マチハバ軍が防備を固める中、オールス側が起死回生を狙って東国から呼び寄せたのが、女性術者「マヨヒガ」であった。遥か東の地には、西国の魔術体系とは異なる古の暗殺魔術が伝えられており、マヨヒガはその達人であった。西国には珍しい漆黒の髪と瞳、独特の白い肌、そして小柄ながらも均整のとれた美しい肢体。それは男を魅了するに十分であったが、彼女の本質は冷酷無比な殺人機械だった。
マヨヒガはすでに白昼堂々、腕利きの警護がついたマチハバの要人を3人も暗殺していたが、目撃者は誰一人としていなかった。彼女の次なる標的は、貴族院の数学研究所の研究者である青年、サウラーカであった。国家機密に類する彼の研究が完成すればマチハバは大きく先行する。オールスはそれを阻止すべく、サウラーカの抹殺をマヨヒガに命じた。成功報酬として祖国へ運ばれる大量の富のため、マヨヒガの刃は彼を捉えようとしていた。
王都郊外の緑化公園に囲まれた瀟洒な建物ーーそこは、かつて謎の浮浪者に凌辱され、心を砕かれて騎士を辞めたエーレカがひっそりと働く場所だった。傷ついた彼女が第二の人生を歩み出すには最適な環境であった。エーレカの父が運営する図書館でもあり、彼女は心穏やかに過ごしていた。
そしてその静けさの中、エーレカは人生で初めての恋に落ちていた。
相手は、文献を読みに頻繁に訪れる典型的な学者肌の青年、サウラーカ。
陰気な雰囲気をまといながらも、受付のエーレカにはいつも優しい笑顔を見せる。
エーレカは彼に強く惹かれていた。ある日、勇気を出して「たまにはなにか娯楽本はいかがですか。」と勧めると、サウラーカは意外にもひどく通俗的な本の名を挙げ、エーレカは思わず大笑いしてしまった。
サウラーカもつられて大笑い。しばらく笑いあった後、二人は赤面して、たどたどしく自己紹介を果たした。それをきっかけに、二人は短いながらも温かい会話を交わすようになっていた。
その日、図書館にはサウラーカ以外の利用者はなく、閑散としていた。
そこにマヨヒガの目があった。
厳重な研究所とは違い、ここなら目撃者は受付の無力な女一人。死体を二つ並べれば任務完了。
暗殺には最高の舞台だった。
受付で顔を赤らめ、たどたどしく会話を交わす二人。
しかし、唐突にエーレカの脳裏に思い出したくない騎士時代の感覚が蘇った。
(誰かが、人を殺す意思を放っている!)
「危ない!」
手がうごいた。
エーレカは手元の分厚い目録を掴むと、サウラーカの頬を激しくぶった。ほぼ同時に、凄まじい風切り音とともに目録へナイフが深々と突き刺さる。目録のおかげでサウラーカは無事だ。
よろけるサウラーカ。エーレカはさらに目録を振り回し、その軌跡で追加のナイフを2本を弾いた。
しかしさらにサウラーカの心臓を狙ったナイフが飛んできた。。エーレカは咄嗟にサウラーカの胸に裏拳を叩き込むようにしてそれを遮ったが、ナイフは彼女の左手首に刺さり貫通した。
何もない空間が揺らぎ、漆黒の髪の女ーーマヨヒガが姿を現した。
「腕利きのようだな」
「何者……っ!」
殺す相手にマヨヒガは答えることはなく、両手の短刀を構えてエーレカに斬りかかった。武器のないエーレカは目録とペン立てで防ぐが、実力差は歴然だった。鋭い刺突がエーレカの頬に深く突き刺さり、その切っ先が右目から突き出た。
「がああぁ!」
激痛に耐え、エーレカは決死の覚悟でマヨヒガの手首を掴んで捻り上げたが、マヨヒガはいとも簡単にその拘束をすり抜け、2歩後退して間合いを測った。
(怖い……嫌だ、殺される! サウラーカを守れない……!)
エーレカの左目から滂沱の涙が溢れ出た。右目は見えず、顔には二度と癒えない傷を負った。左手首にはナイフ。出血がひどい。
こんな顔で街は歩けない。
家族の顔が脳裏を駆け巡る。
ドス、ドス
彼女の胸に二本のナイフが突き立った。反応できなかった。
さらに額をも狙われたが、こちらはわずかに首をのけぞらせて致命傷を避ける。
しかし、ナイフは額に刺さり、脳漿が垂れるような感覚があった。
エーレカはカウンターに手を突き、血塗れの身体でサウラーカをかばい続けた。何が起きたか理解できず怯えるサウラーカに、エーレカは血を吐きながら命令した。
「私の……後ろへ……!」
マヨヒガが追加のナイフを腰から抜いた。
エーレカは左手と額のナイフを抜き、両手でナイフを構えた。
左手はうまくナイフを握れない。
胸のナイフは抜けば大量出血
マヨヒガが仕掛ける。エーレカが防御する。
目にもとまらぬナイフさばき。たちまちエーレカは顔を切り刻まれ、左耳がふきとびどこかに消えた。
鼻の先端を削られた。
マヨヒガの腕に一閃傷を入れる。一矢報いたか。
しかしマヨヒガのナイフは深々とエーレカの脇腹に刺さる。
エーレカは腹筋をしめ、マヨヒガの手を手刀でたたき、ナイフを手放させた。
エーレカが下がる。マヨヒガも下がった。
みれば右手の薬指と小指はもうない。
左手は気づけば皮一枚でつながっている。
顔には頬から斜めにナイフが刺さりっぱなしだ。
マヨヒガは慎重な暗殺者であった。
確実にエーレカしとめるため、さらにナイフを取り出す。接近戦は避けるようだ。
その時。浮浪者がふらりと二人の間に入ってきた。
反射的に、マヨヒガの手からナイフが放たれた。それは浮浪者の脳天へと深々と突き刺さり、傍目には即死と見えた。しかし、男は全く何も感じていないかのように、頭からナイフを引き抜くと、退屈そうに床へ投げ捨てた。
マヨヒガは一瞬身構えたが、男からは何の魔力も気配も感じられない。フードの中に硬い防具でも仕込んでいたのだろうと推測した。
襲撃から1分ほどたっていた。
乱入者をふくめて死体を三体ならべるのに3分か。
彼女は「これで終わりだ」と一人ごち、絶対に回避不可能な速度と軌道で、浮浪者の心臓、肝臓、そして首筋を狙って3本のナイフを同時に投擲した。
3分後
「あ、は、ぁ……っ! ん、んぅぅ……っ!」
息も絶え絶えに、みだらな淫語と矯声を放ちながら、横たわる浮浪者の陰茎の上で、マヨヒガは狂ったように身体を激しく上下させていた。彼女の均整の取れた美しい乳房は、窓からの光を受けて妖しく揺れ動いている。
乳首の軌道がいやらしい残像を描く。
浮浪者の胸、肝臓、そして首筋には、マヨヒガが投じたナイフが深々と突き刺さったままだった。しかし、男は全く意に介さず、ただ楽しげにマヨヒガの肉体の歓待を受け止めていた。
(生き残る……今はそれだけを考えねば……!)
マヨヒガの心は、恐怖と生存本能だけで満たされていた。
東国に伝わる房中術を駆使し、この怪物の精を限界まで絞り取り、あわよくば殺すか、隙を見てこの場を離脱するーーそれが暗殺者としての彼女の計算だった。
浮浪者が口角をわずかに上げる。マヨヒガの引き締まった腹部にそっと手を当てた、その瞬間。
「あ……っ!?」
マヨヒガの全身が、一瞬にして完全に硬直した。筋肉繊維一つ一つが極限まで収縮し、まるで石膏像のようにカチコチに固まってしまったのだ。指一本、視線一つ動かすこともできず、呼吸をすることすら困難な拘束。まばたきをするのもひと苦労である。
浮浪者は首を左右に傾けてぽきぽきと鳴らすと、完全に「物」と化した彼女の身体をそのまま正常位で犯し始めた。やれやれという感じである。
落としたコップを拾うような。
マヨヒガは、生まれて初めて底知れぬ本能的な恐怖に直面した。
さきほどは実力差を理解し、いったんの戦略的敗北を受け入れ、媚態を示した。しかし今度は本物の恐怖だ。
男は動かない石膏像をひたすら突き上げる、悍ましいピストン。彼女の艶めかしい黒髪だけが、男の激しい衝撃に合わせてせわしなく揺れる。
もう乳首は軌道をえがかない。
肉体がカチコチに固められているにもかかわらず、男の黒鉄の棒が彼女の女をえぐるたび、強制的な快楽が体内を駆け巡り、彼女は絶頂、絶頂、また絶頂を繰り返させられた。動けない肉体から、何度も何度も大量の潮が噴き出し、涙と鼻水、そして涎が床へと垂れ流されていく。
それらはぼたぼたとこぼれた。
体内の収縮だけが彼女がちゃんと生きた人間であることを示していた。
逆に言うとその収縮だけがマヨヒガのよりどころであった。
何よりも屈辱的だったのは、浮浪者が彼女の身体から溢れ出る体液という体液を、ひどく美味そうに舌で綺麗に舐め取っていくことだった。東国の文化において、それは最も忌まわしく、人間の尊厳を徹底的に汚す不浄の行為とされていた。感情を完全に捨て去ったはずの殺人機械マヨヒガの心に、一人の女としての激しい屈辱が、怒濤のように戻ってきた。
(犯すなら……せめて、この石膏の呪縛を解け……!)
長らく忘れていた悔しさと悲しさの涙が、マヨヒガの目から溢れ、白い頬を伝う。
そして自分が、性の欲求を男に求めたことにマヨヒガは衝撃を受けた。
浮浪者には彼女の心など関係ないし興味もないようだ。ただの都合のいい肉の玩具としてひたすら犯し続けた。あと何度、この尊厳を破壊する絶頂を味わわされるのか。マヨヒガの心は徐々に、そして完全な絶望に染まった。
東国での過酷な修行でもこのような苛烈な責めはなかった。耐えられない。
マヨヒガは率直に思った。負けたのだ。心も体もなにもかも。
たすけて、などと思ってしまった。
やがて浮浪者は満足したようにマヨヒガを床へ乱雑に投げ捨てた。
固まった像であるため、横たわれず、体は正常位だったときのまま、床に立っていた。
浮浪者は懐からあの数珠状のビーズを取り出した。
その時、カウンターの影から、血塗れのエーレカが這ってやってきた。
彼女はこの浮浪者が次に何をしようとするのか知っている。
「わらしに……わらしにそれを、やらへろッ!!」
ナイフが顔を貫通している。舌が裂けているためうまく発音できない。
浮浪者は這い寄ってきた彼女の手元へ、面白そうに数珠を放り投げた。
床に転がるマヨヒガは、これから自分の肛門に何がなされるのかを察し、絶叫しようとした。しかし、肉体の拘束のせいで声が出ない。それを見た浮浪者が指をパチンと鳴らすと、マヨヒガの舌の麻痺だけが解けた。
「やめろーーっ! やめてくれ、頼む! 頼むからやめてくれ……っ! 何でもする、そこだけは……詫びるから、だからやめてくれぇぇっ!」
プライドを全て捨て去ったマヨヒガの必死の懇願。
エーレカは血の跡を床に塗りながら右手だけで体を進め、マヨヒガににじりよる。
マヨヒガの肛門にたどり着いたエーレカはかろうじて動く右手で数珠を構えた。
マヨヒガはあーとかうーとかなにやら叫び続けた。
死に物狂いで動こうとしているのが石膏像の微動で見て取れる。だが動けていなかった。
エーレカが数珠をねじりこんだ。勢いあまって強引に右手の五指も突っ込み、力任せに数珠を引き抜いた。
「ひぎゃあぁぁぁーーっ!!」
マヨヒガの喉から、これまで聞いたこともないような悲鳴が上がった。
エーレカは再び数珠をねじこみ、引き抜く。マヨヒガががああああああ!!
と獣のような咆哮を上げる。マヨヒガの顔から尻から、膣からあらゆる液体が床に零れ落ちる。
エーレカもまたマヨヒガの汚泥と汁を顔に、手に浴びる。
双方息も絶え絶えである。
エーレカは命をふりしぼり、再度数珠を構えた。
マヨヒガは泡を吹き、失禁し脱糞し、固まった体を痙攣させている。
命を力に還元し、数珠を突っ込もうとするエーレカを後ろから抱きすくめる者がいた。
「エーレカ……もういい、もうやめるんだ。エーレカ……僕を守ってくれて、本当にありがとう……」
数珠を床に落とす。
その温かい腕の中で、エーレカの張り詰めていた緊張は解け、彼女はサウラーカの胸に顔を埋めて泣き続けた。
サウラーカが恐る恐る辺りを見回したときには浮浪者の姿はすでに図書館のどこにもなかった。
窓からは、穏やかな陽の光が差し込み、血に染まった床と、静かに抱き合う二人を穏やかに照らしていた。
マヨヒガは警視コールマ卿に保護される。
取調べには素直に応じ、マチハバ要人暗殺も白状した。
取調官は殺人機械がこんなに普通に取り調べに応じて話をするとはおもわなかったと語る。ただし、オールスの関与はわからなかった。
マヨヒガは一級殺人犯として処刑されるのだが、彼女は人間にもどっていたのか、殺したものや傷つけたものに謝罪し、この世を去った。