しかしこれを極めていくと人の精神を操ったり、破壊力をもったエネルギーを生成して飛ばしたりといったことができるのであるが、それはほんの一握りの達人だけである。
そうではあるが、わずかな魔術でもそれが日常に組み込まれており、それがために、魔術で何とかなることが、魔術がない世界よりも多いため、自然の法則を利用した技術の発展は緩やかであった。
マチハバはかねてより、魔術を排し、密科のことわりのみで組み立てる技術を研究してきた。工程から魔術を極力排した、純度の高い密科による産物を純密と言った。
純密により作られた道具は、使用者の魔術的な能力はおろか、単純な練度も、従来のものよりも必要とされなかった。
素人が扱っても、達人が扱ってもそれほど違いがない。
ゆえにマチハバではここ近年魔術の使用が下火になっていた。
アマトールは車長席にふんぞり返って、巻燻をくゆらせていた。
そばには中年の色っぽい女性が乗っている。
「愛器に情婦(イロ)を乗せるのが、俺の夢だったんだ。」
アマトールが乗っているのは、無限転帯で進む、黄油式動力の建兵器材である。
排土板がついており、道路工事などに使うべく設計された器材で、これは試製器である。
純密器を目指したが、どうしても起動そのほかで魔術を必要としているため、多少ながら魔術に心得のあるものが乗車しなければならない。
ヒューリ「アタシがいなきゃ走らないんだから、感謝してほしいもんだね。」
アマトール「なあに言ってやがる、この売女ァ!てめぇの力なんざ借りなくたっていざとなりゃエドュゴーのケツひっぱたいて起動させられるんだよ。」
エドュゴーと呼ばれたのは操兵で、二人の会話をひやひやしながら聞いている。もっとも動力の音がうるさくてあまり聞こえないのだが。
「へえ、随分なお偉いさんが来あがるな。」
アマトールが豪勢な馬車を前方に見る。
「エドュゴー、寄せろ。動力てーいし。」
建兵器材を道のはじによせ、アマトールは天蓋から上半身を出す。ヒューリも顔を出し、アマトールの腰にしなだれかかる。
「随分なお偉いさんだ。我慢しろい。」
「なにさ、ケチだね。」しなだれかかるのをやめたヒューリだったが、好奇心から顔は出したままだ。
馬車が横切る際、アマトールは右手を掲げる敬礼をする。
馬車の中の貴族らしき男が紳士の敬礼を返す。
アマトールは、後部座席に乗る小娘と目が合った。何か感ずるところがあり、目を追う。
馬車は去って行った。
「随分立派な馬車だったね。」「警視卿馬車だ。」
「あんたずっと眺めてたけど、やっぱ珍しいのかい。」
「後ろに乗ってた小娘な。ヤな臭いとイイ匂いがしたんだ。」
「臭いってアンタ。」
「カタキの臭いと恩人の匂いだ。」
アマトールは小娘の顔を思い出す。どこかで見たような、見たことのないような。
「試製18式無限転帯式建兵器だな。マチハバが純密方式でつく」
「アゼっち、それ以上説明いらないよ。」
アゼミはぶすっとしてアーチェラを横目でにらんだ。
「それよりね。」「どうした。」
「さっき目が合ったおっちゃん。ずっとわたし見てた。」
「おまえは・・・美人だからな。」「ありがと」アーチェラのレスポンスがはやい。
「さしずめ女好きなのだろう。」「そうかなあ。」
「アマトール建兵大監だね。」
スルマリケが二人に言った。
「誰それ。」
「人物像は無頼で、とても指揮官の器じゃないと思うのだが、あれよあれよという間に大監におさまった。大監よりも彼はむしろ前線の分隊指揮官が似合う。そういう人だよ。」
「けっきょくどーゆーひと?」
「ぶっきらぼうであばれんぼう。いくさならば前線で敵と斬りむすぶのが似合う男だが、なぜか軍のえらい人になっている。」
「ありがとーアゼちーん。」アーチェラがアゼミにがしっと抱き着く。
アーチェラがアゼミに抱き着いた拍子、アーチェラの椅子に矢が刺さった。
スルマリケの肩にも深々と矢が。
「敵襲!!」
馬車の外から叫び声が聞こえてきた。
「馬鹿な、郊外とはいえここは王都の行政区内だぞ。」
スルマリケが肩をかばいながら背を低くする。
「なになに!?」
「襲われているな。」
アゼミが耳を澄ます。
「・・・3人。十分押し返せると言いたいところだが、こちら10人の手勢にわざわざそれっぽっちで寄せてきたからには、なにか策があるのやもしれぬ。」
「どうする!アゼちん。」
スルマリケ「どうもしなくていい。君たちは馬車の下に隠れるんだ。本当になにもしなくていい。とにかく身を守るんだ。」
遠くにまばらな民家が見える。草原と畑が混在している。
馬車の外の護衛はすでに4人が倒れ伏し、残りの護衛は馬車を囲んで防御陣を組んだ。
しかし、賊の一人が進み出て地面に手を付けると、近辺の樹木や石がみるみるうちに集まり、人型になる。
「ゴーレムだ!」
ゴーレムと3人の男が馬車を囲む。
アゼミ「ゴーレムが出てきては分が悪い。」
スルマリケ「応援があと半刻ほどでやってくる。大丈夫だ。」
アゼミ「半刻もつかな。」
ん?とアゼミが耳をたてた。
轟音が近づいてくる。
「新手か!」護衛が叫ぶ。叫ぶ頭に賊の矢が刺さり倒れこむ。
轟音は先ほどの建兵器材だった。
天蓋から上半身をだし、腕組みしたアマトールが大声で叫ぶ。
「助けに来てやったぞ、感謝しな。」
高さ3間の巨体は、到着するやゴーレムと力比べを始め、それを身を乗り出したヒューリが魔法で援護する。
二人は身をかがめ、「よせ、君たちが隠れろ。」と繰り返すスルマリケをかばっている。
アゼミ「アーチェラ、おまえ、静かだな。」
「今ね、怒ってんの。このおじさんすごく痛そうだし。」
「私なら大丈夫だ。」スルマリケがアーチェラに顔をむける・・・と、そこには豊満な美女がいた。
ペンネーム「ベイリー」
「わたし、ちょっとあの人たちイかせてくる。」
青筋を立てたベイリーが馬車から飛び出す。
「やむをえんな。」
アゼミがそれを追う。
3分後
からっからに干からびた男二人が地面に転がり、悲鳴を上げる男の上でベイリーが楽し気に上半身でダンスしながら精を搾っていた。
「あおおおおお!!」
悲鳴を上げていた男は7升ほどの射精をして一気に干からびた。
ゴーレムを道端になぎ倒した建兵器材からアマトールとヒューリそして操兵のエドュゴーが降りてきた。
「ははは、お前ら大丈夫か。」
アマトールは巻燻に火をつけ、紫煙をふうーっと吐いた。
スルマリケ「護衛が5人ほどやられ、2人ほど死んでしまいました。」
「アゼちん、ありがと!アゼちんが動きとめてくれたから、ラクショーだったよ。」
ベイリーが腰を振りながら戻ってくる。
「おい、そこの派手なねーちゃん。アンタつええな。」
アマトールがベイリーに話しかける。
「アハハ!ありがと。でも・・・何人も人が死んじゃった。」
「気にするなベイリー。お前が出たおかげで被害は抑えられたのだ。」
アゼミがベイリーの肩をつかむ。
ベイリーが肩に乗ったアゼミの手を握る。
アマトール「それはそうと・・・どこかで見た顔だな。」
スルマリケがほこりを払い、アマトールに一礼し名乗った。
「警視卿アマトールだ。礼を言う。」
適当な敬礼をしてアマトールが返す。
「アンタじゃねえ。そっちのネエちゃんだ。」
ヒューリが腕組みして侮蔑の目をアマトールに向ける。
「派手な若い娘にさっそく色目使うのかい。」
「そうじゃねえ。ヤな臭いとイイ匂い、このネエちゃんからするんだよ。」
「ふん!」ヒューリがそっぽを向いた。
「はじめましてー、どーもベイリーです。」
おどけながら礼をする。
「私はアシハラのアゼミだ。」
アゼミがアシハラ式の礼をする。
アマトールはしばし二人を眺めたが「わっかんねえなあ。」とあきらめた。
「それはそうと、こいつらなんなんだろうな。」
スルマリケ「おそらく、摂政殿に反感を持つグループだろう。」
アマトール「恨まれてっからなあ、あの女」
スルマリケがキッ!とアマトールをにらむ。
ふん「礼はいらねえぜ。」アマトールがにやりと笑う。
アマトールはふてくされるヒューリと、ひやひやしっぱなしのエドュゴーを連れてもとの街道に戻っていった。
「変な人たち。」「助けられたがな。」
「彼らは助けてくれましたが、摂政殿には良い感情を抱いていないようでしたね。」
「私よくわからないけど、あのおばさんって嫌われてるの?」
「ベイリー。偉い人っていうのは、なにをやっても嫌われがちなのだ。特にまじめな人はな。」アゼミが解説する。
スルマリケは我が意を得たり、深く、深くうなづく。
「本当に嫌な奴の可能性もあるがな。」
「嫌な人ではない!」
スルマリケの声が街道に響いた。
「ときにベイリー」
「なに、アゼちん。」
「無精転生は使わぬのか。」
「せっかくなんだけどぉ。やっぱ、その。女の子の最初はさ、大事な人に捧げたいじゃん。」
スルマリケ「なんだね、その無精転生とは。」
「えっとぉ・・・女の子のね・・・その妊娠しなくて大丈夫だから、いくらでもね、できる魔術」ベイリーがくねくねしながら説明した。
スルマリケ「そんなはしたないことをやってはいけません!!」
スルマリケの怒声が街道に響いた。