鷲の間に並ぶ重臣たちの顔ぶれがだいぶ変わってしまった。
アラシェリーケはいら立ちをかくせない。
サネッカを皮切りに、日ごと信を寄せる大臣や長官達がカラッカラに干からびた体で長期療養に入ってしまう。その消えていくさまはさながら櫛の歯が欠けるがごとく。
そして、消える者どもは誰も彼もが、隠れてこそこそやっていた裏稼業を白日の下に晒されるのだ。
王政の威信は日々低下していった。
「スルマリケ。あの二人の怪人は捕らえられぬのか!」
「申し訳ありませぬ、摂政殿。報告の通り、干からびた大臣たちはまともに話せぬ上、目撃者たちも犯行時は放心状態であり、まともな犯人像が浮かばぬのです。」
「犯行当時は皆が皆、性的な絶頂の極みで放心状態。被害者も場にいた者も全てまともに何も覚えていない、しゃべれない。」
ばあん!
アラシェリーケは机を両手でたたいた。
「そんな馬鹿な話があろうか!!」
一息おいてスルマリケはおそるおそる「それが、実際にそうなのです。」
こめかみを手でつまみ、しばし懊悩したアラシェリーケは非情に不愉快そうに言う。
「マガッヒの・・・眷属、か。」
「おそらくは。」
「サネッカの家人と奴が解き放った2級市民どもの証言からしかまともな犯人像が得られん。これでは話にならん。」
スルマリケが挙動不審にあたりを見回し、アラシェリーケに近づく。
「なんだ。そんなに顔を近づけて。」
「失礼いたします。」
「慕情か。私の唇はここだ。」アラシェリーケが唇を突き出す。
スルマリケがぎょっとして大きく身を引く。
「いえ、滅相もない!声を大にできぬ話です。」
「ふふ、冗談だ。いら立っているゆえ、誰彼なくからかいでもせんと気がまぎれぬ。」
「おたわむれを・・・して。お話ですが。」
3時間後
アラシェリーケは男と交合していた。
さかのぼること30分ほど前
「失礼いたします。」
体躯確かな長身の男が入室し、跪いた。
その寝室で下着姿のアラシェリーケが髪をといていた。
「今宵も頼む。」
男は2級市民で性奉仕を職とし、その性技は一級の腕前であった。
遥か南方のパルバランド出身で、高級男娼として生きてきた。
男がアラシェリーケの下着を丁寧に脱がす。
「腫物ではない。もう少し乱暴でも良いのだぞ。」
「では失礼して。」
男は少しばかり雑に下着を脱がした。
アラシェリーケの裸体が現れる。
男はすでに勃起を済ませている。
「今日はどのようにすればよいのか。ご教授願いたい。」
「先回のおさらいから参りましょう。」
男はアラシェリーケの全身を舌と手で丁寧に愛撫し、アラシェリーケはほどなく一度目の絶頂を与える。
「うん・・・!」
男は手を止める。「一度目でございます。」
「続けろ。」「参ります。」
勃起した陰茎を十分に濡れたアラシェリーケの割れた密壺に優しく、そして一気に挿入する。陰茎には飛竜の内臓で作られた最高級品の避妊具を装着している。
男は丁寧に陰茎を出し入れする。
アラシェリーケはそのたび、かすかに呼吸を荒げた。
「今少し、早くはならんか。」「しばしお待ちを。」
さすがは性技を糧に生きてきた男である。じらしながら、だんだんに速度をあげ、速度を下げ、緩急をつける。アラシェリーケはたびたび要求や疑問を口にしていたが、次第に無口になり、よがり声が口をついて出てくるようになる。
「まて、まて!」
男は待たない。アラシェリーケの「まて」は絶頂の手前の声なのだ。
「あっ・・・うっ!」
アラシェリーケの背がわずかにそり、両足で男を締め付ける。
肩で息をするアラシェリーケ。息が収まるや男に言った。
「ご苦労であった。」
男は一礼してアラシェリーケの女の秘所から陰茎を抜いた。勃起は保たれたままである。
「私は満足できた。お前は。」
「大変満足しております。」
アラシェリーケは紅潮した頬のまま問うた。
「こういうのは、大丈夫か。」
豊かな胸を男に押し付けて両手で男を抱きしめた。
男が抱きしめ返す。
しばし抱擁が続いた。
アラシェリーケ「このあいだ、尻の穴を試したが、あれは少々痛かった。」
「時には趣向を変えて、と思いましたが、お気に召さなかったようで。」
「いいや、悪くはなかった。」
「恐縮です。」アラシェリーケが男に口づけをする。
男の口内にアラシェリーケの舌が入ってくる。
男も同様に返す。
しばらくして男は唇を離し、アラシェリーケの頬、首筋に口を這わせる。
アラシェリーケ「恋人や夫婦はこのような営みをするのだな。」
男は少し苦笑した。「まあ、そんなところです。」
1時間ほど不器用なむつみあいは続いた。
男はベッドに伏したアラシェリーケにタオルケットを丁寧にかけた。
「今晩はこれにて失礼いたします。」
「感謝する。今日は4度、達することができた。」
では、と男が退室しようとするが、それをアラシェリーケが呼び止める。
「先日お前が尋ねてきたことの答えを今言っていいか。」
男はそういえば、と立ち止まった。
「お聞かせいただけるのであれば・・・」
「私はこの年にありながら夫も子もおらぬ。学校を出てからこのかた、先王のもと政務に携わりつづけた。仕事さえできればよいと思っておったが、ある日、自らに性欲があることを認めざるを得ぬことがあった。そしてお前を探し当て、来てもらうことになったというわけだ。心の整備、静養の一環とでもいおうか。
あと思ったのだが、世の中の大半の男女は交合をしておる。
私は国政をつかさどる身だ。そういう市井の誰しもがすることを全く知らぬではな、という思いもある。以上だ。回答になったか。」
枕に横顔を沈め、アラシェリーケは男に尋ねた。
「ありがとうございます。」
男は、身分の違いを差し引いても、自分にこの女性を満足させることはできないのだろうなと諦観をもって退室した。男は今日、一度も射精していない。
枕に顔をうずめ、うたたねしていたアラシェリーケは、人の気配で目を覚ました。
「誰だ。」
スルマリケならば、この勢いで抱いてやろうなどと冗談がよぎったが、それはスルマリケではなかった。
「こんばんはー!」「失礼する。」
破廉恥な服を来た豊満な美女と、小柄で可愛らしい東国人の女がいた。
アラシェリーケは察した。
「ほう、お前らか。お初にお目にかかる。」
アラシェリーケは裸体のままベッドから体を起こす。
ベイリー「わたくしベイリーと、こちらアゼミさんです。」
アゼミ「服は着ないのか。」
「ここは私の部屋なのでな。」
ベイリー「来客ですよ?」
「呼んだ覚えはない。」「あ、そっか。」
足を組み、アラシェリーケは尋ねる。
「用件を聞こう。手短にな。」
ベイリーがアゼミを向いてにっこり笑ったのち、アラシェリーケに紙の束を渡す。
「じゃーーーん!なんでしょう、これ。」
アラシェリーケが面倒そうに紙の束を取り、目を通す。
「ほうほう、なるほど。」
流し読みしたのち目を上げ、アラシェリーケが問いただす。
「して、お前らはこれをどこで、誰から聞いて、まとめ上げたのだ。」
アゼミ「承知していると思うが、お前の股肱の臣達が全てしゃべったことだ。物証もおさえてある。」
ベイリー「私らァ!この人たちがやってた悪いことは、もうね、別にいいの。」
アラシェリーケ「端的に言え。何が望みだ。」
ベイリー「あのちょい悪、いや激悪イケオジのダスラン卿。あいつを捕まえてほしい。あと、オーサリー先生とフランゼっていうあいつが殺した二人に謝ってほしい。お墓の前で。」
アラシェリーケは嘆息する。
ベイリー「あ、これってマジなやつだから。」
アゼミ「あと、マガツヒ。いや、マガッヒの行方を知るならば教えてほしい。」
アラシェリーケ「マガッヒか。お前らこそマガッヒの眷属ではないのか。
ふん。我らもマガッヒの居所は知らぬ。」
「あとベイリーとやら。ダスランの件、断ると言ったらどうする。」
ベイリーの目が座る。「マジなやつってゆったよね。」
アラシェリーケ「おまえらに国政の都合や大局の話などしたとて聞かぬであろうな。」
アゼミ「政治的な妥協の産物、なのだろう。わからんではない。」
アラシェリーケ「そうだ。それで納得してほしい。」
ベイリー「私は納得しない。」
アゼミはベイリーをちらと見てから言う。
「私も理解はするが、納得はせん。やつは非道がすぎる。」
アラシェリーケは足を組み替え、両手を組み、前のめりになる。
「ときにお前ら、どうしてこの部屋にこれたと思う?」
ベイリー「話そらしたね。まあいっか。アゼミちんの手品で、きたった!」
アゼミ「手品ではないが。まあそんなところだ。」
アラシェリーケ「王政の中枢に、変だとは思わんか。」
ベイリー「楽勝だったよ。」
アゼミが少し狼狽する。
アラシェリーケ「私は国王陛下にこの国を任されているのだぞ。そうだな、お前らのこともよおく知っている。偽名だということもな。」
ベイリーが「え」とつぶやく。
「いかな術者と言えどもだ。やすやすと入ってこられる場所ではない。それはわかるな。」
アゼミが沈黙する。
「おまえらの大事な人たち、今頃どうなっておるかな。」
アラシェリーケはにっこりと微笑む。
「帰って確認したほうが良いのではないか。それとも、ここで私と長話を続けるか。」
アゼミ「ベイリー戻るぞ。」ベイリー「もどろ、アゼちん!」
「ふふ、気を付けて帰るのだぞ。もっと自分と家族を大切にするのだな。」
ベイリーとアゼミは空中に消えていった。
「誰かおるか、誰か!」
アラシェリーケの声に使用人たちが駆けつけた。慌てて入室した彼らはアラシェリーケの裸体を見て動きを止めた。
「警備の者に言え。賊が入った。」
しばし遅れて残業をしていたスルマリケが入ってきて、同じく動きを止めた。
使用人があわててアラシェリーケに服をまとわせる。
「スルマリケ。警備はどうなっておる。最近、密科にかまけて魔術の方の警備がおろそかなのではないか。考慮しろ。」
スルマリケが直立不動だ。
「私は気分をなおしに酒でもいただくとする。食堂に行くぞ。」
スルマリケの脇を通る際アラシェリーケは立ち止まり、耳打ちした。
「見たな、裸を。」
アラシェリーケは部屋を出て食堂にむかった。
スルマリケはどぎまぎしながら立ちすくんでいた。
「ママーーー!!」
「エジーニャ殿!!」
エジーニャは唐突な二人の帰宅にお茶を噴いた。