※この作品はR-18です。

3分後   作:すりーみにっつ

37 / 57
3分後の数珠役

-アルヒューナ号-

「艦長、高度60間」

「トムルス、砲撃準備良いか。」

「準備良し。いつでも放てます。」

 

「鉱物で知らせろ。退避させるんだ。」

 

 

地上では浮浪者に吹っ飛ばされた兵隊達の回収が始まっていた。

だいたいが気絶や体を打って痛くて動けない者たちだ。

元気なものたちが肩をとりあって連れていった。

 

「距離50間からの俯角射撃。危害半径はおよそ40間とのことです。」

「やつとは80間は距離をとれー!」

指揮官や下士官が胴間声をはりあげる。聞いた倍の距離をとれば大丈夫だろう。

そういった距離だ。

 

アルヒューナ号からは、浮浪者を中心に人が距離をとり、いびつな円形を観測できた。

「もっと離れろよな!」

トムルスが割って入る。

「必要ない。敏筒は抜いた。爆発はさせない。角度70度以上で射撃する。その多くは地中にめりこみ跳弾は限定的だ。」

 

砲員に宣言する。

「あてていく。直接だ。爆風はない。狙撃だ。」

 

トムルスが続ける。

「今回使用する3番砲はすでに33発射撃している。砲がゆがみ始める頃あいだ。30間まで降下し、術眼鏡は使用せず、密科鏡のみで狙う。」

 

「通例でいけば30発を過ぎた砲は密科鏡の十字から右上5蚊ほどずれる。地表射撃で使う100間基準ではなく距離30間であるため、計算上6割2分ほど加減せねばならない。しかしこの加減は密科鏡上は不可能であるため、諸君らの目見当が求められる。」

トムルスが砲員に尋ねる。

 

「できるか。」

 

砲員たちはにやにやしている。

「もちろん!」

 

トムルス

「この戦いが終わったら俺は嫁探しをする。自慢させろ。俺のために当ててくれ。」

 

砲員「当ててはみせますが、嫁さんの方はどうでしょうね。」

トムルス「ま、そっちの方は神頼みだ。では行くぞ。」

 

砲員たちは迅速に射撃姿勢をとる。装填し、照準し、合図を送る。

トムルスは合図を受け、艦長に合図を送る。

 

「艦長、地表は退避完了です。」

「了解。撃て。」

 

 

-宮外小公園-

サウラーカがエーレカを抱きしめている。

「エーレカ、大丈夫見なくていいよ。僕が見届ける。」

エーレカがサウラーカを抱く腕に力が入る。

「倒せる・・・?」

「きっと倒せる。」

そこに子供二人が飲み物を買って戻ってきた。

「母さん、甘いもの。これ。」

エーレカは恐る恐るサウラーカを抱いていた腕をほどき、コップを受け取る。

勇気を出して上空を見た。

 

空に浮かぶアルヒューナ号が発砲した。

 

遅れて聞こえる射撃音。つづいて地表で爆発音。立ち上る土煙。

浮浪者が土煙に消えた。

 

「やったか!」

しかし浮浪者は土煙の中から悠然と現れる。

「はずしたんだ!」

鉱物通信が送られる。

「至近なれど命中に至らず。」

「ズレを送れ!」

「ズレはおそらく微小。測定できず」

 

トムルスは計算する。

「・・・右に0.3蚊寄せ。」

「そんな目盛りはありません。」

「目見当だ。」

「りょっかい!」

 

アルヒューナ号が再度発砲する。

浮浪者が再び土煙に消える。

しかし相変わらず涼しい顔で歩いてやってくる。

 

「おかしい。当たっているはずだ。いや、当たっていないとしてもだ。あの距離に着弾して無事な人間などいるわけがない。」

 

地上から鉱物通信が来る。

「弾丸の破片を地上で確認した。割れている。」

「つまりどういうことだ。」

 

「直撃している。」

 

艦長はしばし目を閉じ、開いた。

 

 

「すりつぶす。」

 

 

「軽燃気放出作業!」

機関担当兵が忙しくバルブを操作する。

「総員、なにかに捕まれ!」

 

トムルスは砲員たちと近場の手すりに捕まる。

砲員「トムルス少監!嫁さん残念でしたねぇ」

「俺本来の魅力で捕まえるさ。」

 

アルヒューナ号の重量は約32鐘。無限転帯が5鐘であるからおよそ6倍。

急降下し、浮浪者を艦体と地表ですりつぶす。

 

アルヒューナ号は旋回し、急降下を始めた。

操舵主が慎重に浮浪者との位置、方向、高さを見極める。

 

 

 

-摂政座-

アラシェリーケが立ち上がり、乱れた服をただす。

「どうだ、淑女として適正か。」

側近は突然のことに「は・・・まぁ・・・」と返答。

武官「摂政殿いかがなされましたか。」

「マガッヒを私が受け入れざるを得ない。奴は私へ一直線に向かっている。目当ては私ただ一人だ。」

密かに全員が思っていたことをアラシェリーケが口にした。

 

「あらゆる辱めをうけることになるだろう。文献を信ずるならば、だが、大空にその様を投影されることもあったようだ。正気を失い、命乞いをし、ありとあらゆる凌辱を受け、その痴態を大衆に晒すことになる。」

 

側近が震える。

 

「やむをえまい。我らはやれることをすべてやった。私としてはなにも悔いはない。国王陛下にはああ申し上げてしまったが、後任には暫定的に典礼卿ウーカンサをあてる。私は失脚するが、マチハバの人材の層は厚い。なにも心配はいらない。」

 

武官「摂政殿!!アルヒューナ号がマガッヒへの体当たりを敢行中です。30鐘の巨体。さしものマガッヒめも!」

アラシェリーケ「艦長以下の奮闘には感謝と畏敬の念を禁じえぬ。よくもそこまで、戦ってくれたものだと。」

 

武官「なれば」

 

アラシェリーケ「おそらく無駄だ。」

 

どどーん

ががーん

 

すさまじい音が響く。

 

「体当たりだ!」

みれば宮内広場にアルヒューナ号が着陸している。いや、墜落と言うべきか。

 

武官「摂政殿、やりました。我らの勝利です。」

 

アラシェリーケはにこりと微笑む。

「諸官らには礼を言っておく。マガッヒは・・・きっとっやってくるだろう。この摂政座に歩み入れるのも癪にさわる。こちらから迎え撃つ。」

 

アラシェリーケはアルヒューナ号に向けて歩いて行った。

そのあとをとぼとぼと武官、側近がついていく。

 

3分後

 

ふとアラシェリーケは歩みを止め、振り向いた。

「私の肛門に数珠を入れる役。誰が勤めるか。」

武官と側近がおののく。「え、あ。」

「今更あわてることもなかろう。諸官らも報告書に目を通しているはずだ。」

 

それは処刑にあたり「誰が私の首に縄をかけるのか」と問われているに等しかった。

武官側近たちは顔を見合わせ、戸惑う。

 

アラシェリーケが顔を前方に向けた。

「やはりお前に頼むしかないようだな。」

 

偶然スルマリケが報告のため通りがかったのだ。

 

アラシェリーケ「スルマリケ、お前しかいない。頼むぞ。」

スルマリケの手をとり、真正面から目をみて頼んだ。

 

スルマリケは狼狽した。

-え、何を-

 

火災を起こしたアルヒューナ号がもうもうと出す煙から浮浪者が歩いて出てきた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。