3人の男の話です。
タイトルの「分後」をやめるのはちょっと勇気がいりました。
ベッドの中に男女が寝ている。
女は男に肌を合わせ、男は後ろ頭に両手を組んでいる。
女の寝息を聞きながら男は昔に思いをはせる。
俺は確かにあの時期、エジーニャ様のために死ぬ気だった。
導火針に電流を流し、ヤツとエジーニャ様、トルエンとノイマン5人で吹き飛ぶはずだった。
ところが奴は一枚も二枚も上手で結局俺たちは負けた。
う!
アマトールがうめく。股間が強く握られたのだ。
「アンタ、いま女のこと思ってたろ。」
「ああ、思ってた。見れたもんじゃねえ顔のな。」
「アンタ好みのかい。」
「いったろ、見れたもんじゃねえって。」
「じゃあなんだってそんな女のこと考えてんのさ。」
「昔、一緒に死のうと思ってたからさ。う!」
ヒューリがアマトールの股間をギュッと握った。
アマトールは二人の女の無念を背負っている。
かつての上司。そしてヒューリ。
二人の女の人生を破壊した男。こいつに一矢報いねば俺は男ではない。
空飛ぶ軍艦「アルヒューナ」
マチハバが持つ飛行軍艦で、気嚢には燃えにくく魔術で加工された軽燃気が充満している。
その浮力は106蟻滑空砲を3門と44発の砲弾、そして14名の兵員その他必要器材を運搬でき、滞空中に砲撃を実施できる能力がある。
アルヒューナはいま、邪龍トラスゴールの巣に近づきつつある。
アンカバ山に巣くう邪龍トラスゴールは1000年前から人類の山越えを阻んでいた。
なんども討伐が行われたが、いずれも返り討ち。その時代時代最強の武具や対策を練っていったが、無駄だった。挑戦が行われなくなりおよそ100年がたった。
「トラスゴールが向かってきます。」
「滞空、停止。」
「高度取れ。砲向け。」
砲の指揮をするのはトムルス竜兵少監
大昔に騎兵だったが、上司を守り切れなかった事件があり、それ以来馬を降りた。
ある日、竜に乗る機会があり、これからは竜兵だろうと思い立った彼は竜兵に転科したのだ。時代は下り、竜兵は空を飛ぶ兵器やその運用全般に携わることになる。
トムルスは大空の騎兵を志したのだが、今はアルヒューナの砲兵指揮をしている。
「なにやってんだろうね、俺は。」
と、独り言ちる。
トラスゴールは2体。
先行してくる1体に3門の砲がむく。
「撃て!」
アルヒューナの106蟻滑空砲が火を噴き、見事一発が命中した。
トラスゴールは墜落していく。もう1体は砲が危険だと察し、アルヒューナの後背に回り込もうと軌道を変えた。
「砲、転回。2番、3番。追随射。1番、狙え。」
トラスゴールに2番3番砲が火を噴く。牽制射撃である。トラスゴールはなかなか近づけない。
トラスゴールが右も左も危険と、制動をかけた瞬間を狙い、1番砲がトラスゴールを撃ちぬいた。
アルヒューナは基本的に純密で作られてはいるが、砲の照準には魔術が用いられ、精密射撃が可能だった。
トムルスは艦長に報告し、砲員に砲をおさめさせた。
「騎兵をやっていた20年前とは大違いだな。もはや人と人が剣を交えるようないくさはあるまいて。」
トムルスに苦い思い出がよみがえる。
若かったあの日、上官だった一人の女騎士を守り切れなかった。考えたとてせんないことであるが、あの時、アルヒューナが空にあり、奴を狙うことができていたら・・・
あの哀れな女騎士は今頃何をしているのだろうか。剣の腕は確かで、教えているうちにあっというまに技量を抜かれた。
快活な女性だった。若さと愚かさがまぶしかった。
ああ、アルヒューナで奴を撃つことができれば。
夕日が照らす山肌を部下たちと眺める。アルヒューナは母港へ向かっていた。
ぱぱぱぱん
一斉射が街角に響く。
反王政グループが立てこもるパブに長炮兵が射撃をする。
味方の射撃を援護とし、パブ入り口に近づいた兵が手投げ弾をパブに投げ入れる。
とたんに響く爆発音。
長炮兵たちがパブに突入した。
すでにパブ内には死体だけがあった。
反王政グループのみならず、いあわせた客や店員もみな死んでいる。
強硬なやり方にトリュー炮兵長は内心気分が悪かった。
なるほど、鬼畜アラシェリーケのやり方らしい。国王を奥の院に押し込め、摂政として専横を振るう女。アラシェリーケ。
反王政には苛烈にあたれ。犠牲はいとわない、と。
命じているのは兵杖総監ウラバロだが、あの揉み手上手の小心者にこれを命じているのはアラシェリーケだろう。
まあ、給料さえくれればひとまず文句はないのだがな。
しかしこの炮という武器はどうだ。魔術だの剣だ槍だの時代はいよいよ終わりか。
もっとも値段が馬鹿高いから揃えるのに苦労するのだろうが。
などと考えたところで俺が買うわけではない。心配することでもない。
それより、はやく金をためて家を買わねばならない。
トリューは妻と駆け落ちしたおかげで貴族も騎兵もやめてしまい、当時鼻つまみ者のふきだまりだった、出来たばかりの炮兵に身を転じたのだ。
ツーリカルの森林からも離れ、王都のごみごみした街区にひっそりと妻と住んだ。
以来妻には迷惑をかけっぱなし。子供はいない。妻が不妊か、我が不妊か。お互い不倫をしたこともないので確かめようもない。
老後は自宅を買ってしずかに二人で暮らすのだ。
静かに暮らすのが夢だが、トリューには一つ、できるならばかなえたいことがあった。
復讐である。妻を破壊した男に一矢報いねば。
それは普段は胸の内におさめ、誰にもみせない激情であった。