今まで狙われた女性達については、当局が隠していたため、単なる哀れな被害者だとされていたが、昨今は「下々につらくあたる女性」が狙われると広まっており、自覚する女性たちは振舞いに気を付け、自覚していない女性には周囲の者たちがそれとなく抑えたりした。
一方、愉快犯、模倣犯もつぎつぎに現れ、マチハバは少々騒然としていた。
変わり種としては「わざと使用人につらくあたるがいっこうに浮浪者が来ない。」とコールマ卿に訴える、夫とご無沙汰で愛人もいない貴族の中年女性などもいた。
警視コールマ卿とその幕僚たちは仕事が増え、愚痴を言っていた。
「目に余る女性達がちとおとなしめになったのはよいのだがな・・・」
そんな全体的におとなしくなったマチハバに悪女の新星が現れた。
悪女の名はエジーニャ=パイオニール
貴族パイオニール家の出で、摧破剤技師だったエジーニャは軍の建兵の職についていたが、数か月ほど前からコールマの寵愛を受けるようになり、以後その振舞いは徐々に増長の度を増すようになった。
世間は「次にマガッヒ(浮浪者はマガッヒと呼ばれるようになった。)に犯されるのはエジーニャだろう。」と噂した。
エジーニャは警視卿の寵愛にある者に手を出すような愚か者はいるまいと高をくくっているようだった。
エジーニャは醜女であった。
もともと生まれたときから顔に痣があったが、幼児期に流行り病にかかり、痣は全身に広がり、体中に痣がある。また、その後10歳くらいでもひどい疱瘡にかかり、右目は大きく開き、斜視となった。また、左唇は肉が溶け、左右の均整を欠き、八重歯が常時見えている。
髪の毛は深緑で、髪質が固く四方八方にくせ毛が伸びている。それを無理やり束ね、後ろで結んでいた。
声は、やはりこれも大病以来、喉が変形しており、ノイズの混ざるしゃべり方をしている。
エジーニャが持つマガッヒに襲われない自信はここにあったのかもしれない。
過去の被害者は誰もかれもが目を見張るような美人であったが、エジーニャは誰もが目を背ける容貌である。
ゆえにかエジーニャは日々、周囲につらくあたり続ける。
嫉妬からか、いや、確実に嫉妬であろう。道行く女性の美貌をとがめたり、使用人に容姿の良いものがあれば陰湿にいじめた。
先月からはコールマ卿から死刑囚の処刑権を融通してもらい、摧破剤の破壊力をはかる人体実験に使い始めたという。その際もなるべく若い女、容姿の良い者を連れて行くという噂があり、さらには、最近は若い美しい女性を冤罪で死刑にして摧破剤で粉微塵にしているとさえささやかれた。
エジーニャは屋内摧破剤試験場にいつものように死刑囚を実験台に使っていた。
死刑囚の距離を計算して離し、それぞれ威力の違う摧破剤を仕掛けた。
最近はさらに残忍さが増し、死刑囚の近しいものを観覧させるようエジーニャは命じていた。
「よく見ておくのだ娘。あの右から3番目の死刑囚。あれがお前の父親だ。」
エジーニャは得意満面の笑みをたたえ、壇上の椅子から階下にある、これから遺族になる家族に告げた。
部下の建兵達はせわしなく準備を進め、エジーニャに準備完了の報告をした。
騒げば殺されると思ってか、家族たちはさめざめ泣くばかりである。
全員が退避豪にうつり、エジーニャが発破の合図をおくるため、右手を高らかに上げた。袖と手袋の間から醜い痣がのぞいた。
エジーニャが手をそっとおろした。
まがまがしく開いた右目と細く切れ長の左目が微笑む。
エジーニャはゆっくりと左後方、退避豪入り口をみやった。
「ついに来たな。」
浮浪者がふらりとやってきたのだ。
「男、マガッヒ。この私を辱めにきたか。」
臙脂色のマントを翻して振り向く。
指揮棒のかしらに両手をかぶせ、地面についた姿でエジーニャは尋ねた。
浮浪者は無言で歩んでくる。
建兵が道を遮ろうとするのをエジーニャがとめる。
「マガッヒ。貴様を止める術は我ら人類にはない。だがな。ふふふ」
エジーニャは家族と最低限の人員を残して建兵達を退避させるよう指示した。
エジーニャは傲慢な笑みで言い放つ。どうせ浮浪者が聞き入れることはないと知りつつ言い放った。
「立ち去れ。貴様の欲する「もの」はここにはないぞ。3分以内に立ち去れば不問に付そう。」
3分後
エジーニャはまだらの赤いあざだらけの全裸姿をゴムまりのように弾ませていた。男は無機質に、無関心にエジーニャの体を陰茎で撥ね飛ばし、受け止めを繰り返した。
エジーニャは両手をマガッヒの両胸について腰でその振動を受け止めるとともに前後斜めに振ることでマガッヒの黒い鉄棒を刺激した。
「ふっ、うぅ・・・はっ、あっ、あっ・・・うぃああああ!」
刺激合戦はエジーニャが先に果てて終わった。
周囲の建兵達は今にもとびかかりそうな殺気を放ちつつもエジーニャとマガッヒの激しい交合を見ていた。
エジーニャは叫ぶ。「去れ!兵たち。去れ!あ、ああああああ!見るな!」
建兵達はいっこうに命令を聞かず、中には涙するものもいた。
エジーニャのまだら赤痣がみにくく浮き上がる。その両太ももに男の精液があふれ出て濡れた。
覚悟のない男性ならばまず近寄らない赤痣の地図を浮浪者はまさぐり愛撫した。
マガッヒの胸にエジーニャは倒れこみ、みずからマガッヒの唇を吸いに行ったが、返り討ちにあう。エジーニャは主導権を握ろうとしたが、口内を思うさま舌で犯されただけであった。
舌と唾液はからみあい、口の端からこぼれた。
かつての病で溶けおちた左乳首痕は男の玩具となり、さんざんにもてあそばれ、針金のような髪の毛はわしづかみにあい、頭を後ろに引かれ、エジーニャの後ろはひどく突かれた。
切なげな、苦し気なよがり声は屋内試験場にこだまする。
マガッヒにまだら地図が紅潮して真っ赤な背中を舐めあげられ、秘壺を黒棒の出し入れで震わせ、醜い痣だらけの大きく張り出した両乳房を揉みしだかれながら、エジーニャは再び建兵たちに叫ぶ
「まだか!」
建兵たちが叫び返す「準備完了!我らもお供します!」
3か月前
コールマ卿達は「マガッヒ」捕縛の作戦会議を何度も開いた。
様々な案がでたが、そもそも人知を超えた戦闘力の持ち主である。必ずそこで行き詰まる。
腕を組み、皆が顔をくもらせ思案を巡らせるが、誰もなにも発せない。
そこにパイオニール家の当主ペンスリット卿が入室してきた。
娘を連れていた。
コールマに献策にきたという。
「捕縛するのではなく殺せばよいのです。」
「それが出来ぬから苦労しているのだ。」
その娘エジーニャが前に進み出た。
「私が爆殺して御覧に入れます。」
顔中に広がったまだらの赤痣、均整を欠き、まがまがしさを感じさせる目、辺境に群生する小鬼族のように犬歯を見せる唇。
醜女であった。
しかしその目は志高く高潔さを体現している。
「摧破剤の扱いには長けております。信頼する部下も20名います。捕らえることはかないませぬが、必ずやマガッヒめを、この私が粉々に。」
出席者の幕僚が言った。「一説には、だが。マガッヒは3貫赤色玉薬筒の直撃にも、5斗燃油の爆炎にも耐えたというぞ。」
エジーニャ「500年前の3貫赤色玉薬や燃油のことと拝察いたします。しかしお言葉ですが現代の摧破剤の威力は、それらのゆうに数倍あります。私が考えているのは256貫3号摧破剤の2斉爆破です。」
建兵あがりの幕僚が嘆息して言う。
「軍艦を3隻は沈められる威力。市街の一角が消滅するではないか。しかしそんな威力の摧破剤をどこに仕掛け、どうやってマガッヒに来てもらうのだ。」
エジーニャ「ツーリカル摧破剤地下試験場。私が、私のこの体が餌です。」
コールマ「それは、その。つまりだ。」
エジーニャ「コールマ卿、その通りです。おそらくお考えの通りです。
私が奴をこの腕に抱き、もろともに吹き飛びます。残念ながら私だけでなく、3名の建兵がどうしても巻き添えになります。そこだけはこの国の兵を統べる陛下にお詫び申し上げねばなりません。」
会議室の外に待機していた3名の建兵が入ってきた。
背を正す。声をそろえた。「お供します!」
胸元には臙脂色の首巻をしていた。建兵色である。
魔術幕僚が問う「とりあえず方法については問わぬとして、マガッヒが魔術障壁を使って防ぐ際の対策はあるのか。」
エジーニャ
「特にありません。必要ありません。密科術の精華である摧破剤の威力は、所詮人力の域を出ない魔術では防ぎようがありません。マガッヒの魔術障壁が専門家の理論値が出す現代最強の魔術障壁のさらに5倍~10倍の衝撃減殺効果をもっていても、これを難なく打ち破ります。残余の爆轟が発する左右からの約2億ジエーラの衝撃波はダスマン鋼で作られたゴーレムを計算上240体爆砕できます。」
一同は息をのむ。
コールマ「ではエジーニャ嬢、あなたはどうやってマガッヒを誘いこむおつもりか。」
エジーニャ「悪行の限りを尽くします。徹底して悪女を演じます。聞けば世の女性たちはマガッヒを恐れ、行状を慎んでいるとか。ならばこそ今、私が悪女として名を馳せれば、必ずやマガッヒは私を辱めに現れるでしょう。」
ひとりの幕僚が言いにくそうに発言した。
「その、これは言いにくいことなのだが。マガッヒが過去に襲った」
エジーニャが片手にかかえた分厚い報告書をめくりながら発言し、その幕僚の言葉を遮った。
「サラナスで現れたマガッヒについての報告では、マガッヒは女獣化兵を相手にした、とあります。獣化兵は私と負けず劣らず、女性としての魅力に欠けますがマガッヒの相手となっております。」
凛とした回答。
才は容貌にかかわらず人間に美を見出させる。
「私はこの通りの容姿。権力をかさに、美しい下々を苛め抜けば。じつにわかりやすい悪女ではありませぬか。まさにマガッヒの好物を言えましょう!我が悪女伝とマガッヒ、これらと心中する覚悟はできております。」
そして美を完成させるのは気高い覚悟なのだな。
コールマは思った。
自殺作戦など到底受け入れられぬと会議は紛糾したが、ほかならぬエジーニャの熱意と、エジーニャの父ペンスリット卿の熱弁が会議を制し、エジーニャの策が用いられることとなる。
コールマは最後まで反対であったが、議決されると、エジーニャを自分の愛人扱いにすることを提案した。
ただの悪行では世に埋もれてしまう。「警視卿の寵愛をかさに」という最高のスパイスをコールマはエジーニャに与えた。
のちのち、国王はこの作戦を裁可するにあたり、ひどく難色を示した。
もともと形式上の裁可ゆえ、認めざるを得ないのだが、国王はエジーニャという貴族の娘を案じたという。
会議の帰路、馬車の中でペンスリット卿は娘に言った。
「お前のような醜女が国のため、家のためにできることはこれしかないのだ。わかってくれるな。」
「・・・はい。」
「お前がトリスハイ家に嫁いだ時はほっとしたものだがなあ・・・」
「・・・」
「子供が産めないからと1年でお前を放りだした。たった1年でだ!」
ペンスリット卿は杖で床を強くついた。
「子供が生まれなかったことはおそらく口実だ。1年ぽっちで放りだしたのはお前の容姿に旦那のカギョーロルが耐え切れなかったからだろう。勝手な奴だ。すこし痣があって肉が削げているだけだ。醜いからと。我慢できんとはな!」
エジーニャ「父上。ご迷惑をおかけします。」
「なに、お前が謝ることはない。醜い容姿は生まれつき。欠けた肉は病ゆえ。お前の責になるものはない。子供が産めないのも、これは運命だ。お前がこの世に必要とされていないことにお前の責任はない。」
ペンスリット卿は愛娘へ愛情あふれる笑顔をむける。
「お前はこの世に必要とされていない。女だてらに摧破剤の研究などをしていくらか世に貢献はしているようだが、子供の一人も産んでくれればそんな苦労はしなくてもよかったのだ。しかし、こればかりは仕方ないのだ。」
ペンスリット卿は娘に悲し気な目をむけ、顔を横に振った。
エジーニャは父親の慈愛を受けて育ってきた。
そして子供のころと変わらぬ笑顔を父へ向け、感謝の言葉を述べた。
3か月後
「エジーニャ様にどうか栄誉をーーー!」
建兵アマトールが電流魔術により、摧破剤の導火針に電流を直接流す。
本来は導電縄を伸ばすのだが、自爆覚悟のためその必要はない。
エジーニャと男、そして建兵達の世界が真っ白に染まった。
が、目を開けるとそこは闇の世界だった。落下している。
「これは「ナラク」!」
建兵ノイマンが叫んだ。
かつて裁判所に現れた東国の術者が使ったとされる複数の万象理を組み合わせた高度な空間制御術。
エジーニャは座位で男と抱き合い、唇を吸いあいながら感服した。
(まさか、あのナラクを瞬時に発動し、現世空間の衝撃を避けるとはな)
刹那、背をそらせて果てた。
策を破られた落胆とたくましい男に抱かれて味わう快楽と満足の混合はエジーニャの脳を焼いた。
数秒後、奈落は解除され、彼らは更地になった試験場跡にいた。
肩で息をするエジーニャが巨大なすり鉢状の爆破痕の底に倒れている。
男が数珠を地面に投げ捨てた。
一人の建兵がそれを拾い、エジーニャと目くばせをする。これも計画のうちだったようだ。
「エジーニャ様、御免!」
建兵トルエンがエジーニャの菊座に数珠をゆっくりとねじりこむ。
「あう・・・」
「こらえてください!エジーニャ様」
「うっく・・・ふふ、トルエン伍長。優しくする必要はない。演技とは言え、悪の所業の報いと心得ている。」
と、いいつつもやはり生理現象であろう。エジーニャは甘く切ない嗚咽を漏らした。股間からは甘い蜜が垂れていた。醜い肉体だが、建兵達にはなんともなまめかしく映った。
トルエンは数珠を入れ終えるとマガッヒをむく。男はトルエンに顎で「一気に引き抜け」と命じる。
トルエンは再び御免と発し、一気に引き抜いた。
エジーニャの絶叫がほとばしる。
エジーニャは力尽き、うつぶせに倒れこみ、一度びくんとおおきく痙攣し、股間から様々な体液などを垂れ流し気絶した。
トルエンがふりむくと、男はすでに遠くを歩いていた。
建兵たちは整列して男を見送った。ほどなく男は消えた。
こうしてマガッヒ爆殺計画は潰えた。
ペンスリット卿は怒りに怒った。失敗してしまえば、エジーニャはただの悪女。それも世間の噂通り、まんまとマガッヒに辱められた間抜けである。
パイオニール家の恥さらしであった。
「やはり世に必要とされていなかったのだ。」
ペンスリット卿はエジーニャを絶縁し、放逐する。
一庶民となったエジーニャは「元悪女」として世間に冷遇されながら建兵の仕事に戻る。
コールマ卿はエジーニャ寵愛による公私混同の責を負い失脚してしまう。
引退したコールマは長く離れていた旧領へ引っ込み、余生を送った・・・が、国王に2か月後呼ばれ、拝謁する。
国王はコールマに言った。
「エジーニャ嬢の後見人となれ。」
エジーニャは妊娠してしまったのだ。