-宮内広場-
アルヒューナ号の消火活動が行われている。
すでに砲撃はないのだが、兵士たちはみな浮浪者と80間の距離を保っていた。
浮浪者の前にアラシェリーケが立つ。
遠巻きに武官側近、そして言い含められたスルマリケがいる。
「マガッヒか。いや、我らが勝手にそう呼んでいるだけだが。」
浮浪者「アラシェリーケ殿。私の真の名はトルヘル。」
そういうとフードを脱いだ。
トルヘルを名乗る浮浪者の顔は精悍な青年だった。
マチハバの古神話に出てくる英雄トルヘル。
ウェーブをかいた黄土色の長髪。
荒々しさのなかに気品をたたえた眉
たけだけしいまなじりに優しい眼
深い情を感じさせる鼻梁
戦士の風でありながら愛をささやくためにあるような口
アルヒューナ号からの火の粉があたりに散る。
突風がふいた。トルヘルの髪の毛がなびく。
あ・・・あ。
アラシェリーケは言葉が出なかった。
トルヘルはアラシェリーケの両手をとった。
「あなたを抱きに来た。」
-宮内の屋敷-
刃物を首筋にあてられ、固まる女官がいる。
傍には老人と中年の男性武官が死んでいる。
「君はすでに赤色っぽいね。それじゃダメなんだ。」
「な、なにが。なにがですか。」
「だんだん赤くなっていくとか。ぱっと赤くなる。これがいいんだ。」
「なんの色が・・・」
女官は恐怖に震えあがっている。
ナイフの持ち主はダスラン。
アラシェリーケに切り捨てられた彼は逃走していたが、外の騒動のおかげで逃げ込んだ屋敷内で「ひと仕事」できそうだと踏んだのだ。
街の通りすがりの女性もいいが、宮に仕える質のいい女性もまたいいものだ。
「君のね、肛門」
「え、な、なにがですか。」
ダスランがナイフを肩に突き入れるとともに口をふさいだ。
くぐもった悲鳴があがる。
「もどかしいなあ。君の名前は?」
女官は痛みをこらえ、ようよう答える。
「アミリラ・・・アミリラ・・・です。」
ダスランが今度は太ももにナイフをひと刺しする。
口をふさがれ、くぐもった悲鳴があがる。
「黙れ肛門!お前の名前は肛門だ!」
「ひ・・・ひ・・・ひぃ・・・」口をふるわせ、からだをふるわせ、アミリラはダスランにすがりつき命乞いをする。
「そこに四つん這いになれ。」「はい・・・」
ダスランが顔を殴る。「肛門はしゃべらないんだよ!!」
アミリラは泣きながら四つん這いの姿勢をとる。肩と太ももの痛みを必死にこらえる。
-殺される・・・きっと殺される・・・殺される!!-
「だいじょーぶ!」
天井から人影が降ってきた。
ひとりがダスランの顔に蹴りをいれる。
うしろにもんどりうつダスラン。
「ベイリーちゃん、です!」
「アゼミだ。嫌いな奴は摂政。」
「き、貴様ら!アラシェリーケに捕まっていたのではないのか。」
「貴様、じゃないよ。ベイリーちゃんだよ。」
「貴様ではない。アゼミだ。一番嫌いな奴、たったいま貴様になった。」
ベイリーが色っぽく構える。
アゼミが女官を助け起こす。
「なに、このくらいの傷はすぐに治る。」
「ナメやがって肛門ども。」
「そんなとこナメちゃいけません!」
ベイリーがダスランにとびかかる。ダスランはとっさにナイフを投げ、魔術防御をはる。
「おまえらみたいな若造じゃ魔術なぞつかえんだろう!」
ベイリーに飛んだナイフは目にもとまらぬ速さの投げキッスで弾き飛ばされた。
魔術防御をしたダスランの首に両手を回し、耳にキスをする。
あまりの速さにダスランは反応できない。
耳に吐息をかけられると魔術防御はすべて解除された。
ダスランは隔絶した実力差を突きつけられた格好だ。
ダスラン「は・・・は・・・」
ベイリー「お楽しみの時間だね。」
「おま・・・おまえ・・・一体何者」
「言ったでしょ。ベイリーちゃん、です!
あ、言っとくけど。
私アンタにマジムカついてるから。」
女官の止血をしたアゼミがベイリーに叫ぶ。
「ベイリー!そいつには並の性技は効かぬぞ。異常性癖がすぎる!」
ダスラン「くくく、なにをされようが屈するものかよ、小娘ェ!」
ベイリーの全身から桃色の色欲素がわきあがる。
あまく、なまめかしく、なつかしい匂いがした。
ベイリー「私の本気のお仕置き、やっちゃう、ヨ!」
-宮内広場-
「私を抱きに来た・・・と?」
「そうです。アラシェリーケ嬢」
「たぶらかし芸を披露するとは知らなかったな。」
アラシェリーケは気丈に振舞う。
握られた両手が暖かい。そう思うやトルヘルは心地よい握力で握りを強める。
「お許しをいただきたい。」
トルヘルがアラシェリーケをやさしく抱きしめる。体をひきよせられ、厚い胸板とたくましい腕がアラシェリーケの上半身を包んだ。
「私は許していないぞ。」顔を傾げ、かろうじてそう言った。
「お許しをいただきたいのは、その唇です。」
「いきなり抱きしめるのは不作法であろう。」
トルヘルがアラシェリーケを強く抱きしめた。
「まあ・・・良い。」
トルヘルが指を鳴らした。
-指ならし!-
かつて「マガッヒ」はこの指慣らしで女性を絶頂させるなどして辱めてきた。
一瞬の緊張、目をつぶる。不本意な絶頂を覚悟した。
しかし、さわやかな空気に包まれる。懐かしい匂い。
目を開けるとそこは夕暮れどきのツーリカルであった。
「淑女を衆目に晒すのは忍びない。本当のツーリカルではないけれど、異空間にツーリカルを投影してみました。お気に召されるかと。」
ああ、少女時代、この夕暮れ時。ツーリカルの森林で愛する人に抱かれたら、と、何度想像したかわからない。
-いや、だめだ!-
アラシェリーケは顔を強く横に振る。
「悪魔か、貴様。」「悪魔ならいかがします。」
キスをされた。
しばらくなすがままに、そしてアラシェリーケもまたトルヘルの唇をもとめた。
唇を離し抗議する。「許可していない。」
「事後承認をお願いします。」
「ふん、よかろう・・・」
「あなたは傷ついている。」「武芸も怪我もしたことはない。」
トルヘルが後頭部をなで、真正面から見つめる。
「こころです。」
アラシェリーケはトルヘルの眼の奥深くに慈愛をみた。心が吸い込まれそうになる。
「はるかな昔から、あなたを探して旅をしていたのです。」
「私を」
「あなただけを見つめていた。めぐる時代を駆け抜け、ようやく出会えました。」
「マガッヒ」は文献上、たびたびその姿を歴史上現わしている。
「なぜ」
「運命」
アラシェリーケはトルヘルの胸に顔をうずめる。涙が出てくる。とまらない。嗚咽。
「なぜ現れた、なぜ!なぜ現れたのだ!」
「あなたがほしい。」
アラシェリーケはトルヘルをキッとにらむ。
しかしにらんだ視線はトルヘルのまなざしに吸収される。
「この涙目が・・・すまない。可愛い。」
アラシェリーケは本気にせよお世辞にせよ「美しい」とはたびたび言われてきたが、「可愛い」とはついぞ言われたことがない。
真っ赤に顔を赤らめ「可愛い?愚弄するのか。」
かろうじてそう言った。
トルヘルの手が胸に、腰に。
アラシェリーケにはすでに抵抗する力は残ってなかった。
抗わないばかりか、あまつさえ、トルヘルの体を求めてしまう。
いつしか二人は裸になり、絡み合い、唇を求めあい、むつみあった。
乾いた大地に慈雨がしみこむがごとく、アラシェリーケの魂は心地よく湿り、満たされていく。
トルヘルの男性自身はほどよくアラシェリーケの女性を慰めた。
荒すぎず、優しすぎず。ときに乱暴に、そして謝罪するかのようにしおらしく。
全身を触られた。それだけではない。心も触られた。
いとおしい声が、ねぎらってくれた。
過去に、抱くたびすりつぶし、無理に胸の内におさめた苦い出来事を全て聞いてくれた。
認めてくれた。
・・・うんっ!
幸せのうちに絶頂し果てる。快感が全身を駆け巡る。小さな快楽の雷が指の先までいきわたる。雷が通過したあとに強い快感が来る。それが体をぴくりと痙攣させた。
はぁ・・・ふかくしめったため息。
「・・・もう一度・・・」
アラシェリーケは目をそらし、トルヘルにねだる。
背中を爪でやわくひっかいた。
トルヘルは応じてくれる。
トルヘルの指は、舌は、男性自身は、すべて愛だった。トルヘルが触れるたびアラシェリーケは部位に幸せを感じた。
「ずっと、一緒にいてくれるかい。」
・・・あっ!
アラシェリーケは果てるとともにトルヘルの唇を奪う。
「おねがい、一緒にいて。一緒に!」
それからの二人は獣のように求めあった。
-宮内の屋敷-
いっぴきの獣がダスランの腰の上で暴れ狂っていた。
「やめろー!見えない、色がないー!」
「20回目ー!」
ダスランはベイリーの膣で搾られている。
アゼミ「夢精転生・・・!このレベルのものは初めて見た。デラノ師匠を超えている。」
ベイリーが舌なめずりをしてダスランに問う。
「わたし、何色?」
「みえないのだ。俺には見えない!肛門じゃないと見えないんだ!」
ベイリーが腰を振った。
「あああああ!!」
「抜かずの21回目ー!!」
ダスランは見る見るうちに縮んでいく。
アゼミ「夢精転生は精子を搾り取るだけではなく、相手の人生をも搾り取るという。だが、その高みに至った者はいない。だが、ベイリーならば・・・!」
ベイリーの膣にダスランの人生が流れ込んできた。
ダスランは美少年であったが、それが彼の不幸でもあった。
異常性癖の親族に囲まれて育ち、たびたび親戚の異常者に尻の穴を犯された。
そのたびにお小遣いはもらえた。彼はそれを普通のことだと信じて成人したが、いつしかうすうす感じていた「異常性」を認めざるを得なくなる。
彼に恋心を寄せる女性はたびたび出てきたが、ダスランはかたくなに肛門性交にこだわった。
いくら金持ちで美青年であってもそれでは女性は寄り付かなくなる。
結婚もできない、子供を残せない。
両親からも親族からもダスランは欠陥と言われるようになる。
公私の重圧はいつしか彼を犯罪に走らせた。
初めての殺人は22歳の時。畑帰りの農家の娘。日が落ちてすれ違ったときに衝動が走る。
林の中に連れ込み、肛門を強姦する。このとき彼は女性の肛門に色を感じるようになった。
命乞いをする女性に「赤」を感じ、この色がまた彼に殺人衝動を起こさせる。
次第に彼は、肛門強姦と殺人が上手くなってきた。
もともと見た目が良く、そこそこに優秀だったため、彼はどんどん地位を築いていく。
だが、彼はわずかに残った良心に苦しめられる夜を月に1日の割合で過ごす。
寂寥感、焦燥感の強さはおそらく他の人間より強かった。
背徳の快感をか-----
「あーーー!なにこれ、ばちくそエッぐい!!」
ベイリーは膣を通して流れ込んできたダスランの人生を「理解」した。
「ダスラン!アンタ、なんて人生を送ってきたの!・・・あれ?」
ダスランはしぼんでいなくなってしまっていた。
アゼミ「ベイリー。お前の無精転生は規格外の強さを持っているようだ。相手の精どころか、人生を、そしてその生までも吸い取ってしまう。」
「超悪人なんだけど。超悪人でマジ悪人すぎてゲロ吐きそうになるくらい悪人なんだけど。」
「悪人だが?」
「なんだか可哀そうだった。」
「そういう人間もいる。」
アゼミは知らず涙を流すベイリーの肩に手を回し、頭をなでていた。
3分後
トルヘルはアラシェリーケを地面に投げ捨てた。
「え・・・トルヘル?」
トルヘルはうってかわって無表情。さっとフードをかぶった。
「トルヘル、トルヘル。」すがる手を払いのける。
「まって、トルヘル。私を愛してくれていたんじゃなかったの。」
トルヘルは表情を変えない。
アラシェリーケは理解した。
「うそ・・・うそよ。ウソでしょ、ウソって言って!」
あとはひたすらアラシェリーケがただひとりで嘆き悲しみ、ののしる一人劇場であった。
トルヘルは指を鳴らす。
舞台は再び宮内に戻る。
アルヒューナはいまだ燃えている。
上空にアラシェリーケが投影されていた。
アラシェリーケにはもうなにも見えない。トルヘルしか見えていなかった。
大空にアラシェリーケがトルヘルにすがる様が映し出される。
「国なんてどうでもいいの、私はあなたさえいれば!」
「一緒に生きていこうって、言ってくれたじゃない!」
「トルヘル、トルヘル・・・」
「こういう辱めだったってわけ!?いいわ、なんでもいい!もっと辱めてちょうだい。それとも私にはこれで十分?肛門に数珠を頂戴!ください・・・ください。肛門に数珠を・・・う・・・うっうっう・・・」
トルヘルはなにも言わない。表情も出さない。
道端の石ころにささいな模様があったとて気に留めないように。
「悪魔!トルヘル、あなたは悪魔だったのね!」
「悪魔・・・悪魔・・・あくま・・・」
「いいえ、悪魔でもいい!私を連れて行って。一緒に。一緒に地獄を!」
「御免」パシン!
アラシェリーケの頬をたたく男がいた。
スルマリケ「摂政殿。約束が違います。地獄は・・・このスルマリケと歩んでいくのではなかったのですか。」
大空のスクリーンに全てが映っている。
「余計なことを!」
「摂政殿。ともに、歩みますぞ。このスルマリケ。嫌だと言っても。」
「・・・スルマリケ。」
「唇はここですかな。」
スルマリケがアラシェリーケの唇を奪った。
大空のスクリーンに投影されたこのメロドラマに、将兵と群衆はやんややんやの大喝采。
スルマリケがアラシェリーケから唇を離し、あたりをみるとすでに浮浪者はいなくなっていた。
日は暮れかかり、西の空から茜が差していた。