の誘いは、昔の混浴とはまったく異質だ。

家族同士のスキンシップや幼い雄一の安全への配慮ではなく、女が互いの興奮を高めるために男を誘惑しているだけなのだから。

 

「……入る」

 

雄一は短く答える。

そしてチェアから立ち上がり、誘蛾灯に誘われる虫のように脱衣所へ向かった。

 

 

 ◆

 

 

詩乃に促され、雄一はプラスチック製の風呂椅子に腰を下ろした。

2人で陣取ると洗い場はすっかり満員だ。

詩乃は自分のバスタオルの巻き具合を確かめた後、雄一の髪を洗ってやる作業に入った。

シャワーで濡らし、ついでシャンプーを伸ばした手で触れていく。

 

「……痒い所ありませんか? なんちゃって」

「あはは。大丈夫」

「昔もこうやって洗ってあげてたよね。覚えてる?」

「少しはね」

 

頭を洗い終え、体へ。

泡立てたボディタオルで洗ってやりながら、詩乃は雄一の広い背中を見つめた。

肩甲骨の周りには分厚い筋肉が隆起し、首筋から背中にかけてのラインは、男らしく力強い骨格を形作っている。高校野球の厳しい練習に耐え抜いてきたその身体には、圧倒的な生命力が宿っていた。

 

小さくて可愛かった弟はもうどこにもいない。

自分の目の前にいるのは、完全に成熟した、がっちりとした体つきの一人の男性なのだ。

 

(((私、これからこの人に抱かれるのかぁ……)))

 

詩乃はそれを実感すると、何かむずがゆいような、落ち着かない感覚を覚えた。

お湯を浴びているわけではないのに、バスタオルの下に隠した身体がじんわりと熱くなっていく。

清純な詩乃はその感覚が性的興奮であることをすぐには自覚できなかった。

 

「姉ちゃん、あの……俺も、姉ちゃんの体洗っていい?」

 

体まできれいに流し終えた後、雄一はおずおずと申し出る。

詩乃の心臓が跳ねた。

 

「わ、私は大丈夫だよ。さっき洗ったから」

「背中だけでも、ダメかな。せっかく一緒に入ってるし……嫌ならいいんだけど」

「……ええと……じゃあ、お願いしよっかな?」

 

詩乃は結局、その求めを拒めなかった。

雄一との間で位置を交代し、自らは椅子に座る。

 

「……ふうーっ」

 

息を吐いて緊張をごまかした後、バスタオルを緩め、引き下ろす。

雄一は息を呑んだ。

腰の周りに少しタオルを置いただけの、ほとんど裸の詩乃がそこにいる。

彼女の背中は白く滑らかで、ニキビの1つもなかった。

 

おそるおそる、ボディタオルで触れる。

力を入れるのが恐ろしい。

自分のごつい手では、少し力を入れるだけで詩乃の体に傷を付けてしまいそうな気がしてならない。

 

「姉ちゃん、痛くないか……?」

「うん、大丈夫。きもちいいよ」

 

"きもちいい"。

その言葉に雄一は体をぴくりと震わせた。

今の彼には否が応でもエロティックな響きを持って感じられる。

 

雄一は自分の股間を一瞥した。

腰に巻いたタオルが歪んで、大きなテントになっている。

彼のペニスはすでにはち切れそうなほど勃起していた。

 

雄一少年にも、年相応に性への関心はあった。

インターネットでアダルトビデオを見て自慰をする頻度も決して低くはない。

しかしそれでも、女性の背中を見るだけでこれほど高まったのは初めての経験だ。

姉のことになるとこれほど興奮するものか。

 

その興奮ぶりは、すぐに彼女に把握されることとなった。

詩乃が振り返り、雄一の股間を見て「あっ」と声を上げたのだ。

 

「あっ! ご、ごめん」

 

雄一は慌てて手で股間を隠した。

あまりにも童貞らしくみっともない仕草だと、頭の片隅の冷静な自分が嘲笑する。

 

「大丈夫! 気にしないで」

 

詩乃は照れ笑いを浮かべ、取り繕った。

 

「私こそごめん。我慢させすぎちゃったよね。――じゃあ私、先に上がるから」

 

逆に謝罪して、いそいそと風呂場を後にする。

雄一はふうっと息を吐いた後、腰に巻いたタオルを取った。

ペニスの先端から糸を引く。

彼のペニスはさっきよりもなお固く怒張し、ほとんど射精寸前だった。

詩乃に見られたことが強烈な性的ショックになったのだ。

 

(((クソッ、ヤバイ……オナ禁してたとはいえ、早すぎる……)))

 

落ち着きを取り戻そうとしばらく努力した。

しかし詩乃の体の感触や照れた表情が頭に浮かび、股座はいきりたったまま戻らない。

股間に冷水のシャワーをかけ、強引にクールダウンする。

 

(((落ち着け、俺……もうちょっと余裕のあるところを見せろよ……!)))

 

雄一は浴槽につかり、その湯で顔をバシャバシャと洗った。

 

 

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