-アルヒューナ号-
「艦長、高度60間」
「トムルス、砲撃準備良いか。」
「準備良し。いつでも放てます。」
「鉱物で知らせろ。退避させるんだ。」
地上では浮浪者に吹っ飛ばされた兵隊達の回収が始まっていた。
だいたいが気絶や体を打って痛くて動けない者たちだ。
元気なものたちが肩をとりあって連れていった。
「距離50間からの俯角射撃。危害半径はおよそ40間とのことです。」
「やつとは80間は距離をとれー!」
指揮官や下士官が胴間声をはりあげる。聞いた倍の距離をとれば大丈夫だろう。
そういった距離だ。
アルヒューナ号からは、浮浪者を中心に人が距離をとり、いびつな円形を観測できた。
「もっと離れろよな!」
トムルスが割って入る。
「必要ない。敏筒は抜いた。爆発はさせない。角度70度以上で射撃する。その多くは地中にめりこみ跳弾は限定的だ。」
砲員に宣言する。
「あてていく。直接だ。爆風はない。狙撃だ。」
トムルスが続ける。
「今回使用する3番砲はすでに33発射撃している。砲がゆがみ始める頃あいだ。30間まで降下し、術眼鏡は使用せず、密科鏡のみで狙う。」
「通例でいけば30発を過ぎた砲は密科鏡の十字から右上5蚊ほどずれる。地表射撃で使う100間基準ではなく距離30間であるため、計算上6割2分ほど加減せねばならない。しかしこの加減は密科鏡上は不可能であるため、諸君らの目見当が求められる。」
トムルスが砲員に尋ねる。
「できるか。」
砲員たちはにやにやしている。
「もちろん!」
トムルス
「この戦いが終わったら俺は嫁探しをする。自慢させろ。俺のために当ててくれ。」
砲員「当ててはみせますが、嫁さんの方はどうでしょうね。」
トムルス「ま、そっちの方は神頼みだ。では行くぞ。」
砲員たちは迅速に射撃姿勢をとる。装填し、照準し、合図を送る。
トムルスは合図を受け、艦長に合図を送る。
「艦長、地表は退避完了です。」
「了解。撃て。」
-宮外小公園-
サウラーカがエーレカを抱きしめている。
「エーレカ、大丈夫見なくていいよ。僕が見届ける。」
エーレカがサウラーカを抱く腕に力が入る。
「倒せる・・・?」
「きっと倒せる。」
そこに子供二人が飲み物を買って戻ってきた。
「母さん、甘いもの。これ。」
エーレカは恐る恐るサウラーカを抱いていた腕をほどき、コップを受け取る。
勇気を出して上空を見た。
空に浮かぶアルヒューナ号が発砲した。
遅れて聞こえる射撃音。つづいて地表で爆発音。立ち上る土煙。
浮浪者が土煙に消えた。
「やったか!」
しかし浮浪者は土煙の中から悠然と現れる。
「はずしたんだ!」
鉱物通信が送られる。
「至近なれど命中に至らず。」
「ズレを送れ!」
「ズレはおそらく微小。測定できず」
トムルスは計算する。
「・・・右に0.3蚊寄せ。」
「そんな目盛りはありません。」
「目見当だ。」
「りょっかい!」
アルヒューナ号が再度発砲する。
浮浪者が再び土煙に消える。
しかし相変わらず涼しい顔で歩いてやってくる。
「おかしい。当たっているはずだ。いや、当たっていないとしてもだ。あの距離に着弾して無事な人間などいるわけがない。」
地上から鉱物通信が来る。
「弾丸の破片を地上で確認した。割れている。」
「つまりどういうことだ。」
「直撃している。」
艦長はしばし目を閉じ、開いた。
「すりつぶす。」
「軽燃気放出作業!」
機関担当兵が忙しくバルブを操作する。
「総員、なにかに捕まれ!」
トムルスは砲員たちと近場の手すりに捕まる。
砲員「トムルス少監!嫁さん残念でしたねぇ」
「俺本来の魅力で捕まえるさ。」
アルヒューナ号の重量は約32鐘。無限転帯が5鐘であるからおよそ6倍。
急降下し、浮浪者を艦体と地表ですりつぶす。
アルヒューナ号は旋回し、急降下を始めた。
操舵主が慎重に浮浪者との位置、方向、高さを見極める。
-摂政座-
アラシェリーケが立ち上がり、乱れた服をただす。
「どうだ、淑女として適正か。」
側近は突然のことに「は・・・まぁ・・・」と返答。
武官「摂政殿いかがなされましたか。」
「マガッヒを私が受け入れざるを得ない。奴は私へ一直線に向かっている。目当ては私ただ一人だ。」
密かに全員が思っていたことをアラシェリーケが口にした。
「あらゆる辱めをうけることになるだろう。文献を信ずるならば、だが、大空にその様を投影されることもあったようだ。正気を失い、命乞いをし、ありとあらゆる凌辱を受け、その痴態を大衆に晒すことになる。」
側近が震える。
「やむをえまい。我らはやれることをすべてやった。私としてはなにも悔いはない。国王陛下にはああ申し上げてしまったが、後任には暫定的に典礼卿ウーカンサをあてる。私は失脚するが、マチハバの人材の層は厚い。なにも心配はいらない。」
武官「摂政殿!!アルヒューナ号がマガッヒへの体当たりを敢行中です。30鐘の巨体。さしものマガッヒめも!」
アラシェリーケ「艦長以下の奮闘には感謝と畏敬の念を禁じえぬ。よくもそこまで、戦ってくれたものだと。」
武官「なれば」
アラシェリーケ「おそらく無駄だ。」
どどーん
ががーん
すさまじい音が響く。
「体当たりだ!」
みれば宮内広場にアルヒューナ号が着陸している。いや、墜落と言うべきか。
武官「摂政殿、やりました。我らの勝利です。」
アラシェリーケはにこりと微笑む。
「諸官らには礼を言っておく。マガッヒは・・・きっとっやってくるだろう。この摂政座に歩み入れるのも癪にさわる。こちらから迎え撃つ。」
アラシェリーケはアルヒューナ号に向けて歩いて行った。
そのあとをとぼとぼと武官、側近がついていく。
3分後
ふとアラシェリーケは歩みを止め、振り向いた。
「私の肛門に数珠を入れる役。誰が勤めるか。」
武官と側近がおののく。「え、あ。」
「今更あわてることもなかろう。諸官らも報告書に目を通しているはずだ。」
それは処刑にあたり「誰が私の首に縄をかけるのか」と問われているに等しかった。
武官側近たちは顔を見合わせ、戸惑う。
アラシェリーケが顔を前方に向けた。
「やはりお前に頼むしかないようだな。」
偶然スルマリケが報告のため通りがかったのだ。
アラシェリーケ「スルマリケ、お前しかいない。頼むぞ。」
スルマリケの手をとり、真正面から目をみて頼んだ。
スルマリケは狼狽した。
-え、何を-
火災を起こしたアルヒューナ号がもうもうと出す煙から浮浪者が歩いて出てきた。