※この作品はR-18です。

3分後   作:すりーみにっつ

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3分後無限転帯の前で

-宮内広場-

アマトールの無限転帯が浮浪者に突っ込む。

排土板が激突し、さしもの浮浪者も歩みを止めて排土板を両手で押し返す。

「エドュゴー!もう一押しだ!」

「まったくやってらんねーっす!」

「ヒューリ!電流やっちまえ。過負荷なんざ気にするな!」

「あいよ!」

 

ヒューリが昔取った杵柄。魔術による人工電流を動力部周辺の作動筒に流す。

無限転帯の出力があがる。

黄色い煙が排出筒からいきおいよく噴き出る。

「この煙は有害だァ!離れろ離れろ!」

無限転帯をとりまく野次馬と兵士たちにアマトールが大声を張り上げ、身振りで追い払う。

 

群衆と兵士たちが喝采を浴びせる。

ここまでやられっぱなしだったところに、機械の巨体がついに浮浪者の足を止めたのである。

「毒でもなんでも構うか!」

兵士たちが無限転帯の後ろに次々について押しまくる。

 

「へっ!そんなもん足しにもなんねえが、預かるぜ。」

 

浮浪者はずりずりと両足を地面を削りながら後退していく。

 

「もしかしたらあと一息なのでは。」

見守る群衆と兵士たちは沸き立った。

 

 

-摂政座-

側近たちがアラシェリーケに興奮を伝える。

「ほう、たいしたものだ。だが。」

アラシェリーケも同意した。が。

 

「押し返したからと言ってそれがどうなる。あの機械もいつかは止まるだろう。」

「次につなげる手はあるのか。」

側近たちはハッとして黙る。

 

アラシェリーケはこめかみに手を当て、浮かぬ顔でつぶやく。

「しっかりしてほしいものだ・・・」

そのとき、投影像に乱入者があったのを認めた。着飾った女だ。

アラシェリーケは腰を浮かせる。

「あの者は?」

 

-宮内広場-

トリューの隊が斉射の構えを完了させた。

排土板に押される浮浪者に狙いを定める。

アマトールはトリュー隊を確認し、周囲の兵士たちを「散れ、散れ!」と追い払い、自らも天蓋内に身をひそめる。

 

「前方50間、斉射、射撃後逐次次弾装填。狙えー!放て・・・

 待て。射ち方まてー!」

浮浪者によろよろとドレスの女が近寄っていく。

トリュー「どけー、そこの女!」

-何者だ。俺の復讐の邪魔をするな-

 

女は浮浪者を探り当て、両手をめいっぱいひろげる。

浮浪者がフンと踏ん張ると無限転帯の前進は止まる。転帯が空回りし、ぶおんぶおんと黄色い煙が大量に排出された。

「マガッヒ様!」女が天に向けて叫ぶ。

 

浮浪者は特に気に留めるでもなく、排土板を両手で押している。

 

トリューは計算した。

今まで浮浪者を圧倒していた無限転帯の推進力が拮抗した。

時間がない。7.62蟻口径の長炮の弾丸を何発もくらって生きていられる生き物はいない。当然あの浮浪者もだ。今が好機だ。無限転帯のおかげで浮浪者の周りに邪魔な群衆や兵士がいない。絶好の機会なのだ。

「どけー女ァ!どけい!撃つぞ!」

トリューは命じた。

「放てぇー!」

ぱぱぱぱぱん

長炮が火を噴き、女が崩れ落ちる。

 

 

-摂政座-

「なぜ撃った!」

アラシェリーケが絶叫した。

「なぜ撃った。無辜がいたではないか。なぜだ!」

アラシェリーケにあるまじき放心の表情

 

側近の武官が言いにくそうに言上する。

「摂政殿。反王政の武力蜂起には容赦をするな、という方針がありますゆえ。かの指揮官はそれを根拠に撃ったものと思われます。」

 

アラシェリーケは実は知っていた。すべて理解していた。

それでいてなお、なぜ撃ったか問わずにいられなかった。

 

いまはっきりと思考が解を結んだ。

あえて思考を止めていたのだ。

 

あの女はかつて父が鞭うたずにすんだツーリカルの盲目の少女。

父からその話を聞き、子供ながらに世の矛盾や非道に心痛めた。

盲目の少女が鞭うたれる心配のない世の中を作れないか。

それがアラシェリーケの政治家の原点にして原風景だった。

 

アラシェリーケの中にツーリカルの夕べが浮かび上がった。

茜に染まる森林の大地の思い出。

哀れな少女をわが身に置き換え、義憤に燃え、勉学を志し、それは先王の目に留まる。

以来どんなに苦労したであろうか。

気が付けば自分は摂政座にいる。

アラシェリーケはハッと我に返る。

 

その少女と面識はなかったがカブヒンドの部屋で数奇な出会いをしてしまった。

かつての少女は再び邪悪に支配されていたが、アラシェリーケの眼前で、いま、女はすべてから解放された。

 

膝を震わせ、摂政座に腰を下ろした。

こみあげる嘔吐をおさえこむ。

幸い、涸れはてたか、鬼畜にはそもそも備わっていなかったか、涙は出ない。

 

「そうだ。民間の犠牲をいとうことなく強硬策で臨め、という方針だ。あの指揮官は適正な射撃をなした。騒動がおさまったのち、褒章を出せ。」

アラシェリーケは表情を消し武官に回答した。

口がわなわなと震えるのだけは、それだけはどうしても押さえつけられなかった。

 

 

-宮内広場-

無限転帯がずりずりと後退し始める。いや、後退ではない。転帯は確かに前進している。

天蓋からアマトールが顔を出す。

「マガッヒさんよお!これでどうだ!」

アマトールはエドュゴーの隣に降りる。

「エドュゴー、あれやるぞ!」「つきあいきれねえっすわ!」

動力装置のかぶせ板を乱暴にはぎとる。

「ヒューリ、ここに直接やるぞ!」

「壊れちまうんじゃないのかい!」

「喧嘩はどっちかが壊れるもんだ!」

「ったく、付き合うよ!アタシも奴に泡吹かせたいからね!」

 

無限転帯が今までにない猛烈な黄色い排煙を吐き出す。

すさまじい異音とともに転帯が狂ったように回りだす。

ふたたび浮浪者が押され始める。

 

トリュー隊の斉射。浮浪者は倒れない。

 

斉射の音を聞いてアマトールが天蓋から体をのり出す。

「マガッヒさん、ごきげんいかがかなあああ!?」

 

マガッヒはフードを深くかぶっており、その表情はまるで見えない。

 

「お」

 

無限転帯が浮かぶ。

浮浪者が排土板をつかみ上げる。よくみれば排土板に指がめりこんでいる。

次の瞬間、無限転帯が横に倒れ、その勢いで2度、3度と回転し、建物に激突。

バスン!という音ともに今度は黒い煙を吐いて、転帯は回転をとめた。

 

トリュー隊の斉射。なおも浮浪者は倒れない。

 

「ヒューリ、エドュゴー、平気か?」

「あたた。」「つきあいきれねえっすわ!」

「平気だな。ふん。やっこさん、やりあがんな!」

アマトールは開口した天蓋から這い出る。

 

浮浪者の正面に立ちはだかるアマトール。

「よう、マガッヒ。俺の本業はな、兵隊ヤクザなんだよ。」

言うが早いかアマトールの拳が浮浪者の顔にめり込む。

「エジーニャ隊長の分だ。」

アマトールがもう一発叩き込む。

「俺の可愛いヒューリの分だ!」

 

「そしてこれが俺の分だ!」

アマトールが拳をくりだした瞬間アマトールの意識は飛んだ。

 

3分後

 

横倒しになった無限転帯の前でアマトールはヒューリの膝に頭を乗せ、体を横たえていた。

「アンタ、ほんと馬鹿だね。馬鹿だね。」

「なんだ、ヒューリ、柄でもねえ。泣くな。」

「馬鹿すぎて涙出ちゃうよ。」

「見たか。三発叩き込んでやった。あの野郎、俺に泣いて許しを乞うていたぜ。」

「アンタ本当に喧嘩弱いね。弱い。」

ヒューリは自分の頬をアマトールに頬をくっつけ、アマトールの頭を、体をさする。

アマトールはそのままもう一度気を失った。

そのそばで座って酒を飲むエドュゴー「つきあってらんねえっすわ。」

 

 

 

トリュー隊は長炮を構えたまま動かなかった。

誰もが信じられなかった。

あの浮浪者は長炮の弾丸を30発はくらっている。が、何食わぬ顔で歩いて進んでいる。

これ以上何ができようか。

トリューも射撃命令をするための右手を前に掲げたまま動けない。

 

俺たちは女をひとり撃ち殺しただけ。

 

トリューは動けなかった。

 

 

拝啓

愛するナゼリハへ

今日、僕はついに「あいつ」に出会いました。

あの日の無念を晴らしたかったけれど、それは叶いませんでした。

ごめんなさい。もうわがままはいいません。人生をこれから始めます。

手始めに、あの少女を探して一緒に謝りにいきましょう。

許してもらえるとは思わないけれど。

ぼくも謝らなければならない。多分。きっと。

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